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空気猫

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公園のベンチと青年と子供。 








父の自殺を止められなかった自分はきっと人間として無価値なのだという結論に辿り着いた。後に残された義母とオレはいったい何を見つめていたのだろうか。結局、オレも義母も父の愛を受けることが出来なかった敗北者。
「カカシ先輩が学校に来ているなんて珍しいですね」
「テンゾウ、おまえそれ失礼だからね」
頬杖を突いて剝れている銀髪の先輩に苦笑して、ヤマトは「隣、いいですか」と尋ねつつ「やだよ」と即答される前に強引に隣の席に腰を下ろす。
「カカシ先輩と学校で遭遇したら翌日災難な目に遭うって伝説ができてますよ」
「なに。その、人がやたらと落ち込む噂」
あからさまに迷惑気な顔で背中を丸めるカカシに、ヤマトがちろりとノートに視線を落とすと、神経質な感じの書体で角張った右斜めの文字がびっしりと連なっている。ロクに学校に来てないくせにたまに講義に出るとけっこう真面目に授業を受けているのだからずぼらなんだか几帳面なんだかいまいちよくわからない人だよなぁと思いつつ、
「実は僕、留学することに決めました。学校を休学してしばらく向こうに行って建築を学びたいと思います」
ヤマトは兼ねてより知らせたかったことを報告する。
「……そ。いいんじゃない?」
カカシの返答は予想した通り素っ気ないものだった。
「――――カカシ先輩は海外へは行かないんですか?」
「オレはいいよ。そういうの、面倒臭い」
「もったいない。この間の留学費全額負担してくれる話は…」
「蹴った」
資金援助をしてくれるという金持ちそうな中年親父が下心ありのエロ顔だったんだよ、という裏事情は話さずに端的に結論だけ答えれば、もったいないなぁと再度ヤマトが呟いている。
カカシは建築学科きっての秀才を半眼で見つめつつ、ふと思い付いたことを尋ねて見た。
「ねぇ、テンゾウ」
「なんですか?」
「砂のお城ってどうやって作るかわかるか?」
「―――は?」
圧倒的に無口だ無愛想だと評判の先輩の方から掛けられた声にドキマギしていたヤマトはしかし彼の口から飛び出たやけにメルヘンな単語に動きを止めた。
「カカシ先輩」
まさか頭でも打ったのでは。それともアルコールがとうとう脳まで?とヤマトは今度はまた別の意味で心臓をドキマギさせつつ、体温の低い男の手を強く握った。
「評判のいい頭の病院紹介しますねカカシ先輩」
「それどういう意味?」







いつだって金色の子供は公園で孤立していた。
ナルトの周りだけ綺麗に円を描いて他の子供が集まって来ない。あからさまな光景にカカシはその時はとくに何を思うわけでもなく、公園の中に足を踏み入れる。
遊ぶ友達もいないくせに、なのになぜ公園にいるのかというときっとそれなりの事情があるのだと思う。例えば家に帰りたくないとか、居場所が他にないとか。
「がきんちょ」
金色のひよこ頭に声を掛けると、ナルトがくるんと振り向く。
「よ」
「ニシシ。また来たってば?ねずみってば暇人ー」
バカ言わないでよ。ない時間削っておまえに逢いに来てんの。オレ、これでも凄く忙しい人間なのよ。憤然としつつも、わりとほのぼのした気持ちで、自分に駆け寄って来る無邪気な犬っころを見下ろして、
「……―――おまえ、手ぇどうしたの」
愕然とした単語を喉から吐き出した。
「誰かに突き飛ばされたの?」
訊ねておいていや違うとカカシの眉間が険しくなる。子供の痣は手の平ではなく手の甲に付いている。それもこれは定規か何かで叩いた痕?
「……おまえ、それ」
カカシの言葉にナルトはびくんと身体を強張らせて、視線を彷徨わせた後、ぽふんとカカシの足に飛びついた。
「灰色ねずみの兄ちゃん、遊ぼうってば!」
ニシシと笑った子供にカカシは驚く。誤魔化された。言いたくないということだろうか。まだ片手に足りる年齢のくせに、いったい何に気を使ってんだよ。
「砂のお城作ろうってば!」
「バカだね。んな手で砂遊びなんてしたら、バイ菌入るでしょ?今日はダメ」
調子が狂う。なんとなく子供の頭をくしゃくしゃと撫ぜて、思いの他、心地いい手触りに離れ難くなる。
しあわせな顔で笑っていたら壊してやりたいと思っていたくせに、胸がざわつく。この子供の今置かれている現状はもしかしたら自分が考えているよりも能天気なものではないのかもしれない。
自分の嫌な直感なんて外れてしまえと思うものの、昔からこうした勘が外れたことがなくて、心臓が飛び跳ねて、痛い。
誰も住んでいないようだった、ナルトの自宅。この子はもしかしてもうあそこには住んでいないのだろうか。だとしたら、どこでこの子は暮らしている?母親とは一緒なのか?
「おまえは幸せじゃなきゃダメなんだよ…」
「………?」
「なんでもない」
「灰色ねずみの兄ちゃん?」
動揺を紛らわすように片手をポケットに突っ込めば、ちゃりんと金属が指に当たった。そういえば二、三日前にスロットで稼いだ小銭が入ったままだったと、ポケットの中を探れば、ぐしゃぐしゃになった札が何枚かと(残念ながら存在を忘れたまま洗濯してしまったらしい)なんとかメシ一食分くらい食べられるだけの額の硬貨。
「―――ナルト」
カカシが呼び付けると、子供が「う?」という顔で首を傾げる。何だよ、オレがおまえの名前呼んだら悪いかよと毒吐きそうになるが、
「灰色ねずみの兄ちゃん、どうしてオレの名前知ってるんだってば?」
不思議そうに訊ねてきた子供に、しまったとカカシは口を噤む。カカシは兼ねてより子供の事を嫌というほど聞かされて、名前も当たり前のように知っていたのだが、よく考えれば、お互いに名乗り合っていなかった。
不味い、とカカシは考えあぐねた挙句、ぽふんと子供の頭に手を乗っけてお得意の真顔に近い笑顔でこう言った。
「バカだねぇ、おまえ。灰色ねずみはなんでも知ってるんダヨ?」
「そうなんだってば?」
「灰色ねずみは魔法使いの弟子だからね?」
「んあ?」
「知らないの、灰色ねずみはおまえのことなんでもお見通しなんダヨ?」
相手が子供だということを良いことに、怪しい発音で、怪しい新興宗教のようにデタラメなことを言ってみる。背後に大嘘吐きの看板がでかでかぺかぺかと点灯したような気がしたが、真顔の青年に、金髪の子供は「すごいってば、灰色ねずみ!」といとも簡単に騙されて瞳を輝かせた。
「おまえの嫌いな食べ物当ててみせようか?」
「うん、うん!!」
「野菜」
「すげー!!」
「合ってるでしょ?」
得意満面な顔で8歳児相手に大法螺を吹く青年と、物のの見事に青年の口車にノセられている子供。簡単なお子様の脳味噌に、こんなに簡単に騙されて将来大丈夫なのだろうかと余計な心配をしつつ、持つべきものはポーカーフェイスと二枚舌だと常々思った、はたけカカシ22歳。ちっちゃなこぶしを握って尊敬した眼差しで自分を見上げる子供に、ほとんどないと噂の良心を痛めたりして、知らずに苦笑しつつカカシはひょいっと子供の首根っこを掴んで抱き上げてやる。
高くなった視線に子供がきゃらっと歓声を上げた。
「なあに、灰色ねずみの兄ちゃん?」
己の首に腕を回して、こてんと顔を傾けた子供に何故か頭の芯がクラクラとした。
ガキって結構重たいんだねぇと(マシュマロの塊のようだけど中身がぎっしり詰まっているとか?)思いつつ、公園の隅っこに設置されている例のコーヒーが不味い自販機まで連れて行く。
「好きなジュース買ってやるよ。ほら、選びな」
カカシが言うと、子供が今度こそ瞳を宝石のように輝かせた。
「灰色ねずみの兄ちゃんって太っ腹だってば!」
「おまえ、ジュースひとつで大袈裟だねぇ」
すっかりご機嫌の子供に、カカシは満足気に笑みを零した。せっかく自分は子供の「大きいお友達」なのだから、そこらへんのガキンチョ友達にはないこういう特典があっても良いと思う。
遠巻きに自分とナルトのことを眺めているガキどもに心の中で舌を出して、ナルトを仲間外れにしている奴等に敵意を抱いている自分に気付くことなく、カカシはほんのり子供から香るミルクみたいな甘い匂いに、目を細めた。



「オレってば、いちごみるくー!!」
「おまえ、男のくせにこんな甘いもん好きなの?」
いつも周りの連中に言っている調子でばっさり切って捨てると、子供がショックを受けた顔で口元を歪めた。
「……いちごみるく」
「………っ!」
子供の震えた声にカカシの背筋が伸びる。自分用の水っぽい缶コーヒーを購入したカカシは慌てて、子供が指差した飲み物の点灯ボタンを押した。
「ほら、これでいいでしょ?」
「ん……」
どうしてだろう。何故だか自分はこの子供にやたらと弱い気がする。人に気遣いなんてしたことがなかったのに、この子供の碧い瞳が潤むと、なんでもしてあげたくなってしまう。
そんなわけで真昼間の公園のベンチに銀髪の青年と金髪の子供が並ぶという構図が出来上がったわけだが、カカシは足をぷらぷらさせている子供を横目で見下ろす。
ナルトは自分の横で足を投げ出してストローを齧りながら、ちうーと200ミリパックのイチゴミルクを吸っていた。
垂下される喉元に何故か自分もこくりと喉を鳴らしてしまう。だからなんだこの胸の動悸はとパーカーの胸元を我知らず押さえていると子供とばっちり目が合う。
「灰色ねずみの兄ちゃんも飲むってば?」
「はぁ……!?」
飲みかけの紙パックを差し出され、カカシはベンチからズリ落ちそうなほど仰け反る。ストローと口元に釘付けになって、そんなだって飲みかけデショ…と思いつつも少し濡れた半開きの唇から目を離すことが出来ない。
なんだか思考が危険な方向に向かっている気がする。ん!と目の前に出されたイチゴミルクパックをカカシはまるで危険な爆発物のように凝視して、どうしてか「甘いものが苦手」だと女にいつもいう台詞が出て来ない。
「甘くておいしいってばよ!」
「いや、その……」
「飲んで、ねずみ?」
飲んで、ねじゅみ。その瞳がやけに潤んでいるような気がする。カカシとてナルトの行動が100パーセント無邪気からの発言だとはわかっている。当たり前だ。相手は8歳のガキに、裏表や駆け引きなんてあるはずもない…、デショ?問題は、何故か挙動不審な行動を取ってしまう自分にあるわけで、ふくふくした手の平に自分の手の平を重ねながら、耳たぶまで赤くなる自分の身体状況に驚く。
ナルトはカカシが飲み易いように、カカシの膝の上に乗ると、その口元にイチゴミルクパックを差し出した。
「ん!」
「………っ」
ガキンチョ皆無地帯からやって来たカカシが、子供というものが自分の好きな物や気に入りの物を「特別お気に入りの大人」と共有したい生き物だと知るはずもなく、傍目から見たらカカシが誰かを前して戸惑う姿は驚きの光景だったかもしれない。過去にカカシに捨てられた女の人がこの現場を見たなら、「どういうことよアイツ」と幼児相手にタジタジなカカシに歯軋りをしただろう。
とにかくカカシの今まで使ったことのなかったメモリバンクが一杯一杯になってしまったことだけは確かである。
「おいしってば?」
「………」
こくんと、子供の手からもう見るだけで胸焼けを起こしそうな飲み物を垂下する。少しだけ、子供の体温で生温くなった液体。
飲みくだした瞬間、カカシは堪らなくなって頭を抱えて背中を丸める。ナルトはきょとんとして、そんな青年に首を傾げた。
「灰色ねずみの兄ちゃん、おなか痛い?」
オレもよくおなか壊すってば、と子供が深刻そうに大きいお友達の灰色ねずみの葛藤とはズレたことを言う。
「……違うよ」
「具合悪いってば?」
心配そうに自分を覗きこんだガキンチョ。なんだか恥ずかしくて誤魔化すように自分の飲んでいた缶を無理矢理、子供の口元に突き出してやる。
「にがぁ……」
ナルトは顔を歪めて舌を出した。こんな不味くて苦いだけのものを美味しそうに飲める隣の青年が信じられなかった。
「こんなもの飲んだら頭が悪くなるってば」
「……なるわけないでしょ?」
「オレってばぜってーこっちの方が好きィ」
買ってやったのはオレなのにエラそうに。はいはい、とカカシがまだ目元を染めつつ、子供を横目で見ると、ふっくらとした唇が紙パックのストローを咥えている。
あ、間接キス…と、考えただけで恥ずかしい単語が思い浮かんで、カカシ青年がわけもわからず悶絶したのはその三秒後。







 
 
 







7年後にカカシ先生がコンビニ店員にイチゴミルクをプレゼントしたわけ。
大人はしつこく覚えていた。 
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ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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