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空気猫

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そんなわけで仔狐を飼うことになりました編5





名前を付けてあげましょう―

「ご飯だよー」
朝。とは言っても、もう昼に近い時分。カカシは片手に皿を持って、ベッドの中心で蹲っている半人半獣の子供に呼び掛けた。昨夜は持ち主のカカシの変わりにベッドを占領した子供は、シーツに包まって、そこから一歩も動かない。
頭からすっぽりシーツを被って、ちょうどテントを張ったようになっている。所謂、シーツお化けの状態だ。
無防備なんだか、警戒心が強いんだがわからない態度だが、やはり人間の言葉は多少なりとも理解しているようで、「ご飯」の単語に、顔までシーツで覆い隠している子供の頭部分に三角の山が二個出来た。わかり易い反応にカカシはまた吹き出して、皿を床の上に置く。
「ほら、朝ご飯だよ?いつまでもそんなところにいないで、ここまで降りて来て食べなさい」
奇妙な仔狐を拾って1日目。昨夜は、ベッドを子供に明け渡し、任務開けだというのにソファーで眠ることになったカカシは、太陽が空の真ん中辺りにやって来る時間帯に、自分のものではない腹の音で目が覚めた。
低血圧気味のカカシがソファーから起き上がると、ベッドの上にぺとんと座った半人半獣の子供が物言いたげにカカシを見ていたのだった。
「…………」
「…………」
両者しばらく無言で見つめ合った後、なんとなく場の空気に根負けしたのはカカシだ。
カカシは後頭部を掻きつつ、キッチンに立った。ちなみに、狐の子供はカカシがカーテンを開ける時に立てた物音にビク付いて以来、シーツを頭から被って、顔を見せない。そして、今もその状態がずっと続いている。
「ま、そのうち慣れて出て来るでしょ」
腹を空かせているようだし、自分が居なくなったら降りて来るだろうと納得したカカシは自分用のカップラーメンを食べるために、箸を台所から持って来ようと、身体を反転させた。
すると、早速子供がベッドから転がり駆けて来る気配がした。ちょっと小憎たらしいような微笑ましい子供の態度に、カカシが笑みを零していると、どーんと腰に衝撃が走る。
カカシは仮にも木の葉の里の上忍である。それも至極優秀な。しかし、部屋の中で完璧に油断していた相手からの攻撃に、カカシは驚いた。
驚いたついでに、手に持っていたカップラーメンを床に落とした。すかさず、金色の子供が四つん這いになって、床に零れた麺にがっつき始める。
少し離れたところでは、用無しとばかりにぐしゃぐしゃになったシーツが、ベットと床の微妙な位置で放り出されていた。シーツお化け状態が終わってくれたのは嬉しいが…
「いや。だから、それはオレのご飯だからね」
自分用のカップラーメンをまたしても奪われたカカシは呆れた声を上げて、はぐはぐと音を立てて「狐食い」する子供に文句を吐いたが、やはり一人と一匹の意思疎通率はゼロに等しかった。
ああ、この部屋がフローリングで良かった…と一歩ズレたことを思いつつ、カカシは容器を横倒しにしてカップラーメンを食す子供を眺め、力を使い果たしたように椅子に着席する。
自分の目の前には子供用に作った水っぽいお粥。食べ方が下手そうな子供のために零さないようにと底の深いものを選んだために、犬猫用の餌皿に見えなくもない。
「……ま、いいけどね」
3秒ほど悩んだ後、顔も上げずに無心に空腹を満たす子供の後頭部を眺めつつ、カカシは諦めてスプーンでお粥を掬う。自分で作って起きながら、おいしいんだが、おいしくないんだがわからない微妙な味付けに、60点と評価を付け、リモコンでテレビを点けようとして、ふと手が止まる。
静かな室内に、自分以外の誰かがいる気配。足元に目を向ければ、そこらへんに食べ散らかし散乱させて、床に這いつくばってる子供。そういえば、部屋で誰かとご飯を食べるなんて久し振りだったなと思う。
「―――なぁ、おまえ…」
はぐはぐとカップラーメンを食し床を散らかしている路地裏で拾った子供をカカシはしばらく見詰めていたが、ややあってぽつりと呟いた。
「……おまえ、お金持ちの飼い主とかいないわけ?」
獣人は裏社会では金持ちのペットをして人気が高い。さもありそうなことを聞いてみるが、答えはない。威勢の良い咀嚼音が響くだけだ。
「それか、父親とか養ってくれている育ての狼とかさ、いないわけ。何も突然ひとりでに産まれて来たわけじゃないでしょ。それなりに大きくなるまで、どこかの誰かに育てて貰ってたんでしょ。もったいぶらず教えてよ?」
カカシが喋るたび、ぴくぴくと子供の三角耳が痙攣するが、やはりそれ以上の反応はなかった。
「…おまえ、捨てられたの。それともどこからか脱走して来たの?」
四つん這いの子供は一心不乱に食事にガッ付いていた。その様子にカカシは諦めのため息を吐く。カカシが貸したTシャツは食べ零しで汚れている。元々子供が身に纏っていた服というより布に近いボロキレは処分してしまったので、本当にこの仔狐は身体一つの状態でカカシに拾われたことになる。
「……おまえさぁ、行くところがないなら、うちの子になる?」
ガリガリの手足や、怪我の痕を見て思う。この子がどういった経緯であそこに捨てられていたのかわからない。だが、手酷い虐待の痕を見ても明白なようにきっとロクな事情ではないだろう。
カカシの部屋ならば、温かい屋根の下を提供できる。とりあえず食事の心配もしなくていい。路地裏で死に掛けるような環境下にあったとしたならば、こちらの方が断然良いだろう。
幸い今現在の自分は彼女ナシ状態。家に上げる人間など滅多にいない。カカシはしばらくの間、この半人半獣の子供と暮らすことを決心した。
「ま。オレも急いでないし、答えはいつでもいいよ。選択するのはおまえの自由意志」
本当に、部屋で誰かと食事をしたのは久し振りだったのだ。そして、それに気付く余裕もないくらい、カカシの心は疲れていた。
「―――なぁ、おまえ…いい加減返事くらい…」
何かを言い掛けそこでカカシはふと止まる。
「名前が無いのは不便だな…」
子供が名乗らない以上、一向に名前がわからない。いつまでも「おまえ」だけで済ますのも頂けないだろう。
「そうだ。おまえ、名前がないならオレが付けてあげるよ」
カップラーメンにガッついていた半人半獣の子供がそこで初めて食事を止めカカシを見上げる。偶然にも、その日も子供の頬にはぐるぐる渦巻きのなると巻きが付いていた。くくくく…とカカシが笑い声を洩らす。
「そうだねぇ、こんな名前はどう?」
唇の端に薄い笑みを乗せカカシは、テーブルに頬杖を付いたまま首を傾げる。
「――ナルト」
いい名前デショ?とカカシは、舌の上で己が発した吟味し、転がす。まだ意味を成さないその単語が、はたけカカシの口から、狐の子供の鼓膜を震わせた最初の瞬間だった。
「ナールト?」
しかし、半人半獣の子供…ナルトは、自身に与えられた名前を認識することなく、きょとんと首を捻っただけで、食事をすることに専念する道を選んだ。その単語の意味を吟味するには子供の空腹は過ぎていたようだ。
「あらら、ナルトく~ん?」
「…………」
「気に入った?それとも気に入らなかったのかな?」
アパートの一室には、がつがつはぐはぐという咀嚼音が響くばかり。
「……うーん、わからないなぁ」
カカシが尋ねても、ナルトはこちらをちらりとも見ようとしない。
「ま。いっか」
カカシは、くくくと苦笑してため息を漏らした。
度重なる過酷な任務で、擦り減ってしまっていたものが、確かにあったのかもしれない。
久し振りに、ほのぼのとした気持ちになって、カカシはお粥を口の中に入れる。ちゃんとご飯の味がした。
「悪くないな、こういうのも」
―――まぁ、食事のお相手は意思疎通してるかも怪しい喋りもしない半人半獣の子供だが。テレビを見てるよりよっぽどこっちの方が面白い。そんな結論に辿り着いて、カカシはリモコンを持った手を置いた。はぐはぐと麺にがっつく咀嚼音とカチャカチャと鳴る食器の音。四つん這いになって一心不乱にカップラーメンを食べる子供とペット用の皿からご飯を食べている大人…という、なかなかシュールな光景が、昼も近い木の葉の里、安アパートの一室に広がっていた。
















 

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自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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