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空気猫

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そんなわけで12歳になりました編4
 







はたけ家の朝は戦場だ。カカシ自身、朝に強い方ではないというのも理由の一つだが、彼の金髪碧眼のチビっ子が彼を中々仕事へと行かせてくれないからである。
「カカシせんせぇ。ちゅってして、ちゅって!」
「はい、はい。いってきますの、ちゅー…」
カカシの周りをパタパタと尻尾を振り回し走り回っていた狐っ子は(毛玉が抜けるのでやめて頂きたい)、モソモソと忍服に着替えていたカカシの前で構って欲しいオーラを出していたかと思えば、そんなことを言って来たので、カカシは条件反射で顔を合わせてやった。
「違うってば。おでこじゃなくて、ここー!」
見れば、ナルトが指したのは、ふっくらとした小さな唇で、カカシは〝色つや良好〟とどこか一歩ズレた感想を思いつつ、「はい、はい。オレはもう出掛けなくっちゃいけないからねー」と三角耳のある頭を撫でて、玄関に向かう。
「カカシ先生の鈍ちんーーーーっ」
両拳をぐーにした子供は、そう言って盛大に喚き立て、それからしゅんと大きな耳を垂らしたのであった。
「今日も夜遅いのかな……」
最近、カカシ先生の帰りが遅い。いつも仄かに香りアルコールの匂いが、ナルトの知らない世界に繋がっているようで、少しだけ元気を失くしてしまう。





だから、カカシが初めて〝女の人〟を連れて家に帰って来た時、ナルトのショックは計り知れなかった。
「あなたが、ナルトちゃんね。本当、カカシの言った通り。三角のお耳と尻尾がふさふさ生えててとても可愛いわ」
くすりと笑った女の人をぽかんとした顔で見上げて、ナルトは玄関から入って来た二人の大人を見比べた。カカシ先生の隣に立っているこの優しそうな笑顔の女の人が、リンさん?
鳶色の髪の毛。忍者をやってるとは思えない華奢な体躯に色の白い肌。差し出された手が、凄く綺麗な大人の女の人だと思った。手の綺麗な人は、心も綺麗らしいとナルトの大好きな〝テレビ〟で言っていた。今、ナルトの前に立つリンの手は凄く綺麗だ。ナルトのちんくしゃな手とは全然違った。
「あ…、う」
思わずナルトは持っていた積み木を放り出して、とたたたと部屋の隅っこに隠れる。そして、昔、カカシの家に拾われて来たばかりの時のように、カーテンの裏に潜ってみた。
「どうしたの。ナルト。前に話していたリンだよ。出て来てご挨拶しなさい?」
「………」
「ナルト?」
「照れてるのかしら?」
困ったようなカカシの様子を横で見て、リンが拳を口元に持って来て微笑した。カカシと言えば、「おかしいなぁ」と言った風体でカシカシと頭を掻いた。
彼の可愛らしいペットは緑色のカーテンの後ろで、身体隠して耳と尻尾隠さずの状態で黙り込んでいた。これはこの1年の経験から言えば、〝不機嫌ですよ〟のサインだ。
「最近はこんなことなかったんだけどねぇ。リンが綺麗だから人見知りしてるのかもな?」
「カカシったら。幼馴染にお世辞言っても何もでないんだからね」
「それ、どういう意味。お世辞を言えるほど器用な男のつもりもないんだけど?」
あはは、と五月の風のように軽やかなリンの笑い声に、ナルトの心臓がずきりと痛む。〝綺麗〟なんて単語がカカシの口から出たことにショックを受けた。普段のカカシと言えば、テレビに出ているタレントなどを見ても誰が誰だかわからないくらいで、女の人をこういうふうに褒められる人だったなんて、知りもしなかった。いつもナルトの言う事をなんでも聞いてくれるちょっとドジでぼんやりとした飼い主じゃない、一人の男としてのはたけカカシを垣間見た気がして…、オレの知らない顔で笑わないでよ、カカシ先生――。
「ほら、ナルト。いつまでも隠れてないで出てきなさいよ」
カカシが、キッチンでコーヒーを淹れながら、そんなことを言う。カーテンの裏に隠れているナルトの傍にリンが駆け寄り、膝を折る。
「ナルトちゃん。私、リンって言うの。よろしくね?」
「――――っ」
「きゃぁ、ナルトちゃんっ?」
だから、リンという女の人の手が自分の頭の上に近付いて来た瞬間、ナルトの中で、何かが弾けた。ガブッと、小さな二本の犬歯で、頭上に降りて来た手に向かって噛み付いてしまった。我に返って気が付いた時にはもう遅くて、赤い血の玉と、手を押さえている女の人――リンさんがいた。
「あ…」
違う。オレってば本当はこんなことをしたかったわけじゃない、と思ったが、もうナルトが彼女を噛んでしまったという事実は覆すことが出来ない。
「ナルトっ!!」
続いたカカシの叱咤の声に条件反射で身体が強張る。カーテンの裏から飛び出して、ナルトはフローリングの床を本物の獣ように転がる。
「うー」と低い声で唸ると、ビリリと空気が凍ったのを感じた。上忍の、怒気。カカシが怒っている証拠だ。それもとんでもなく。
「ナルト。リンに謝りなさい」
「………」
「謝りなさい。ナルト、〝ごめんなさい〟は?ちゃんと言えるでしょ?」
仕方のない子供を諭すようなカカシの口調に、ナルトは唇を噛む。オレ、もう子供じゃない。そんな小さい子に話しかけるような口調、やめて欲しい。
今、謝らねばカカシの機嫌がますます悪くなるとわかっていたが、謝りたくなどなかった。これは、ナルトが初めてカカシに反抗した瞬間だった。言わば、あとはもう意地だった。
「オ、オレ、悪くないもんっ。謝んねえっ」
「―――ナルト!」
「オレってば、この姉ちゃん嫌いっ。出てけってば。ここはカカシ先生とオレの家なんだからな―――…!」
何故か、涙が零れたのだが、それでも言い放つと、ぺちん、とけして痛くはないのだが、確かな手の感触がナルトの頬を打った。
「ナルト。いい加減にしなさい」
「―――……っ」
「こんなにオレを失望させて、おまえは楽しい?」
冷たい、底冷えするようなカカシの声色。部屋の中が、水を打ったように静かになった。カカシとて、ここまで酷くナルトを叱ったのは初めてだ。まして、躾にために軽く尻を叩いたことはあってもこうした形で手など上げたこともなかった。
見れば、呆然とした顔で己を見上げるナルトの姿があった。今朝見た時は健康的だった唇が、今は見るも無残に青くなっている。三角耳も、可哀相なくらい萎れ震えている。だが。
「ナルト。そんな顔しても今日は許さないからね」
ここで甘くしてはいけない、と自分に心の中で言い聞かせて、カカシはナルトを叱る。
「カカシ。私は、大丈夫よ。ナルトちゃん、いきなり触られるの苦手だったかな。びっくりさせちゃって、ごめんね?」
カカシの余りの剣幕に、というよりは二人を包む雰囲気に、リンは眉を顰め、よろよろとしながらも床から起き上がる。
―――なんて優しい人なのだろう。リンの他者を庇うその行動はナルトの心を痛いほどに打った。こんなに優しい人だから、カカシ先生が好ましく思ってるのは当たり前だ。カカシは、ああ見えて人間に対して潔癖だとナルトは知っている。人の醜い感情を嫌悪する、カンが彼がある。今まで、そうした嫌悪感を向けられるのは〝外〟の人たちで、けして自分ではなかったはずなのに。ナルトが成長して何が変わったのだろうか。大きくなったら、自分はカカシの嫌いな醜い生物に変身してしまったのだろうか。カカシに捨てられたらどうしよう、とナルトの心が真っ暗になった。いらないと言われ、ダンボール箱に詰められて元いた路地裏に置いて行かれたら、と思うと酷く恐ろしかった。
「私、医療忍者よ。これくらいの怪我――」言い掛けたリンを制したのはカカシだった。
「リン。悪いけど、甘やかすのは、ナルトのためにも良くないんだ。ちゃんとやって良い事と悪い事の区別を教えてあげないと」
カカシの言葉に、パタパタとナルトの頬から涙が伝う。何かを堪えるように、ナルトは項垂れた。
「ナルト。泣いても駄目だからね。ちゃんと反省しないさい。オレは、怒ってるんだよ?」
真ん丸い碧玉から零れ落ちたのは、真珠ほどもある透明な涙で、こんなしょっぱい涙を流したのは、この家に拾われて、幸せに暮らしていたナルトにとっては久し振りの経験だった。――ナルトの記憶の中で一番底にある記憶。カカシに拾われる前の思い出したくもない過去を詰め込んだ箱が、真っ黒な闇を覗かせていた。鍵は、最初から掛けられてなどいなかったのだ。カカシに拾われ、寄り添うペットとして愛されて1年。いつも、ナルトは怯えていた。














 
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空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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