性感ヘルスOto。歓楽街の一角にある雑居ビルを一個買い取り出来たそこは、他の風俗店と一線を期すサービス内容はさることながら、サービスを行うのが、全て少年に限られていることが売りの一風変わった風俗店だ。
全身リップ、お口でご奉仕、素股、手コキ、足コキ、ただし本番なしで、プレイ内容はお好み。甘えた、さびしんぼ、意地っ張り、メイド、ナース、etc.。その他、オプションは要相談。スペシャルオプションで少年ヘルスに寄る膝枕耳掻き完備。
まさに男の浪漫を売る店。性感ヘルスOtoとは、都会のオアシス的な存在の店なのである。
「おい、ナル坊はどうしたんだ。最近、珍しくため息ばかりついてるんぢゃないか」
蜘蛛というコードネームを持つダークスーツを着た鬼童丸が、階段に座ってため息ばかり吐いているナルトを見て不思議そうに、横のひょろりとした男に訊ねた。
「おまえにこの繊細な気持ちがわからないかねぇ」
そう言ったのは、ホストクラブの人バリに白いスーツを着用している、左近だった。
「兄貴、いつまで寝てるんだよ」
キャッチから帰ってきた右近左近兄弟は、お揃いのスーツと整った容姿で、客引きや風俗嬢♂の勧誘を行っている口の悪い一卵性双生児の双子だ。
眠り癖のある兄の頭を左近がぽかりと叩く光景は性感ヘルスOtoではお決まりの光景で愉快で下品な名物コンビとなりつつある。
そして今、店内でアイドルとなりつつある金髪の少年に、彼等の注目が集まっていた。
「左近、いやに思わせぶりな言い方をするぢゃないか」
鬼童丸が片眉を跳ね上げると、左近が小馬鹿にしたようにせせら笑った。
「あー、やだやだこれだから武骨者はいやだね。ナル坊も可哀そうに、ううぅ。こんな童貞ヤローに夜な夜なオカズにされているのかと思うと、オレは不憫で泣けてくるねぇ」
「な、なんだと」
「ぎゃははは、もしかして大当たりぃ…!?」
腹を抱えて笑いだした左近に鬼童丸は顔を真っ赤にして、怒鳴る。
「オレのことはどうだっていいんだ。オレが聞いているのは、ナル坊がどうしたのかってことだ。左近、おまえ何か知ってるのか」
「どうしようかな~、教えっちゃおうかな。どうしようかな~」
「左近、貴様……!」
拳をぶるぶる震わした鬼童丸に、左近はひゃはひゃは笑った。
「恋だよ、恋。ナル坊は初めて男に恋しちゃったんだよ。かーわいいねぇ。見ろよ、まんまるいほっぺは薔薇色、瞳なんて切なそうに潤んぢゃってさぁ。くう、堪んないねぇ。ナル坊はどう転がっても可愛いねぇ」
ハートを乱舞させながら左近が呟く。
「ナル坊が恋!? 早過ぎぜよ。まだあの子はじゅ、じゅ、16歳だぞっ。破廉恥だ」
「……鬼童丸おまえ、ナル坊の職業知ってて言ってんの」
ダイナソー(恐竜)でも見るかのような顔つきで左近が引いて、
「……ナルトが恋をしたのか?」
それまで左近の隣で彼に寄り掛るようにこっくりを掻いていた右近が、うっそりと顔を上げる。
「んだよ、右近。まさか、兄貴もナル坊が好きだって言いやしないよな?」
「………おまえの方こそ、実はナルトが好きだろ」
「へっ。流石、兄貴さまだぜ。なんでもお見通しってか~。好きだよ、わりい?」
「いや、まったく問題ないな。むしろ歓迎したいくらいだ。オレたち二人で、ナルトを愛せばいい」
「なるほど。そりゃいいや。ナル坊なら兄貴と分かち合える気がするぜ」
「オレたち二人の」
「恋人だ」
「オレたち二人の」
「ものだな」
ひゃっひゃっひゃ、と双子が笑い出すのを鬼童丸は気持ち悪そうに眺める。
「馬鹿双子が…」
鬼童丸は呆れたように、吐き捨てて、またナルトの方へと視線をやった。確かに左近の言う通り、ナルトは物憂げな表情で、地面に視線を落としている。その瞳がうるうると潤んでいるように…見えなくもない。唇が、やけに赤く熟れているような…気がしなくもない。
「あ~あ、ナル坊はもうそいつとヤっちゃったのかな~。ヤッちゃったよなぁ~。相手の男も放っておかないよな~、ナル坊可愛いもんな~。ああ、ついにオレたちのエンジェル、ナル坊もついにロストバックバージン?派遣先から、帰って来てから妙に色っぽいもんな~」
左近の話では、ナルトは誤送された先で、知り合いの男と再会したらしい。
「元担任!?教師に手を出されたのか!?」
鬼童丸が目を剥く。
「きひひ、相変わらずお堅いなぁ~鬼童丸は。今どき教師が聖職者だとか言っちゃうタイプか~?」
「そ、そうは言わん。だが、元担任ということは相当年上だろう」
「まぁな。まったくナル坊もつれないよなぁ。オレで良ければ手取り足取り腰取りぜ~んぶ教えてやったのになぁ。何を好き好んで野暮った~いお堅~い先公なんかに惚れたんだか…せめてこっちの業界の人間なら面倒なことにもならなかっただろうに」
そこで言葉を切って、左近は空と同じ色の目を持つ金髪碧眼の少年を見つめた。
ナルトは、ビルの非常口に座って、空を見上げていた。しかし、そこに何かの答えが見つかるわけもなく、ため息ひとつ吐いて、また足元に視線を落した。すると、見知った影が階段に伸びた。
「おら、男ならいつまでもウジウジしてるんぢゃねーよ。この蛆虫野郎が」
「多由也姉ちゃん…」
振り返るとそこには、赤い髪を持つパンツスーツ姿の女が立っていた。
「おまえがシケた面してるとこっちまでクサクサした気分になるんだよ!」
乱暴な所作で頭をぱかんと叩かれる。叱られて、ナルトはへへへと笑った。
「多由也姉ちゃん、心配してくれてありがとう」
「は!?」
「オレってば怒られて嬉しい」
「べ、別に心配なんてしてねぇよ!」
本当だからな!と真っ赤な顔で念を押されてナルトはまたへへへと笑う。
そして、多由也の放り投げたものをキャッチして歓声を上げた。
「あ、汁粉ドリンク!」
好物のお汁粉缶にナルトの表情が明るくなる。
「さんきゅ、多由也姉ちゃん!」
「ふん。たまたま売ってたんだよ、早く飲んじまいな」
「おう」
まだ温かい甘味飲料をナルトはコクコクと飲み下す。
「たく。男のくせによくそんな胸焼けしそうに甘ったるいもの飲めるな」
「多由也姉ちゃんも半分いる?」
「………いらねぇ」
金髪のひよこ頭にチョップを落とすと、へへへと笑い声が上がった。
「……うん、オレってば頑張る」
くしゃくしゃと多由也に頭を撫でられて、ナルトは柔らかい笑みを落とす。
「多由也姉ちゃん」
「なんだよ」
「オレ、最近おかしいんだってば。あの人のこと考えると、胸が苦しくて、いきなり泣けてきてさぁ……」
目尻の涙を拭きながら、へへへとナルトが力なく笑う。
「……その相手の男ってのは誰だ。――シメる」
「へ?」
多由也の顔に暗い線が入ったかと思うと、バックに不穏な殺気がうずまき出した。
「多由也」
拳銃を片手に出張出勤しようとした風俗店用心棒に、相方の次郎坊が全力で静止しに入ったのは言うまでもない。
時は過ぎて、三ヶ月後。多由也は某所に建つ高層マンションの前に立っていた。ブラックカラーのスーツに赤いシャツを着込み、黒いネクタイを締めている彼女は、うずまきナルトが元担任と暮らしているという木の葉マンション。
別に、ナルトのことは心配などしていない。あれでナルトは要領が良い。それに、いざとなれば男の股間を蹴ってでも逃げてこいと教え込んである。ただ、まだそこは17歳だ。ロクでもない男に捕まっていた場合は連れ帰ってやらなければいけないだろう。もちろん、相手の男を血祭りに上げて…なんてことを多由也は心の中でこっそり思っていた。
「多由也姉ちゃん!」
フリルのエプロンをして、ナルトが玄関前で多由也を出迎えた。
「ナルト。蛆虫はどこだ。秒殺してくれる」
「お、おう?」
ナルトは多由也の剣幕驚いて手をぶんぶんと振る。
「ちがうってば。これはオレが勝手に…突撃☆カカシ先生に悪戯でゴー計画なんだってば!」
カカシ先生ってば最近職員会議が忙しくてオレに構ってくれなくて仕返しについ…というような内容をナルトが語り始めた。
「ちなみに網タイツも買ってみたってば。男にはやっぱり網タイツだってば」
ファッションセンターしま○らで…とナルトが激安ショップで買った怪しげな戦闘品の次々を披露し始める。
「これでカカシ先生を悩殺なんだってば」
「ナルト…おまえ一日中そんなことばっかやってるのか」
呆然とした多由也の言葉にナルトはしゅんと項垂れて唇を尖らせる。
「だって、カカシ先生ってばバイトするなっていうし、オレってば学校はまだ辞めたままだし毎日暇なんだってば…」
宙ぶらりん…とナルトはフローリングの床に足を投げ出していたが、すぐに明るくなる。
「多由也姉ちゃん、見て見てってば。オレのショーブパンツ。カカシ先生のお気に入りは紐パーン。マニアック!」
びらびらした布面積の薄いものを突き付けられ、多由也は思わず仰け反った。よく見れば窓際には、洗濯済みの下着が男もののトランクスと一緒に風に靡いていた。
掃除も行き届いているようで、どうやらナルトはこの小さな部屋の中でちょろちょろとよく働いているらしい。
「もう少しでカカシ先生が帰って来るから多由也姉ちゃんお茶でも飲んで待ってろってば。うわ、オレってば出来た嫁!?」
ケラケラ笑いながらナルトがエプロンの紐を結び直した時だった。
「ナルトー。ただいまー、変なバイト始めないでちゃんといい子で待っててくれたー?」
万を持して、登場したのは木の葉学園数学教師はたけカカシだった。
「てめーがロクデナシのホモヤローかぁ」
「ナ、ナルト。この人は」
「多由也姉ちゃんだってば。あのな、カカシ先生、多由也姉ちゃんってばちょーちょーいい人なの。オレってばいっぱいお世話になった」
赤毛女の横でナルトが天使の笑みでカカシを出迎えた。
「歯ぁ食い縛れ」
ナルト。おまえの世界のちょーいい人は初対面の相手の胸倉を掴むのか!?
憐れなはたけカカシの悲鳴がマンションの7階に響いたという。
☆カカシ先生、流石にごめんなさい。