失踪ディズ2 ―Tuesday~Wednesday―
鳴り止まない電話といやがらせのメール。
「とりあえず電話は消音にしておいたし…じゃ、オレは会社に行ってくるからここでいい子にしてるんだよ?」
ちゅ、と目尻にキスを送ってカカシは上着を羽織る。
「いってらっしゃいってば、カカシせんせぇ」
本当はずっと一緒にいてあげたい。だけどこの子を守るためにも働かなければいけない。マンションの1番上の階。小箱みたいに小さな部屋に少年を残して、カカシは家を出た。
珍しく遅刻もせずに出勤したカカシに奇跡だ天変地異の前触れだと職場がざわめきつつ、午前の仕事を終える。昼休みも間近だという時間帯。
戸惑ったような表情で電話受付の女性職員がカカシに電話を渡してきたのはカカシがコーヒーを淹れて戻った時。受話器からわんわんと喚くような声にカカシはすぐにそれが誰であるか悟った。
「アンタのオンナ?会社に電話かけさすんぢゃないわよ」
向かいのデスクの紅が化粧を直しながら、軽蔑の視線を送ってくる。おまえこそ仕事しろよ、と思いつつ、
「・・・・ちがうよ。今の子はそんなことしないね」
「へえ、随分と自信満々なのね?見てくれだけでオンナを選んでいたあんたがねぇ」
「ま。その話はまた今度ね・・」
適当に百戦錬磨の女と名高い同僚に受け答えをして(なんの、とは聞いてはいけない)まったくどこからこの番号を調べたのだろうかと、ため息を突きつつ、カカシは受話器を受け取る。
「お電話代わりました、はたけです」
言った途端、またお決まりの文句が始る。「絶対許さない」「警察に連絡をするぞ」「全部おまえのせいだ」支離滅裂な言葉の嵐。
おそらくカカシを精神的にまいらせてナルトを誘き出す作戦なのだろうが、残念ながら彼等は相手を間違った。いや、初手を間違った、と言っていうべきだろうか。
普通、本当に子供を返してもらいたいのなら、こんな罵詈雑言付きの電話を寄越して相手の気分を害させるだろうか。ナルトのことを心配するでもなく、ただ文句を言いたいというような態度には呆れるしかない。
「ここは会社なんですよ。非常識だとは思わないんですか?」
思っていたより、冷えた声が出た。そして言いながらも思わないんだろうなと苦笑する。昨日いやというほど聞いた女の声が聞こえたが、カカシが霜の降るような声を出すとしん、と黙る。
「聞いてますか?それとも意味がわかりませんか?」
結構失礼なことを言いつつ、カカシが尋ねると、主人に代わります、とこれまたお決まりのパターンが始って、次に聞こえたのは男の声。夫婦で受話器に齧り付くように応対しているのだろうか、こんな場面にも関わらず想像すると少しだけ笑えた。
「〝アレ〟を返してもらえませんか。あんたの連れ出した〝アレ〟を」
連れ出したねぇ・・・とカカシは男の言葉を反芻する。まぁ、間違ってはいないが、これまた随分と失礼な言い方をしてくれる。
「それはオレが嫌がるナルトくんの腕を無理矢理引っ張り拉致、誘拐したというんですか」
「・・・・・・・」
「泣き叫ぶナルトくんを無理矢理、車に連れ込んだ、ということですか?」
「いや、べつにそこまでは・・・」
硬質になったカカシの声に電話の向こうの人物の声が急に勢いを失う。
「貴方がたがおっしゃられてることはつまりそういうことでしょう?」
拉致・誘拐の言葉に、オフィス内の視線が集まるのを感じたが、かまっていられなかった。今、この場面ではっきりさせておかなければ。
―――こちらとて伊達に修羅場の場数を踏んでいないのだ。今でこそ堅気の商社に勤めているカカシだが、十代の頃はそりゃあ警察のお世話になることも日常茶飯事と言えないまでも多くあって、はっきり言えばこういう場面には慣れていた。
いつまでも大人しく対応してあげているとは思ってはいけない。失礼な対応に対して、礼儀で返して上げられるほど、カカシも人間ができているとはいえなくて、言ってみれば根が戦闘体質なのだ。
昨日はナルトの手前きついことも言えなかったが、今はたとえ相手がナルトの義理の両親だとしても容赦するつもりはなかった。
「オレがいやがるナルトくんの腕を無理矢理引っ張り連れ出したというならともかく家を出たのはあの子の意思であって、オレはそれを援助したに過ぎません。警察にご連絡したいならどうぞご勝手に。ただ、事が明るみに出て困るのは貴方がただって同じではありませんか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「言っておきますけど、オレは警察の事情聴取でもなんでもよろこんで応じますよ」
この言葉も男の予想の範囲外だったらしく、黙る。ここでカカシはある法則に気付く。彼等はカカシが下手に出ると勢いをますが、強気に出ると途端に引っ込むのだ。
(どうもこの人らは口だけは達者なようだねぇ)
肝心な行動力はなし、か。あんだけ大きなことを言っていたわりには嫌がらせが電話やメールなど以外になかったことにも納得する。会社の電話番号がわかったのなら、カカシのアパートもわかっても良さそうなものなのに。
この手の人種はどうも理解し難いな。
法則に気が付けば、攻略は簡単だろうが、気をつけるに越したことはない。先手を打っておいた方がいいだろうと、カカシは声を柔和にする。
「ま、貴方も奥さんに言われて仕方なく?オレに電話をなさったと思ってますけど?」
わざと同情するような言葉を掛ければ男が「ええ・・・」と小さく相槌を打ってきて、思っていた通り、折れてくる。
「あの子のことを心配だと思う気持ちはよくわかりますけど・・・」
言いつつ、オレって大嘘吐きだよねぇと大人の建前という名の台詞に舌を出す。
「あの子はもうあなた方のところに帰る意思はありません。オレもただで渡すつもりもありません。しかるべき公共機関に訴えるのはこちらの方です。オレは貴方がたと相殺される覚悟はありますよ?」
「・・・・・・・・・・・」
「貴方も奥さんのことを愛しているなら彼女の意見ばかり鵜呑みしないで、ちゃんと叱って上げてください。まずは夫婦できちんと話し合って見られてはどうですか?」
男が黙る。
「もしオレに用があるなら今度からオレの携帯に掛けて下さい。もちろん時間を選んで頂けるとうれしいですね。これからはいつでもお相手致しますよ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「もし警察に訴えた場合、ナルトくんが誰の味方をするかということをよくよく考えて頂きたいです」
黙した相手に確信の微笑を浮かべて、カカシは受話器を置く。
「ああ、オレの昼寝の時間」
時計の針は12時過ぎを差していて、昼食の時間を仮眠に充てているカカシにとっては痛いロス時間だ。
オレの貴重な昼寝の時間を邪魔しやがってどうしてくれよう。とこの日一番の凶暴な本音が出たのだけど、ふと周りを見回して、あーらら?とカカシは物の見事に固まった。
「は、はたけくん、どうしたんだい?」
電話越しの応戦を何事かと見守っていた上司や同僚が眉を潜めている。ああ、しまった。すっかり忘れていた。
「ご迷惑お掛けして申し訳ありません」
隠すわけにもいかず仕方なく職場に事情を話す。こりゃ、こんな問題事を起こしたら会社もクビかなぁと思いつつ頭を下げると、
「なんて常識のない方たち!」
オフィス内に大爆笑が巻き起こった。
「………へ?」
「普通、会社まで電話を掛けて来ます?それもはたけさんに文句を言うためだけに!」
「あの女の人、私が電話に出た時すでに怒鳴り散らしていたんですよ!はたけさんに代わってくださいっていうくらいアルバイトの学生だってできますよ」
カカシは下げた頭をおそるおそる上げる。
「いやー、はたけくんデカしたぞ。駆け落ち、けっこうなことではないか」
恰幅の良い上司が高らかに笑う。
「・・・・か、かけおちですか?」
その時代錯誤な単語はなんですか?と思いつつ、カカシは結果的に見ればそれなのか?と首をひねる。まぁ相手は同性の少年相手、という言葉を飲み込む。
「で、相手は男なんだろ?」
ぶっとカカシは噴出しそうになる。そうだった、ナルトくんと名前を出していたな、オレ。非常事態だったとはいえ迂闊だった。
「いえ、部長それはですね・・・・」
「なになに、なにも正しいばかりが人生ではない。裏道、曲がり道、大いにけっこう。お互いがしあわせなら人生なんとかなるもんだぞ」
み、見も蓋もないこの人たち。若干カカシが実は自分ってこの職場で一番の常識人だったんぢゃあ?と引き腰になっていると、いつからそこで立ち聞きしていたのか廊下から白髪の男が「あいやしばらく!」とやってきて、
「わしも今のかみさんとは駆け落ちだがのう!今もあちらの家族には許されておらんがしあわせよ」
か、か、か、かと豪快に笑い出す始末。
「自雷也社長、その告白はいりません…」
前々から少し常識ない職場だとは感づいていたが(カカシの遅刻を容認したり)まさかここまでとは思わずカカシはやや呆然としたあと苦笑した。
「とりあえずわしらは味方だからのう!」
真面目なステレオタイプの人間ばかりの集まりだと思っていたのだが、どうやら最強の非常識集団だったらしく、
「――――ありがとうございます」
頭を下げたカカシに
「はたけさーん、その子かわいいですかぁ?写真みせてくださいよー」
からかうような声が掛けられる。
「もったいなくてみせてあげられないくらい美人だよ」
のろけ全開のカカシの台詞に今度飲み会につれてこーいとどこからかやっぱり非常識な声が掛かる。
玄関の鍵を開けて帰宅すると、華奢な腕が巻き付けられた。
「おかえりなさいってば、カカシ先生!」
カカシの服を着たままのナルトをカカシは抱き止める。
「ちゃんとメシ食ってた?変なことはなかった?」
「うん!ってば」
カーテンを締め切ったままの部屋の中で、二人は抱き合う。
「でもメール来たってば。カカシ先生に迷惑をかけてやるって。全部カカシ先生のせいだって。オレが自分の意志で家を出たのになんでカカシ先生のせいにするんだってば?」
「ナルト・・・・それは仕方ないよおまえのことをオレにとられたと思ってるんだから」
家庭が壊れたことを誰か外部の人間のせいにして、押し付けたいのだろう。だけど結果的にみれば、カカシ自身にもわからない。自分はこの子のことをただ渇望するように欲しかっただけかもしれない。
我慢のできない大人でごめんね。柔らかい金糸に指を絡ませながら、1番大人の都合に巻き込まれたのはやっぱりこの子なのかもしれないと思う。
「警察にも連絡するって…」
「この場所は誰にもバレてないから平気でしょ?」
まぁ、調べようと思えばすぐに知られてしまうだろうが。
「オレが帰らないと死んでやるって。・・・オレのせいで誰かが死ぬの?」
「・・・・。それはナルトが気にすることじゃなーいよ?それにナルトのことを本当に思ってる人だったら、そんなことするわけないでしょ?」
「そうかなぁ・・・・でもオレってば実はちょっとだけ期待してたんだってば。あんな人たちでもオレがこんなふうに家を出たら心配してくれるのかなって。でもお金と世間体のことしか気にしてくれなかった」
ナルトの携帯が受信したメールの文章を見て、吐き気がした。そこには自分勝手な彼等の都合ばかりが書かれていて、帰ってきて欲しいだの、心配だのという言葉は一切なく、―――ただ吐露される悪言。
「笑っちゃうってばよ。〝息子が家出したら自分の監督の不届きだと思われる〟〝自分の出世に響いたらどうするんだ〟ってなんだってば・・・・もう一人はお金の心配しかしてねぇみたいだし―――ほんと、サイアク」
「ごめんな、ナルト。ひとりでつらかっただろ・・・」
「ううん、カカシ先生はお仕事だってば?しかたねぇってばよ」
「ナールト、うつむいてないで上をむいて?」
「カカシ先生っ?」
そのままなだれこむようにキスが始って、どちらのともわかない垂液が伝う。玄関先で立ったまま交じ合わされる行為に、ナルトは苦しそうな顔をしながらも必死にカカシに応えて、大人の首に腕を絡める。
「・・・・・・・・っカカシせんせぇ、も・・・無理ィ息が・・・」
「・・・ん」
「んはぁ・・・」
カカシの胸元にナルトが酸欠からかずるずるともたれこむ。キスにすらまだ慣れていない少年にがっついているという自覚はあったけど、それで止められるほどカカシも大人でもなくて、愛してるからごめんねなんて、結局は自分勝手で身勝手極まりない結論に落ち着いてしまう。
「・・・カカシ先生、不安ってば?」
「え?」
「カカシ先生、不安な時とかキスして誤魔化すくせ、あるってば?」
ぼそぼそと呟かれた言葉に参ったなとカカシが後頭部を掻く。出逢った時から薄々は気付いていたけれど、この少年は無頓着なようでいて人の感情の機微に恐ろしく敏感だ。それがあの家庭に育ったためなのか、それとも天性のものなのか、カカシにはまだ推し量ることはできないけれど、まさか十四歳も年下の子に自分の不安を見抜かれてしまうとは思わなくて、
オレもまだまだだなぁと思いつつ、もっとオレがしっかりしていれば良かったのにゴメンねという気持ちを込めて、腕の中の温もりを抱き締める。
ぐりぐりと仔犬のようにカカシに抱き潰されて、ナルトが苦しいってば苦しいってばと暴れる。
「あはは、ごめーんね?おまえ抱き心地いいんだもん」
「カカシ先生、オレのこと窒息死させる気だったろ!?」
「そーんなことないよ?」
むうと頬を膨らませた表情は、実年齢より幼く見えて、改めてまだ十代なんだよなぁとカカシは苦笑する。そのガキンチョに骨抜きにされる自覚はあるのだけど。それも僅か一週間で。
だけど、一緒に過ごした時間の多さなんか関係ないくらい、まるで何かに惹かれあうように、二人は出会って、急速に近付いた。
この想いが一時期のものなのか、永遠のものなのか、カカシにだってナルトにだってわからないのだけれど、ただ一緒にいたいという気持ちだけは、何よりもずっと強くて、自分たちはきっとデキタニンゲンではないから、一時の感情にのまれて墜ちていくのもきっと一緒。
もぞもぞと腕の中の少年が息苦しそうに身動きしたので、カカシは拘束する腕の力を緩める。
「でも不思議なんだってば。あんなにうるさかった電話とかメールがお昼からぱったり止んだの」
「え・・・・・・?」
ちょうどカカシが会社で電話を受けた頃だ。
「カカシ先生あの人たちになんかした・・・?」
「ああええと。ちょーっと穏便なお話し合いをね?」
「・・・・・なにいったんだってばよ?」
「なにって昨日出来なかったお話し合いだよー?」
「カカシ先生、笑顔が怖いってば」
半眼のナルトにカカシが噴出す。「ぶさいく」と鼻の頭を突かれてナルトがぶんむくれる。だけど、くくくと背を丸めて笑うカカシにナルトの表情も段々弛んできて、久方ぶりに二人で声を上げて笑った。
しあわせな家庭に育った人たちはきっと声を揃えて二人のとった選択を批判すると思う。なぜ、家族という集団を壊してまで、きみたちは自分勝手な行動に出たのかと。
彼等は話し合えばわかるのだというのだ。ではなぜニュースや新聞で母親が赤ん坊を殺したり、父親が一家全員を巻き込み無理心中をさせたり、娘や息子が両親を刺したりするのだろうか。
歪んだ家庭というのはたしかに存在する。なぜなら、家族とは血の繋がりのある、なしに関わらず偶発的に集まった人々のコミュニティだからだ。絵に描いたような優しい母親や、寛容な父親、出来の良い息子や娘が必ずしも用意されているわけではない。母親や父親、娘や息子にも「個人」があることを忘れてはいけない。その点で、家族とは友人のように切り離したり、選んだりすることができないぶん厄介だ。
カカシ自身幼い頃に父が自殺して家族は崩壊した。
全ての家族がしあわせな道を選択できるなんてことは、実は天文学的な数値で、そのしあわせな状態を維持し続けることがどれほど大変なことなのか。
個人としての人格を尊重してくれる家庭、または掛け値なしの愛情を与えてくれる家庭が、どれほど貴重なのか。
仲良く円満に解決できたならどんなに良かっただろうか。だけど世の中には、家族を壊さなくては進めない選択肢も確かに存在する。
それが間違っているかなんて、ね・・・誰にもわからないから。死ぬ間際に後悔するかもしれないし、いい人生だったと笑って終われるかもしれない。
ホームドラマのように主人公が熱く語れば両親が改心してなんてことは起こるはずがない。すべてが正しく収まることなんて、あるわけがなくて、なんていうか割り切れないこと、正にも邪にも分類できないことってのはたしかに存在する。
ならば今カカシにできることはたとえ世間的には間違った選択だったとしてもこのまま突き進むしかなくて、一番大事なものを優先させるだけ。
「ねぇ、カカシ先生?」
そこで腕の中のカカシの「1番」が口を開いた。
「オレってば学校は続けたい」
屹然と言い放たれた言葉にカカシは目を見開く。
「もし親の援助が完全に受けられなくなったら生きていくために高校ぐれぇは出ておいたほうがいいってば。やっぱさ、やっぱ全部カカシ先生に頼りっきりになるわけにはいかねぇってばよ」
ぱきぱきと少年がカカシに説明をする。
「元々学費は自分の働いたバイト代で通ってたってば」
この子とあの家の人たちのちがいを述べるとしたらここなのだ。十五歳でここまで人に気を使うその所作が哀しい、と思わないでもなかったけれど、どこか吹っ切れたように話す少年に、カカシは苦笑した。
「・・・・・・・オレに、頼ってくれていいんだよ?」
「へ?」
「別におまえ一人くらい養えるくらい稼いでるつもりだし。結婚は男同士だから今の法律ではできないけど、いろんな抜け道があるし。オレの奥さんになってくれたらうれしいな。おまえ、はたけナルトになる気持ち、ある?」
「・・・・・・・・・っ!」
「オレは全然いいんだよ?オレも覚悟を決めたから」
蜜のように甘い言葉にナルトの瞳が揺らめくけど、腕をつっかえ棒のようにして、ふるふると首を振る。
「…・・・カカシ先生の気持ちすげーうれしいってば。でもオレってばやれることは後悔しねぇようにがんばってみてぇ」
碧い瞳にたしかに宿る意思。ああ、オレはこの子のこの表情が見たかったのかもしれない。アーケードに座っていた少年。ちょっと途方にくれたような顔はもうない。今あるのは、
「高校の保証人は親御さんだよ?このままだと話し合いは・・・無理だろうな」
「・・・・なんとかしてみせるってば。オレってばぜってーあきらめねぇ!」
ただ眩しいばかりの笑顔。
「ナールト?」
「ん、ってば?」
啄ばむようなキスがナルトに落とされる。そのまま食むように唇を何度も甘噛みされて、恥ずかしいからやめろってば、とナルトが声を上げるまで続けられる。
「―――ああもう。さっきの訂正。カカシ先生ってばキス魔だってばよ」
ふふふと笑うカカシにナルトはむうと頬を膨らませていたのだけど、ふっと悪戯っ子の表情になる。
「カァーシせんせ?」
ふわ、とカカシと同じ石鹸の匂い。瞬間、のびる少年のつま先。
「――――え?」
ちゅ、とナルトはカカシの頬にキスをする。ふいうちをくらったカカシはただ呆然。
「シシシ、おかえしってば」
カカシの首に腕を巻きつけて照れ臭そうに笑う少年。
「おまえはー・・・・」
意外性ナンバーワン。そんな言葉が思い浮かんだ。本当に骨抜きにされそーだわ・・・。カカシの独白めいた予測はあながち外れでもなく、「はたけさんは伝書鳩のように家に帰りますね」と彼が同僚に冷やかされる日も、そう遠くはない未来だったりする。
「……ナルトー、このまま玄関で押し倒されるのとベットいくのどっちがいーい?」
「っ!!!」
「煽ってくれちゃって・・・・覚悟しなさいよー」
「なななにがだってばよ!」
「こーんな可愛くおねだりされて応えなきゃ男がすたるってもんでしょー」
「お、おねだりなんてしてねぇってばよ!??」
「はい、問答無用」
どさささと玄関で何かが転がる音と共に、少年の悲鳴が上がる。だけど、大人に抵抗している少年の声に色めいた響きが交じるまであとわずか。
問題は山積みなんだけど、ハッピーエンドに向かって、二人ならきっと歩いていける。だって諦めない限り道は繋がっていると思うから。
End
終わり方が似ているけど、前よりもちょっとずつ前向きになってる二人。