「おろせってばよ、カカシ先生!」
ここは、木の葉商店街のど真ん中。本当はなるべく目立ちたくないんだけど、オレってば大声を出して猛烈に抗議してしまった。ああ、人様の視線が痛いってば。
それというのも全部、全部カカシ先生が悪いんだってばよ!
「やーだよ。ナルトが転んだら危ないから先生が抱っこしててあげるね?」
下にも置かない扱いってこういうことなのかな。そりゃ、オレってば道とかでよく転んでるけどさ。こんな露骨に実行してくれなくてもいいってば!!
「オレってばもう下忍だってばっ」
小さい子みたいに抱き上げられてオレの足はジタバタと宙を蹴る。木の葉丸だって見てるのに恥ずかしいってば。
「あー、可愛い」
だけど、ぎゅううと抱きしめられてオレってば、思わず身体の力が抜けちゃった。うう、これが惚れた弱みだってば?
オレが抵抗しなくなったのをいいことにカカシ先生は、オレの頬に顔を擦り寄せて、はぁ…っなんてため息を吐いてる。
「ナルトの兄ちゃんはオレのだってば、コレ!」
なぜか、木の葉丸がムキィと怒っていた。オレってば、カカシ先生に背中を撫ぜられてる途中だったので、年上として超恥ずかしかったってば。耳まで真っ赤になってしまった。
そのまま、カカシ先生の肩に顎を乗っけて瞳を潤ませていると、ええとカカシ先生と別れている時に親切にしてくれた人たちなんだけど、特別上忍のゲンマさんや、ハヤテさん、鼻と顎の人たち、傷の兄ちゃんに、眼鏡の兄ちゃん、アスマ先生までもが顔を赤くさせてこちらを見ていた。な、なんだってば…?
オレは前屈みになって股間を抑える兄ちゃんたちに驚いてしまった。皆、腰痛でも患っていたのだろうか。
「ナルトォー。あんまり可愛い顔、皆に見せないでよー」
〝全員、殺したくなるから♪〟と、笑顔で言われてオレは凍りついた。
「カカシ先生、殺人は駄目だと思うってば…」
オレは呆れてしまった。だけど、オレが困った顔をしても、カカシ先生はニコニコ笑ってる。まったくこの人は…。反省の色がないってばよ!
「ナルト、任務の後なのにお日さまとシャンプーの匂いがする…」
あまつさえ、カカシ先生はうっとりとした顔でオレの髪の毛をくんくん嗅ぎ出してる。もー、汗いっぱい掻いたんだからさ、ばっちいだろっ。頭に鼻を埋めないで欲しいってばっ。
「離せ――!」
「ナルト、大好きだよー。んー、可愛い♡」
ちっとも会話が噛み合わない。オレを好きだと自覚してから、カカシ先生は変わった。それまでの態度を180度変え、オレに極甘になった。もうセックスしてすぐに帰っちゃうことも、浮気されることもない。オレは毎朝カカシ先生の腕の中で目覚めるようになった。
だけど、だけど、だけど、だけど…!!カカシ先生の全開の好きは極端なんだってばよ。ぜってぇどっかズレてるんだってば!
「今日は先生がお家まで抱っこして運んであげるからねぇ?」
ううう、もうオレは子供じゃなくて下忍だってばよーーー!?バタバタと手足を動かしたけど、カカシ先生の前では無駄な抵抗だったみたい。流石、上忍だけあるってば。
そのまま、カカシ先生に運ばれてると、以前火事のあった店舗の前を通り掛った。
「猫面の兄ちゃん!」
焦土となった店の前に見知った背格好の人が居たんだってば。
オレってば、心が明るくなってしまった。猫のお面の兄ちゃんだってばよ。オレってばこの兄ちゃんのことがだぁああい好き。優しいし、ラーメン奢ってくれるし、からかうと面白いんだってば!
「……ねぇ、ナルト。なんだかオレが暴れ出したくなること考えてない?」
「? そんなことねぇってばよ?」
カカシ先生が湿度のある視線でオレのことを見てきた。どうも、カカシ先生はオレと兄ちゃんの関係を疑ってるらしいのだけど、オレと猫面の兄ちゃんは全然そんな関係じゃないのに、変なの。
「猫面の兄ちゃん、抱っこしてってばー」
「わっ、ナルト。寄せ…!」
オレってば猫面の兄ちゃんの首に飛び付いちゃったってば。猫面の兄ちゃんがカカシ先生の殺人光線を浴びて死にそうになってる。この兄ちゃんってなんだか、神経細そうだよな。
「なっ。今度こそ、一楽連れてってば!」
「ああ…、今は仕事中だからまた今度でいいかな?」
「もう。オレってば何回も頼んでるのに、猫面の兄ちゃんってば、そればっかりだってば。どうして?」
「……。……きみはよくこの状況で僕にくっつけるねぇ?」
「?」
オレってばきょとんとしてしまった。何か不都合があるだろうか。そのまま、兄ちゃんと密着していたら、むんずって首根っこを掴まれて、あっという間にカカシ先生腕の中に戻されちゃった。
「恋人がいるのに他の男とイチャついたらダメでしょ~?」
「???」
ニコニコ笑いながら、カカシ先生が怖い顔をしている。意味がわからないってば!
見れば、猫面の兄ちゃんが腰を抜かして、震えている。貧血?と思ったら、猫面の兄ちゃんの足元にクナイが刺さってた。
いったい誰が投げたんだってば!?酷いってばよ!!
「兄ちゃん、兄ちゃん。まだお仕事だってば?」
「あ、ああ…」
猫面の兄ちゃんが調査してた店舗を燃やした犯人はまだ捕まっていないようだ。あの後サクラちゃんに聞いたことには夜中に出た不審火のせいで店は全焼したらしい。
「世の中には酷いことをする人もいるもんだってばよ」
「何言ってるの。この店なら自業自得でしょ?」
「え?」
ぷくうと膨れたオレの頬にカカシ先生が〝かわいいー〟とちゅーをする。
「覚えてないの。あの店だよ。ナルトが前に買い物に行った店」
「あ…!」
オレってばそれで全部思い出した。ここって前にオレが店長さんに店の奥に連れ込まれて、危うく大変な目に合わされるところだったんだってば。
「ここの店だったんだ…」
オレってば辺りを改めて見回す。犯人は余程容赦のない人物だったのか。その店の敷地だけ見事に焼け野原だった。
なんだかあれがずっと前のことみたいに思える。だけど、オレが感傷に浸っていると、カカシ先生がとんでもないことを言い出した。
「あはは。ここの店ねぇー…。あんまりムカついたから、オレがこの間が燃やしちゃった♡」
笑顔のカカシ先生に、オレってば、〝コメカミ〟が痛くなったってばよ。
「はぁっ!?カカシ先生、何を言ってるんだってばよ!?」
「だって、あいつのせいでナルトがオレとの待ち合わせに遅れちゃったでしょ。それにあの店、ナルトのこと、良く思ってなかったし。だからね、きちんと跡形もなく燃やしたから」
カカシ先生の台詞にオレってばザザザーって蒼褪めたってば。カカシせんせぇ、それは犯罪だってば…!
オレってば、男として?恋人として?カカシ先生のことを叱ってあげなきゃいけなかったんだけど、カカシ先生はやっぱり悪気がないみたいで、仔犬のような顔で笑ってる。
「……カカシ先輩。今の話、本当ですか?」
「そうだけど、何か問題でもある?」
「もし本当だとしたら問題にな…、りませんよね。先輩なら…」
「そうそう。オレにはナルトに何かした奴を制裁する権利があるからねー」
オレってばビックリしてカカシ先生と向かい合った。もしかして、オレの監視任務の延長上の権利なのかな?オレってば難しいことはよくわからなかったけど、一生懸命事件の犯人を探していた猫面の兄ちゃんは背後に棒線状態。明らかに落胆して肩を落としてる。ええと、こういう人をなんていうんだっけ。貧乏クジを引き易い人?苦労症?
「僕のこの数日間の調査はなんだったんだ…」
同情に値するってばよ。兄ちゃんの背中が黄昏ていた。うう、ここは恋人として怒らなければいけないってば?
「カカシセンセェは極端過ぎるんだってばよ」
「うん?」
「もう勝手にこんなことしちゃだめだってば…。先生が捕まったり、上忍じゃなくなったら、オレ、哀しいってばよ…?ね、ダメだってばよ?お願い…?」
オレってば仕方なく、カカシ先生におねだりした。上目遣いに目を潤ませっていう、必殺技なんだってばよ。
………。
しばしの沈黙。
……………。
ん?
………………。
んんっ?
……………………。
オレと密着している先生の股間のデカくなってるのは気のせいだってば?
「センセー、オレの太股に硬くてデカイものが当たってる気がするってば?」
「ごめん。ナルト。センセー、興奮しちゃった」
頬を染めてもダメだってばよ!〝ポッ〟じゃねぇえええ。こんなとこでなんつーとこを腫らしてるんだってば。変態さんだってばよ!
「ナルト。はぁ…、可愛いぃ…」
「え、ちょ、カカシ先生!?」
オレは公衆の面前で卑猥な行為に及ぼうとするカカシ先生を必死に止めなくてはいけなくて、ジタバタと手足を動かしたが、哀しいかな。下忍のオレには無駄な抵抗だった。ぎゃーー…。
「じぃちゃん。カカシ先生のことなんとかしてくれってば!」
その次の日。オレってば、火影のじぃちゃんに直談判に行った。本当は火影室って、中々人の入れないところなんだけど、オレは特別なんだもんね。
「このままじゃオレの平和な生活がままならないってばよ!」
じぃちゃんの執務机の上にオレは両手をつく。オレの余りの剣幕に、じぃちゃんは驚いたようだった。しかし。オレってば、次のじぃちゃんの言葉に衝撃を受けてしまった。
「許せ、ナルト。わしにはどうすることもできん」
じぃちゃんが首を横に振る。どうしてだってば。じぃちゃん。オレを見捨てるの?
「カカシは性格はともかく、里を代表する忍じゃ。おまえと離したら里抜けをすると言っておる。わしにはアヤツの暴挙が止められんだ……」
カカシ先生ってばどうやら先回りして、火影のじぃちゃんにも脅しを掛けていたらしい。じぃちゃんが気不味そうに切り出した。
「すまんの。おまえにばかり重荷を背負わしてしまって」
火影のじぃちゃんがどこからか出したハンカチで〝うっ、うっ、うっ〟と目尻を拭っている。
じぃちゃんってばちょっと痩せたってば?そういえば肩も細くなって心なしか頼りない感じがするってば。
「じ、じぃちゃん!!」
オレってば思わずじぃちゃんに抱きついてしまった。
「カカシ先生のことは、オレに任せて?じぃちゃんは心配しないで、火影の仕事に専念してってば!」
「おお。そうか、やってくれるか、ナルト…!」
「おう、カカシ先生のお世話は任せろってば!」
「ナルト!」
「じぃちゃーーーん!!」
執務室でオレとじぃちゃんは熱い抱擁を交わしたんだってば。うう、任してってばじいちゃん。男、うずまきナルトに二言はないってば。カカシ先生のことはオレに任せろってば!
使命感に燃えるオレは、こうして12歳の身空でカカシ先生という厄介な人を押し付けられてしまった。
そんなわけで今日もオレはカカシ先生のセクハラに耐えていた。
「カカシせんせぇー…。オレってば勉強中――…」
「んー。わかってる。だから、大人しくしてるでしょー?」
二人っきりの部屋で、カカシ先生が興奮したように、オレに腰を擦り付けてくる。オレの背中にはずっと硬いモノが当たってた。オレってば、日々シュギョーが日課なわけで、巻物を読んでいたのに、後ろ抱きにされた状態で、カカシ先生が発情していた。あが!
「ナルトはオレのお膝抱っこ大好きだもんね~」
「………」
何もしてないけど、物凄く存在感のあるモノが主張しているってば。はぁ、はぁ、はぁ、とカカシ先生の荒い息が首元に掛る。本当に交尾前の犬のようでちょっと怖い。
以前のように、心のない行為に及ばれることはない。だけど、恋人であるオレの〝良し〟を〝待っている〟カカシ先生はかなり鬱陶しかった。
「明日は、草取り任務だから、シちゃだめだってばよ…?」
オレがちょっと困った顔で恐る恐るカカシ先生を見上げると、先生が堪らないって感じで、ため息を漏らした。カカシ先生はオレのこの顔に弱いらしい。
「ナルト、ぎゅううー…」
「ぎゃーーー…!」
オレはカカシ先生に抱き潰された。大人の体重で押しつぶされれば、まだ子供なオレは敵わない。愛に目覚めたらしいカカシ先生の?息苦しいほどの拘束は、公私問わずオレの全生活面に及んでいた。
サクラちゃんに言われた。「よく我慢できるわね」って。サスケにも心配された。「アイツの執着心は異常だ」と。オレたちの関係は異常なのだろうか。比べるものを持たないオレにはわからない。
「んんん~。可愛い、ナルト。ねぇ、先生とセックスしようよ?」
「あ、だっ、今日はだめだってばよっ!」
「……―――。これでもだめ?」
「あ…、やぁん!」
そろりとカカシ先生の指が、オレのお尻の孔の辺りをなぞった。そ、それは反則だってばよ。精通っていうものをしてからオレの身体は格段に感じやすくなった。オレがフルフル震えていると、あっという間に下半身だけ脱がされてしまった。
「だ、だめだってばよ…!」
オレってば床に転がっちゃったけど、一生懸命、両手でお尻を隠したんだってばよ。だけど…。オレのその格好を見て、ごくん、とカカシ先生が唾を飲む音が聞こえた。
「ごめん、ナルト。我慢出来ない」
「ふぇ…。ぎゃあああああっ!?」
両手を拘束され、いきなりカカシ先生のモノが押し入ってきた。はぁはぁと切羽詰まったように、カカシ先生が腰を振り出した。そこらへんの強引さはちっとも変わらないってば。
「可愛いね、可愛いね。んー…」
「あっ、ああああっ!」
お尻の中に熱いモノが注ぎ込まれも、まだカカシ先生は腰を動かしていた。何度も名残惜しそうに、前後して、くちゅんとオレの中からカカシ先生が出て行く。
コトが終ったあと、オレはぐったりとしてしまった。先生の精液まみれのオレを見て、カカシ先生が嬉しそうに笑った。
「ナルト、大好き」
夜。2人っきりの部屋で、セックスして、愛し合って、オレの膝の上でカカシ先生がまどろんでいる。2人とも裸のままだ。
「ずっと傍にいてね…?」
オレは無言で、ただカカシ先生の髪の毛を梳いてあげていた。
「明日は、お買い物に行こうよ。そのあとに、甘栗甘に行ってさ…」
カカシ先生が、しあわせそうに目を細めている。きっと明日のことを想像しているのだろう。
「ねぇ、ナールト?」
「……うん」
オレは、まどろみながらも返事をした。
「明日も明後日もずーっと、ずーっと一緒にいようねぇ?」
カカシ先生も赤ちゃんみたいに縋ってくる。凄く眠たそう。このまま寝ちゃうのかな?
「ナルト、大好きだよー…」
「………」
オレとカカシ先生の最近の関係はこんな感じだ。カカシ先生はオレに依存している。オレはそれを許している。だから、オレたちは任務さえなければ、朝も昼も夜も、いつも一緒にいた。
「ずっと一緒にいようねぇ…?」
「………」
――本当に。カカシ先生はバカだってば。
〝ずっと一緒にいたい〟
永遠なんてあるわけないのに。オレたちは忍なんだってばよ?明日。カカシ先生は任務で死んじゃうかもしれないのに。もし今、木の葉で暴動が起きたら、九尾であるオレなんて、真っ先に血祭りにあげられるのに。
馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿。能天気。お気楽者。楽天家。そんなこと、無理だって、冷酷な世界を見て来たカカシ先生が1番よく知ってるはずなのに。
オレ、知ってるんだ。カカシ先生の大事な人がもうこの世に1人もいないこと。皆、カカシ先生を置いて死んでしまったこと。カカシ先生に失うものなんてもう何もないってこと。
ひとりぼっちになったカカシ先生は何を考えたかな。きっと、今までカカシ先生がベッドを共にした女の人の数の分、カカシ先生は寂しかったんだと思う。オレのことも含めて、寂しかった分だけカカシ先生は無意識に人の肌の温もりを求めた。
なんて可哀相なカカシ先生。だから、カカシ先生は大人になっても恋の仕方すら知らなかった。未だに、オレとの接し方もこんなにもぎこちなくぶきっちょで齟齬を生む。
嫌われ者のオレだって、まともな人間関係を築いてきた方ではない。だからオレたちの関係は、螺子が外れ、壊れた時計の長針と短針のよう。
「ナルト。オレから逃げないでね。逃がさないし、許さないよ?」
「……うん」
「大好き…。だからずっと傍にいて」
だけど、なぜだろうか。オレの膝の上で胎児のように丸まるカカシ先生の寝顔を見ていると、オレってば、もう少しだけカカシ先生の傍に居たいと思ってしまうのだ。
2人は幸せに暮らしましたとさ。