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空気猫

空気猫

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もしも家族!







子供の無邪気な手によって、ごわしゃーと犬用の皿に銀髪の頭が埋まった。くらりと全身の血の気が引くのを感じたカカシではあるが、しかし意識を飛ばしたところで目の前の現実が覆ることはない。
子供の乱暴な手付きによって犬用の皿にぐいぐいと頭を押さえ付けられているのは、カカシの姿形を模したボロボロの人形だ。いったいどうしてこんなことになったのか、はたけカカシは呆然として自分の部屋の中央付近に我がもの顔でいる摩訶不思議な物体を、5メートルほど離れた部屋の隅っこで恐ろしげに眺めていた。〝ソレ〟は先程まで物ごころ付いてから初めて来たカカシの部屋を珍しげに眺めていたのだが、その生物特有の順応の早さで、あっという間にカカシの部屋を占拠すると小さな暴君となり君臨したのであった。
(恨みますよ、センセイ…)
同盟国の視察任務と銘打った遅まきの新婚旅行に出かけた火影夫妻は、あろうことかまだよちよち歩きの我が子を弟子の元において行った。そんなわけで上忍寮はたけカカシの部屋は今現在、子供という名の悪魔に侵略されている。
「かーしくん」
残酷な方法でお気に入りの人形に食事を与え終えた子供は、ニシシーと笑ってカカシの元へと戻って来た。その手に持っているのは絵本だった。
「何、おまえ。もう絵本読めるようになったの。おいちょっと聞いてる?」
「あうー」
何故かわざわざカカシの横に座った子供は、じぃーと見開きのページを凝視していたと思えばニシシと口を吊り上げて、一言。
「かーしくん」
「はい?」
指差された絵本のページに描かれていたのは、灰色の鼠。どうやらこの絵本に登場するキャラクターのようだ。カカシは険しい顔で、灰色と赤い目の(何故か絵本の中の鼠も赤目のオッドアイである)鼠をマジマジと見降ろすともしやこれは自分のことを言っているのかという結論に辿り着いた。まぁ、クレヨンを主線とした灰色のソレは百歩ほど譲ってカカシの特徴を兼ね備えていなくもないが、カカシは苦い兵糧丸を噛み潰したかのような面持ちで項垂れた。
「かーしくん!」
「ちがーうよ」
「かーしくん!」
どうやら師の子供はまだ文字が読めないようで、ページをめくるたびに灰色鼠を見つけては「かーしくん」と指差している。
根が変に真面目な性格なのでこういうことは正確に言っておきたい。だが、カカシがいちいち訂正を入れるのがおかしいのか、子供はいっそう面白がって「かーしくん」と繰り返している。現役暗部の子守りなど、普通のお子様であったら大泣きしてしまう場面だろう。暗部の人間には隠し切れない独特の威圧感があるもので、普通の子供は暗部の人間が纏う〝死の匂い〟に怯えるものだ。しかしこのお子様ときたら素っ気ないカカシの態度もなんのその生来の豪胆さからか、はたまた乳飲み子の頃から血臭漂う任務帰りのカカシと接してきたためか泣き出すことも怯えることもない。
むしろ、定期的にぎゅっぎゅっとカカシの手を握ってくる小さな指の感触にカカシは戸惑いを覚える。
そういえば一度も絵本を読めとせがまれなかったな、とカカシは首を捻った。この子供の性格と年齢を考えるとてっきり大人に読んで欲しいと言いそうなものだが、お子様の取った行動はカカシの横で大好きな絵本を読むという行為。オレに「読んであげた」とか。はは、まさかねぇ…?
「カカシ、プリン買ってきた。それと菓子とジュースありったけと今夜のオレたちの酒とつまみ。頼まれてたちびっこのお泊りセット一式もちゃんと持って来たぞー」
元チームメイトがサンダルを蹴散らかしながら来た時、正直ほっとした。これ以上この子供と二人っきりはなんだか気まずいし、なによりてきぱきとした空気の彼は現在アカデミーの教師をしており、自分の何倍も子供の扱いに慣れている。
「よぉーちびっこ。元気にしてたかぁ。オビト兄ちゃんだぞ!」
うちはオビトは場の空気を変える不思議な男だ。その証拠にお子様は新たに現れた青年に興味を惹かれた様子でほへえと見上げてる。生粋の子供好きとはオビトのような奴のことを言うのだろう。オビトは慣れた動作で子供の目線まで屈みこむとわしゃわしゃと子供のひよこ頭を掻き回している。
「………」
カカシは子供の体温が去った空間を無言で見つめる。銀髪の箒頭が少し傾いだ。
「ナルト。オレの名前、ちゃんと言えるようになったか。オ、ビ、ト。いいか、オビト兄ちゃんだぞ。ちゃんと覚えるよーにこれ重要!」
「? かーしくん?かーしくんあっちってばよ?」
「ちがうって。オレはオ ビ ト」
「かーしくん?」
こて、と指をしゃぶりながら首を傾げる子供にうちはオビトはガックリと肩を落とし、「ま、いいか…」と碧いまなこの目の前に買い出しのビニール袋を差し出した。
「きゃーーー!!」
ビニール袋の中に所狭しと詰め込まれた大量の果汁ジュースを前に子供の歓喜の悲鳴があがる。そういえば子供の父親である師も酒よりジュースを好むお子様口の人だった(親子とはおかしなところばかり似るものだ)とカカシは一人ごちた。ジュース缶を前にした子供はそれはそれはご機嫌だった。カカシはぼんやりとその横顔を眺めると、元チームメイトの名前を呼んだ。
「あー、オビト。あとはおまえに任せた。こいつ、誰にでも懐くから、適当に相手しといてよ。オレはもうパスね」
そう、何もこのお子様の周りにいる大人は自分だけではないのだ。それこそ師の家には入れ換わり立ち替わり人が訪れる。カカシはその大勢の中のひとりに過ぎず、人見知りのないあの子供はきっと誰でも笑顔で迎え入れるのだろう。オビトがきたのだ、これで自分はお役御免だ。というのはいいわけで、自分の時よりも子供が無邪気に笑っているような気がしてしまうから、自己嫌悪に陥っただけだ。もそりもそりとポーチからクナイを取り出して、うん、やっぱり子供の相手をしているよりこっちのほうが落ち着く…と、背中を丸めてクナイを研いでいると、どしんと背中に小さな塊が突進した。
「え……」
「かーーーしくん」
ぴとっと背後に子供の体温を感じて、カカシはくないを研ぐ手を止めた。
「おーい、ナルト。兄ちゃんと遊ぼう。なっ、カカシはいま刃物持ってるから危ないぞ」
オビトがぶんぶんと手を振っている。しかし、ひよこ頭の子供は碧いまなこで真っ直ぐとカカシを見上げると、あい!とカカシの鼻先にアルミ缶を差し出した。
「かーしくん。これあげるってば。おれんじじゅーす。これってばかーしくんだいしゅきでしょー」
「は…」
おれんじじゅーすって、おまえ。というか、なんでそんなに一生懸命な顔なの。呆然と固まるカカシの背後で、「いや、それオレの買ってきたジュースなんだけどなー」とオビトが苦笑している声が聞こえる。
「それは…おまえの好きなものでしょ」
「う?」
わからない、というようにこてんと首を傾げたお子様は大好きなジュースとカカシを見比べたあと、両手を差し出した。
「これ、あげるってば!おれんじじゅーす!」
「………」
「これ、かーしくんだいしゅきでしょ。かーしくんにあげるってばよ」
一生懸命伸ばされた腕があまりにも真っ直ぐで、この屈託ない手に逆らうすべをカカシは知らなかった。
いつの間にかカカシはお子様用の甘味飲料を握っていた。
「それってばかーしくんおれんじじゅーす」
「………」
「かーしくんよかったってばねー」
「………」
「かーしくん?」
「…うん」
うんってなんだ、おまえはいったい何歳だ?何歳児相手に「うん」だなんて子供のようになんの芸もなく頷いてるんだ。
「これ、かーしくんの。あい、これもってば。おれんじあじに、りんごじあじ、もものあじ、いっぱいってばよー」
カカシが受け取ったことに気を良くしたのかお子様は嬉々とした様子で、カカシの周りに色とりどりの缶ジュースを並べていく。
「いや、おまえ、の、飲む分なくなるデショ…ていうかいっぺんにこんなに飲めないからね?」
「う?」
「ほら、これ…おまえの…ね。落とすなよ?ちゃんと持てよ?」
「おう。ありがとうってば!」
いや、おまえがくれたものだからね、とツッコミをいれつつゆるゆると肩から力が抜けていくのを感じた。カカシは元チームメイトの横に立つと盛大なため息を吐いた。
「こいつ、人間の趣味悪過ぎないか。普通にどう見てもガキが懐くならおまえデショ」
「いや、オレはひっじょーに面白かった」
「なんでだよ…」
半眼で元チームメイトを睨むと、彼は悪戯がバレた子供のように肩を竦めた。
「ところでカカシ。同期でナルトに名前覚えられてるの、おまえだけって気付いてたか?」
「………」
ニヤついている元チームメイトから顔を反らすと、くいくいと忍服の足を引っ張るお子様と目が合った。
「かーしくん、おれんじじゅーす飲もうってばよ」
「……1日、1缶までだぞ」
厳しく言うと、「おう!」と元気な返事が返ってきて、足元にぎゅうぎゅうと小さな生き物が巻き付いてくる。
「参った。懐かれた…」
「でも、けっこう可愛いと思ってるんだろ」
カカシが「絶句」して黙ったので、うちはオビトはこれ以上ないほど爆笑した。

















 
オビト先生は生徒に「先生、廊下を走っちゃ駄目なんだー」と言われる人気者の先生になるだろうと信じてます。
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空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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