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空気猫

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絵本調の世界です。





メランコリニスタ シンドローム


お散歩、お散歩。楽しいな。木の葉の里を出て、草原を超えて、一番星が見える丘に登る。
シナモン、チョコレイト、レモンキャンディ、ソーダ水、バニラアイスクリーム、そうそうショートケーキも忘れずに。バスケットにたくさん詰めて、二人で大きなリュックサック背負って、カカシセンセーには苦い、苦いコーヒーなんて…おまえは用意してくれるのかな?
「カカシ先生?」
「んー…」
「起きてってば。カカシ先生」
「修行、終わったの?」
「今、終わったってば」
「それでは先生と一緒に帰りましょ~か?」

「おう!」
手を握って、二人で帰る帰り道。オレの中ではデートなんだけど、おまえはどうかな。
オレの一歩は、おまえの二歩半で、子供の息が切れないように、小さな歩幅に合わせて歩く。しあわせってこういう時間を言うのかもしれない。
「今日は一楽に寄って行きますか」
「やったー!」
「お代りは二杯までな」
「カカシ先生のケチ」
「おまえ。食べ過ぎると、おなか壊すでしょ」
そんなことねぇもん、とムクれた顔で足にじゃれつく子供。オレの腰元までしかないんだよね。下忍選定で合格にさせた、初めての教え子。黒色、桃色、金色。悲劇の一族の復讐者に、裏になーんか別の人格を隠してそうな女の子に、最後は里の嫌われ者。一癖も二癖もありそうな、子供たち。だけど、その中でもオレの格別のお気に入りは金色のこの子。
ドベ? なにを言ってるの。おまえたちの目は節穴なんじゃなぁい?この子は伸びるよ。オレが保障する。今にキラキラ輝いて、雛が卵から孵化するように、身も心も美しく成長するだろう。あ、もちろん今でも十分に可愛いんだけどさ。
「なー、なー、カカシ先生。夕日ってどうして赤いんだろうな!」
「うーん、どうしてだろうねぇ……?」
「えー、カカシ先生も知らねえの」
「大人にもわからないことがあるものなの。ナルトはなんでだと思う?」
「うーん、うーん。あ、そうだ。真っ赤なトマトが熟して落ちちゃうから!」
「そういう答えもいいよねぇ」
「んだよ、それ。実はカカシ先生どうしてか知ってるだろ」
「教科書に載ってることだけ答えてもつまらないでしょ。第一、ロマンチックじゃない」
「カカシ先生って、教師のくせに変なの!」
ニシシ、と例の笑い声が漏れて、ナルトの歩くステップが弾む。
今日はどうしたの。随分とご機嫌だねぇ。
オレと一緒に帰るのが、嬉しいとかだったりして。どうかな。
繋いだ手がやけにあったかい。自惚れてしまいそうになるよ。
オレとおまえの間には、縁も所縁もあるのだけど、運命だとか、必然だとか、そんなことを抜きにしても誰よりも大切な子。生徒としてじゃないよ。まだ、この子には秘密だけど。

「あ、ナルト」
「なーに?」
「先生、今決めました。今日は冷蔵庫チェックしに行きます。牛乳腐らせてたら腕立て30回」
「えーーー!」
「野菜も減ってなかったら、おしおきだからなー」
「うげ」
「あらら、ナルト。その顔はなーに」
「野菜はノーセンキュー!」
「よーし。そういう態度を取るか、こちょこちょの刑…」
「ふぎゃー、カカシ先生ってばセクハラーっ」
この子に近付く口実はたくさんある。寂しがり屋の強がり虫。そのうえ、誰かの体温には飢えているときた。オレの人肌で良ければ温めてあげたいんだけど、今のおまえに言ったら火影岩の向こう側まで逃げて行きそう。――ひとりぼっちの子は悪い大人に攫われても知らないよ? なんて、オレの願望です。
ナルトとふざけていると里人がざわめいた。いつの間にかひと気のある場所まで辿りついていたらしい。陰口、悪口、冷たい目。見えない無数の棘。痛いよね、心が。
途端にナルトの表情に影が差す。
「あのさ、カカシ先生。オレたち、ちょっと離れて歩こう?」
「なんで?」
「どうしても」
「えー……。それはいやだなあ」
別にこんな奴等、蹴散らしてもいいんだけど、おまえの精一杯の強がりがあんまりにも意地らしいから愚鈍な大人に甘んじてあげる。だけど手は離さないよ。我儘な大人でごめーんね?
「……カカシせんせぇ」
こら、こんなとこで舌っ足らずな可愛いお願いの仕方を使わないで。おねだりなら、もっと別の場面されてみたいもんでしょ。男なら。
「ナルトぉ」
思わず情けない声が出た。そして、「なんだってば」と小首をかしげてくれる、可愛い子。
「もしもの話なんだけど聞いてくれる?」
「?」
ナルトと手を繋ぎながら、茨道のような商店街を歩く。通行人がオレたちのこと、避けてくれるのは有り難いんだけど、ねえオレが手を繋いでるこの子は人間ですよ?それも格別可愛い子供なんです。なんて、オレがいくら騒いだところで、憎しみで心がいっぱいの聾唖者の集団には聞こえないのかな。
「先生、今考えたんだけど」
――ねぇ、ナルト。おまえの哀しい所作を見てしまうたびに、ナルトにとってのしあわせって何かなって先生、考えちゃうんだ。
「もし、おまえがどうしてもこの場所で我慢出来なくなったら、オレと一緒にしあわせな国に行こうか」
「っ?」

「世界は広いよ。木の葉以外にも大きな街や都市はたくさんある。そこでいつまでもいつまでもしあわせに暮らそう。毎日、甘いお菓子をいっぱい食べてさ」
ああ、菓子類を使って子供を釣るなんて、これでは本当に誘拐犯の台詞だ。そういえば、昔一回だけまだ赤ん坊だったナルトを連れて、里を抜けようとしたことがあったけ。
あの時は、火影さまの差し向けた暗部に捕まって、オレたちの逃避行は呆気なく終了したが、もしもあの時、あの逃走が成功していたらどうなっていただろう。ナルトは、理不尽な暴力も罵倒も浴びることなく、平和に暮らせていただろうか。オレは、オレの手で育てたナルトと一般人のように生活し、オレ以外の男を知らないナルトと恋人同士なんて関係になれていただろうか。毎日、一緒に寝起きして、おはようのちゅーとかしちゃったりしてさ。…はは、若い若い。苦い、苦い。

「カカシ先生」
夢想家なオレに呆れてか、ナルトは、ぽっかり口を開けてオレを見上げている。その意外性ナンバーワンの頭で何を考えてるの?
もし、オレが里を抜けるって言ったらおまえはついて来てくれるかな。ズルい大人が言葉巧みにお願いしたら優しいおまえはどうするかな。
「そんなこと考えちゃだめだってば」
あらら、怒られちゃった。真ん丸いほっぺがぷっくりと膨らんでいる。誰かに聞かれたら大騒ぎになってしまいそうなとんでもないことを。口に出したつもりはないけど、オレの考えが読めたとか?
「どうして。ナルト?」
「変なカカシ先生。オレ、この里が好きだもん。そりゃ井の中の蛙かも知れねえけど、オレは木の葉で生きていたい。そんで火影になって見せるんだってば」
ありゃま。そう来るか。おまえの夢だもんねえ、火影を超えるだっけ。だけど、こんな里のどこがいいの。おまえに冷たいだけの世界じゃない。だって。だって、だってさ―――。
「また狐が叶いもしない夢を見ているよ」
「なんてバカな子供なんだろう」
〝火影になる〟というナルトの声が聞こえたのだろうか。クスクスと周囲から笑い声が起きた。ああ、ナルト。そんなに唇を噛んじゃ駄目だよ。血が出ちゃうでしょ。

「どうしてなんだろう」
「んー…?」
「どうして、オレが、火影になるって言うと、みんな笑うんだろう。〝ドべ〟のオレのは無理だってバカにするんだろう。どうして、やる前からダメだって決め付けるんだってば。挑戦することをなんで笑うんだってば、夢に向かって努力することは自由だろ…!」
「……ナルト」
おまえのその怒りに震える小さな身体を抱き締めたくなる。それくらい許されるかな。
弱いオレが強いおまえをきちんと抱き締めれるかな。
「オレはおまえの夢を笑わないよ」
「ありがとう…、カカシ先生」
握った手、強くする。オレのこの気持ちがおまえに伝わればいい。
「カカシ先生。オレってばゼッテー負けねえ。オレな、人が、オレの夢を笑うたびに〝あぁ、自分の夢は素晴らしいんだ〟って誇りに思うんだ。オレってば、素晴らしい夢ほど、人に言ったら笑われるもんだと思う。バカにしたい奴等はバカにすればいいんだ。オレは夢に向かって走るから」
おまえ、そのちっちゃい口でエラそうなこと言うねえ。
だけど、なんでだろう。とても眩しいよ。
「だからね、カカシ先生。オレはこれからここで、自分の夢が素晴らしいものだって証明してみせる。カカシ先生にはさ、オレが夢を叶えるのを傍で見ていて欲しいってば」
「オレに…?」
「そう。だって、オレってばカカシ先生の驚いた顔、いっぺんも見たことないんだもん。一回、その眠そうな目を見開かせて見せるってば」
おまえといると、オレまで百面相になった気分になるんだけどなぁ。まぁ、いいか。オレはナルトと手を繋いで、トゲトゲの視線でいっぱいの商店街を歩いた。


お散歩、お散歩。ナルトとお散歩。楽しいな。
この里がおまえにとって、メランコリーの国であっても、
今はまだ、おまえがここに居たいというなら、
つまりおまえがここで忍者したいっていうなら、
演習場から、おまえの家に続く道の間で、
お散歩、お散歩。ナルトとお散歩。楽しいな。 また明日。





 

 








メランコリー=憂鬱
クレイジーガーデンさまお疲れさまでした☆
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空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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