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空気猫

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神さま、勝てる気がしません

七班の担当上忍は変っている。まず第一に、教師のくせに時間を守らない。時間厳守の忍びの世界でこれは破格の事。河に落ちた犬を助けたり、おばあちゃんの荷物を持ってあげたり、果ては人生という名の道に迷ったり、なぜ彼の通り道には厄介事ばかり転がっているのか。
ちなみに今日の遅刻の理由は、
「産気づいた妊婦さんに付き添っていてな」
というものだった。毎朝、毎朝、ご苦労なことである。いつもの如く「はい、うそ!」と声を揃えたサクラとナルト。「チッ」と舌打ちしたのはサスケ。しかし、恒例行事になりつつあるそれを終えるとナルトはとてとてとカカシの元に駆け寄っていき、大人の服の裾を控え目に掴み、引いた。
「んで、妊婦さんは平気だったってば…?」
条件反射で、「はい、うそ!」とサクラとコーラスしていたものの純粋培養のお子さまはしっかり騙されていたようで、ちっちゃな手にくいくいと引かれ上目遣いに見上げられた大人の表情は周囲も憚らないくらいだらしなくやに下がった。それに瞬間沸騰したのはサクラである。
「ナルト。騙されてるんじゃないわよ、嘘に決まってるじゃない!」
「うぇ、サ、サクラちゃん?」
サクラのあまりの剣幕にたじろぐナルト。そーだけどさ、とごにゅごにょ口の中で呟いたが「だって本当だったら大変じゃん」おなかのあたりで指を弄びつつぽそりと言ったが瞬間、「ナルト、かわいいっ」身体を小刻みに震わせて、がば!と抱きつく上司兼変態が一名。
「ぎにゃぁああ!!!!」と悲鳴をあげたのはナルト。頬を引き攣らせたのはサクラ。それまでむっつりと黙り込んでいた黒髪のチームメイトが担当上忍に向かってクナイを投げつけたのは言うまでもない。
「カカシ先生、もうちょっと言いわけにおりじなりてぃー持てってば!」
木々に刺さる無数のクナイ。火遁使用によって出来たこげ跡。上忍一名と下忍一名の戦闘で被災地となった演習場の真ん中で、ぷんすかと腹を立てる金髪碧眼のお子さま。言い訳の常套句にあっさり引っ掛かった彼ではあるが、元アカデミーのいたずらっことしてはカカシのやる気のないウソがどうにもお気に召さないらしい。不満顔のナルトにすかさず「あんたねぇ。そういう問題じゃないでしょ」とサクラのツッコミが飛ぶ。サスケといえば少し離れたところで、カカシに突っ掛るナルトを面白くなさそうな顔で見ていた。
「ナルトが毎朝起こしてくれるんならセンセーちゃんと起きるんだけどな~」
「はい、嘘ー!」
コンマ一秒で入るツッコミ。それも満面の笑顔で、である。これは本気なんだけどな~と後頭部をのんびり掻く大人は、がっくりするやらなんなやらで、そのまま子供の頭に手を置き、くしゃくしゃ掻き混ぜ、柔らかい金糸に指を絡ませていると、
「おい、ドベ。いつまでもカカシと無駄話してるんじゃねぇぞ!」
「なんだとー。無駄話なんかじゃねってば。サスケ、その喧嘩買ったってば。いざ、じんじょーに勝負、勝負―!」
むきー!と腕を振り上げてサスケに跳び掛っていくナルト。するりとをすり抜けた金色。大人は、いなくなった温もりに、手をわきわきさせつつ佇んだ。その場に残ったのはカカシとサクラで。
「…カカシ先生、それ以上は犯罪ですよ」
ぼそりと呟いた七班の紅一点をカカシはあららと見下ろす。
「さすがは、女の子。色恋沙汰には敏感なのかな?」
「モロバレじゃないですか。隠す気がないのによく言えたものですね」
それにサスケくんは私より早くに勘付いてたみたいですし?取っ組み合いを始めているサスケナルトの喧騒をものともせず、生温い笑みを交わす大人と少女。
「カカシ先生、言っておきますけど私たちはまだこど…――、」
「サクラ。センセーは愛に年齢なんて関係ないと思うぞ~」
「カカシ先生が言っても真実味がありません」
むしろ如何わしい意味にしか聞こえないのはどうしてだろうか。にこり、サクラが笑えば、カカシも片目だけしか晒していない右目を、にこり。
「カカシ先生、次の演習で二時間以上遅刻したらナルトに色街で出回っているカカシ先生の噂教えてもいいですか?」
「やだな~、サクラ。そんな昔の話を引っ張り出して。センセー今はナ・ル・ト・一・筋・だ・よ。貞操の堅いオトコに生まれ変わったんだよ~」
「12歳の男の子に貞操の危機を感じるんですけど?」
両者の間でなんとも薄ら恐ろしい空気が漂い、張り詰めた糸が臨界点を突破しようとした時、「カカシせんせってばぁああ!」カカシの背中にどーん!と金色の塊りがぶつかる。サクラは「あー…もう」と額に手を当てた。
「なーると、なにやってんのおまえ。びっくりするデショ」
あからさまにニコニコする大人。子供の腕が弾みではあるが自身の腰に回されていたからである。こんの変態!!内なるサクラが炸裂するも、傍目には教師と生徒のスキンシップで許容される範囲なので一応スルー。
「いてて。だってサスケのくせに生意気なんだってば!」
どうやらナルトはサスケに蹴り飛ばされたらしい。若干涙目になったお子さまは間髪入れずライバルのチームメイトに跳び掛かって行こうとしたが、
「ううう~?」
大人の腹の前で両腕を結ばれたためそれが敵わない。
「カカシ先生、離してってば。今日こそはサスケの奴を伸してやるんだってばよ!」
ギャーギャー騒ぎ出すナルトに「こーら、待ちなさい?」カカシの制止が掛かる。なんだってば!?と見上げる眼に苦笑して。ぽふと大人の手がナルトの頭に乗る。
「ナルト、おまえ無駄な動きが多すぎ。ついでに初動パターンがわかり易すぎ。がむしゃらに突っ込むだけじゃなくてフェイントかけることも覚えなさい?」
そのまま猫背気味の体躯を折ったカカシは身の丈の低い子供に耳打ちをする。
「サスケは小器用だけどおまえほどスタミナがないんだから、肉弾戦ならおまえのほうが断然有利なんだぞ?よく考えてから行動しなさい。ほら、行ってごらん?」
こそと告げられた内容。口布越しの吐息が耳元をくすぐり、離れる。見上げれば、ぼんやりとした顔の銀髪上司。その顔が少しだけ照れているように見えるのは気のせいか。カカシがナルトにアドバイスをくれたことは明白で、些細なことなんだけど、嬉しい。ニーッとナルトの顔に笑みが広がる。
「ま、喧嘩もまた修行なり」
照れ隠しのように、ぽんと背中を押され、ナルトの足が地面を蹴った。「サスケー、覚悟だってば!」珍しく上司らしいことをして掛けていくナルトを見送ったカカシだったが、走り出した子供がピタと振り返った。木漏れ日の中で金色の髪が煌く。
「さんきゅってば。カカシせんせー大好きぃ!」
にか!と太陽の笑み。そのまま、ぱたぱたと掛けていく少年。その場に残ったのはやっぱりカカシとサクラで、先に口を開いたのは一連のやりとりを傍観していたサクラだった。
「もう、カカシ先生たら。大っぴらにセクハラするのやめてください。上に言いつけますよ?いいですか、教師として最低限のマナーは守ってもらわないと」
「……………」
「カカシ先生?」
「……………」
「ちょっと聞いてますか?」
傍らの大人についと視線を向ければ、「――カ、カカシせん、せい???」そこにいたのは顔を真っ赤にさせた大人で、サクラは思わずぎょっと目を見開く。銀髪の上司は、口布の辺りを手で覆い、耳朶まで赤くさせていた。
「~~~~っっ」
「――ちょ、カカシ先生、大丈夫ですか」
「あー…サクラ?」
「はい?」
「今はヤバい。ヤバいから見るな」
参った、というように後頭部に手を当てて蹲る大人。これがあの上忍のはたけカカシなのだろうかと呆れてしまうような動揺っぷり。今なら木の葉にこの人ありと謳われたエリート上忍を抹殺できるのではないのか?あるいは世の中のために実行するべきかともこっそり思ってしまったりして、はからずもサクラの拳に力が入る。幸いにして雀の涙ほど残っていた教師への恩情で踏み止まったが
「あー、はいはい。あっち向いてればいいんですか?」
しばらく逡巡したあとサクラは、26歳の大人の居た堪れないその姿に免じて、これからは少しばかりのセクハラ行為なら目を瞑ってあげようかしらと思った。一方、はたけカカシと言えば。
「っとに――意外性№1にもほどがあるデショ。なにあの子。なにあのかわいさ」
反則デショ。と激しく悶え中。
「サクラァ」
「なんですか」
「あいつ、忍としての才能あるかもね?とんでもないフェイント仕掛けてくるよ」
上忍の、それもはたけカカシの不意をつくお子さま。
「センセー、ほっんとあいつには勝てる気がしない」
「惚れた弱味ですね」
ご愁傷様です。あっさりと言い放った少女に、オレの心臓考えてよ、とがっくりうなだれる上忍。バクバクと未だ脈打つ左胸。
相手の隙をつくこと。それは忍にとって重要な要素だ。予想も付かない行動をする意外性№1のどたばた忍者はある意味、忍としての素質があるのかもしれない。ちなみにカカシに向けた笑顔をちらみしたサスケ少年はナルトの頭突きを見事喰らったらしい。
空を振り仰ぐと、ぷかぷかとのんきに浮かぶ雲。銀髪上忍は空の上で傍観者たる立場を気取っているどっかの誰かに向かって何事か文句を呟いた。果たしてその陳情が汲まれる日は来るのか。それは、はたけカカシ本人にも、そして全ての鍵を握っているかもしれないうずまきナルトにもわからない。そんな晴天午後も近い時分のことであった。








  
 
 
 
 
 
 
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空気猫取扱説明書概要
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自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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