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空気猫

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コーヒーと煙草の匂いのする店内でふわりと香ったヒヤシンスの香水。鼻の利くカカシはこの店では珍しい上品な客に上体を起こした。カカシが顎だけ乗っけて突っ伏していたのは客席側のカウンター。髪の長いフレアスカートの女性がカカシの座っている丸椅子の隣に腰掛けた。
大人っぽい女性なんて見慣れているはずなのに、カカシはなんとなく気不味くなって視線を逸らした。
「コーヒー、貰えるかしら?」
たっぷりとした毛質の夕日のように赤い髪。元の素材の良さを引き立てるだけの薄化粧。
何よりこの店の店主である男と女性の間に漂っている他者の介入を許さない親密な雰囲気にカカシは声を出すことを忘れた。夕焼け色の髪の女性は店主の大人と一言二言言葉を交わし、コーヒーを一杯だけ飲むと出て行った。
「―――ちょ…先生あの女の人のお代」
「いいんだよ、あの人はこの店では永遠にコーヒーの代金を払わなくてもいい特別な人だから」
サイフォンに視線を落とした大人にカカシは「オレは不機嫌になりました」という顔でぶすむくれたのだけど。
カカシが彼の息子である「うずまきナルト」に会いに行ったのはそれから約三日後。





真昼間の公園。
「やだってばぁ!!」
その日、カカシは仔犬用の餌を近所のコンビニで買い求め少しだけ公園に到着する時間が遅れた。
いつもどおり動物を模った遊具を横切り公園に足を踏み入れると、聞き慣れた子供の叫び声が聞こえて、カカシはコンマ一秒で走り出した。
公衆トイレの横、ちょうど公園の死角になっている場所に駆けつければ、巨漢の男とナルトの姿。
「………っ!?」
でっぷりとした腹の男に手を握られているナルトの姿を見て、カカシの全身が総毛立つ。
「てめ……っ」
地面を蹴り殺気を出したカカシを見て、男が急いだように逃げて行く。
すぐに肥満の男を追い掛けようとしたカカシだが、「ねずみ……」と震えた声で呼ばれて、足を止める。公衆便所の横で、ナルトが蒼褪めた顔でカカシを見上げていた。
「―――ナルト……っ」
カカシは呆然とした顔で立ち尽くすナルトを抱き上げる。外傷はない。衣服の乱れも。
「ねじゅみ……っ」
「どうした、何があった…。何もされなかったか!?」
「………ふぇ」
カカシの詰問に腕の中の子供がびくんと肩を竦めた。しまった。ナルトを怒ってどうするんだ。自分が冷静にならないでどうすると、カカシは己を叱咤する。
「…ごめん。何があったかゆっくり話してごらん?オレに聞かせて?」
抱っこした背中を撫でながら優しく訊ねれば、碧玉が恐る恐るカカシに向かって上げられる。
「砂場で遊んでたら、さっきの太っちょの兄ちゃんが来て……」
「うん」
「無理矢理、手ぇ引っ張られてここまで連れて来られたの」
「うん…。びっくりしたね?それで?」
「いつまでも手ぇ離してくれねぇし、ハァハァ息遣いはうるせぇし、オレってばなんかおかしいなって思って、逃げようとしたんだってば」
確かにナルトは、カカシの目から見ても恐ろしく愛らしい顔をしている。金髪碧眼に、ぷっくりと膨らんだ赤い唇。丸い頬。日に余り焼けてない色素の薄い肌。その手の趣味を人間には堪らない外見をしていそうだ。
「あの人がへんしつしゃだってば?」
こてんと首が傾げられる。
「―――怖かったでしょ、ナルト。もう大丈夫だからね」
「………」
「……ナルト?」
「………」
バカだね。小刻みに震えながらもきゅうと首に巻き付いて来る小さな子供の頭を撫でて、カカシは男の消えて行った方角を眺め眉根を寄せた。



カカシはすっかり二人の定位置になった公園のベンチに腰掛けた。カカシの膝の上にナルトが向かい合ってちょこんと坐っている。
「いいかい、ナルト。今度、あいつに会ったら大声で叫ぶんだよ」
「………」
「ナールト、お返事は?」
「………大声で叫んだらねずみが来てくれるってば?」
ああ、この子は本当にもう。
「うん、おまえが危ない目にあったらいつでも助けに来てあげる」
「本当?」
「ああ、おまえが泣いていたらいつでも駆け付けてあげる」
「ねずみ、大好き!」
きゃらっとナルトが笑い声を上げる。先程までの怯えはどこへやら、無邪気な子供に愛おしさが募る。
「だけど、ナルト。危ない一人で遊ばない方がいい。また狙われるかもしれないよ。オレが来る前におまえが危ない目にあったら、オレは哀しいよ」
「………」
「なるべく他の子と一緒に…、」
いたほうがいいと、そこまで言い掛けてナルトの顔が暗くなっているのに気が付いて、はぁとカカシはため息を吐く。
「オレってば灰色ねずみの兄ちゃんがいればいいもん」
ナルトは、ぺとっとほっぺたをカカシの腹部に密着させて気持ち良さそうに目を細めた。子供たちから背を向けるような発言。同年代の友達はいたほうが良いに決まっている。
だけど、自分だけがいてくれればいいと言って懐く子供が愛しくないはずがない。それが間違った思考であっても今のカカシにそれを咎める強さはなかった。
「――――じゃあ、オレと一緒に来る?」
「う?」
「おまえ、オレだけのモノになっちゃう?」
「ねじゅみのもの?」
不思議そうにナルトの瞳が見開かれる。その碧玉が余りに澄んでいたので、カカシは次に言おうとした言葉を飲み込んだ。
「……なーんでもないよ」
「うぅ?」
「………」
もし、今この子を自分が連れ去ったらどうなるだろう。ナルトが今の家で大切にされていないと言うなら、オレがもらってもいいのだろうか。だってオレにはこの子がこんなにも必要だ。そしてナルトもまたオレを必要と…してくれてるだろ?折檻を受け、こんな公園で孤独にいるより自分のマンションで暮らした方が数倍幸せなのではないか。アスマにはまぁ適当に説明して、反対されたら今住んでいるとこを出てもいい。追って来る警察から隠れ逃れてカカシとナルトだけ二人っきりで生活をする。倫理に反してるなんてどうでもいいことだ。
朝飯だってこいつのためなら作ってやれる。目覚める楽しみがあるなら早起きだって出来る気がした。
きちんと週五日間働き、休日は一日中ナルトと一緒に過ごす。夜はお風呂から上がったら風邪を引かないように柔らかいタオルで髪の毛を優しく拭いてやろう。女とも全部縁を切る。人肌を恋しがることも、この子供の温もりさえあれば、なんの問題もない。ナルトと一緒のベッドで眠るのだ。だって、子供の体温は他の女より数倍温かい。ナルトとならただ傍にいてくれるだけでよく眠れる気がした。性的な繋がりよりもっと強い絆を築いてみたい…。
朝、目が覚めるとこいつの顔が1番近くにあったらどれだけ幸せな気持ちになるだろうか。
現実問題有り得ない想像をしてカカシは、はっと我に返る。
…何を考えているのだろうか、自分は。本当にこれでは自分が誘拐犯か何かのようではないか。それこそ世間を賑わす幼児愛好者の変態みたいだ。
「……ねずみ?」
ぎゅっとカカシの服を掴んでナルトが見上げて来る。
「さっきから黙ってばっかでつまんね…」
ナルトの頬が子リスのようにぷっくりと膨らむ。こすこす柔らかい頬がカカシの腹部に擦り付けられた。
「おまえ、本当に無防備だね」
「?」
ああ、可愛い。カカシに構って貰えないことにスネている仕草が非常に愛らしい。
この子の瞳は甘い麻薬のようだ。どうしようもなく惹かれている。信じられないことだけど、オレはこの8歳の子に。
「ねずみに突撃だってば!」
両腕を広げて、ナルトがカカシの顎に頭突きをして来る。イテテ、と渾身の一撃に顎を擦りつつカカシは半眼になる。
「おまえねぇ、こんないい男の顔を間近で見れるんだから感謝しなさいよ」
「オレってばそーいう空気はまだわかんねぇトシゴロだってば」
「………。生意気」
カカシはナルトが膝から転がり落ちないように子供の丸こい後頭部を押さえながらおでこを弾いてやった。



ナルトの手を引っ張ってカカシはうずまき家の自宅の前にきていた。
「一応、報告しなきゃマズいでしょ」
結婚の報告…ではなく、ナルトが変質者に襲われたことの報告だ。結局、あのあと仔犬に餌を上げてから、公園から一人で帰すのも心配だったので、カカシが家まで送ることになった。河原で仔犬とじゃれるお子様を土手に座り込みながら眺めて、わりと癒された気分になりながら。
「うわ…。豪邸」
聳え立つ威風堂々とした門構えに野良猫生活の長いカカシは引き腰になる。まるで浮浪者が、大富豪の家の娘さんの家に招かれた気分だ。
「おまえ本当にここ住んでるの……?」
「おう」
「お母さんは…?」
「母ちゃんは入院中だってばよ」
……初耳だ。
「ずっと、病院と家行ったり来たりだってば」
「そ…」
「オレってば寂しくねーよ。いい子で待ってるんだってば」
ニシシと笑った金髪頭をカカシは無言でしゃくしゃと撫ぜてやる。インターホンを押して、お手伝いさんらしき女の人の声がした。
玄関に入り、カカシが中年のお手伝いさんに先程公園であったことを説明していると厳格そうな顔の初老の男性が出て来た。
もしかしてあれが…?カカシはパーカーのフード越しに男性を見つめる。初老の男性は二十歳過ぎくらいの得体の知れない若者を上から下まで一瞥すると、胡散臭そうに顔を顰めた。
「この子が貴方に何か失礼なことでもしましたか?」
まだ一本も白髪がない和服姿の男性から飛び出した第一声にカカシは砂を噛じったような気分になった。
「……いえ、実はこの子が公園で変質者に襲われまして」
届けに上がりました、と言おうとしたカカシの言葉は、信じられないような言葉に打ち消された。
「浮ついた態度でふらふらしておるから、そんなめに遭うんだ」
一瞬、カカシの思考が停止する。冷たい氷がカカシの心臓をそろりと撫でた。
「―――は?」
何言ってるんだ、このジジィは。思わずカカシの口の悪い台詞が出そうになって、だけどあまりのことに唖然とするしかない。
「もっとしゃんとしていればそんなことにはならなかったはずだろう。おかしな行動をしているから、変な人間を引き寄せるのだ」
全てナルトの責任だとこの男は言うのだろうか。まだ8歳の子供だぞ。被害にあったナルトの方を責める、この男の思考がカカシには理解出来なかった。
「まったく何度、叱ればいいのやら…。手の掛かる。これだからイワシの頭の子供は躾が大変だ」
心底、呆れ果てたという口調で、ナルトを見下ろす男。社会的な地位があるかどうか知らないが、この男には人を思いやる言葉を選ぶことが出来ないのだろうか。
カカシとて、それほど他人の心を汲む方ではない。だけどこれほど血の気が引くような言い草をする人間に出会ったのはこれが初めてだった。もっとも恐ろしいことは男が自分は正当なことを言っていると思い込んでいることで、小さな子供が自身の親を罵られどれほど傷付くのか、鈍感なカカシにだって想像出来る。何故、その少しのことを、想像する力がこの男にはないのだろうか。
アンタ、と叫びそうになって、手を繋いでいたナルトの小さな手の平が、きゅっと強くなる。見下ろせば、眉根を寄せた子供がニシシと笑って唇が〝ヘーキ〟と模った。
「……ナルト」
おまえはどこまで強くなる気なのよ。空にまで飛んでいっちゃうつもり?
本当に損する性格。強い子、そしてそれ故になんて哀しい子供。
「この子の心配はしてやらないのですか。貴方のお孫さんでしょう…!?」
背の高い青年とナルトに漂う親密な雰囲気に、初老の男性は腕を組んで顔を顰めた。
「この子と私の血は繋がっておりませんのでな。わざわざこの子を送ってくれて申し訳ありませんが、そろそろお引取り願えますかな。会社を抜けて来ているので急いで戻らなくてはいけなくてね。今日は家人の者が失礼致しました。人様にご迷惑を掛けてしまって本当にお恥ずかしい。この子によく言い聞かせますので」
「オレが言いたいのはそういうことではなく…っ」
「この方に謝礼を」
後ろに控えていたお手伝いの女性から金銭を渡されそうになってカカシはかつんと音を立てて大理石の床を一歩下がる。
「いりません、そういうつもりでこの子を連れてきたわけではありません」
「いえいえ、ほんのお気持ちですから。どうぞ受け取ってください」
初老の男性はおだやかな表情を浮かべたまま微笑む。だけど、その目はまったく笑っていなかった。金だけカカシに渡してそれで済むと思っているのだろうか。吐き気がするような価値観だった。
「こっちに来なさいおまえはどこまで私に迷惑を掛ければ気が済むんだ」
「や……ったい」
〝やだ、痛い〟カカシの手からナルトが引き離される。片手を吊り上げられたナルトの小さい身体が宙に浮いて、引きずられる。碧色の瞳が揺らめいて、カカシを映した。
「……ナルっ」
有難う御座いましたと儀礼的なお礼と共にバタンと閉まった扉。アンティーク調の細工の施された豪奢でいて、堅固な厚い板。ドン、と扉を叩いて、カカシは声にならない嗚咽を漏らす。この扉の向こうであの子が悲鳴すら上げず痛みを堪えているというのなら、きっとこの世界には神も仏もないと思った。











 
 
 
 
 
 
 
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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