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空気猫

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―日常編―
お留守番の時間2






「カァシがいないから好きなことしてても怒られないってば」
カカシが買ってくれた丸椅子を使ってナルトはキッチンの戸棚からお湯を温めるための鍋を出す。ナルトがこの家に来てから、キッチンでナルトの使うものは全てナルトの手の届く高さに置き換えられていた。
「カップラーメン、カップラーメン~♪」
ガタガタと丸椅子を揺らしながら、ナルトが戸棚の一番取りやすい位置の置かれたカップラーメンを取り出す。
「おふりょなんて入らないってば~」
自作の歌を唄ってナルトはご満悦だった。沸騰したお湯を、発泡スチロールの容器に注いで、ナルトは頬杖を付いて大好物の前に自分専用の椅子に着席する。10秒、20秒、30秒……。
「なうとってばこの時間きあーい。カァシ、絵本読んでおはなちちて……」
カップラーメンを前にナルトがぷくりと頬を膨らます。しかし、いつもののんびりとした返事はない。
「あ……」
唇を噛んでナルトは尻尾をしゅんと萎ませる。空を蹴った2本足は、冷たいテーブルの裏に当たった。
「はっくしゅん」
夜。なんとなくカカシの言いつけを守ってお風呂に入ったナルトはシャンプーが目に入ってしまい、涙目になりながら、脱衣所から帰還した。
濡れっぱなしの髪の毛と、水分をたっぷり含んだ耳と尻尾。蒸気した頬としっとり濡れた尻尾から水滴が伝う。床にナルトの歩行路に沿って水溜りが出来た。
「なうとってばつおい狐の男の子なんだってば」
四苦八苦して着替えを済ませ、誰に言い聞かせるわけでもなく、宣言する狐っ子。
「はっくしゅん。おいち…」
ベッドの上でラーメンスナックと玩具を散らかして、ナルトはご満悦だった。傍らにはカカシ人形。部屋の明かりは煌々と付けられたままで、ナルトは、カカシ人形を引きずったまま部屋の中をあちこち移動する。あれほどカカシに、整理整頓するように言われたのに、部屋の中は散らかり放題だった。
「うあっ。」
ナルトは、キッチンから持ってきた牛乳をシーツの上に零してしまった。本当は温めてホットミルクにしたかったのだが、ナルトには牛乳を温める適温がわからない。カカシが、いつもやっていたようにはどうしても出来ないのだ。
「カァシ。零しちゃ…」
予想外の事態にナルトは瞳を潤ませて、誰もいない空間を振り返った。
「あ……」
独り言が、やけに閑散とした部屋の中に響く。ナルトの三角耳が、しおしおと下がった。
「さみゅい…」
ナルトは濡れたままの冷たいシーツに寝転がるとカカシ人形と一緒にベッドの隅っこで丸くなって眠った。抱き抱えてくれる腕がない。背中が寂しくて、いやだった。
「別に一人でお留守番できるもん」
しばらく、まんじりともせず、シーツの中の寝心地の良い場所を探して、そこ、ここと移動する。湿ったシーツとお菓子の屑。なんだか、カカシがお日さまの下で乾かしてくれない布団は、平っぺたくて、全然いい匂いがしない上、ゴワゴワして眠り辛らかった。
ナルトは、カカシの使っていない忍服を箪笥から引っ張り出して来て、それをカカシ人形に着せて、浅い眠りに就いた。



カカシが任務に出て一週間。何度か様子を観に来たアスマを玄関口で追い出して、ナルトは窓の外ばかり見ていた。そして、ちょっとの音で扉の方を振り向く。忍、それも上忍であるはずのカカシが音を立てて帰宅するはずもないのに、ナルトの三角耳は小さな屋鳴りの音でさえも拾ってしまう。
食欲がなかった。なんだか大好きなテレビも色褪せて観える。ナルトは、電源を消して、暗い空を見上げた。
「まだかな…」
半分以上残ったカップラーメンをナルトはテーブルの上に置く。その横には、やはり開けられたまま半分以上残っているカップラーメンの容器。



その日は風の強い夜だった。ガタガタと鳴る窓の音は、外から誰かが窓を叩いているようで、ナルトをビクつかせるには十分なものだった。
「カァシ……」
今日で二週間目。カレンダーの赤いバッテン印は14個付いた。カカシは、帰って来ない。なんで、どうして?
なうとが悪い子だから?
いつの間にか五分おきに開かない扉が開くのを待って見つめるようになってしまった。
どうしよう。このままカカシが帰って来なかったら。
カカシに捨てられたら、どうしよう。
捨てられたら、またひとりぼっちだ。
ガタン、とナルトはひよこの模様が付いた専用の椅子から立ち上がる。どこからか、階段を降りる音が聞こえた気がする…。
「カァシ、カァシ、カァシ……っ!!」
ナルトは思わず扉の外を飛び出した。真っ暗な街路。冷たい空気に息を呑む。ナルトは拾われて初めて一人だけで外に出た。
人ごみの中で、ナルトはどこに向かって良いかわからず、きょろきょろと辺りを見合わす。
恰幅の良い男の人の腕に自分の腕を巻き付けて甲高い声で笑うフェイクファーの女の人。千鳥足の酔っ払い。包帯で顔中をグルグル巻きにした男の人に、傷だらけの顔のおじさん。悪臭と喧噪。夜の匂い。
ナルトはこの世界を知っている。それはカカシと出会う前のことだったが、思いだしたくもない懐かしさが、ナルトをパニックにさせた。
たくさんの派手な音、夜を謳歌して高笑いする人々。ナルトは、雑踏の中で、カカシに似た人影を見たような気がして、ナルトは裸足のまま、駆けた。
「カァシ!」
しかし、手を伸ばした先に居たのは、鈍い銀色の知らない顔の男の人だった。見知らぬ男は怪訝な顔をして、耳付き尻尾付きの子供を見下ろす。
ナルトは素早く、手を引っ込めた。「なんだぁ、おまえ」自分に注がれる視線に、ナルトはマゴついて、雑踏の中に紛れようと踵返そうとするが、その途端、また見知らぬ誰かとぶつかる。
「お。こんな時間に子供がなんで。おい、大丈夫か」
アルコールが入っているらしい、男の声だった。恰幅の良い中年男性がナルトを見下ろした。大きな手。
「………!!」
怖い、怖い、怖い。思い出したくない。ナルトの手足が冷たくなる。まだ叩かれてもいないのに、尻尾と耳が経験と記憶から勝手にビクンと痙攣する。
「い……ッ」
ニンゲンハキライ。ナルトはカカシ以外の人間なんて大嫌いなのだ。カカシの手はナルトに優しい。だが、それ以外の人間は怖い。その手が翻された時、優しく撫でてくれるとは限らないから。
ナルトは転がるように、人通りの多い本通りから路地裏に駆け込んだ。人ならぬナルトの気配を感じ取ったのか、ぎゃんぎゃん、と犬たちが吠える。
路地裏は当然、人影は少ない。誰かが居ても、酔い潰れた酔っ払いか宿無しのホームレスくらいだろう。
配管が寒さのために結露して、汚い壁に水の伝った跡がそのまま残っていた。犬たちはナルトを取り囲んで低い唸り声を上げている。
家に帰らなきゃ。外の世界は冷たくて、ナルトに酷いから。
「カァシィッ」
犬たちが、ナルトに襲い掛かった瞬間、ナルトは唯一信じられる人の名前を呼んで蹲った。肉に食い込む牙の痛みを想像して、ナルトは目を硬く閉じる。
「こんなとこで何やってるんだ、おい。狐っ子」
ナルトは瞼を恐る恐る開けた。そこにはガタいの良い男が立っていた。
「…………」
ナルトはぼんやりと煙草を咥えたアスマを見上げた。



呆然とした子供を抱き抱えて、アスマはカカシの家へと運んだ。中途半端な具合に開けっ放しになっていた玄関のドアを足で蹴って開けて、爪を立てて抵抗していたナルトを床に降ろす。
「あしゅまきらいらも…!!」
ぺたんと床に座ったナルトはふるふると震え出し、そこらへんにある家具をアスマに向かって投げ付ける。
「出てってってば。ここカァシとなうとの家だも…」
「おいおい、おまえさんそりゃひでぇだろうがよぁ」
「カァシじゃないとやだ。あしゅまなんていらないも…出てけぇ」
ふにゃんとナルトの顔が歪む。力なく、アスマの膝を叩いて、懸命にナルトはアスマを玄関に押し出そうとする。
抱き上げようとすれば噛み付き、暴れ出す。これでは水分を含んで泥だらけの服を脱がすことも適わない。
微妙に言葉が通じるだけで、これではまだナルトがカカシの家に来たばかりの頃とまったく変わらないではないか。とうとう、ナルトはベッドの隅っこでカカシ人形を抱えて、丸くなる。
「カァシィー……」
泣き始めたナルトはその日から三日間熱を出してしまった。


















 
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空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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