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空気猫

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風を切って疾走して行く、金糸の少年をカカシは、全速力で追い駆ける。しかし、十代と三十代の違いと、普段からの運動量の差で、なかなかナルトに追い付くことは適わなかった。ただでさえ彼は体育会系ではないのだ。
「……ナルト!!」
やっとナルトを抱き締めることができたのは、木の葉喫茶から大分離れた道端でだった。お互いに息を切らして、その上、腕の中でナルトが暴れるものだから、カカシはいっそう強くナルトを抱き締めなければいけなかった。
「やだ、離せってばカカシ先生。カカシ先生のこと信じてたのに。そりゃカカシ先生になら、傷付けられてもいいって思ってた。だけど、こんな裏切りは酷過ぎるってば。父ちゃんの知り合いってどういうことだってば。なんで黙ってたんだってば。最初からオレのこと知ってて近付いた?偶然じゃなかった? …騙して、オレのことを影で笑ってた?―――大嫌いだってばっ!」
背後からカカシに羽交い絞めにされて、身長差のために足は宙に浮く。ナルトは精一杯の抵抗とでも言うようにバタバタと大人の腕の中で暴れる。
カカシは、心臓を氷の矢で貫かれたように固まっていた。背筋が冷えて、腕の中で動いているナルトは、確かにリアルな存在であるはずなのに、ただバタバタと暴れる生き物になってしまったみたいだった。
ドクドクと脈打つ心臓とは真逆に指先は凍りつき、感覚がなくなる。身体の震えが来る前に、カカシは腕の中の存在を確かめようとナルトを掻き抱いた。
「……ナルト。そんなこと言わないでよ」
カカシとミナトの関係を知った時のナルトの反応をある程度、予想していたカカシだが、まさかこんな拒絶…、別れ話にまで発展するとは思わず、心臓がつぶされそうな思いだった。
「嫌だ、さわるなってばぁ…。なんで父ちゃんの恋人なのに、オレに好きだって告白したんだってば」
「……はい?」
「カカシ先生なんて永遠に父ちゃんとイチャイチャしてればいいんだってばぁ…」
「ちょっと待って。なんでそこでオレが先生の恋人になっちゃうわけ?」
波風ミナトと自分の間に繋がりがあったことを隠していたのは、悪いことをしたとカカシは思っていた。だが、聞き捨てならない言葉にカカシは今度こそ蒼褪めた。
「……カカシ先生は父ちゃんの恋人だってば」
「あ、あのねぇどうしてそんなおっそろしい思考回路になっちゃってるわけ…?ていうか…いやもうゾッとするような想像だから、止めて貰えると嬉しいんだけど?オレとあの人が、とか本当に勘弁でしょ」
確かに、波風ミナトに憧れめいた恋心を抱いていたことは過去にあった。しかし、そこに肉体的な欲があったかと言えばそうではない。抱いたり抱かれたりという感情ではなく、波風ミナトに対する想いは周りに近しい大人がいなかった故に発生する単純な、思慕だった。それを恋だと勘違いしたのは、カカシにまだ甘えがあったからだ。倒れそうな木が支えを欲しがるように、あの頃のカカシは父の代わりとなる存在を無意識に探していた。甘えていた言ってしまえばそれまでだが、ミナトはそんなカカシの支えであったに過ぎない。
「なんでナルトはそう思っちゃったわけ?」
己が大人だという年齢に到達して初めてわかったことは、波風ミナトが格別変わった大人であったということだ。それまで、十代の時も少々抜けている大人だという認識はあったが、しかし「大人」は「大人」というカテゴリに分類され、それ以上でも以下でもなかった。
そして現在、波風ミナトとカカシの、年齢の距離は縮まらないが、大人と子供、つまりは精神的な距離は縮まり、思ったことは一言。――あの人、頭おかしい。これに尽きるのである。
たとえば、波風ミナトという男は、カカシがどんなに細かく予定を立てても、「その日の気分」とか「直感」とかで、物事を動かしてしまう。そして、大変悔しいことに、波風ミナトの直感に従った方が、数倍物事が上手くいくのだ。たとえ、その過程で、カカシがちょっぴり魂を抜きかけるほど労働したり、してもだ。
海外から帰国したあと、カカシはしばらくぼんやりと職探しをしていたのだが、波風ミナトに誘われて彼の経営する喫茶店で働き始めて、無茶ぶりに振り回されているうちに、わずかに残っていた自分の「常識」「計画性」「真面目」さはすっかり損なわれていった、と本人は強く主張している。
なので、十代の頃に抱いていた仄かな憧れは既に消え失せ、ナルトと出会って以来は、目障りでしかない存在になったと言っても良い。そんな心情だというのに、自分と先生が…なんて、ゾッとするような想像である。
「ナールト、なんでオレがその…おまえのお父さんのオンナになっちゃうの、教えて?」
「……だって言われた」
後ろ向きのまま、耳朶を甘く噛んでやれば、観念したナルトがぼそぼそと喋り始めた
「誰に何を言われたのかな~」
「………」
カカシがナルトの耳朶にちゅっと唇を寄せる。人様の恋人に変なことを吹き込みやがって。内心モクモクと暗雲を渦巻かせつつ、表面上はにこやかにカカシが問い正した。
「じぃちゃん」
「猿飛さんが…?」
「そっちの方じゃない、じぃちゃん」
「………!」
「父ちゃんはもう別な女の人と一緒にいるから、オレが会いに行っても迷惑なだけだって…」
「そんなことを言われていたのか…?」
「実際そうだと思ったし…、オレが会いに行ったら出て行った父ちゃんに迷惑になるじゃん…」
「はぁ…」
「………?」
「通りでおまえがいつまで経っても会いに来ないわけだ…」
カカシは独り言のように呟いて、ナルトの頭を自分の懐に引き寄せる。
「………カカシ先生?」
「オレたちはおまえが来るのをずっと待ってたんだよ」
「………?」
「ねぇ、ナルトは恋人のオレのことよりそのジイサンの言葉を信じるの?」
「だって……」
「はぁ…。まだまだ甘やかしが足りなかったかなぁ」
ナルトの頭にカカシの顎が乗っかって「え?」とナルトは首を傾げる。
「だって、もし父ちゃんが別の人と幸せに暮らしてるなら、オレってばお邪魔虫だってば。嫌われたら怖くて、会いになんて行けなか…っ」
「違うよ、ナルト。あの人はいつもおまえのことを大事に思ってたよ。いつもおまえのことを考えていたし、どれだけ心配して大事に思っていたか…」
「…カカシせんせぇ?」
「ナルト、オレはおまえが好きなの。愛しちゃってるの、そこらへんだけは絶対、変ることがないから、疑わないでね」
いつのまにか、壁際に背中を押し付けられえて、キスをされていたナルトはぽやんとした顔でカカシのことを見上げる。
「喫茶店に戻ろう、ナルト。ここからは直接あの人の口から聞くべきだ」
カカシに促されて、ナルトは曖昧に頷く。そしてナルトはバツが悪そうにカカシを見詰めた。
「……カカシ先生、勘違いしてごめんってば」
「ま。まさかオンナだと間違われているとは思わなかったけどね。さすが意外性ナンバーワン」
「だって…、カカシ先生男の人にしては口調が怪しいし、オレに平気で道端とかでキスするし、真性のゲイなのかと…」
「………」
無言で頬を抓られて、ナルトは「いひゃいいひゃい」と、笑った。そのまま二人はどちらからともなく唇を合わせる。一部始終を偶然通りかかったシカマルが声を掛けるに、掛けられないまま終わったとも知らずに。








「……ナルくん!!!」
再び喫茶店のドアを開けると、黄色い閃光が、ナルトに向かって突進して来た。どうやら、窓からナルトが来るのを確認していたらしい。約8年ぶりに再会する父親に抱き締められて、ナルトは混乱の最中にいた。
「心配したんだよ、もう戻って来てくれないのかと思った」
大袈裟な仕草で泣きまねをするミナトに戸惑いつつ、ナルトは再びカウンターの丸椅子に座る。
そしてそのまま、けたたましい騒音が厨房に上がった。ドンガラガラガッシャーン。笑顔のまま、ミナトの手からフライパンやら鍋やらが盛大な音を立てて落ちていく。ついでに頭を戸棚にぶつけて彼は物の見事に転倒した。
「……と、父ちゃん?」
「ごめん、本当におまえがもう帰って来ないんじゃないかって心配で……」
「………へ?」
「あははは。パパ、ちょっと舞い上がっちゃってみたいだよ。だって本当に久し振りなのに、嫌われちゃったら笑えないでしょう?」
「………」
満面の笑みのまま、ミナトが答える。ミナトの言葉にナルトはぐるぐるぐと思考を巡らせた。ニコニコ笑っているから解り辛いが、本当に緊張しているのだろうか。
まさか、と思うが、男性客がレジに立ちお会計を済ませようとすると、ミナトはゼロが二つほど付け足した値段を満面の笑みで告げた。
「6万円になります」
珈琲を一杯だけ飲み、財布を出した客は素晴らしい営業スマイルのマスターによって万単位のお金を要求され、ここはぼったくりバーかと、しばし固まってしまったようだった。
「父ちゃん、お会計は600円だと思うってば」
「…んー?」
「……6万円なわけがないってば」
「あはは、そうだっけ?そうかもねぇ」
ナルトは呆れて父を見た。ミナトという人はある意味、最強に感情が表に出ない人なのかもしれない。子供の頃の父との思い出を記憶の中からひっくり返して思い出してみるが、パズルのピースはすでにバラバラで、上手く繋ぐことは適わなかった。
大体、小さな子供にとって父親とはかなり格好良く見えるものである。それが男の子なら尚更だ。男親とは世界一格好良く見える。
当時のナルトにはわからなかったが、ニコニコした顔のまま、…確かにドジをやらかしていたかもしれない、おそらく。
河原でボールをなくしたり、…そうだ砂場でも不器用な一面を発揮していたかもしれない。
「本当に嬉しいかったんだよ。ナルくんがパパに会いに来てくれるなんて」
無事に?お会計を終え、ミナトが再び感動したように呟くのを余所にナルトは手元のすっかり冷えてしまったココアのカップに目を落とす。
「…そんなに嬉しいなら、なんで父ちゃんは今までオレに会いに来てくれなかったんだってば」
ぼそっとちょっとだけ恨みがましく、言ってしまった。ナルトが涙腺が弛むのを堪えていると、後ろからぽふぽふと頭を撫ぜられる。見上げれば、口元に優しげな微笑をのせたカカシが居た。
「父ちゃん…。オレってば…」
突然、呼吸が楽になったような気がした。
自分には、今、カカシが居るのだ。
「どうして父ちゃんが家を出て行ったか、オレが解るように説明して欲しい。オレ、ちゃんと聞くから」
「ナルくん…」
「それに、オレってばもう“ナルくん”なんて歳じゃないってば」
ナルトは厳かに父親と向き直ると「ナルくん呼び禁止!」を宣言した。
「そ、そんなぁ~」
「ダメったらダメ。オレ、もうすぐ16歳だってばよ。もうそんな歳じゃねぇの」
「ナルくんはナルくんでしょ、それに父ちゃんじゃなくパパって呼んで欲しいのに~」
ナルトの冷たい視線に四代目はよよよとスポットライトを当てられ、ステージ上で泣きマネをする人のような恰好を取る。
「息子相手に鳥肌立つような事言うなってば…」とナルトは、怒りながらも、また少しだけ、呼吸がしやすくなったことを感じた。
















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ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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