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空気猫

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「それじゃあ兄ちゃんは、カカシ〝先生〟だってば?」
「は?」
「前の〝ご主人様〟が言ってたってばよ。術師みたいに物知りな人の事を〝先生〟って言うんだって!」
ふんわりと笑ったガキの顔にオレは図らずも見惚れてしまった。胸の動悸が何故か激しい。何だ、この感情は。万力の力を持って、胸を締め付けられるようで、
この小さな神様の孤独と同じくらい少しだけ切ない――。




「凄いな。この境内の中は全部おまえが掃除してるのか?」
「おう。少しでも来た人に気持ち良くお参りして貰いたいからさ。それに、いつ神主様が来てくれるかわからないだろ。オレってばいつでも神社の中を綺麗にして神主様を待ってるんだ」
「ふぅん」
「もちろん、カカシ先生みたいに神社に寄ってくれるだけで嬉しいんだってばっ。旅人さんに屋根を貸すのも神様の大事な仕事だってば」
「例えば歓迎の印にネズミの死骸を枕元に置いて行ったり…?」
「あっ。オレの贈り物、気にいってくれたってばっ?」
「……ははは」
確かに、本殿の中は隅々まで掃除が行き届いていた。それが、神社の建物事態の古めかしさと不似合いで奇妙な違和感を生んでいる。
本殿に入ると、九本の尾を揺らめかせた狐のご神体が無言でオレを睨んでいた。オレの足元ではパタパタと尻尾を振って、膝小僧を出したお狐様がほにゃりと笑っている。ぞくりとした欲望が沸きあがった。
「どうぞ、好きなだけ召し上がれってば」
「…いや、流石にこの中では食えないでしょ。外で食べさせて貰うよ」
オレは、子供の着物の襟元から眼を逸らし、積まれた僅かな果物と食事に不自然な間を置いて視線を落とした。





日の当たる縁側でオレは不格好な形のおにぎりに齧り付いた。まさか目の前の神様が直々に握ったとも思えないが、塩味が効いていて中々美味しかった。
オレが、おにぎりを二、三口頬張ると、ぐきゅるるる、と横に座っている神様の腹から大きな音が鳴り響いた。
「?」
「あ。あんまりお供え物がなくって…」
本当に、すまなそうにナルトが俯いた。どうやら、自分の食べ物をオレに分け与えたらしい。
神様が炭水化物を摂取する生き物なのだとは知らなかったが、オレは食べ掛けのおにぎりを神様に渡した。
「これ…、おまえが食べなさいよ」
「でもこれはカカシ先生にあげたご飯だってば!」
「おまえのお供え物だろう?」
「う、うん…」
ナルトはオレが差し出したおにぎりを恥ずかしそうに食べ始めた。半分ほど平らげたところで、両手で差し出してくる。
「ありがとっ。カカシ先生って優しいのな」
真っ赤に頬を染められると、こちらも照れるから止めて欲しい。それに、ナルトと名乗ったこの小さな神様は、驚くほど綺麗な瞳なのだ。うっかりすると魅入られて動けなくなる。
「このおにぎりはどうしたんだ?」
「あっ。お地蔵様にお供えしてあったやつだってば…!」
元気良く答えた子供の返事に、オレは食べていた米粒を少しだけ噴き出した。
「だ、大丈夫かよ、カカシ先生!?」
「ごほごほっ。平気だ」
情けない。しかし世の中広しと言えど、神様に心配そうに背中を摩られた男は人間ではオレ一人かもしれない。神仏とは思えない、ふくふくとした紅葉のような手の平がオレの背中を優しく行き来する。
「カカシ先生、お水だってば。お供え物はいやだったってば?オレが山で採って来た果物もあるってばよ?」
「すまない…」
オレの前に、木製のひしゃくで冷たい清水が差し出される。ご利益が有りそうな水をオレは一気に飲み干し、水の垂れた口元をナルトの着物の袖によって拭われた。本当に至れり尽くせりだ。
「おまえ、神様なのに地蔵から供え物をかっぱらって来たのか?」
「ち、違うってば。あそこもオレの縄張り」
「縄張りっておまえ、犬猫じゃあるまいし…」
「失礼な。神様にだってちゃんと縄張りがあるってば!」
もっともな言い分のように主張するお狐様に思わず笑いが込み上げて来る。もう少しからかえば、ポカポカと両拳で叩かれそうだ。
「なるほどねぇ…」
齢千年のお狐様が、農作業や炊飯に勤しむ姿をどうにも思い浮かべ辛かったオレは、なんとなく納得した。どうやら、この近く一帯にあるお地蔵様や社の供え物もお狐様の取り分らしい。忘れられた神とは言え、昔は立派な神様だったのかもしれない。
「でも、これはイルカ先生っていう寺子屋の先生が握ったおにぎりだから、怪しい食べ物ではないと思うってば」
「イルカ先生…?」
「たまに神社にお供え物を持って来てくれる人だってば。オレの姿は見えないけど、すげーいい人なの!」
そう言えば村人の聞き取り調査で唯一信心深そうな村人が居た事を思い出した。やけに嬉しそうに男の話をする神様の表情に、オレは何となくむっとした。いや、神様が参拝客を大事にするのは当たり前の事なのだろうが…。
この子は、自分が嫌われ者だと知らないのだろうか。ナルトの人間に対する視線は、荒神と呼ばれる他の猛々しくも獰猛な古来の神々に比べ、慈しみと愛情に溢れていた。
「ナルト。人間が好きならば、どうして村の人に悪戯をした。おまえ、村で自分の評判悪いの、知ってる?」
「え」
オレの言葉を聞いてナルトの表情が蒼褪めた。
「オレ…、悪い事なんて何もやってないってばよっ?」
ぴょこんとナルトが立ち上がる。それでやっとオレと視線が同じくらいになるほどこの神様は小さかった。
「だけど、女の姿で化けて村人に悪戯したんだろ?」
「それはちょっとからかってみただけで…。だって美人の姉ちゃんの方が皆が優しいから……」
オレが問い詰めると居た堪れない顔で、ナルトが告白した。着物の裾を掴んだ手が震えている。
「この間の秋祭りの時にケンケンと鳴いて火事を起こしたのもおまえか?」
「それはっ。―――火事を教えようとしたんだってば…っ。オレ、狐だから火が出るところがすぐにわかるから…」
なるほど、狐が火に敏感な事は古い文献にも載っている。村人は、狐の鳴き声がして、火事が起こったと思ったようだが、事実はその逆で、火事が起こったからナルトが鳴いて火事を教えたようだ。オレは納得して次の質問をした。
「それじゃあ子供に紛れて遊んでたのは?」
「………」
そこで珍しくナルトが口籠る。
「ナルト?」
「と…っ」
「と?」
オレが首を捻っていると、消え入りそうな声で狐の神様が口を開いた。
「……とっ、友達になりたかったんだってばっ」
今度こそ、ナルトの表情は歪み、碧い瞳から涙が落っこちそうになるくらい潤んだ。
「オレってば皆の仲間に入りたくて、人間の姿に化けて出て行ったんだってば。でも、途中で、狐だってバレて…、皆居なくなっちゃった」
床に、ぽたたと透明な滴が落ちた。
「オレってばただ、みんなの仲間に入りたかただけなのに…」
ナルトは、滴る涙を押し隠すように、顔を手で覆った。
「わかった。もう言わなくていい。嫌な事、聞いてごめんな?」
オレより千歳も年上なくせに、神様は酷く泣き虫だった。幼い身体を抱き締めれば、ひくんひくんと痙攣してナルトが嗚咽を漏らし始めた。なんて、稚けないのだろう。
「どうして、オレってばいっつも嫌われちゃうんだろっ。頑張っても全然上手くいかないんだろ。ふぇええ」
オレの腕の中で泣き崩れる神様の体温は、人間の子供と変わらないくらい温かかった。なんてことはない、この子は神様であり、寂しがり屋の子供でもあったのだ。









 
 
 
 



 
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空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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