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空気猫

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「おまえは毎日この神社の中で何をしてるんだ?」
孤独な毎日を送っている事がわかっていたくせにオレは訊ねた。そんな残酷な質問をするオレに対してこの神社に千年住まう神様は気にした風もなく答えてくれた。
「まず、朝一番に本殿と境内のお掃除をするでしょ、ご神体も洗ってあげないといけないし、その後は日課の見回り。お地蔵さんの様子も見に行かないといけないし…、オレってば大忙しなんだってば」
「ふぅん…?」
忙しいとは言っても、寂しさを埋める事は出来ないだろうに、ナルトの声は妙に明るい。また、つきりと胸が痛む。
「それに、神様としての日々のシュギョーだろっ。絶対、欠かせないってば。あとは御神酒造とかおみくじの補給とか…」
「真面目だねぇ…」
「でもオレってば弱っちぃ神様だから、あのっ、あんまりご利益はないんだってばよ…」
一転、ナルトの表情が暗く曇る。まるで小さくなれば、少しでも場所を取らなくて迷惑にならないとでもいうのだろうか。小さく小さく身体を丸めている。そんなお狐様の様子にオレは首を傾げた。
「でもな、うちの神社は今はお布施が少ないから貧乏だけど、オレってば立派な神様になって神主様に楽させてあげるんだ」
先程まで泣いていたくせに、ぷくんとした丸い頬が、紅潮する。オレは艶やかな金糸をくしゃくしゃに撫でてやりたい衝動に駆られた。
「木の葉丸って子がよく森の奥まで遊びに来るんだってばよ!やんちゃだけど、すげーいい子なんだ」
「イルカ先生はおっちょこちょいだけど、生徒思いのとってもいい寺子屋の先生なんだってば」
それからナルトは、嬉しそうに村人たちの話をした。駆除の依頼までしてきた村人に好意を寄せる、お人好しの神様にオレは半分呆れて、半分同情した。
「ナルトは本当に人間が好きなんだな」
「え…。お、おう…」
照れ臭そうにナルトが頷く。
「どうしてそこまで人間が好きなんだ?」
「神様なのに、変かなっ?」
「まぁ、変わってはいるだろうね」
大抵、神様と人間は同じ次元で生きていない。なので価値観はそぐわないはずなのだ。
「オレってば狐直なんだってば。カカシ先生ってば、〝狐のあたへ〟って知ってるってば?」
「あぁ…。名前くらいは……」
「千年くらい前に、この辺りを大飢饉が襲ったってば。オレの家は西から来た渡来系の家族で、狐と相性が良い家系っていうの?とにかくオレの祖先の誰かが、狐と凄く所縁のある人だったみたいでさ、オレは豊作と引き換えに九尾っていう大妖怪を腹の中に閉じ込めて神様になった」
「なるほど、おまえは元人間ってわけね…」
「オレってばその時はまだ本当に子供だったからさ、父ちゃんと母ちゃんより神様に捧げるには丁度良い年齢だったんだってば。長の人に頭を下げられたら父ちゃんも母ちゃんも断れなくてさぁ…。オレの家、貧乏だったから」
ナルトは言葉を濁したが、言うなればナルトは親に売られたのだろう。察するにナルトは生贄の子供だったらしい。それなのに、たった数百年で存在を忘れられてしまった。
大人の都合で神になった子供は、それから数百年誰にも顧みられず、たった一人、神として神社に棲み付いた。かつて、自分を神にした村人たちの祖先を恨む事なく見守りながら。
「オレってば交じりモノの神様なんだってば。だからかなぁ…力も弱いし、役立たずなんだってば」
逆にいえば、人としての(さが)
が、この子を自然に帰化させず、この世に留めていたのかもしれない。それでなければ大妖怪を取り込んだとはいえ、これほどか弱い神がこのご時世で生き残れるわけがない。
古来から妖怪と神の違いは曖昧だ。一般的に、人に悪さをするものが妖怪とされ、比較的に柔和なものが神として祀られる。それゆえ、神々の中には人に対して驚くほど残酷な所業を行う神が存在する。それは、妖怪と神との境界線など所詮、人間が勝手に作ったものに過ぎないからだ。
基本的に、神も妖怪も同じ異形の生物なのだ。幸いナルトは神と呼ばれる類の中でも優しく…優し過ぎるくらいの部類に入るのだろう。悪く言えば人臭い。よく言えば慈悲深い。今時、珍しい神様だ。
「昔、この辺りで戦があって村の男の人たちが駆り出されたんだってば。残された家族の人たちは夫や息子が無事に帰って来ますようにってオレのところにお願いに来たんだってばよ。でも、その人たちの事、オレってば助けてあげるコト出来なかった。だからオレは役立たずの神様なんだってば…」
ぎゅっとお狐様は自分の着物の裾を握って俯く。オレは、今になって初めてどうしてこのお狐様が異常に自分を責めるような態度を取るのかわかった。人間の願いを叶えられなかったという良心の呵責が絶えずお狐様を苛んでいるのだろう。
「そんなことないでしょ。いーい、ナルト。願いは自分で叶えるモンなんだよ。神様には自分の決心を報告するくらいでちょーどいいの。 ――おまえのせいじゃないよ。それが、その人たちの天命だったんだよ」
小さなお狐様は驚いたようにオレの顔を見ている。
今、お狐様はオレの横に座っている。肩が付きそうなくらい近くに座っているくせに、妙に遠慮しているのか、けしてそれ以上近付いて来ない。
そのくせ、オレが視線を落とすとこれ以上ないくらい嬉しそうな顔をする。オレが軽く相槌を打つだけで、ナルトは蕩けそうな笑みを浮かべて耳をぱたんと頭の上に倒した。本当に、ずっとひとりぼっちで、誰かと話すのが嬉しくて仕方ないのだろう。
「オ、オレ…」
「ナルトは悪くないよ。おまえは立派な神様だ」
ふぇ、と小さな泣き声が漏れた。
「オレはただ寂しくて…、ちょっとでもいいからオレの存在に気付いて欲しくて、また仲間に入れて欲しかっただけなんだってば。でも、迷惑ならもう人里には降りていかないってば…」
オレは思わず微かに震えて泣きそうな子供の小さな身体を抱き上げた。子供は見掛け通り綿毛のように軽かった。
「ナルト。オレじゃおまえを慰めてあげることは出来ないかな?」
「え?」
「人間のオレじゃ、神様であるおまえのことを慰めることは出来ないかな?」
「そ、そそそんなことねえってばよ」
ナルトが三角耳の内側まで桃色に染めて答える。
「カカシ先生はオレに凄くよくしてくれたってばよ。オレってば久しぶりに誰かと話せて嬉しかった」
涙を拭いながらナルトは極上の笑顔で笑った。
「オレってばカカシ先生に出会えて良かった!」
「おまえ。可愛いねぇ……」
「へ?」
神様相手に失礼かもしれないが、オレは見るからに柔らかそうなほっぺを突いた。触れた感触は、見た目通り、生まれ立ての赤ん坊のように、ふにふにとしていた。
「カカシ先生っ?」
「ナルトに足りないものはさぁ…村人の誤解を解いてあげれる人間じゃない?」
「それってさぁ、やっぱり神主様って事だってば?」
「え…?ああ、そうだな。神主様っていうのは、神様と人間の間を取り持つ人間のことをいうもんな」
「やっぱり…!オレに必要なのは神主様なんだってばよ…!」
ナルトが全幅の信頼を置いているまだ会ったこともない神主様。そんなに神主とかいう男がいいわけ?なんだか、段々ムカムカとしてきた。そこでオレは考えてしまった。
「そっか。ナルトは、新しい神主様が来たらそいつのモノになっちゃうんだな」
「あっ、うん。神主様はオレにとってかけがえのない人だから…」
「それがどんなに極悪非道な男でも、そいつの言いなりになっちゃうんだ?」
「神主様に悪い人は居ないってばよ!」
「わからないよ、世の中は広いから。ナルトに酷い事をする男が来るかもしれない…」
「そ、そんなことねぇもん。オレは人間を信じてるっ」
「ご立派だねぇ。流石、神様」
「カカシ先生…っ?」
ナルトが傷ついたような声を出した。どうしてオレが突然意地の悪い事を言い出したか、この純粋なお狐様には理解し難いのだろう。
「あのさぁ。おまえ、もうオレのものになっちゃわない?」
「へっ?」
「他の男のものになるくらいなら、オレのモンになっちゃいな?」
オレは、ナルトの後頭部を引き寄せると、その朱唇に口付けた。他の誰かにおめおめと喰われてしまうくらいなら、オレが喰べてもいいだろう?――オレは出会ったばかりのこの小さな神様に惹きつけられる自分を抑える事が出来なかった。
「はぅ…」
甘い声に、頭の芯が痺れる。気が付くとオレは、小さな神様の狭い口内を貪っていた。ぱたぱたとオレの脇で白い足が宙を蹴っている。












 
 
 
 
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空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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