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空気猫

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お隣さんシリーズ5
パパパパ~。最終話。これでこのシリーズは一区切りです。
それにしても、うちの近所のスタバはいつも馬鹿みたいに混んでる。



 



やさしい日々

誰かに過剰に期待する事って結構勇気がある事だと思う。



河川敷の道を歩いていると、チリンチリンとベルを鳴らす、自転車とすれ違う。オレは、すっかり咲き終えてしまった桜の花びらを踏みながら、薄紅色の遊歩道を歩いた。
土曜日の午前10時00分。暖かな陽射しが、うたた寝を誘いそうな天気だ。ふと、道の端に視線を向けると、コーヒーショップが店を開けていた。緑色のカフェエプロンを付けた綺麗なお姉さんが、掃き掃除している。路地裏では、ゴミバケツの上に丸まった野良猫が欠伸を噛み殺し、近所のガキンチョ等が忍者ゴッコに勢を出していた。ご苦労様。
アスファルトの地面を蹴ると、道端にコンドームが落ちていた。どうしてだってば、と疑問に思い何となく空を仰ぐと廃ビルが佇んでいる。どうやら、廃墟となったビルがラブホテルにいけない若者の溜まり場になっているようだ。
どっかのアーティストが歌ってたよな、サンタクロースは子供のために、コンドームは自分のためにって。まったく最近は身に積まされるもんだとか思うようになったんだけど、もしかしたらオレには一生関係ない事になるかもしれない、なんて思った事もちょっとあった。いや、付ける側って意味でな。…もう思っていないけど。
数か月前、オレは男の性を受け入れた。それは不慮の事故でもなく、ましてやレイプなどではない。床に押し倒された時、いったい何が行われるのか、見当もつかなかったくらいオレは鈍感だったが、不思議な事にお隣に住んでいた彼になら何をされてもいいと思ったんだ。
セックスして、こんなもんかと思った。そりゃ初めの頃は多少痛かったけど、抱いてくれた相手が上手だったからかな、一般的な女の子が経験するような「殺したいと思った」「二度とヤルもんかと思った」なんてコトはまるでなく、それなりに気持ち良かった。カカシ先生ってばオレのナカをトロトロに蕩かしてくれてさ、オレの気持ち良い所いっぱい擦ってくれて…訂正、本当は身体が浮いてしまうくらいに気持ち良かった。
笑った友人が今日も「ちょっくら死んで来るわ」と言った。オレはいつものように笑って「またな」と手を振った。そんな友人のシカマルは幼馴染の女の子に101回目のプロポーズをしに行く。人一倍、面倒臭がりのくせに、とびきり面倒臭い手続きを毎回やるんだ。馬鹿じゃねぇの、とか思うけどオレはシカマルのそういうところ嫌いじゃない。
いつかシカマルの気持ちが届くと良い。オレの予想では、告白相手が折れるのも時間の問題だと思うんだけどな。
丁度、踏切の前を電車が横切った。窓の中には、もう人生で会う事もないだろうと思う無数の知らない人々。
「平和だなぁ。―――なーんちって」
例えば、自分がこの世界から消えたとしても、変わらず朝が来て、電車は三分おきに発車し、流行りのヒットチャートは更新され、どこかの恋人同士が喧嘩して別れて、交差点で誰かと誰かが運命の出会いを果たしたりするのだろう。
生きてることを確かめたくて、呼吸を少し止めてみた。
息が苦しくなった。
酸素が、自分を必要としていたから、何となく嬉しかった。
だけど、最近それだけじゃ満足出来ない自分にびっくりするんだ。息を吸って、息を吐いて、それだけじゃ喜べなくなって、オレってば我儘になった。家族との縁も薄くて、ついでに言えば幸も薄くて、だけど生きてるだけで幸せだったのに、それ以上を望んだ時、オレの世界は一変した。
涙が出る。
オレってば、寂しいよ。カカシ先生。
息を吸って吐き出して、今日も、明日も、明後日も、同じように生きて行く筈だったのに、一人寝が寂しくなったのはお隣の彼のせい。
「―――――…。平和だなぁ…」
やべ、涙が出る。くじけるな、うずまきナルト。いつものように、ゴミステーションを横切ったところで、オレの頭の中のビデオデッキが(カカシ先生から言わせるとこの名称が「本当におまえ現代っ子?」だそうだ)巻き戻し機能を発揮して、3歩前に目の端に映った人物を再生した。
粗大ゴミが捨てられているビルとビルの隙間に、頭を項垂れてしゃがみ込んでいる銀髪の大人を発見した。
「……――カカシ先生っ?」
「よ、ナルト。久し振り~…」
そこに居たのは、よれよれのトレンチコートを着込んだカカシ先生だった。オレは突然のはたけカカシの登場に、道端でカカシ先生と向かい合ったままフリーズしてしまった。
「いやぁ、新幹線に飛び乗って徹夜で帰って来たけど、流石に疲れたな。連絡もしないで待たせてごめんな。ナルト、元気だった?」
戸惑うオレに、はたけカカシは美しい顔で笑った。くそう、相変わらず悔しくなるほど爽やかで格好良い男め。そしてとびきりの笑顔で彼はこう言ったのだ。
「ねぇねぇ、子猫ちゃん。今からオレと徹夜明けデートしない?」
悪いけど、カカシ先生の誘い文句に鳥肌が立った。うん、台詞も然ることながら、昼のまったりとした空気の中で言われると中々破壊力のある文句だ、流石はたけカカシだってば。
オレが、冷凍バナナで釘が打てるんです、というジト目で睨むと、
「ははは、まぁ冗談は程々にして、――ただいま」
色違いの目が細められる。やっぱり最高に恰好良い。
「久し振りじゃないってばよ。い、今まで何してたんだってば…っ」
スペシャルボイスで、ご機嫌を取って来るカカシ先生に、オレは騙されてはいけないと、無言で歩き出した。歯の浮く台詞を真顔で言うとは、恐るべし!なんだけど、オレは軽薄なナンパ野郎と暗がりの変態は、野菜よりも大嫌いなんだってばよ…!
「悪いけど、他の人を当たってくれってば!」
「……えっ、ナルっ?」
カカシ先生が一瞬ぽかんとしたあと、オレのあとについて来た。
「ナルト…!」
カカシ先生が追い縋ってくる。そんな捨てられた仔犬みたいな顔したって、――ちちちちっとも可愛くなんてないんだからなっ。
「どうして、逃げるの。オレはずっと、おまえに会いたかったんだよ」
「!」
「会いたかった、声を聞きたかった。携帯、失くしちゃったから、後でまたおまえの番号を教えてな?」
会いたかった?携帯を失くした?なんだよ、それ。
「そ、そんなのカカシ先生の勝手だ…っ。今更そんなこと言われたって…!」
カカシ先生の手を振り払って、オレはずんずんと歩道を歩いた。
「オレってばもうカカシ先生のことなんて知らねえっ」
「ナル…」
「カカシ先生がいない間にオレってば超モテモテだったしっ」
「え?」
「おおおとなの男の人に告白なんてモンもされちゃったし!」
「ちょっ、ナルト!?」
「知らない人にだってナンパされまくりだったんだからな!」
あーあ、言ってしまった。なんて可愛くない奴なんだろう。カカシ先生が呆然とオレの事を見ている。
「――…。待ってよ、ナルト。それ、どういうこと。オレの話を聞いて。怒ってるの?」
「いやだ。カカシ先生の話なんて聞きたくもねえ!」
「告白されたって本当? そいつと付き合うの?」
「しししらねえ!」
「おまえ、オレ以外の男に抱かれる気か?」
やけに低いトーンの声で真面目に聞き返されて、オレは赤面してしまった。気が付けば、カカシ先生に後ろから抱き締められていた。
「っ。んなの、オレが〝抱く〟方かも知れねえじゃん!」
馬鹿にすんなっ、と怒るとカカシ先生がプクククと噴き出していた。
そんなにオレが抱く方だと可笑しいのだろうか。失礼だろ!
「冗談デショ。こんなに細っこい身体なのに?」
「―――っ!」
〝細っこい〟ってなんだよ。確かに、オレの身体が一般の男子高生より華奢なのは認めるけどさ。
「待ちなさい、ナルト」
「うわっ」
「おまえ、告白されてどうしたの。まさか、もう付き合って…る?」
「………」
「はぐらかさないで?」
「断ったけど、わかんねえよ…。――カカシ先生なんて大嫌いだってば」
いやだ、と首を振ると、うなじに吐息を落とされた。それだけで心臓が跳ねる。
「オレのコト、もう嫌になっちまったか。顔も見たくないほど幻滅したのか?」
「ちが…」
「おまえ、ちょっと見ない間に綺麗になったな。周りも放って置かないだろう、な?」
後頭部の天辺にカカシ先生の唇の感触を感じた。熱い体温を感じると駄目だとわかっていても許してやりたくなる。
「―――カカシ先生と別れる理由なんてたくさんあるってばよ」
真昼間から、男二人が抱き合ってるなんて、なんて非日常的な光景なんだろう。近所の幼稚園児が見ていたらどうするんだと思ったが、どうしてか天まではたけカカシに味方しているらしい。
逃れようとした手を掴まれて、壁に背中を押しつけられた。色違いの瞳から、目を離す事が出来ない。
「それなら、オレはオレとおまえが別れられない理由を100教えてあげるよ…」
オレは呆気に取られて、カカシ先生の腕に抱き込まれた。ああ、だから年上の大人なんて大嫌いなんだ。絶対、この世界の空気を吸った分だけ、汚い手をいっぱい知ってるんだぜ。ホント、誤魔化す事ばっか上手くなってズルいよな…。
だけどオレは、三か月ぶりに感じるカカシ先生のぬるついた舌の感触に、少しだけ安心した。



久しぶりのセックスは、はっきり言って最高に気持ち良かった。カカシ先生のペニスに突かれると、オレの尻の穴さ、もう性器みたい。あーあ、こんな身体になっちゃって、どうしてくれるんだよ。
尚且つ、大の男が色々致したら、狭いマンションの中はそりゃ嵐が通った後のように荒れてしまうわけで、シーツはグシャグシャ、部屋は精液の匂いがするし、何だか大家さんごめんなさいって状態になっている。
久し振りに泊まったカカシ先生の部屋で冷蔵庫から取り出した牛乳パックを傾けながら、オレは新聞に手を伸ばした。世間では誤解を受けがちだが、オレだって新聞くらい読むのだ。まぁ、大きな記事をさっくり目を通すくらいだけどな。
永田町であったアカデミックに皮を被せた悪口合戦みたいな会議はともかくとして、トップ記事の隣には冷凍精子で赤ん坊が誕生の文字。
「事故で死んだ夫の精子で受精が成功…って凄」
「なーに、昨日のオレのモノがそんなに凄かった?」
「…カカシ先生、バッカじゃねえの?」
気が付けば、腰にカカシ先生の下半身が密着していた。オレの軽蔑したこの冷たい視線が腐った大人に届くといい。カカシ先生は顔が良いだけに、本当に残念だってばよ。
そのままどちらからともなくじゃれあって首を傾け合うと、朝日の中、二人の舌が絡まる。オレの頭に回された腕が熱い。
「カカシ先生、くすぐったい…」
「おまえこそ…」
「ミルクの味がする…」だって。そりゃ、そうだってば。牛乳飲んだあとだもん。
「おまえ、新聞読んでたの」
「ん。この新聞の記事にさ、感心してたんだってば。な。凄くねえ?」
「んー。今、読むから待ってよ。どれどれ…」
紙面には太字で〝人工授精成功。事故で死んだ夫の精子で赤ん坊誕生〟の文字。
「ま、オレはどうかと思うけど、こういうのって感動的な話なのか?」
つまんねぇ答え。ま、いいけどねカカシ先生だから。ま、カカシ先生だから仕方ないよな。
「カカシ先生はさ、これくらい愛されてみたくねぇ?そしたら、オレってば何か変わる気がするんだよな?」
「それって、オレの愛が足りないってことですか。ナルトくん?」
あはは、とオレは笑った。
「例えばの話だってば。オレは子供を産めねえ身体だけどさ、カカシ先生が死んだ後に、オレがカカシ先生の赤ちゃんを育ててたら、カカシ先生は喜んでくれる?」
染色体を残す事の出来ない関係を築いているオレたちだけどさ、想像するだけなら罪はないよな?オレはキッチンでカカシ先生の分の珈琲を沸かしながら、自分の分の朝食を用意する。今日はフルーツたっぷりのコーンフレークだってばよ。
「カカシ先生は赤ちゃん欲しくねえの?」
「……。それはどうかな」
やけに神妙な声でカカシ先生が答えた。
部屋に落ちる、沈黙。また、沈黙。
「それじゃあ、オレとおまえとでもう一回出来るか試してみるか?」
「………」
オレの尖らせた唇にカカシ先生の人差し指が当てられる。
「そんなことしなくても、オレはおまえを置いていきやしなーいよ?」
ぎゅって抱き締められる。オレは、カカシ先生にパジャマを捲られながら、どうしてか泣きそうになった。男同士のオレたち。けして、何も生むことのない関係だけど。オレたちの合わさった掌の下でかさりと新聞誌が音を立てる。
「そう……」
カカシ先生に抱き締められて、オレは身体から力が抜けるのを感じた。
「今日からまた隣に住むから、宜しくな?」
「ん」
「塩とか胡椒とか醤油貸してな?」
「なんだそれ」
「洗濯物がそっちのベランダに落ちたら取りに行かせてな」
「馬鹿だろ、カカシ先生」
「オレの部屋の鍵、ずっと持っててな」
「………」
「ずっと一人にしてて、ごめんな?」
「ん…」
「おまえ、本当にオレを信用してる?」
「んんー…」
「どっち…」
切ない顔をしたカカシ先生にキスされる。身長差があるから、そのままぎゅって腕の中に閉じ込められる。
「好きだよ、ナルト――…」
朝日の中、カカシ先生とオレの唇が重なって、二人の吐息が絡まる。
変なの。オレの二酸化炭素が、カカシ先生の酸素みたいだ。キスってそういうコトなのかな。どちらが、酸素を求めて溺れそうになっているのかわからないけど、オレたちはしばらくお互いの吐息を貪った。
たくさんの人が居るこの国の中で、明日死ぬかも知れないオレが、明日死ぬかもしれないカカシ先生とキスをした。
「カカシ先生…、おかえりなさい」
「ただいま、ナルト」
ベランダにはここ数か月ですっかりオレに餌付けされた仔猫や小鳥たち、それに最近加わった野良犬のパグ犬が玄関の外でカリカリ扉を引っ掻いている。この様子を見れば、オレが毎日この部屋に来ていた事がわかるのにな。鈍感な人。そんな休日の午後の、やさしい日々。
















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自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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