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空気猫

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夕暮れ刻には魔物が現れるらしい。背中を丸めた背高ノッポの尻尾を生やした魔物が…。どこかで聞いた御伽噺を思い出す。
「よ、カカシじゃねーの。おまえ、今にも人を殺しそうな顔してたぜ?」
「……うるさいよ、オビト」
うっそりと振り返った中学時代からの友人に、オビトは整備をしていた車から離れゴーグルを頭の上にあげる。
その顔には、何、あの子に妙な事を吹き込もうとしてるのさ、といったようなことが大変わかりやすく書かれていて、そんなわかりやすい表情を出すようになった友人に苦笑する。――はたけカカシが大変わかりやすくなる事柄が全て16歳の少年に関係することである点も非常に面白い。十年来の付き合いがある友人としては大いに笑うべきところであろう。彼のそれまでの遍歴を知っているなら尚更だ。
「大体、ナルトにはおまえのことを話していないからな。勝手に、オレの話を振るんじゃないよ」
「おまえなぁ。それは結構傷付くぞ。本命にくらい大親友を紹介ぐらいしろよ」
「どうしてオレが、たまたま同じ年に生まれて、たまたま同じ小学校、同じ中学校で同じ教室で空気を共有しただけの赤の他人にプライベートなことを話さなくっちゃいけないわけ?」
秋風にしては、ひんやりとした風が、オビトの背筋を通り抜け、カカシの視線の温度に、彼はホールドアップの格好を取った。
「機嫌わりぃじゃん。何、原因は金髪のあの子?」
からかい半分に言えば、オビトの指摘は図星だったのか、カカシの表情はますます険しくなった。
「あの男、誰。やけにナルトと親しそうに話してたけど」
「ああ、ゲンマちゃんか。くくく。そうだなぁ、ナルトとは一緒に暮らしてたんだから仲が良いみたいだな」
「一緒に暮らしていた?」
「ああ。聞いていないのか。ナル坊は中学生の頃に工員用の寮で生活してたんだぜ?」
「………」

「別嬪なコイビトを持つと、心配の種が堪えませんね~。カカシくん。昔のツケがいっぺんに回ってきたって事で諦め…」
そこまで口にした所でオビトは、拳を壁に叩き付けたカカシを黙って見詰めた。鼓膜を劈くような衝突音と共に、パラパラと壁材の粉末が空気に散る音。
「すまん。オビト。オレさ、本当に余裕がないんだよねぇ。なんだかさ、あいつを見ていると、大事にしたいって気持ちと滅茶苦茶にしてやりたいって気持ちが自分の中でぶつかってどうしようもなくなるんだ…。こんなに好きなのに」

「カカシ…」
「こんな自分は狂っていると理性ではわかってるのに、どうにも止められないんだ。なぁ、オビト。オレは頭がおかしいのか?」
頭を抱えたカカシの背中は酷くひしゃげていた。
「カカシ。好きな奴を殺したらな、もう好きな奴と会えなくなるからな……?」
返事をせずに、倉庫内から踵返した旧友の背中を追い掛けて、オビトは暮れなずむ空を見上げたのだった。

 
 
 


 
 

「ナールト」
整備工場の前で、ゲンマと話していたナルトは、後ろから首根っこを引かれる引力に従い、ぽすんと煙草臭いコートの中に引き入れられた。本人は嫌いだと言って吸わない煙草の匂いをコートに沁みつかせているのは、彼の仕事場が絶えず煙草の煙が蔓延するところであるからで、ナルトの知る限りそんな人物は一人しか思い当たらない。
「――カカシ先生?」
口を開けたまま、頭上を振り仰げば、口元に優しい笑みを讃えたカカシがいた。いつも通りのカカシの顔。だが、どうしてだろうか、笑っているはずのカカシを見ていると、微妙な違和感を感じた。
ちなみに、頭を撫でようとしていた、ゲンマの手はカカシの右手によって、止められている。
「カカシ先生。どうしてここにいるんだってば?」
「ああ。ここの工員と顔馴染だからね。たまたま仕事帰りに寄ったんだよ」
「へぇー、そうなんだ」
頷きながらも「一緒に帰らない?」と促され、指を絡められたので、ナルトはかなりびっくりした。
「えっ、あっ、オレってば、これからゲン兄と…!」
「お、おい。ナルト。どこに行くんだ。というかその人は…?」
見知らぬ男の登場に、ゲンマは不審気に眉を寄せた。困り切った様子のナルトの手を握っているのは、どう見ても三十前後の男で、傍目には穏やかな笑みを浮かべてこちらを見ている。ゲンマは知らず知らずのうちに、身体を引いた。
「おい、ナル―――」
何事か言わんとしたゲンマの言葉が遮られる。
「ナルト。用事があるのはわかるんだけど、急にごめん。ちょっと付き合って欲しいんだけど、いいか?」
「え、ええと。マジ?」
ナルトはゲンマとカカシを見比べてあたふたとする。
「え、ええと。ゲン兄、ごめ…っ!」
「は?」
「この埋め合わせは絶対するからさ!――どうしたんだってば、カカシ先生?」
向き尚ったカカシは、口先だけは丁寧な挨拶をして、ナルトを連れて行く。「はぁ?」とゲンマが楊枝を咥えたまま俄か返事をしている間に、今夜ゲンマが夕食に誘った少年を工場内から掻っ攫って行ってしまった。
「あら、ゲンマさん。こんな所で突っ立って何をしているんですか?」
事務室から小ブタを抱えて出て来たシズネが不思議そうに、立ち尽くすゲンマに首を捻った。
「いや…、なんでもない」
「はぁ?」
「ところで、あんた。今日、暇?」
「はい?」
「どうやらタイミングが悪かったらしくドタキャンされちまってさ。飯でも食いに行かねえか?」
「はぁ……?」
ゲンマは、金髪のふわふわ頭を撫でようとした手を所在なさげに彷徨わせた挙句、ポリポリと後頭部を掻いた。





「あのさ、カカシ先生。さっきから何、急いでるんだってば」
「んー…?」
「夕飯の買い物?それとも、他になんかあるのかよ?」
ナルトは、引かれた手に疑問を感じて、首を捻る。背中しか見えないカカシの表情は窺い知れなくて、橙色に染まった雲がたなびく景色ばかりがやけに目に付いた。
ゲンマとの食事の約束をキャンセルしてしまった。いつも相談ごとに乗ってくれて、今日だって、自分のことを気にかけて誘ってくれてたに違いないのだ。それなのに。
「ちょっ、もっ、カカシせんせぇー…!」
尻ポケットにぶら下がっている携帯電話を取り出して、残して来たゲンマに連絡を入れたいものの、カカシの醸し出す雰囲気がどうもそれを許さない。
「どうしたんだってばよ。さっきから黙ってばっかで。オレってばちゃんと言ってくんねぇとちっともわかんねぇ」
「あー、うん?ごめんね?」
甘いマスクで、カカシがいつも通りの笑顔で笑っている。そのままナルトがぶすむくれていると、カカシは困ったように後頭部を掻いた。
「ナルトってよくあそこに行くの?前も近くで見かけたんだけど」
「あーうん。おう?ゲン兄とか工員の皆には昔から世話になっててさ。たま~に顔を出すようにしてんだってば」
「そうなんだ…」
「どうしたんだってばよ、カカシ先生?」
きょとんと首を傾げたナルトに、カカシは何度か頭を被り降ると「なぁーんでもないよ」と言った。不可解なカカシの様子にナルトは眉の根を寄せるが、顔をあげたカカシの顔は普段と変わりなく、本人がなんでもないと言っているのだから、それ以上何も言えなくなる。 
そのうえ「それよりさ」とカカシが、尻ポケットから金属製の何かを取り出したことに、ナルトは何度か目を瞬かせた。
「?」
「実はこれ…。おまえにプレゼントなんだ。本当は昨日家に来た前にあげようと思っていて…、渡すのが大分遅れちゃったけどな」
「え?」
「オレのアパートの鍵」
ナルトが手のひらを出して不思議そうに首を傾げる。ぶさいくな犬のマスコットが付いたキーホルダーに、銀色の鍵が付いていた。
「これでいつでも来ていいからね?」
「ほ、本当に?」
秘密事をするように、囁かれ、ナルトは赤面した。何より、ミナトの目もあっただろうに、こうして合間を縫って自分に会いに来てくれるカカシの行動にも感激してしまう。だから、ナルトは不可解だったカカシの行動を忘れてしまった。
「ああ、オレが居ない時でも入っていいし、いつでも上がってていいよ…」
「嬉しいってば。カカシ先生!」
カカシが台詞を言い終わる前に、ナルトはカカシの首に腕を回して喜んだ。そんな少年の瞼にキスを落として、カカシは笑った。
「ねぇ、ナルト。今からオレの家に来て、イチャイチャしない?」
「……!!」
まだ不慣れな恋人同士の睦言の誘いに、ナルトは一時静止して赤面したものの、あくあくと口を金魚のように開くと、カカシのコートに顔を埋め、頷く。そんなナルトを抱き締めながらも、少しだけ暗い笑みを落としたカカシ。果たしてこの時、ナルトはカカシの深い部分へ踏み込むべきだったのだろうか。

















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空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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