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空気猫

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カカシの家の鍵を貰って数日後。その日、ナルトはいつもの通りカカシのアパートへ行くと、カカシの部屋の前に見知らぬ女の人が蹲って泣いていた。
傷んだソバージュの髪。場末の風俗嬢のようなスリップドレス。小鹿を思わせるほど、細い足を折り畳み、長い髪を垂らして玄関先にしゃがみ込んでいる姿は若く見えるが、化粧の下の肌はもう40歳を過ぎているのかもしれない。華美な格好と若過ぎる化粧の仕方が、どこか年齢とチグハグな印象を受けた。
「あの…、お姉さん。大丈夫だってば?気分わりぃの?」
「坊や。放っておいてよ」
細い肩紐から肩甲骨が浮いて見えた。それが小刻みに震えているのに気が付いて、ナルトは顔を顰めた。
「カカシ…」
「へ?」
「カカシィ…」
「え……。カカシ先生?」
思わぬ人物の名前が出て、ナルトはびっくり仰天した。しかし、言われてみれば女が蹲っていたのはカカシの部屋の前だ。彼女が、カカシを待っていたとしても、不思議ではないはずである。
どうやら女は、家主が帰って来るまでここで待つつもりらしい。それでは、「それじゃあオレは中に入るので」と言ってナルトだけが部屋の中に入って行き辛いではないか。
ナルトはカカシから渡されたばかりのキーホルダー付きのスペアキーをクルクル指で回しつつ、何事か悩んだ後、蹲る女に屈み込んだ。
「あのさ。オレってば、この部屋の鍵持ってるけど、入って行く?」
濃い色のアイシャドウがばっちり塗られた瞳が、驚いた様子でナルトを見上げた。
これが世に言う修羅場という奴なのだろうか、と一歩ズレた事を思いつつ、ナルトは彼女を部屋に招き入れたのだ。





「あのさ、適当に座って。つっても、ここはオレの家じゃないだけさ」
「随分、慣れているのね」
「あ、これはその。よくここに来るからさ…」
自分とカカシの関係をなんと彼女に説明して良いかわからず、ナルトは口籠る。今のカカシが、同性の、それも少年を恋人にしていると知ったら、彼女はどう思うだろうか。女性の中には、それを酷く侮辱的に感じる人もいるのではないだろうか。
「絵のモデルにしては大事に扱われてるのね。あの子に鍵を渡されるなんてよっぽど信頼されてるんでしょ?」
「へ?」
「これ、貴方でしょ。あの子が人物画を描くなんて珍しいけど、そっくりだわ」
ナルトが一人思い悩んでいると、女性の方で勝手にカカシとナルトの関係を解釈をしてくれたらしい。余計な嘘を吐かないで済んだと、ナルトは露骨に、ほっとして珈琲を淹れる。
キッチンに居るナルトから少し離れた所で、女は以前に比べれば随分と整頓された部屋の中で、壁際に並べられた絵画を眺めているようだ。まるで、小さな個人経営の個展に来ている客のようだ。
「これ、幾らくらいで売れるかしら?」
「え」
それまでと同じトーンで話された言葉の意味がわからなくて、聞き間違いかと思ってナルトが顔を上げると、女はカカシの部屋から出て行こうとしているところだった。
「あ、あの。カカシ先生のこと、待っていないんだってば?」
「ええ。今日の用件は済んだし、もういいわ」
ナルトが引き留めるものの、すでにパンプスを履いた女はドアを閉めてしまった。あとに残されたのはナルトひとり。
「ただーいま。ナルト。来てるの?」
女が去って数十分後、うきうきとした様子でカカシが帰宅したが、手には白封筒を持っていた。ポストに手紙が投函されていたらしいそれを、カカシは封も切らずそのままゴミ箱に捨てる。
読まないのだろうか、と思いつつも、
「おかえりなさいってば。カカシ先生…」
どこか沈んだ様子のナルトに、カカシはおや?と首を傾げて、
「何かあった?」
とすぐに訊ねた。うずまきナルトに関してはこの男は率直な性格なのだ。
「う、ん。カカシ先生がいない間にお客さんが来たってばよ」
「へぇ、うちに?珍しいね?」
「うん…」
歯切れの悪いナルトの様子を訝しく思いながらも、カカシは日向かいの匂いがする少年を抱き締める。
「女の人が来たってば。ソバージュで痩せた人。若く見えたけど、たぶんカカシ先生より年上だったと思う」
ナルトの説明を聞く内に、カカシの表情が見る見る間に曇っていく。カカシはゴミ箱の中の封筒を睨むと、ナルトと向き合った。
「ナルト。そいつに何もされなかったか!?」
「え、あ、な、なにも…」
戸惑ったようなナルトに、カカシはなおも詰め寄る。
「あ、やっぱ、勝手に家にあげちゃ不味かったってば?」
泣きそうなナルトの声色にやっと我に返り、カカシは己の失態を知る。人一倍、人との距離を計りたがる少年なのだ。カカシの行動はナルトを遠ざけてしまうものだっただろう。それは非常に不味い。
「ご、ごめんなさいってば。オレってば…」
「ナルトは何も悪くないよ?鍵もそれはおまえにあげたものだから、好きな時に好きに使って構わない」
「う、うん」
「おまえを怒ったわけじゃないんだ。ごめんな?」
「カ、カカシ先生…」
カカシに抱き締められ、ナルトはほっと息を吐いた。だけど、カカシはナルトが訊ねても女が誰であるか教えてはくれなかった。「―――んんっ」尚も開きかけた口をカカシの唇に塞がれてそのまま二人は傾れ込むようにセックスした。




その日、ナルトはカカシの家で恋人同士の行為を終えて、
「カカシ先生…?」
深夜、ふとベッドの中で目を覚ますと手紙を読むカカシの横顔があった。いままで見たことないその表情に、
「どうか…、した…?」
ナルトが尋ねると、ふっと彼はいつもの笑顔で笑った。
「ううん、おまえには関係のないことだから、なんでもないよ」
ゆっくりと頭を撫ぜられる。いつもは大好きなその所作になぜかつきりと胸が痛んだ。


―――おまえには関係のないことだから、なんでもないよ。
ナルトにとっては、カカシの言葉がやけに胸に刺さって痛かった。







 



 
 
 
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空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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