空気猫
空気猫
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―そんなわけで12歳になりました編5-
生まれた時は覚えていない。ただ、呼吸だけはしていた。両の眼が世界を映した時、そこは真っ暗で、等間隔で並ぶ鉄格子が、ナルトの目の前にあった。
「これが九尾の実験体か……」
「父親から引き離して、連れて来たのか。絶滅危惧種だというのに、よく捕獲出来たな」
「まだ、こんなに小さいのに可哀相だな、うん」
黒いマントを羽織った男たちが、ナルトを見下ろしていた。だがそれも一時のことで、それから、白衣を着た人々にたくさん身体を検査された。食事は毎日2回。初日に怯えて齧り付いてからは鉤型の棒で檻の中を引っ掻き回され、鉄格子から離れたところで、生肉のような食べ物が与えられた。
抵抗するたびに酷くぶたれることもあり、理由もなく蹴りつけられることもあった。やがて人の足音を聞くだけで檻の四隅で震えるようになった。目付きはどんどん険しくなったが、ナルトにとっては、床が冷たかった、ただそれだけが嫌だった。
「駄目だな、うん。懐かない。世話係を変えた方がいいんじゃないか」
「オレたちが任務を休むわけにもいかないだろう」
父と呼んでいた存在を時々、思い出すこともあったが、辛い日々の中、ナルトの記憶は段々と摩耗していった。薄暗い地下室で日々を過ごすうちに獣に近い思考になっているのかもしれない。心身ともに憔悴してしまって薄れる記憶を止めることが出来なかった。
ある日、ナルトの檻の前に立った黒髪の男は、不思議な赤い目を二つ持っていた。ナルトは、檻の隅で耳を伏せて、震えた。
「知恵遅れか…?」
男は、喋りもしないナルトを見てそう言った。言葉は知っていたが、ここでは何を話しても意味がないから、必要がないと次第に口を開くことを忘れてしまっただけだ。
「うー、うぅー…」
低い唸り声で、己の意思を伝え、四つん這いで威嚇する。
「おいで…」
鉄格子越しに手が差し伸べられたが、カチンと歯を合わせその手を攻撃した。
「駄目だな。どうやら、オレは嫌われたようだ…」
長い黒髪の男が苦笑して、差し出した手を引いた。
檻から抜け出せたのは、まったくの偶然だった。掃除係の男がナルトの首を掴み、外に出した時、丁度別の男が地下室の中に入って来て…
ナルトは、男の腕を噛んで駆け出した。走って、走って、山中をがむしゃらに掛けた。その内に、下の方に明かりが見え始めた。それまで、人里などないと思っていたのに、まるで隠れるようにぽっかりと出現したそこは―――忍という集団が棲む木の葉の里だった。
路地裏で凍えていた時のことを、はっきり言ってナルトはよく覚えていない。ただ、温かな手に迎えられ、食事を与えられた。気が付けば屋根のある家で、銀髪の人間に飼われていた。
だから、世界で一番、カカシが大好きだった。言葉を教えてくれたこと、住む場所を与えてくれたこと、慈しんでくれたこと、全てに感謝していた。
ナルトの世界の中心はカカシだったから、カカシに嫌われるのが怖かった。カカシに捨てられたくない。我儘を言い自由奔放に振舞いながらも、いい子にしてなきゃ、あの裏路地に捨てられるかもしれないと、思っていた。また、ヒトリ冷たい思いをしないといけないのだろうか思うと、思わず三角耳が、しゅんとなってしまう。だから。
「早く帰って来てってば…」
ヒトリの部屋でぽつんとナルトは呟いた。
何時間も、何時間もカカシを待つ。尻尾を何度もはためかせて、時計が真夜中の12時を差して過ぎた頃に、カカシは帰宅した。
「なんだ、ナルト。まだ、起きてたの」
真っ暗な部屋で、電気も点けずに起きていた狐の子供に驚いて、カカシは無造作に額当てをテーブルに置いた。すっかり冷めてしまった食事に気付いて「ごめんね」と形ばかりの謝罪が彼の口から漏れたが、ナルトは黙り込んだままだった。
「今度から遅くなる日はご飯いらないよ。おまえも早く寝てなさい」
ため息と共に落とされた台詞に、暗闇の中で、ナルトの三角耳がぴくんと痙攣した。
「いや」
頑なに発せられた不定の言葉にカカシの眉間に皺が寄る。ナルトと言えばカカシに背中を向けて、拳を握っていた。
「12時までにはベッドに入ってなさいって、オレ言ったよね?」
「………」
「おまえさ。最近、反抗期?利き分けのない子になってオレを困らせて楽しい?」
今に始まった事ではないが、カカシは人の気持ちに鈍い男である。それは、女友達である紅しかり、旧友であるアスマをしかり、果ては生徒であるサスケやサクラをしかり、誰でも知っている事ではあるが、〝どうせ、あいつは言っても治らないから〟という理由で今まで特別天然記念物並の扱いで放置されてきた。
実際、はたけカカシは女と付き合う際は、相手に深く踏み込まず身のこなしも気持ちの良い男ではあったが、泣いている相手、それもごく幼い子供を慰める複雑かつ繊細な感情があるかと訊ねられれば、――否、と答えるしかないだろう。つまり、相手を思いやる感情というのに、決定的に鈍い男なのだ。
「……んせい…」
ナルトは震える声で、涙を我慢する。そして、くるりと振り向くと廊下の大人のところまで駆け寄って行き、手を精一杯伸ばして、カカシに擦り寄った。
「ナルト。オレはこれからシャワーを浴びて来るから、――もう寝なさい」
「いやらぁ…」
「ナル…?」
「好きぃ。カカシせんせぇ…」
ぎゅうっとナルトがカカシに抱きつく。
「カカシせんせぇ、オレにちゅうして…?」
「は?」
「一度だけでいいから、人間のコイビト同士がするようなキスがしたいってば。おでこじゃなくてちゃんとしたやつ…」
物欲しそうに、ナルトの唇がつやつやと濡れていた。
「おまえ、何を言って…」
獣が親愛の情を示すために、毛繕いをするように、ナルトはカカシの指を食んだ。あっという間にカカシの五指はナルトの垂液でべとべとになる。
「んぅ……」
「ナルト?」
「…」
「こーら、ナルト。そろそろ止めなさいよ」
「やだもん、ちゅ…んんん」
思わずカカシは絶句する。僅か12歳である筈の狐の子から、匂い立つような色香に、カカシの喉が知らずごくんと垂下された。
「……ナルト。やめなさい」
カカシの掠れた声が、頭の上から落ちて来る。ナルトが薄っすらと瞳を開けると、困ったように口元を押さえているカカシの姿があった。(―――…?)
訳が分からずナルトは、きょとんとしてから、カカシから離れた。
「おまえ、いったいどうしたんだ」
呆然としたカカシの声にナルトはきゅっと唇を噛んだ。ナルトは、三角耳をぺたんと萎れさせると、頬を真っ赤にさせる。
「オレってば、カカシ先生のこと好き。だから、カカシ先生の特別な好きになりたい。オレのことちゃんとみて…」
一世一時代の告白をして、ナルトは「誰よりも」と付け加える。
「………ごめん、ナルト。おまえがなんて言っているのか、オレにはよくわからない」
「―――っ!」
カカシは―――切なそうに、涙で潤んだ瞳。その表情はなんだろうと思う。少し前まで、喜怒しかなかった狐の子供が、瞳の縁に、透明な涙を溜めて何かを堪えるようにしていた。この不機嫌は、甘いお菓子を上げれば治るだろうか。
「もう、いい。オレってば今日はサスケの家に泊まるっ。カカシ先生は絶対ついて来るなよ!」
「は?」
「カカシ先生の、バーーーカ!!」
オレってばもうカカシ先生なんて知らないもんねー!という捨て台詞を残して、ナルトは去って行った。
「………」
呆然として残されたのは、カカシで、ナルトから飛び出した台詞にわけがわからなくなった。
「あいつ、サスケって言ったか…?」
ナルトが出て行った玄関の扉を呆然と見つつ、カカシはいつもの手癖で後頭部を困ったように掻く。そう言えば、数日前にナルトはサスケと随分仲良くしていなかっただろうか。あの時は、いつの間に仲良くなったのだろうと思っただけで止まったが。
「まさかね…」
今のカカシの気持ちを例えるなら背中に冷や汗が伝うような気持ちだ。
「まさかでしょ…」
あの子、まだちっさい子供だし…。
だけど、今のカカシの気持ちを例えるなら、大事な子が知らない男の家で一夜を明かすと知って呆然としている男の気分だ。
カカシ先生。ダッシュで追い掛けないと駄目だって。
空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前 空気猫、または猫
職業 ノラ
趣味 散歩・ゴミ箱漁り
餌 カカナル
夢 集団行動
唄 椎名林檎
性質 人間未満
日記 猫日和
ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
職業 ノラ
趣味 散歩・ゴミ箱漁り
餌 カカナル
夢 集団行動
唄 椎名林檎
性質 人間未満
日記 猫日和
ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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