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空気猫

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今回は木の葉スーパーです。うずまきくんのアパートからダラダラ歩いて20分の距離。







「あ!」
「あれ、ナルト?」
エアコンのよく効いたスーパーで、銀髪の男と金髪の少年が、一人は少しだけ目を見開いて、一人は拳が入りそうなくらいあんぐりと口を開けて対峙していた。「奇遇だねぇ」と銀髪の男が微笑んだので、「うぃっす」と金髪の少年が慌てて頭を少しだけ下げる。
「凄い、偶然だってば」
まさか、先程まで思い浮かべていた人物と遭遇するとは思わず、ナルトは微妙に動揺して、手に持っていた商品を買い物籠の中に放り込む。
「あ、イチゴミルク」
「んあ?――あっ」
途端、ナルトの顔が真っ赤になる。
「これは、その。やっ、お気に入りというわけではなく、なんとなく手に取っただけというか、たまたまというか!」
「ふうん、そうなの?」
「そ、そうなんだってば」
「ナルトって甘いもの好きそうな顔してるよね~」
ナルトの買い物籠にすでに放り込まれたイチゴ柄のパッケージ。無意識に手に取って入れていたらしく、別に慌てることなど何もないのに、ぽそぽそと言い訳めいたことを言っているナルトは、大人に笑顔で見詰められる。ちなみに、ナルトは聞き流したが「甘いものが好きそうな顔」が果たしてどんな顔だと尋ねた場合、ロクな答えが返って来ないだろう。
「カカシ先生も買い物だってば?」
「まぁね。ナルトもでしょ?」
「あー…、うん。まぁ」
買い物籠を手持ち無沙汰に提げてナルトは視線を泳がせる。
「なあに、歯切れが悪いねぇ」
「だって、なんだか変な感じだってば。ずっと店で会ってたからさ。こういうふうに外でカカシ先生を見るの初めてだってばよ」
照れたように頬を掻く金髪の少年をカカシは目を細めて見詰めて、心の中では可愛いなぁなんて思っているのだが、そんなことは億尾にも出さずに、ナルトの横に並んでカートを押す。いや、彼をよく知る人間ならば、これほどヤニ下がった奴の顔はとんと見たことがなかったなくらい言ってみせるかもしれないが、そのままカカシとナルトは二人で、それじゃあと別れるでもなく、かといって一緒に買い物をしようかというわけでもなく、なんとなくタラタラと、店内を歩き始めて、それがここ数ヶ月で変わった変化なのだと言えばそうなのかもしれなくて、非常に微妙で僅かな距離なのだと思うのだけど、レジを挟まない場所でこうして並んで歩いても会話が途切れることがないほどに二人の距離は確実に縮まっていた。
「……カカシ先生、それ先生が全部、食うの?」
ナルトが眉を顰めてカカシのカートに目を向ければ、そこには山盛りの食料品。パスタ類、牛乳、玉ねぎ、ブロッコリー、トマト、カレー粉、生麺、ニシン、ササミ肉、生海老、パセリ、ニンジン、赤カブ…。それがカートに所狭し詰め込まれていて、目眩のするような買い出し量だ。
「まさか。そんなわけないでしょ、おまえオレをどれだけ大食らいにしたの?」
「いや、だって…」
かくや「はたけカカシ実は大食らい説」が湧き上がろうとしているヒヨコ頭の少年に、カカシは苦笑する。
「これは仕事用」
「仕事用って…」
ナルトはかくっと首を傾げて、モクモクとはたけカカシの色々な職業を思い浮かべる。
「そういえば、カカシ先生ってなんの職業の人なんだってば?」
尋ねてから、しまった踏み込み過ぎたかなと思ったのだけど、カカシは気にしたふうもなく微笑む。
「ナルトがね、ちょっと勇気を出せばわかるんだよ?」
「?」
「おまえこそ、買おうとしてるものインスタントラーメンばっかりじゃない。ちゃんと野菜とかも食べないと身体、壊すぞ?」
「あー、いらねぇってば。オレってばあんま野菜とか好きくねーの!」
ナルトが腕をクロスさせ「ノーサンキュー」とバッテンを作るのだけど、カカシといえば野菜も食べなきゃダメだよ~、とナルトの買い物籠に緑や黄色物体をどんどん放り込んでいく。選んでいるというよりは、手当たり次第カゴに投入するという、ナルト的にはありえない光景に、ナルトはわーっと声を上げる。
「ぎゃーっ、んなに食べれないってばよ!」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。オレが買ってあげるから」
「そーいう問題じゃねぇっ」
結局、腐らせたら勿体ないというナルトの主張で野菜は適度な量に減らされ、さらにレジの前で代金を払う払わない押し問答の末、なんとなくカカシの強引さに押されて、今回のナルトの一週間の食料費はカカシの財布から出ることになった。人様にモノを奢らせるオレって、と流石に心が咎めるが、当の奢っている本人がやたらと上機嫌なので何も言えない。まぁカップラーメン代だけは自分の財布から断固主張して出したことだし次はちゃんと自分で払わなきゃ、とそこまで考えた所で、次ってなんだってばぁあああと自分の頭の中で盛大なセルフツッコミが入る。
それというのも今の状況が悪いのである。柵に囲われた木が等間隔に並ぶ道を歩きつつ、ナルトは自分の横で当然の如く一緒に歩いている人物を見上げる。この人はなぜナチュラルに自分の隣に歩いているのか。
10分前、車で買い物に来ていたカカシは自分の車の中に荷物を運ぶと、それじゃあ行こうかとナルトの荷物を一つ奪い、歩き出した。
「荷物、いっぱい買っちゃったから一人で運ぶには重いでしょ。手伝うよ」
「は?い、いいってですってばよ。ちょ、荷物返してくださいってば」
「だって、どうせ車で送るよって言っても乗って行かねぇって言うでしょ?」
「へ?」
「本当に変なところ遠慮するんだから。まだ15歳なんだし、もうちょっと人に甘えること、覚えたほうがいいと思うよ?」
さー、いくぞーとナルトの指の端を少しだけ、引っ張ってカカシがどんどん歩き出す。
「って、カカシ先生、二度デマじゃんっ。なんでついてくるんだってばよ!」
ナルトは強引な背中に向かって声を掛ける。
「オレがナルトと一緒に歩きたいんだからいーの」
「だめ、だめ、だめだってば」
「なあに。いやに不定するね。ナルトはオレと歩くのいや?」
「そ、そういうわけではなく!」
「じゃ、いいでしょ?」
そんなわけで今に至るわけである。
ナルトの重たい方の荷物をカカシが持ち、カカシに強制的に手を掴まれたナルトが軽い方の荷物を持つという、まるで一緒に買い物に来たカップルのような状態なのだが、ナルトが気付くはずもなく、そこそこ身の丈のある大人と若干肩を落とした金髪の少年が見た目にはのほほんと(少なくとも銀髪の片方は)歩道を歩く。
「カカシ先生ってばオーボーだってばよ」
「あはは、おまえそれちゃんと漢字で言ってる?」
「うっせってば」
ぶん!と荷物を振って、拗ねたナルトがカカシの手を離れる。そのまま、歩道と道路の境目をヤジロベイのようにバランスをとって歩くと、横のカカシがうーんとのんびり首を捻った。
「あー、ナルト。おまえはこっち」
「???」
道路の近くから歩道の方に、猫の子よろしくTシャツの襟を掴まれ、そのままさり気なく位置交代。車道側のカカシが「ん?」と首をかしげ、歩道側に移されたナルトは、「え?」と「へ?」の間の顔のまま固まっている。その顔は明らかに説明を求めて訝しそうだったので、カカシはくくくと笑みを零し、
「…ま、一応ね。おまえ、危なっかしいから」
オレが防波堤ね、とナルトの頭に手が乗っかる。
――うわ、っと思うと同時にワントーン高くなった鼓動。自分より頭一つ分ほど背の高い銀髪の男の顔を見上げれば、にっこりと微笑まれる。そして、そのまま何事もなかったように、自分の手を引いて隣を歩く人物に、何も積極的に車に轢かれてくれなくてもいいってばよ!!と捻くれた考えが思い浮かんだが、真っ赤になった頬を誤魔化すことは出来ない。
オレってさっきからずっと歩道側歩かされていた?とか、何だか気が付いたら恥ずかしいような事実を、自分の頭の中の記憶のビデオテープをぐるぐる巻き戻して再生して、思わずよろけそうになる。
「あのさぁ…、ちょっと言い難いんだけど」
「なあに?」
引っ張られはしていたものの、長い足を持つカカシの歩調は今はナルトの歩調、ナルトの歩くペース。つまり、今彼はナルトに合わせて歩いてくれているわけで、そんなことを気付かないくらいさり気なくやられていたわけで、なんていうかもう要約すれば。
「カカシ先生ってよく〝誑し〟だっていわれねぇ?」
「なんで?」
「こーいうこと女の人にやったらイチコロだってばよ」
「そーでもないでしょ。ふつーよ、ふつー」
「そんなことねー、この世知辛い世の中ではキチョーな男だってばよ」
「…世知辛いっておまえねぇ。しかもおまえも男でしょーよ」
「だってさ、だってさぁオレが女の人だったらぜってぇときめくってばよー」
「なんで女の気持ちになってんの、おまえ。面白いね。ま、ときめいてくれたんなら嬉しいけど?」
「なんだってばそれ」
「いやー、もう一回言う?オレは物凄く嬉しいけどね?」
「カカシ先生ってば変なの!」
「や、本気なんだけど?」
「冗談ばっかりだってばよ、カカシ先生は」
カカシの攻撃を100%無意識でかわし、あははと腹を抱えて笑うナルトにカカシはあのねぇと何か言いたそうに見つめる。ナルトといえばそんなカカシを気付きもせずに、知らなかった、この人は誑し男なのだとうんうんと頷く。
「あー、カカシ先生は悪い男だってばよ。きっとそうやって誰にでも優しくして女の人泣かせてんだろー」
「何、それ。オレ、本命は大切にするタイプよ。それはもう下には置かない扱いデス。尽し捲ります」
「ふうん、そーなんだってば?意外だってばよー?」
「おまえねぇ…、オレの中でおまえはどんな男なのよ。これだけアピールしといてそれはないでしょ」
「何がだってば?」
きょとんとしたナルトをカカシは不覚にも可愛いなんて末期的なことを思ってしまい、自分を叱咤しつつ色んな言葉を考えあぐねたあげく、ピカピカ笑顔の少年を前にガックりと肩を落とした。
「…おまえさー、よく天然だって言われない?」
「あ、それシカマルって友だちに言われたことあるってばよ」
元気良く答えたナルトに、海より深いため息が出そうになったカカシである。
だがしかし、カカシの隣で笑うナルトは自分自身の変化に気付いてはいなかったが、彼の笑顔はもう接客用のそれではなくて、陽だまりのように柔らかい笑みに変っていた。それだけでもカカシのここ数ヶ月の楽しい苦労は報われたというものである。
カカシは仔犬のように自分の横をちょこちょこ歩くナルトを見下ろしつつ、目尻を下げる。すると、碧球の瞳が恥ずかしそうに伏せられた。
「でもさ、でもさ」
「…なあに?」
「オレ、カカシ先生がこうして並んで歩いてるとさ。すげぇ不思議な気分になるの」
「え?」
くいくいとナルトがカカシの服の袖を引く。その瞳がカカシにはいつもより潤んでいるように見えて、カカシの鼓動がひとつ跳ねる。
「……それってどういうこと、ナルト?教えて?」
「うーんとな、上手く説明できねぇんだけど」
「うん」
「なんか親子みてぇ」
「………」
「カカシ先生って〝お父さん〟みたいだってばね!」
ひゅるりーと何かとてつもなく微妙な風がカカシとナルトの間に吹いた。
「あ、あれ。カカシ先生、どうしたんだってば…!?」
オレ、もう立ち直れないかもと思いつつ、カカシは声を絞り出す。
「……ナルト、あのねぇオレはこう見えてもまだ若いんだけど?」
「知ってるってばよ。ええと、ヤマト隊長から聞いたってば、29歳だろ?」
「せめてそこはお父さんじゃなく、お兄ちゃんでしょーよ。あとお父さんは勘弁して。色々その、気まずいから」
「あはは?そうだってばね。でもさ、なんかさなんか。カカシ先生といるとほっとするっていうか、妙に居心地がいいっていうか。あ、でも時々ちょっと落ち着かなくなる時があるんだけどさぁ」
「え、落ち着かなくなるの?」
「ふぇ。うん、ちょっとだってばよ?」
「そっか…?」
思い切って柔らかそうな金色の髪の毛をくしゃくしゃと撫でてやれば、きゅうと碧い眼が心地良さそうに細くなる。ねぇ、今はどんな気持ち?ちょっとは、意識してくれてるんでしょ?思わないでもなかったが、今日は嬉しい収穫があったので良しとする。
「カカシ先生。ここまででいいってばよ、サンキュってば!」
木造二階建ての家賃が安いだけが取り柄のアパートの前でナルトが、少しだけ照れ臭そうに言うと、「そう」とカカシが短く笑う。ぽふ、と大きな手にぐりぐりとされて「重たいってばよ」と笑うナルトに「気分、だいぶ良くなったみたいだね?」とカカシが言って、ナルトが「え」と固まる。
「おまえ、スーパーで最初に会った時、酷い顔色だったよ。気付いてなかったの?」
「……あ」
「さっきより元気になったみたいだけど、オレは心配だよ?お節介かもしれないけど、普通に心配。おまえがね、笑ってないと」
くい、手の先を握られて、そういえばあれだけ色んな話をして、ここ数ヶ月間で仲良くなったけれど、カカシからナルトに触れられることは今日が初めてだったのではないかということに気が付く。
妙に強引だった態度も、オレのこと、心配してくれてたから?
…カカシ先生の方こそ、変なところ遠慮するってばよ。苦笑いが込み上げて来て、それと一緒に心臓がきゅうと切なくなる。
言ったほうがいいのだろうか、相談してもいいのだろうか?頼っても?この人の傍はあたたかい気がする。守られていると、はっきりと感じる何かがあって、どれだけ「助けて」と言えたら良かっただろう。
だけど迷惑はやっぱり掛けれなくて、カカシが優しいから、だから余計に自分のことなんかでは煩わせたくないと思ってしまう。
「オレってば、へーき!さっきはちょっと外が暑すぎてヘバってたんだってばよ」
満面の笑顔でへへへと笑って、それと反比例するようにカカシの顔が曇る。
「オレはおまえのそういう負けん気の強いとこ、嫌いじゃないよ?でも、強がりしすぎないで?ギリギリになる前にオレでも他の人間でも誰でもいいから頼ってよ」
もちろんオレ以外の奴に頼ってなど欲しくないけど、と心の中でだけこっそり付け足して、ニシシと笑う少年の柔らかい髪の毛を名残惜しげに掻き回す。
「おまえの頭、触り心地いいね~、これからはガンガン触っちゃおうかな」
「んだってばよそれー。もー、オレってば髪型ぐちゃぐちゃじゃん。カカシ先生ってば頭くしゃくしゃするの禁止―っ」
「えー、それは酷いなぁ」
そう言いつつも、ナルトは擽ったそうにカカシに頭を撫でられている。やっとの思いで警戒心の強い小動物を手懐けた気分である。もちろん、まだ近寄って来てくれるだけではあるが、カカシにしてみれば多大な前進である。
だけど、そんな二人を遠くから執拗に見つめていた視線があることに、二人はまだ気付かずにいた。その視線は彼等がアパートの前に到着した直後から、食い入るようにナルトと、そしてその隣にいるカカシを映していて、カカシに頭を撫でられて、はにかんだ笑みを見せるナルトから縫い止められたように視線を離そうとしなかった。








おまけ


そしてカカシと別れ家の鍵を開けようとした瞬間、
「あーっ。結局カカシ先生ってなんの職業だったんだってば!?」
上手くはぐらかされたことに気が付いて、これだから押し込み式の脳みそだとヤマト隊長にバカにされるのだとナルトはガックリと項垂れた。
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ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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