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空気猫

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嵐の前的な~です。 








「なんだってばよ…、これ」
朝、起きるとアパートの扉の前に小さな正方形の小包があった。はてさて自分に宅配物を送る人物など居ただろうかと、訝しみながらも焦げ茶色の包装紙を破き小包の中から出て来たのは、ジャム瓶らしき容器に入れられた白濁とした液体。ナルトだって同じ性を持っているからそれが何かすぐにわかって、傾けるとノリのようにとろみのある粘着質なそれに、ぞわりと背筋が寒くなった。
「―――っ」
朝日の差し込むアパートの一室の中で、誰のモノとも知れぬ吐精物は明らかに異物で、悪戯にしては少々趣味が悪過ぎた。まして15歳の少年の家にこんなものを無断で送りつける時点で、送り主の性的思考が暗く歪んでいることを知らせている。普段からキバたちと雑誌のグラビアアイドルを見て、はしゃぐぐらいしかしないナルトには、見知らぬ人物がいったい何を考えてこれを自分に送りつけたのかという感情すら推し量ることが出来ない。
瓶の九割ほど満たされたそれは送り主自身のシロモノなのだろうか?ゴミ箱に捨てるのも悍ましくて、ナルトはどうしていいかわからずにキッチンで立ち尽くした。ごとんと音を立てて、テーブルに落ちたその瓶と一緒に舞った紙切れにはパソコンで打ったと思われる無機質な、だけど底の見えない書体でgiftの文字。



夜遅くまでコンビニのバイトを入れる日が多くなった。今のナルトの生活では、用事といえばキバたちとたまに遊ぶくらいで、余った時間は家でただぼんやりしているか、バイトに精を出しているかだ。
どうせ家に一人でいるくらいなら、バイトに行った方がお金になるし、生活も楽になる。働いている間は嫌なことも全部忘れられるので、自然とアルバイトに力を入れてしまう。
「やっと並べ終わったってばぁ~」
減った商品を棚に陳列して、ナルトは万歳と伸びをする。しゃがみ込んだせいで、ずり落ちたジーンズの位置を直し、次は床にモップでも掛けようかななんて考えながら立ち上がろうとすると、くらりと目眩を起こして、世界が反転した。あれれ、おかしいってば。力が入らない。
そういえばいつメシ食ったけ?とぼんやり考えて、ちょっとロクな記憶が思い浮かばないことに気が付く。冷蔵庫の端に残っていた干からびたカップラーメンの切れ端っぽいものを口に入れた気がする…と最新の食べ物情報を脳が検索して、しまったメシ食い忘れた、という結論に辿り着く。
思い詰めて考え事をするとすぐこれだ。昔から何か嫌な事があると心より先に身体が反応して自然と食べ物を拒否してしまって、自分の悪い癖を思い出して叱咤したけどもう遅い。またやっちゃったってばと、思った時にはすでに遅くバランスを崩していた。
陳列し終えたばかりの新発売の動物型クッキーのパッケージのライオンのキャラクターがナルトを見てニコニコ笑っている。あー、転ぶと、どこか頭の隅で暢気に考えてナルトの頭が床に衝突しようとする瞬間、
「―――っおっと、危ない」
ぽすんと、後ろから抱き抱えられた。男物の香水が微かに香って、優しい腕に包まれた。
「カ、カシ先生……」
「おまえねぇ、もうちょっと気を付けなさいよ。オレが居なかったら頭打ってたよ?ま、オレのタイミングの良さに大いに感謝して頂戴」
間延びした揄うような口調が今はただ嬉しくて、ほっとした。清潔感のある、だけどちょっとくたびれたシャツ。後頭部にちょうど当たる喉仏から直接カカシの声の振動が伝わって来て耳に心地良かった。
「カカシ先生、他のお客さん来ちゃうってば…」
「ん~、今は誰も居ないよ。ナルトのこと離したくない。こうしてると凄く落ち着かない?だめ…?」
「………」
「ちょっと充電しようか」
何をとは暗に言わず無言になった店内に有線放送の音だけが流れる。やがて、少年の強張っていた身体に力が抜ける。
うっとりと目を細め伏せられた金色の睫毛を見下ろし、前会った時よりまた痩せた、と思いながらカカシは息を吐いて、ふわふわのヒヨコ頭に顎を乗っける。
「本当に、危なっかしい。オレはおまえをほっとけないよ、ナルト」
「え?」
「こーいうこと…」
後ろから足も浮かんばかりに強く抱き竦められて、途端ナルトの鼓動が早鐘のように速くなる。
「カ、カカシ先生…!?」
「今でも十分抱き心地良いけどね。もうちょっとふくふくしてた方が柔らかくて先生は好きだな~」
暴れるヒヨコを閉じ込めて、きゅうきゅうと抱き締めれば、15歳の男子高生だというのに随分、薄っぺらな身体。手首の骨、浮いてるじゃなーいとカカシは眉を潜める。そんな少年に想いを寄せる大人の立場としてはこの子の健康状態はちょっと居た堪れない。
「ナルト、今日なに食った?」
「………」
「食ってないのか…」
「…だって食欲なかったし」
「仕方ない奴だなぁ」
ぼそぼそと言い訳めいたことを言いながら唇を尖らせるナルトを後ろから抱き締めたまま、カカシの右手がガラスケースを開ける。カカシの腕が迷わず選び取ったのはイチゴ柄の暢気なパッケージの200ミリパック。
「とりあえず、これを飲みなさい。食欲なくても飲み物くらいは腹に入るでしょ?水よりはマシだから栄養補給しときなさい」
「なっ。これ売り物だってばよカカシ先生」
「あっそう。それじゃあね、〝たった今これはオレが買い取りました。うずまき店員くんあとでお会計お願いします〟―――これで文句ないでしょ?」
「オレ、バイト中――、」
「ぶっ倒れたら元も子もないでしょ?今一人で入ってるんだし、いざという時、駆け付けてくれる人が居ないんだよ?」
カカシは片手でナルトを押さえたまま器用にストローのビニールを破りそのまま、ん、とナルトの口元にイチゴミルクを差し出す。
ナルトがイチゴ柄のパッケージをぽかんと見詰めていると、「このまま飲みなさい」と信じられないようなことを言われる。ナルトが首を振ると、
「飲まないとこのまま離れてあげないよ?」
ぎゅうと抱き締められて、首元に顔を埋められ、1、2、3、4、5、6秒、とうとうナルトは根を上げた。カカシに両腕を束縛された状態のまま、恐る恐るストローに口を付け、こくんと喉を上下させて甘い液体を飲み下す。
「一口じゃダメだよ、ナルト。全部だよ?」
「ん……」
味なんて最早わからなかった。一刻も早くこの状況から開放されたくて、ナルトはコクコクとカカシの手からイチゴミルクを飲み干す。
「ぜ、全部、飲んだってば。カカシ先生」
一日中、ほとんど機能を停止していた胃には乳飲料とはいえ、受け入れるのに思っていたより時間が掛かったようで、少しだけ息を乱して背後の人物に同意を求めるように振り返ると、空っぽになった容器を片手に、カカシは極上の笑みを見せた。
「ん、ごーっかく」
「わっ」
犬っころのように頭をかき回され、また髪の毛がくしゃくしゃになったじゃん、禁止だっていったじゃん、と思いつつ、だけどジェットコースターに乗った時だってこんなにドキドキしなかったんじゃないかというくらいナルトの心臓が壊れたように脈打つ。
「ナルト。どうしたの、まだ具合悪い?」
「あ、ちがう……っ」
ナルトはわけもわからず恥ずかしくなって「センセ、離してっ」と踠いて、カカシの腕から逃れようと身体を反転させようとするが、逃すまいとでもいうようにカカシの腕がナルトを捕らえ絡めとり離さない。
「こら、なんで逃げようとするの?」
ガラス張りの商品ケースの棚を背中に、前はカカシに挟まれて、横に逃げようとすれば、長い腕に阻まれて、もう片方の手で肩を押される。
「ひぁっ、冷た」
冷えたアイスキャンディ用の商品ケースのガラスがナルトの首筋に当たって、ナルトがビクつくと、その表情さえも逃さないとでもいうようにカカシが屈む。
「……かわいい」
ぽつりと漏らされた感想にナルトの顔が真っ赤になる。それでカカシの視線から逃れられるはずがないのに、ぎゅっと目を瞑って、ズルい大人から見ればどうぞ好きにして下さいとでもいうような美味しい状況。
顎をついと持たれて上を向かされ、ナルトが堪らず精一杯首を逸らす両手を壁に付いたカカシがナルトを囲うように閉じ込める。
身体が自然と強張って、怯えたように瞬きをしたナルトの眼が、カカシを見上げれば碧玉はこれ以上ないほど潤んでいた。
「……――おまえ、本当に煽ってくれるねぇ」
「へ……?」
「具合悪いのにごめんね。――ちょっと我慢できそうにない」
仔犬のように震える身体にカカシの影が覆うように落とされ、抵抗しようとした両手はいとも簡単に掴まれてしまう。
「あ。カカシせんせ、」
「……ナルト、オレのこと見て?」
「せ―――」
カカシの顔があと5センチというという所までナルトの唇に近付いて来て、心臓の動悸がピークに達する。しかし、お互いの吐息が触れ合う寸前で、ぴこんぴこんと気の抜けた音と共に、ちょうどサラリーマン系の痩せた男が店に入って来た。
ふっと糸が切れたように店内の濃密な緊張感が霧散する。
「惜しいな」
「―――い、いらっしゃいませってばっ!」
カカシを両腕で押しやりナルトは慌てて笑顔を作って、挨拶したが、同様を隠せない状況とはこういうことを言うのだと思った。バクバク破裂しそうな心臓を抑えつつ、しどろもどろしていると、横のカカシと視線がぶつかる。
「!!!!」
警戒心剥き出してざざざざと壁際に引き下がる金髪の少年を見て、
「びっくりさせちゃってごめーんね?」
草食動物の笑みを浮かべていて、ナルトの乱れて外れた制服の第1ボタンをこっそり戻してやる。もちろん外したのは隠すまでもなくカカシ本人なのだが。
「…カカシセンセ。ど、うして」
「ナルトが好きだから」
「へ?」
どういう意味で好きかなんて野暮なことは言わずにカカシはただ微笑してふぅっとナルトの口元に息を吹きかける。
「っ!」
「予約済みだから誰にもあげないでね?」
秘め事のように声を潜め、左目を瞑ってウィンクひとつを贈り物に。
「続きはまた今度してあげる」
ぼそぼそと耳元で囁かれて、ナルトの耳朶が熱を灯したかのように熱くなる。
「店員さーん、これのお会計してちょーだい」
長身痩躯の成人男性の彼が持つには似つかわしくない可愛らし過ぎるパッケージを、長細い人差し指でトントンと突いて、はたけカカシはもうお客さんAの顔ですましている。そんな大人の背中を、ナルトは一拍遅れて放心状態から我に返るとサラリーマン風の男性客を残して慌てて追いかけてレジに向かったのであった。






















コンビニ店内で迫った件についてはカカシ先生曰く
「だって我慢できなかったんだもん」
だそうです。あとでヤマト隊長が録画されていた監視カメラの映像を見て、なにかジュース的なものを噴出していると客観的に非常に面白いと思います。

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ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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