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空気猫

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場面が3回変ります。コンビニ 学校 夜道。



 



 

―――続きはまた今度してあげる。
鼓膜の奥で何度もリピートされる甘く擦れた囁き。
「お会計に720円になりますってば」
カカシが去った後も火照った熱は尚も冷め止まなくて、むしろ心音は酷くなるばかりだった。カカシの吐息の掛かった唇に知らず指を当てていると、
「ちょっと、きみ」
「あ。す、すいません。お釣りの方お確かめ下さいってば」
接客中だというのに上の空になってしまったらしくイラついたような男性客の声にナルトは慌てて背筋を正す。
「ありがとうございますってば。またのお越しをお待ちしてます」
オレってばなんか変、と胸に芽生えつつある想いをゆっくりとではあるが自覚して、だがその動揺を隠し切れなくて(だって、カカシ先生もオレもオトコだってばよ)、つまりそのカカシ先生はオレのことをそういう意味で?と今までの関係が根底から引っくり返ってしまうような衝撃を受ける。
触られて嫌ではなかった、それが困ってしまう。あせあせとお釣を渡し会計を終えて、ビニール袋をお客に渡そうとすると、
「ねぇ、きみさぁ。あの男とどういう関係なんだい?」
「へ?」
唐突に腕を掴まれた。目の前に立っているのはスーツを着た20代後半くらいの痩せた男で、店内に今お客は彼ただ一人だった。
「いやに親しそうだったね。コンビニ店員が一人のお客さんとあんなに仲良くして良いのかい?」
ぱちくりと瞬きをして、え?え?とナルトの動きが静止する。
「あ、あの…?」
カカシのことで頭がいっぱいになっていて注意力がおろそかになっていたが、ナルトは改めて男をまじまじと見つめ、そういえば何度か見たことのある顔だと思い出した。
彼は、来店するたびに文句や嫌味を言って来る会社勤めっぽいサラリーマンの客で、ナルトのことが気に食わないのか、ナルトが何をしたわけでなくても何故かいつも叱られ「店長に苦情の電話入れてもいいんだよ」と言い出すのだ。大体はナルトが困った顔をすると、それに満足したように去って行って、実を言えば彼への対応には前々から困っていた。
前に一度ヤマトと一緒のシフトに入っている時に、私語がうるさいと酷く怒鳴られた覚えがあったが、とはいってもナルトはわからないことをヤマトに聞いていただけで、けして騒ぎすぎたわけでもない。一方的にがなり立てる彼は「すいません」と謝るヤマトの言葉なんてまるで聞いていなくて、騒ぎ立てるだけ騒ぐとナルトのことを射殺してしまいそうなほど睨んでから去って行った。その時のゾッとした背筋を這うような感覚は今でも忘れなくて、「世の中には色々な人がいるからなぁ」と頭を掻くヤマトに、暗に気にするなと慰められたのだが、あんな経験は容易に忘れられるわけがなかった。
最近では彼のレジはなるべく速く終わらせようと気を付けていたのに。
「あ、あのカカシ先生とは別に…」
ナルトが俯いて応対すると、男の顔が不機嫌そうに顰められる。身体を引こうとしたナルトの手に、汗ばんだ手の平が重ねられた。
「カカシ先生って、あの人はきみの学校の先生か何かなのかい。それにしてはそうは見えなかったなぁ…」
ねっとりとした声。掴まれた手を上手く言葉で表せられないが、猥雑なざわりとした触り方で撫でられて、足の爪先から頭のてっぺんまで総毛立つ。
カカシ先生には触られても全然嫌じゃなかったのにっ。
「は、放して下さい…っ」
頭の中で警鐘音が鳴り響き、ナルトは咄嗟にぱしんと音を立てて手を払う。すると男がユラユラと揺れ始めて、蒼褪めて後ずさったナルトに男は、
「拒絶するのか…」
と、ぶつぶつと呟きだす。そのまま、ふいっと糸が切れたように男は背中を向けて去って行き、我に返ったナルトの腕にはくっきりと男の手の形に痣が残っていた。どっと汗を流している自分に気付いたのは更にそのあと。





「あー、見えそうで見えねぇっ」
「ば―か」
昼休み。雑談でざわつく教室の中。窓際でだらんと腕を窓の外に放り出しキバは張り付くように窓の外を見ていた。キバの目線の先には、校庭で制服の姿のまま、バトミントンをやっている女子高生たち。彼女たちがシャトルを打ち上げるたびに膝上のミニスカートがヒラヒラと揺れて、キバはその度に頭を低くして「あー」とか「うー」とか「もうちょっと」などと唸っている。そんな友人にシカマルが雑誌を読みながら呆れた声を上げた時、腰に手を当て仁王立ちした桃色の髪の少女が彼等の前に立った。
「あんたたち、私の席の前で何やってるのよ」
「げ。春野」
「今、座るんだからどいて頂戴」
ど・け。と虫を追い払うように蔑んだ目で彼女が一瞥をくれるとキバが転がるように席を明け渡して、向かいの席でスナック菓子を口に放り込んでいたチョウジの横にお座りをした犬のように着席する。
「めんどくせぇなぁ」
机に足を乗っけて、椅子の前足を浮かせつつ、シカマルが雑誌から目を上げる。
「こんなに可愛い美少女がクラスにいるってのに、他に浮気してるからよ」
胸を反らして主張する彼女に、いやもうおまえは女に見えねぇと最初の4月でうっかり彼女の本性を見てしまったシカマル、キバは心の中でだけこっそり突っ込む。
げんなりした男たちを見回し、サクラはふと違和感を感じる。ここで「サクラちゃんそれってば超誤解。オレってばオレってば、サクラちゃん一筋だってば!」とうるさいくらい主張してくる声が今日はない?
いつもならこの手のことにはキバと一緒になって騒がしいくらい、はしゃいでいても良さそうな少年の姿がなかった気が付く。軽く首をひねって、シカマルの背後、教室の窓際1番後ろの少年の席を見ると、腕を枕代わりに突っ伏している金髪。
「…あら、ナルトったらまた寝てるの。最近、多いわね?」
「ああ、なんかバイト疲れらしいぜ」
「……授業中にも居眠りしてなかった?学費のために働いてるのに、学校に来て寝てちゃ意味がないじゃない」
サクラが100%正論を述べるとシカマルが顔を顰める。
「春野、おまえなぁ」
何よ、文句でもある?とでもいうような少女に悪気はないのだとシカマルは無理矢理納得する。
「そりゃおまえの言うように出来りゃぁいいけどよ。でも、現実はそれほど上手くいかねぇだろ?それでなくてもコイツは器用な性質じゃねぇんだし」
「だけど、養いの親御さんが居るんでしょ。その人たちに頼ればいいじゃない?」
「……こいつなりに色々考えたんだよ」
あっけらかんとした少女の、無垢故の質問。総じて面倒臭せぇと、シカマルがカシカシ頭を掻いていると、サクラが頭だけ傾け、突っ伏して寝ているナルトの顔を覗き込んで、
「…皺、寄ってるわ」
黙っていれば端正な顔なのね、と呟きつつサクラは屈んでナルトの眉間に指を当てる。しかし、その瞬間ナルトは跳ねるように起きあがり、
「―――っ」
「ナ、ナルト…?」
蒼褪めて肩で息をする少年。
「―――あ、ごめんってばサクラちゃん」
およそ、拒絶という言葉の似合わない少年のいつにない反応にサクラは驚いたように手を引っ込めた。しかし、ふにゃりと優しい「いつもの笑顔」になった少年に、ああこんな巧みな所作も出来るのだとサクラは目を見張った。ナルトのこの笑顔は人を安心させるために造られた偽りの顔であり、たった今、自分は、この子に気遣われたのだ。
なによ、ナルトのくせに生意気じゃない。「おバカねぇ」と思っていた子がひょっこりと見せた別の顔。大人びて、そしてどこか哀しくて優しい対応。
学校では明るい表情しか見せないこの少年は、本当は自分なんかよりずっと先の道を歩いているのではないかと、わけもなく取り残された気分になってしまった。
サクラが初めて金髪の少年が見せた所作になんとも微妙な胸の痛みを覚えている一方で、起き上がったナルトにシカマルとキバ、チョウジたちが集まって銘々に騒ぎ出す。
「おーい、ナルトどうしたんだ最近」
「んでもねーって」
「おまえ、昼メシは?」
「なんか食欲ねぇ……」
「ボクのお菓子わけてあげよーか?」
「…さんきゅってば、チョウジ。だけどまた今度な。なんか眠くて…。わり、ちょっと寝かしてくんねぇ?」
言うや否や、へらっと笑ってナルトが机に突っ伏す。すう、と寝息を立てて小さく丸まって寝る少年に一同は顔を見合わせる。
「ナルト。夜、眠れないのかな?」
チョウジがお菓子を食べる手を止めて、ぽつりと呟く。
「バイトで遅くなってるにしちゃー、おかしいよな」
キバも珍しく難しそうな顔を作る。
「今までバイト詰め過ぎだったのは、生活のためと、たぶん家に帰りたくねぇだろ。だけどこりゃ他にもなんかありそうだぜ」
シカマルがまとめて、キバがチョウジの方に向き直り、椅子の背凭れに顎を乗っけつつ尋ねた。
「つーかチョウジってナルトには菓子分け与えるよな。オレたちにはぜってぇくれねぇくせにさ」
「最後の一口は譲れないけどね。だって、ナルトは誰かさんたちみたいに、ずうずうしくないし」
「ずうずうしいだろ、コイツ。この間なんてオレの運動靴を勝手に履いて体育に出やがったんだぜ。で、なんて言ったと思う?〝わり、間違った〟の一言だぜ?」
「そうかな。それは本当に間違っちゃったからでしょ。でも、本当のナルトって誰に対してもいつもどこかで一歩引いているよね」
チョウジの言葉に、キバが「あぁ?」と首をひねる。
「ナルトって絶対、人の手から食べ物とか食べないの。一応、あげたらなんでも喜んでくれるのに、それ以上はどうしても踏み込ませてくれないんだよ。だからボク、その壁を取っ払いたくてナルトのことよく餌付けしてたんだよねー」
シカマルがやっぱり顔を顰めて、キバがまた難しい顔を作って、サクラの眉が潜められる。チョウジが、彼曰く誰にも譲れないらしい最後の一口を口に放り込んで、パン!と空になった菓子袋を叩く音が、昼休みでざわめいているはずの教室の中でやけに響いた。
机の上に頭だけをこつんと乗っけて、突っ伏す少年。昼メシ代わりに机の上にぽつんと置かれているイチゴミルクの200ミリパックの、その先にいる人物だけが実はそれに成功していた。





その日の夜。バイトが終わったのは深夜の2時過ぎで、ナルトは俯きながら夜道を歩いていた。電信柱の影から出て来た男に捕まったのは、コンビニを出てすぐのことだった。
「やっとひとりになった」
「!??」
「ずっと待っていたのに先に帰っちゃうなんて酷い子だ」
ナルトのバイトが終わる時間まで待ち伏せていたのだろうか、やはりあの時のサラリーマンで、ナルトは驚きの余り凍り付く。
ぶつぶつ呟く男から、〝先に帰るってなんだってば〟と距離を取るようにナルトが後ずさる。
オレンジ色の街灯の下でぼんやりと浮かび上がる男は、どこからどう見ても電車や街中で見かける普通のサラリーマンで、それが逆にナルトの恐怖心を煽った。雑踏の中に間切れてしまえば、見分けがつかなくなってしまうほど没個性的な顔立ちの男は、だけど心の大事な部分が確実にひしゃげていて、まっすぐ立っているはずの男の姿が妙に歪んで見えるのは、男の魂の形を如実に表しているからなのだろうか。
走って逃げようとしたナルトだが、くらりと目眩を感じて、いとも簡単に男の手に掴まってしまう。
「ひっ」
「……ああ、近くで見るとナルトくんはすごく綺麗な髪の毛だね。肌も人形のようだよ。そこらへんの女なんてきみのメじゃないな」
「―――さわるな、このやろっ!」
男の荒い息、生暖かい体温。壁際まで追い詰められ、その直後、×××、と男の口が身の毛立つような台詞を模って、ナルトは必死で男に抵抗する。怖い、怖い、怖い。気持ち悪い。ナルトの足が我知らず震える。
「そういえば僕のプレゼント受け取ってくれた?」
「っ!あんたがっ」
「やっと気付いてくれたんだね。僕の気持ちだよ」
「どっか行けってばっ。アンタ、頭おかしいってばよ!」
がむしゃらにナルトは暴れて男の手から逃れようとする。男の腕に、がりりと爪を立て、男が呻き声を上げた隙に男から距離を取る。男はナルトに引掻かれた腕を不思議そうに見てから、肩で息をするナルトに手を伸ばそうとして、ぱしんと払われた。
「どうして、嫌がるんだい?あの男のせいなのか?…オレの方がずっと前から君のことを見ていたのにっ」
「!?カカシ先生は関係ないってばっ。オレはあんたなんか知らないってばっ、もうオレに付き纏うなってばっ」
悔しそうに男が言って、ナルトが驚きの声を上げるが、男はまるで取り消しの効かない壊れたコンピューターのように、
「…そう。やっぱりそうなんだね。そんな生意気なことを言うようになったのもあの男のせいなんだね。前まであんなに従順に僕の言うことを聞いてくれたのに…」
と繰り返している。
「あんた、何言ってるんだってば!?」
従順に僕の言うこと!?あの一方的にナルトに嫌味を言ったり怒鳴り散らしていたことを言っているのだろうか。男の中では、今までのナルトとのやりとりが全て歪んだ形で受け取られているらしく、ナルトは改めてそれに恐怖した。
「ナルトくん」
男が目玉だけぎょろんと上げて、笑った。
「僕という恋人が在りながらどうしていろんな男に色目を使うんだい。そんなに僕を困らせて楽しいのかな?」
「……は。な、なに?」
「いいかい、これ以上、あのカカシとかいう男と親しくしたら、彼が酷い目に遭うよ」
「っ!!なんで、カカシ先生は関係ねぇってば!」
「…………」
男の手がするりと離れて、闇に溶けて行く。男が去った後もナルトの目が大きく見開かれて、血の気を失ったまま立ち尽くしていた。









 

 

 


ストーカーさんはイチゴミルク1の嫌味なことを言ってくるお堅い感じのリーマン系の人でした。

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自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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