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空気猫

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朝。起きると、カカシの握った手の先にナルトの手があった。どこか、満たされた気分になって、カカシは祈るように、その手首に口付けた。
そして、次に目覚めると、ナルトの姿は跡形もなく消えていた。今までのことは夢だったのだろうか、とすら思ってしまう。しかし、シーツに手を伸ばせば、微かにあの少年が居た温もりがあり、キッチンにはきちんと朝ご飯まで用意されていた。
カカシは軽く焼いたトーストを齧りながら、書き置きの手紙を眺める。
「学校か…」
放課後、カカシの家に寄る旨もそこには記されている。カカシは、シャツをお座成りに引っ掛けたままの姿で、ぼんやりと椅子に座る。そのまま一人アパートの部屋に居ると、日が上がって、影って行く時間帯すら曖昧になる。ナルトがいない部屋など、カカシにとってこんなものだ。
色彩を欠いたノーカラー。あの子がいないままでは。
それでも、部屋の掃除だけはしようと思い立った。前日、カカシが突っ込んで散らかした個所は、ナルトが学校に行くギリギリの時間で片付けてくれたらしく、綺麗に整頓されていた。
ダンボール箱に入った砕けたガラスに手を伸ばすと、ガラスがキラキラと手の中で光っていた。ダンボール箱いっぱいに集められたそれは、ナルトが一個一個集めてくれたものらしい。
「こんなのガラクタだから捨ててしまっていいのに」
カカシはガラスの破片を手に取って項垂れる。
「ナルト…」
きらきら光るガラスの欠片に何故か胸を締め付けられる。ふと視線を上げると、細く長い声が聞こえた。―――ああ、ナルトが泣いている。
どこで泣いているのだろう?
あの子はいつも一人で泣くから、見つけてあげなくては、と自然と腰が上がってしまう。





ナルトは、無人となった一軒家の前に立っていた。〝波風家〟の名札が掛ったそこは、ナルトの旧家と言える場所だ。荒れ放題の庭に入り、小さな倉庫まで辿りつく。真っ暗な倉庫の中に入ると、不思議と気持ちが落ち着いた。
(――オレなんかがおまえを好きになっちゃいけなかったかもしれない)
カカシの言葉を思い出して、ぽたた、と涙の粒が抱えた膝の上に落ちた。
一度、落ちるとそれはとめどめなく溢れて、やがて、視界が滲んだ。なんとなくこれまでのいろんなことを思い出してしまったのだ。
ふと視線を移すと絵本が落ちていた。昔、ナルトが大好きだった絵本だ。カカシの家にあったものは最後のページが破れていて、ラストがわからなかったのだ。
ナルトは好奇心から絵本を手に取った。破れて見れなかった最後のページには、手を繋ぐ灰色ねずみと子供の姿。灰色ねずみの腹の中から出て来た子供が、自分の風船を差し出して、灰色ねずみのブリキの心臓と交換している絵。そう、子供が風船を渡したかった相手は、最初から灰色ねずみだったのだ。
〝鉄壁の檻なんかで捕まえていなくても〟
〝ずぅっときみと傍にいるよ〟
そして一匹と一人はいつまでも幸せに暮らしましたとさの一文。
「はは…。なんだ、この絵本。ハッピーエンドなんじゃん」 
笑った、ところでガララと扉が開いて、外の光が差し込んだ。
「見ぃつけた、ナルト」
倉庫の中で、座り込んでいるナルトを、逆光で見下ろしている人物はそう言って、にっこりと笑った。
「こんなところでなにしてるの」
「なに。おまえ、泣いてるの?鼻水出てるよ、きったないねぇ…」
「う、うるせぇってば」
カカシにからかわれ、ナルトは鼻の頭を擦って赤くさせる。
「なんで、オレが泣いている時に限って来るんだってばよぉ」
「ははは。ごめーんね」
謝っても、カカシはきっと何度でもやってくるのだろう。ナルトが泣いている場所に。なぜだか、そんな気がした。





カカシとナルトが、いつかの日のように河原を二人並んで歩く。前を歩くカカシの背中にナルトは声を掛ける。
「あのさ、カカシ先生。カカシ先生の父ちゃんは自殺じゃないってばよ」
唐突に、突拍子もないことを喋り出したナルトを振り返ってカカシが驚いたように目を見開く。
「何を言ってるの、ナルト。父さんは自殺したんだよ。オレの目の前で〝すまん〟って謝って、トラックに自分から身を投げたんだ」
「違う。カカシ先生の父ちゃんはこう言いたかったんだ〝カカシ、すまん。いい父親ではなかったな〟〝これからは二人で頑張ろう〟って言いたかったんだってばよ」
きっと死ぬつもりなんてなかったんだってばよ、とナルトが言う。
「嘘だ。父さんは、オレを置いて行った」
「違う。カカシ先生の父ちゃんは死ぬつもりなんてなかった。きっと事故だったんだってばよ」
「………」
〝きっと〟ばかりの不安定な慰め。〝きっと〟なんてあるはずがないのに。それでもナルトは〝きっと〟違うのだというのだ。だけど、ナルトの瞳には、迷いはなく強さしかなかった。
「あのさ、カカシ先生。死んだ人は偉大だってば。だってもうその人を追い越すことはできないから、どんどんその人の存在が大きくなっちまう。でも、今ここで生きているカカシ先生の存在は、それ以上に大事なんだってば。だから、過去にどんなことがあったとしても、それに囚われることなくカカシ先生は幸せに生きていいんだってばよ」
「駄目だよ。ナルト。オレにはそんな資格がない…」
カカシはたくさんの人に恵まれて育った。家族、友人、仲間、だけど、それを受け入れたことはなかった。それとは逆にうずまきナルトという魂は何も持たずに生まれて来た。そして、それ故にそれがどれほど大事なのか、誰よりもよく知っている。
「オレとおまえは似ているけど、決定的に違うよ。持っているものを受け入れないオレと、持たない哀しさを知っているおまえとでは、まったく違ったんだ。誰かを嫌悪して、生きてきたオレに、おまえを愛する資格なんてないっ」
サラサラと河の音が響いた。ナルトはカカシの言葉を逡巡した挙句、真剣な眼差しではっきりと言い切った。
「それでもオレはカカシ先生が好きなんだ」
もう決めた、とナルトは宣言した。
「オレが、カカシ先生を選ぶんだ」
だから、誰にも文句なんて言わせない。もちろん、カカシ本人にも。
なんという傍若無人な我儘だろう、とカカシはうろたえた。嬉しかった、酷く泣きそうなほどに。ナルトが誰でもない、自分を選んでくれたことに。
「また、そんな無茶言って…っ」
「カカシ先生。お願いだから〝今〟を期待して生きて。カカシ先生の居場所はどこでもない、ここだってばよ」
ナルトがふんわりと笑う。きらきらと太陽の光が河原に乱反射して、ナルトの金髪もそれを受けて一層輝き…壮絶に綺麗だった。
「だめだよ。ナルトはオレと違ってちゃんと明るい道にいかないと…」
「どうしてだってば。オレってば、そんなに綺麗な人間じゃない。誰が、オレの歩く道を決めれるんだってば。オレは、カカシ先生と同じ道だってちゃんと歩ける」
以前はカカシの膝元しかなかった子供が今は、苦笑しながらカカシの肩の下、すぐ隣に並んで歩いてくれる。爪先立ちでキスをされて、カカシの瞳からぽろりと涙が零れた。
「ナルト…、ごめん」
「そういう時は〝ありがとう〟!」
「ありが…?」
「そう。ごめんなさいの代わりにありがとうだってば。わかったってば、カカシ先生?」
「わかった。……ごめ―――、ありがとう」
 ニシシと笑って、ナルトはカカシの手を取った。そのまま、二人は河原を歩いて行く。
「ナルト」
「ん?」
「オレは、十年前から少しは変われたかな。何かを見つけられたかな?」
おまえに、少しは返すことができただろうか。好き合って、こうして手を繋いで歩いて。愛するゆえに傷つけて、だけど傷つけ合うほど愛せたおまえに、おまえがオレを救ってくれたように、オレもまたおまえを救いになることが出来ただろうか。
「ナルト」
「んー?」
「オレは、もう独りで生きていけるなんて強さはゴミ箱に捨てようと思う。オレは、おまえと生きて行くよ」
「んあ?」
「ん~、なんでもない」
「何、何、カカシ先生。愛の告白~?」
「うん。オレにしては、結構凄い告白…」
カカシは視界がとてもクリアになった気がした。ナルトは、隣を歩くカカシのもう一方の手に握られているものに気付く。
「ガラス?」
「ああ、うん。とても綺麗なものが創れそうな気がするんだ」
優しく視線を落としたカカシの手の平には、とても綺麗とは言えない歪なガラス屑。ナルトが首を傾けるとカカシが笑う。
「―――新しい絵の題名はどうしようかな」
今なら、世界のすべてがきちんと歪まないで見える気がするから。
たくさんのガラス屑を集めて、あのアパートで色取り取りのモザイク画を作ろう。おまえに贈るプレゼントを作るんだ。もう一度、この手から何かを産み出したいと思う。
オレの目で見た世界の美しさを、それを教えてくれたおまえに少しでも返したいから。





 








end

最後までお付き合い下さりありがとうございました。最長の連載ということで感慨深い気持ちです。

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空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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