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空気猫

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猫が趣味に走りましたよ!なイチゴミルク9

前半、飛ばして読みましょう。








ナルトの父親のミナトが手紙の一通も残さずに行方を晦ましたのはナルトがまだ7歳の頃のことだった。
UZU商事という大手外資系企業のサラリーマンとして働いていた彼は、ある日、ナルトが家に帰ると部屋にベットだけを残して忽然と消えていた。
外でシカマルやチョウジとボール遊びをして帰宅したナルトは、自分の頭半分ほどの大きさのボールを抱えたまま、荷物の無くなった部屋をただ呆然と見つめて立ち尽くした。夕焼けに真っ赤に染まる部屋の中で、伸びた影がやけに頼りなくゆらゆらと揺れて、ナルトは、父のけして多かったわけでない身の周りの品が全て消えていることに、戸惑いを覚えた。
まだ物心ついたばかりの少年に、家族が一人欠けてしまうという事実は、現実のものとしては認識できなくて、きょとんと何度か首を傾げ、もう二度と使われることのないであろう、皴のよったシーツを撫ぜたが、大好きだった匂いも温度も、もうそこにはなくて、母親が帰宅するまでナルトは持ち主の居なくなった部屋の隅で膝を抱え座り込んだ。
それはちょうど、ミナトが前の仕事を辞めてサラリーマンとして勤め始めて、1年たった頃のことだった。
UZU商事の社長令嬢だったクシナと、ミナトがどこで出会い結婚したのかは謎だが、二人が周囲の反対を押し切り結婚したことだけは確かだった。
あとから母親のクシナに聞いた話しではミナトはクシナとの結婚を許される代わりに、クシナの父である人物の要請で(ナルトは彼が苦手なのだが)半ば強制的に、跡継ぎとしての役割を課せられたらしく、次期社長となるべく、義父傘下の会社で働き始めたらしい。だけど、元が自由奔放な気質だった父は、黒山のサラリーマンの中では異分子だった。
父にとってサラリーマン同士の上辺だけの社交辞令は理解不能でしかなく「なんできみたちは楽しくもないのに笑っているんだい?」と笑顔で言って周りを凍りつかせることを得意としていたらしい。
蓄一がそうであったのだから、あとになって母のクシナは「あの人にはネクタイを締める職業が向いてなかったのね」とあっけらかんと笑った。
名刺交換のタイミングがグダグダなサラリーマンなんて本当にどうしようもねぇ人だってばよ、なんてナルトはズレたことを思いつつ、つまり、ナルトは父親に捨てられたわけなのだが、だからと言って彼を責める気持ちには成れず、むしろ毎日、笑いながら職場に出勤していた彼が、クシナとナルトいう家族を維持するためにそんな苦労をしていたのかと思うと申し訳ない気持ちになった。
ミナトが失踪する数日前の夕方。河原を散策した帰り道、手を繋いで家路に着いたのが、ミナトとナルトの最後の思い出だった。ミナトは仕事でどんなに疲れた休日も息子のナルトと一日中過ごすような父親で、その時のことはもうぼんやりとしかもう覚えていないが、ナルトは父親の腕に全身の体重を掛けてぶら下がっては振り子のように足を浮かせるという遊びを発明して、
「ナルト、痛いよ」と、痛がる父の表情が面白くて、飽きることなく繰り返していた。大好きな大人を困らせたくなるのは子供の不思議な習性の一つだが、ナルトは特にそれが好きな子供で、よく悪戯をしては彼を困らせた。(例えば、出勤前のミナトの腕時計を隠したり、靴の紐をこっそり結んで蹴躓かせたり)
だが、どんな悪戯をしても、ナルトはついぞミナトに叱られた記憶がなどなく、彼の顔で思い出すのはいつも柔らかい困ったような笑顔だった。
その日も、ミナトは悪戯っ子の顔でニシシと笑うナルトを見下ろして、少し困ったような柔らかい表情で笑った。今思えば、夕日の中で振り返ったあの時の彼の笑顔はあれはもう全てを決心していた顔だったが、彼との記憶は今でも柔らかくて優しい飴色の思い出に包まれていた。
その後、父の失踪に激怒した義父が家に押し掛けて来たり、ナルトとクシナは離れ離れにさせられたり、色々なことがあったが、今でもあの空っぽの部屋を思い出すと怖かった。あの瞬間、たしかにナルトは始めての喪失を経験したのだから。
夕暮れの真っ赤な部屋で、家族という一番確かだと思っていた集団が崩壊した時、この世に絶対なんて繋がりの人間関係はありはしないのだと、ナルトは7歳にして悟った。
祖父代わりの老人が死んだ時、その思いは一段とナルトの中で強くなって、それ以来、人と繋がりを持つ時、いつか壊れてしまうことを前提で、付き合いを持つようになった。それがナルトが人と関わる時に持つ壁だというのなら、ああそうなのかもしれないと思う。だって、もう自分は何も失いたくなかった。手に入れて零れ落ちていく不確かなものなんて、どうか初めから差し出さないで欲しい。失う哀しみなんて二度と味わいたくないのだ。
だから、けして何事にものめり込まない。距離を取り、一歩引いていれば、失った時の哀しみが少なくなるから。
綱手が養いの親として申し入れをしてくれた時、有り難いと思うと同時に、この温かくて優しい人たちをこれ以上好きになってはいけないと線を引いた。
2年。それが限界だった。どんなに線を引こうとしても、じわりじわりと侵食してくる、おままごと遊びのように始った〝擬似家族〟。だけどそれが〝ホンモノ〟に変りそうになるにはそう掛からなくて、綱手のばあちゃん、シズネ姉ちゃん、ゲン兄を始め工員の皆。ナルトの中でまた掛け替えのない人たちが出来てしまった。大事なものなど作りたくなかったのに。
このままでは、また失う哀しみを経験してしまうと、ナルトは本当のところ半ば逃げるように綱手の工場から飛び出した。
アパートで暮らし始めると、孤独が襲ったが、気が楽になった。独りならもう何も失わない。傷付かない。誤魔化すようにバイトにのめり込んだ。
それなのに、またナルトの前に、不可思議な人物が現れた。微妙な距離を取りつつ、近付いて来た彼は、ナルトが拒否をするにしては、遠すぎて、だけど確実に近付き、気が付けばひょっこり隣に居た。素知らぬ笑顔と共に。
最初の出会いなど、本当のことを言えば覚えていない。それほど密やかに始っていたのだから。
木の葉マート夜の10時きっかり。いつも決まった時間に現れて、世の中には随分綺麗な人がいるものだなと、思ったのがきっかけで、なんとなく目で追うようになり、いつの間にか彼の来る時間を意識するようになった。
そのうち短い挨拶を交わすようになり、名前を知った。名前を知ったからと言ってお互い呼び合うでもなく、数週間が過ぎて、ヤマトとの会話から発展したひょんなことから、お客さんのはたけカカシは〝カカシ先生〟になって、コンビニ店員だった自分は〝ナルト〟になった。
一度、そうやって硬い結び目が解けると、あとはするすると親しくなって、だけどカカシは一定の距離以上近付いて来なかった。
境界線が破られたのは、あの夏の日とナルトが倒れそうになったあの日。お客さんのはたけカカシが〝オトナのオトコノヒト〟なのだと意識した。
彼といると、ふわふわとした、それでいて不思議な気分になった。シカマルやキバやチョウジたち以外で初めてだった。ナルトがちょうど良いと思う距離を維持して接してくれた人は。それでいて、生温いお湯の中に居るようで、後ろから包み込まれているような、安心感があって。――――ああ、オトウサンみたいなヒトだと、ナルトは思ってしまった。
ダメだと思いつつ、彼と父親を重ね、だけど父親にはない心臓がひとつ飛び跳ねてしまうようなドキドキした気持ちもあり、わからない、わからないことだらけなのだ彼についての感情に関しては。
まだ、この感情に名前は付けられなくて、知り合いだというにしては親しすぎて、友だちというにしては、年が離れすぎていて、じゃあ二人の関係ってなに?と人様から聞かれれば、呆然としてしまう、コンビニ店員とお客の枠組みを取っ払うと、途端に宙ぶらりんな二人。ちぐはぐで接点なんてまるでなくて、それでも不思議と会話に詰まったことがなくて…、ああ、彼を失いたくないと思った。
もう失いたくない。―――だから、オレは。
たくさんのものを喪失した子供だった少年は失うことに慣れて、それと同時に臆病になっていた。



夕方、目が覚めるとシーツが濡れていた。なぜだろうと首を傾げて、自分の頬に伝う滴に気が付く。どうやら眠りながら泣いていたらしい。
――もうナルトが嫌だっていうなら来ないよ。
寂しそうに伏せられた色違いの瞳。ごめん、ごめんなさい。心の中でもう何度カカシに謝っただろう。ナルトは、涙で滲んだ視界を片腕でごしごし擦って拭う。
「バイト。行かなきゃな…」
ダルい身体を叱咤しつつ、もう仕度をするのも面倒臭くて、そのまま玄関に向かう。だけど、
「ヒッ」
ドアノブを捻り、外に出たところで、羽根を千切られた小鳥の死骸、ぐちゃぐちゃに潰された肉の塊にナルトの喉が短く息を呑む。
数羽の小鳥の血で濡れたコンクリの真ん中にはジャックナイフと共に、いつ撮影したのだろうかカカシとナルトがレジで向かい合っている写真。それは鳥の死骸と同じくらい歪められ、血塗られていた。
「違うっ、仲良くなんかしてないってばっ」
どこにいるかもわからない相手に向かって、声を張り上げるが、答えは返って来なかった。




「ナルトくん、最近元気がないねぇ。顔色も悪そうだし、今日は早めに上がっていいよ?」
「だ、大丈夫です。オレってばへーきだってば!」
にっこり笑って見たが、いいからもう帰りなさいと、店長…秋道チョウザに追い立てられて結局、二時間も早くバイトを切り上げることになった。
木の葉マートは秋道家が経営するコンビニだ。なぜ息子のチョウジを雇わないのかと言えば、以前自分の息子に店番をさせた時に店中のスナック菓子を勝手に平らげてしまったからに他ならない。
そんな事情もあり、チョウジの友人であるキバやナルトがコンビニ店員として雇われることになったのだ。
表情に出ちゃうなんてオレもまだまだだってばよと、ため息と共にコンビニを出れば、深夜に差し掛かってはいないとはいえ、もう人通りの少ない時間帯。
――コンビニの帰り道が怖くなった。一度、あの男に待ち伏せられてからというもの、警戒して帰っているものの、自転車を買うのも既に億劫で結局徒歩のままだ。予算のことを考えればタクシーを使うわけにも行くまい。(んなことしたらバイトしてる意味がねーっ)
だけど何度目かの角を周ったところで、後ろから等間隔で付いてくる足音に気が付いた。ナルトの背筋に冷やりとしたものが伝う。
念のため、自分の歩幅の少し速めてみると追い掛けて来る足音も同じように変化する。
(――っ!!)
背中をぞわりとしたものが撫でて、弾かれたようにナルトは駆け出した。怖い、怖い、怖いっ。恐怖で足が縺れそうになりながらも走る。
「やだぁっ!!」
「―――ナルト!?」
半ば転がるように足音を振り切り、角を曲がった所で、ふわりと香った男物の香水。外套の中に、ナルトの身体がすっぽりと受け止められる。
「おまえ、どうしたの?」
「んせ……」
ガタガタと小刻みに震える少年の様相に何事かと、カカシが目を見開いている。
「どうした。寒いの…?」
どうしよう。なんでこんなタイミングで現れるのだろう、この人は。
ことさら優しくて柔らかい声が、降ってくる。ナルトが俯いて首を振ると、躊躇い勝ちに頭をよしよしと撫でられて、くしゃりと歪む表情を抑えられなかった。
(カカシ先生、緊張してるってば。オレがイヤがると思ってるから…?)
「……ナルト?」
それでも余裕のある大人の声を作って話しかけてくれる、この手をどうして振り払えようか。だめだと思うのに、震える手はカカシのシャツをしっかりと握り締めて、戸惑ったようにナルトを抱き返したカカシに、ナルトの涙腺が決壊した。
ぽたりとアスファルトに落ちた涙の滴の中。銀髪の大人と少年の姿だけが逆さまに内包されて。
半円形の透きとおった世界には二人だけしかいないみたいだった。
もっとも、そんなことは抱き合う二人は知る由もないことだったが。



  
 





 

 







 

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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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