空気猫
空気猫
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お父さん世代の過去話は連載で書きたいくらいだ。
「つい先日、あの演習所付近の地表に空から降ってきた大きな石が衝突しました。どうやら、その石が付近の磁場を乱したらしく、その関係で、死者が生き返ったのではないかと」
報告係の科学班の男がサクモとミナトを前にモゴモゴと説明をする。彼の背筋に緊張が走っているのは、無理もないことかもしれない。なにしろ、木の葉で「伝説」と呼ばれる人物たちを目の前にしているのだから。加えて…、同じく縁側に座るその人たちは息子たちも含めて美形揃いときた。
「ふぅ~ん。なるほど、じゃあしばらくの間は夏休みってことでこっちにのんびり出来るのかなぁ?」
一番最初に口を開いたのはミナトだった。うーんと身体を伸ばした黄色い閃光は、
「他の死者が生き返ったという報告は?」
「今のところまだありません」
「でも、その可能性も加味して、火影様に対策を立てておいたほうが良いとお伺いを立ててくれないか?」
腐っても元火影というべきか、表情を引き締めると凛々しい〝伝説の英雄〟の顔になる。ほう…と科学班の男から感嘆のため息が吐かれる。
「ん!そういうわけでオレたちは、もうしばらく息子たちのお世話になることにするよ!よろしくね~、二人とも!」
「ミナトくん。二人なら、とっくに家を出て行ったよ。たまにはデートに出してあげるのもよかろうと思ってね」
「~~~!?サクモさん、黙って見ているなんて酷いじゃないですか~~~!!」
今すぐにでも追いかけて行きそうな勢いのミナトにサクモが制止を掛ける。
「みだりに里内を歩かないよう火影様から伝達が来ていただろう。それに今、二人の邪魔をしに行ったらナルトさんが怒ると思うが…」
「!!?おのれ、カカシくんめぇ~~!!オレのナルくんがぁあぁ!!」
激高するミナトの横でのんびりとサクモが湯呑を啜る。そんなわけで、その日の午後は父親組がはたけ家に残ることになった。
空を陣取る太陽が天頂に昇る頃。その訪問者たちはやって来た。
「………っ。ミナト。本当に蘇えってやがるっ。おまえって奴は本当に…バカヤロウっ」
縁側でサクモとお茶を飲んでいたミナトは訪問者の顔を見て、緩やかに破顔した。
「やぁ、シカク。久しぶり。おまえ、随分と老けたなぁ…」
「当たり前だ!こちとら、おめぇがフェードアウトした後もきっちりかっちり地べた這いずってうん十年生きてるンだよ!!」
鼓膜を震わす耳慣れた怒号に、またミナトは笑った。シカクの背後には、言わずと知れた旧友たちの姿があった。秋道チョウザに、山中イノイチ。ミナトが記憶するより、年を積み重ねているものの、それは懐かしい顔ぶればかりで、思わず顔がほころぶ。
「本当にひょっこり帰って来やがって…オレたちがどれだけおまえがいなくなったあと…っ」
「うん。ごめ~んね。―――…ただいま」
ニコニコと笑う金髪蒼眼の男――その無邪気さと儚さは寸分と違わず、記憶の中の彼そのもので、眩暈を起こす。
まるで、あの日の災厄などなかったかのように。
雨に濡れ、血塗れになった亡骸をこの目で見たというのに。魂の抜けた腕を、何度も握ったというのに。
その全てが幻であったかのように、シカクたちの前に彼が居た。ずっとこの里でこうして笑っていたかのように。
眩しいものでも見るように、シカクが目を細め、そこでシカクはミナトの横に居る人物にも視線を向ける。
「サクモさん。お久し振りです…」
「シカクくんかぁ。懐かしいね。すっかり立派になって。私が覚えているのはまだ若い君だったから…。今は私と同じ歳くらいかね?」
「まぁ…。貴方よりは老け込んでますが…」
若干頬を引き攣らせながら、シカクが片頬を引っ掻く。
「おかげさまで、息子にも恵まれまして…。ぼちぼち平々凡々にやってますよ。悩みといやぁカミさんが恐いことくらいっすかねぇ」
「へぇ。あの君が今や妻子持ちなのかい。時代は、流れるものだねぇ」
「はい。まぁ、それと言うのもサクモさんが、面倒くせぇばっかり言ってたオレが任務でポカした時も見捨てず助けてくれたおかげです」
「そういうこともあったねぇ…」
遠い昔の思い出を振り返ってサクモが視線を細める。
「オレは、感謝しています。あの時サクモさんが上官じゃなきゃぁ、ひよっこな新米忍者なんて簡単に死んでた。カミさんと出会えたのも、息子の成長を見守れるまで生き残れたのも、結果的には全部サクモさんのおかげです」
だからっ、とシカクは眉間の皺を険しくして、縁側に座る男の前に立つ。
「こんなこと貴方に今更言うことじゃねぇってわかってます。蘇えった貴方相手にぐだぐだっつぅのは、アンフェアだと思います。だけど、一言だけ、どうしても伝えたいことがあります」
サクモの静かな視線が注がれる中、奈良シカクは怒号した。
「どうしてオレたちを、待っていてくれなかったんですか!!」
ビリリ、と上忍の怒りが長閑な空に浸透する。上空で里でよく見掛ける鳥の囀りが木霊した。
「オレたちをもう少し信用してくれても良かったんじゃないですか!せめて、オレたちが里の中枢に食い込むまで、待っていて欲しかった。貴方が糾弾されたことは間違っていたから、それをオレたちが正すまで!あんな時代だから、人の命が軽んじられていた。だけど、貴方がやったことは恥ずべきことですかっ?違う。誰もが、疲れ、疲弊し、正しい答えを見失っていた…。間違っていたのは貴方じゃない、里だった…」
「シカクは、貴方の死後に、里が下した判断は間違っていたと上層部に、〝木の葉の白い牙〟は裏切りものではなく英雄なのだと、貴方の行為の再評価に努めたんですよ」
「君が…?」
懐かしいなぁ、とミナトが笑って「もちろん、オレも協力したんですよ。サクモさん」と瞳を細める。
「あの時代、貴方に命を救われた忍は数えきれなかったでしょう。今、笑って飯食ってる奴の何人かは貴方に感謝をしなきゃいけない。
命が軽んじられてた時代に、忍として最前線で任務をこなすこと中、命を重さを忘れることがなかったのは、貴方の隊に参加出来たからです…」
シカクは口をへの字に結ぶと、ぽかんとしているサクモを真っ直ぐと射抜いて屹然と立つと、そのまま礼をした。
「失礼しました。どうしても、貴方に言っておきたくて。拙かった自分の力の無さが恥ずかしく、無念で悔しく、堪え切れませんでした。理不尽な八当りだと思って、忘れてくれて結構です」
「今、私は怒られたのかな…?」
「はい。怒りました」
「そうか…」
息子のそれより幾分か色素の薄い睫毛がゆっくりと伏せられる。薄い唇に薄らと浮かぶ微笑。
「ありがとう、シカクくん。私は、思っていたより部下に好かれていたんだな…」
そうですよ…とシカクがお辞儀の体勢のまま俯き、地面に向かって静かに嗚咽していた。
「だから、オレたちは貴方に一人で全てを背負って逝ってなど、欲しくなかったです」
小さく呟かれた言葉は、サクモに数十年を経て伝わった確かなメッセージだった。シカクの言葉に、チョウザとイノイチも力強く頷いている。
「すいません。本当に、蛇足でした」
「いや。いいよ…。凄く嬉しかったから…」
サクモは、小さな子供のように屈託なく微笑む。微笑むと目尻に笑い皺が出来て、それがより優しげな印象を人に与える。
「そういうのをストレートに言うのは、反則ですっ。隊長っ」
「はは。すまん…」
シカクは顔を真っ赤にさせ、恥ずかしさを誤魔化すように同じように笑っていたミナトにがなる。
「今日は宴会だ!忘れもしねぇ、19年前の飲み比べ対決は、てめぇが勝ち逃げだったからな。せっかく生き返ったんだ、今度こそ、負かしてやるぜ…!」
「ははは。シカク。よくそんなこと覚えているねぇ」
「オレの記憶力を舐めるんじゃあねぇぞ。ミナト!」
「今日は秋道家御用達の最高級の肉をたっぷり用意したからね」
「山中家の秘蔵酒も用意しましたよ。さぁ、飲みましょう」
宴の始まりを告げる高らかな笑い声が、はたけ家の庭に響いた。
「あ~。信じらンない。あいつら。本当に、よんじゅう過ぎてんのっ?うわばみもいいところだよねっ。もう、飲めな~い」
くくく、と四代目の嘆きに、サクモが肩を揺らして笑っている。
「なんですか?」
「いや。そう言いながら、ミナトくんが一番強いのも、昔と変わらないなぁと思ってね」
夜空に月が昇る縁側で、サクモがのんびりと酒の入ったお猪口を傾ける。ミナトは、寝転がったままの大勢でサクモを見上げた。
「そういうサクモさんだって、オレたちにいいだけ付き合っておいといてほとんど変わらないじゃないですか」
「私はね、きみたちと違って飲むペースを考えてそれを崩さないだけで、そんなに強いってわけじゃないんだよ?」
サクモの答えに、ミナトは面白くなさそうな顔をした。宴会場となった居間では、潰された猛者たちの高らかないびきが聞こえる。サクモは、ミナトの視線を感じながら、杯を傾けた。
「ねぇ、ところでミナトくん。今日は昼間にシカクくんにガツンと言われて、少し頬を叩かれた思いだったよ」
「はは。サクモさんが〝ガツン〟ですか?」
静寂の中に二人分の話し声だけが響く。月光が、影のない二人のシルエットを映し出す。
「私は…、自分の息子を見捨てた。あの子を置いて、自ら命を絶った。結果的に、弁明のしようもないほど、幼いあの子に酷いことをしたと思っているよ」
ミナトは寝転がっていた居住まいを正して、サクモの隣に腰掛ける。
「そんなこと言うなら、オレなんて実の息子にとんでもないものを押し付けて、おっ死んだ、酷い父親ですよ」
お互い様です、とミナトが苦笑する。
「あの時は、自分さえ死んでしまえば、全てが終わると思ったんだ。周囲に迷惑を掛けない一番良い方法だと思った。私さえいなくなればと…」
「………」
「それは間違いだったかもしれないね。逃げずに、立ち向かうべきだった…。いや、もっと周囲をよく見るべきだったかな…?」
もうすでに選んでしまった選択肢を変えることなど出来ないけれど、とサクモが微笑む。ミナトは、眉を寄せると月を振り仰いだ。
「ま、死んでしまえば、みんな棚に登って神様だって言うじゃありませんか。気楽に行きましょう。今、ここに居られるのもとんでもないオブザーバーみたいなものなんですから」
そして何を思い出したのか、彼はけたけたと笑い出した。
「まぁ、オレなんて、人のことをちっとも言えず再会した瞬間に殴られましたけどねぇ」
「きみは少し落ち込んだ方がいいんじゃないかね…?」
サクモの言葉に、ミナトはまた苦笑する。そして、その笑い顔のまま庭先を見詰めると、ぽつりと零した。
「我慢する、って言われちゃったんです」
あの時、息子の腹の中で、初めてきちんと親子として再会した時に。
「四代目の息子だから我慢するって…」
オレ、馬鹿親ですよねぇ…本当に。
「すっごい後悔しましたよ」
恨み事を言われた方が、まだ胸は傷まなかったかもしれない。ただ、我慢すると、俯かれた。たぶん、あの子はそう育った。度重なる環境からそういう子に成長したのだろう、と思い知らされた。
「だから、こうしてもう一度、息子に会えて話す機会が出来たことをオレは感謝していますよ。謝罪しきれない後悔は尽きませんが、それでもオレはこれを誰かが与えてくれたチャンスだと考えています」
月夜に呟かれた故人たちの会話は、そのまま彼等の息子たちに向けられた。
報告係の科学班の男がサクモとミナトを前にモゴモゴと説明をする。彼の背筋に緊張が走っているのは、無理もないことかもしれない。なにしろ、木の葉で「伝説」と呼ばれる人物たちを目の前にしているのだから。加えて…、同じく縁側に座るその人たちは息子たちも含めて美形揃いときた。
「ふぅ~ん。なるほど、じゃあしばらくの間は夏休みってことでこっちにのんびり出来るのかなぁ?」
一番最初に口を開いたのはミナトだった。うーんと身体を伸ばした黄色い閃光は、
「他の死者が生き返ったという報告は?」
「今のところまだありません」
「でも、その可能性も加味して、火影様に対策を立てておいたほうが良いとお伺いを立ててくれないか?」
腐っても元火影というべきか、表情を引き締めると凛々しい〝伝説の英雄〟の顔になる。ほう…と科学班の男から感嘆のため息が吐かれる。
「ん!そういうわけでオレたちは、もうしばらく息子たちのお世話になることにするよ!よろしくね~、二人とも!」
「ミナトくん。二人なら、とっくに家を出て行ったよ。たまにはデートに出してあげるのもよかろうと思ってね」
「~~~!?サクモさん、黙って見ているなんて酷いじゃないですか~~~!!」
今すぐにでも追いかけて行きそうな勢いのミナトにサクモが制止を掛ける。
「みだりに里内を歩かないよう火影様から伝達が来ていただろう。それに今、二人の邪魔をしに行ったらナルトさんが怒ると思うが…」
「!!?おのれ、カカシくんめぇ~~!!オレのナルくんがぁあぁ!!」
激高するミナトの横でのんびりとサクモが湯呑を啜る。そんなわけで、その日の午後は父親組がはたけ家に残ることになった。
空を陣取る太陽が天頂に昇る頃。その訪問者たちはやって来た。
「………っ。ミナト。本当に蘇えってやがるっ。おまえって奴は本当に…バカヤロウっ」
縁側でサクモとお茶を飲んでいたミナトは訪問者の顔を見て、緩やかに破顔した。
「やぁ、シカク。久しぶり。おまえ、随分と老けたなぁ…」
「当たり前だ!こちとら、おめぇがフェードアウトした後もきっちりかっちり地べた這いずってうん十年生きてるンだよ!!」
鼓膜を震わす耳慣れた怒号に、またミナトは笑った。シカクの背後には、言わずと知れた旧友たちの姿があった。秋道チョウザに、山中イノイチ。ミナトが記憶するより、年を積み重ねているものの、それは懐かしい顔ぶればかりで、思わず顔がほころぶ。
「本当にひょっこり帰って来やがって…オレたちがどれだけおまえがいなくなったあと…っ」
「うん。ごめ~んね。―――…ただいま」
ニコニコと笑う金髪蒼眼の男――その無邪気さと儚さは寸分と違わず、記憶の中の彼そのもので、眩暈を起こす。
まるで、あの日の災厄などなかったかのように。
雨に濡れ、血塗れになった亡骸をこの目で見たというのに。魂の抜けた腕を、何度も握ったというのに。
その全てが幻であったかのように、シカクたちの前に彼が居た。ずっとこの里でこうして笑っていたかのように。
眩しいものでも見るように、シカクが目を細め、そこでシカクはミナトの横に居る人物にも視線を向ける。
「サクモさん。お久し振りです…」
「シカクくんかぁ。懐かしいね。すっかり立派になって。私が覚えているのはまだ若い君だったから…。今は私と同じ歳くらいかね?」
「まぁ…。貴方よりは老け込んでますが…」
若干頬を引き攣らせながら、シカクが片頬を引っ掻く。
「おかげさまで、息子にも恵まれまして…。ぼちぼち平々凡々にやってますよ。悩みといやぁカミさんが恐いことくらいっすかねぇ」
「へぇ。あの君が今や妻子持ちなのかい。時代は、流れるものだねぇ」
「はい。まぁ、それと言うのもサクモさんが、面倒くせぇばっかり言ってたオレが任務でポカした時も見捨てず助けてくれたおかげです」
「そういうこともあったねぇ…」
遠い昔の思い出を振り返ってサクモが視線を細める。
「オレは、感謝しています。あの時サクモさんが上官じゃなきゃぁ、ひよっこな新米忍者なんて簡単に死んでた。カミさんと出会えたのも、息子の成長を見守れるまで生き残れたのも、結果的には全部サクモさんのおかげです」
だからっ、とシカクは眉間の皺を険しくして、縁側に座る男の前に立つ。
「こんなこと貴方に今更言うことじゃねぇってわかってます。蘇えった貴方相手にぐだぐだっつぅのは、アンフェアだと思います。だけど、一言だけ、どうしても伝えたいことがあります」
サクモの静かな視線が注がれる中、奈良シカクは怒号した。
「どうしてオレたちを、待っていてくれなかったんですか!!」
ビリリ、と上忍の怒りが長閑な空に浸透する。上空で里でよく見掛ける鳥の囀りが木霊した。
「オレたちをもう少し信用してくれても良かったんじゃないですか!せめて、オレたちが里の中枢に食い込むまで、待っていて欲しかった。貴方が糾弾されたことは間違っていたから、それをオレたちが正すまで!あんな時代だから、人の命が軽んじられていた。だけど、貴方がやったことは恥ずべきことですかっ?違う。誰もが、疲れ、疲弊し、正しい答えを見失っていた…。間違っていたのは貴方じゃない、里だった…」
「シカクは、貴方の死後に、里が下した判断は間違っていたと上層部に、〝木の葉の白い牙〟は裏切りものではなく英雄なのだと、貴方の行為の再評価に努めたんですよ」
「君が…?」
懐かしいなぁ、とミナトが笑って「もちろん、オレも協力したんですよ。サクモさん」と瞳を細める。
「あの時代、貴方に命を救われた忍は数えきれなかったでしょう。今、笑って飯食ってる奴の何人かは貴方に感謝をしなきゃいけない。
命が軽んじられてた時代に、忍として最前線で任務をこなすこと中、命を重さを忘れることがなかったのは、貴方の隊に参加出来たからです…」
シカクは口をへの字に結ぶと、ぽかんとしているサクモを真っ直ぐと射抜いて屹然と立つと、そのまま礼をした。
「失礼しました。どうしても、貴方に言っておきたくて。拙かった自分の力の無さが恥ずかしく、無念で悔しく、堪え切れませんでした。理不尽な八当りだと思って、忘れてくれて結構です」
「今、私は怒られたのかな…?」
「はい。怒りました」
「そうか…」
息子のそれより幾分か色素の薄い睫毛がゆっくりと伏せられる。薄い唇に薄らと浮かぶ微笑。
「ありがとう、シカクくん。私は、思っていたより部下に好かれていたんだな…」
そうですよ…とシカクがお辞儀の体勢のまま俯き、地面に向かって静かに嗚咽していた。
「だから、オレたちは貴方に一人で全てを背負って逝ってなど、欲しくなかったです」
小さく呟かれた言葉は、サクモに数十年を経て伝わった確かなメッセージだった。シカクの言葉に、チョウザとイノイチも力強く頷いている。
「すいません。本当に、蛇足でした」
「いや。いいよ…。凄く嬉しかったから…」
サクモは、小さな子供のように屈託なく微笑む。微笑むと目尻に笑い皺が出来て、それがより優しげな印象を人に与える。
「そういうのをストレートに言うのは、反則ですっ。隊長っ」
「はは。すまん…」
シカクは顔を真っ赤にさせ、恥ずかしさを誤魔化すように同じように笑っていたミナトにがなる。
「今日は宴会だ!忘れもしねぇ、19年前の飲み比べ対決は、てめぇが勝ち逃げだったからな。せっかく生き返ったんだ、今度こそ、負かしてやるぜ…!」
「ははは。シカク。よくそんなこと覚えているねぇ」
「オレの記憶力を舐めるんじゃあねぇぞ。ミナト!」
「今日は秋道家御用達の最高級の肉をたっぷり用意したからね」
「山中家の秘蔵酒も用意しましたよ。さぁ、飲みましょう」
宴の始まりを告げる高らかな笑い声が、はたけ家の庭に響いた。
「あ~。信じらンない。あいつら。本当に、よんじゅう過ぎてんのっ?うわばみもいいところだよねっ。もう、飲めな~い」
くくく、と四代目の嘆きに、サクモが肩を揺らして笑っている。
「なんですか?」
「いや。そう言いながら、ミナトくんが一番強いのも、昔と変わらないなぁと思ってね」
夜空に月が昇る縁側で、サクモがのんびりと酒の入ったお猪口を傾ける。ミナトは、寝転がったままの大勢でサクモを見上げた。
「そういうサクモさんだって、オレたちにいいだけ付き合っておいといてほとんど変わらないじゃないですか」
「私はね、きみたちと違って飲むペースを考えてそれを崩さないだけで、そんなに強いってわけじゃないんだよ?」
サクモの答えに、ミナトは面白くなさそうな顔をした。宴会場となった居間では、潰された猛者たちの高らかないびきが聞こえる。サクモは、ミナトの視線を感じながら、杯を傾けた。
「ねぇ、ところでミナトくん。今日は昼間にシカクくんにガツンと言われて、少し頬を叩かれた思いだったよ」
「はは。サクモさんが〝ガツン〟ですか?」
静寂の中に二人分の話し声だけが響く。月光が、影のない二人のシルエットを映し出す。
「私は…、自分の息子を見捨てた。あの子を置いて、自ら命を絶った。結果的に、弁明のしようもないほど、幼いあの子に酷いことをしたと思っているよ」
ミナトは寝転がっていた居住まいを正して、サクモの隣に腰掛ける。
「そんなこと言うなら、オレなんて実の息子にとんでもないものを押し付けて、おっ死んだ、酷い父親ですよ」
お互い様です、とミナトが苦笑する。
「あの時は、自分さえ死んでしまえば、全てが終わると思ったんだ。周囲に迷惑を掛けない一番良い方法だと思った。私さえいなくなればと…」
「………」
「それは間違いだったかもしれないね。逃げずに、立ち向かうべきだった…。いや、もっと周囲をよく見るべきだったかな…?」
もうすでに選んでしまった選択肢を変えることなど出来ないけれど、とサクモが微笑む。ミナトは、眉を寄せると月を振り仰いだ。
「ま、死んでしまえば、みんな棚に登って神様だって言うじゃありませんか。気楽に行きましょう。今、ここに居られるのもとんでもないオブザーバーみたいなものなんですから」
そして何を思い出したのか、彼はけたけたと笑い出した。
「まぁ、オレなんて、人のことをちっとも言えず再会した瞬間に殴られましたけどねぇ」
「きみは少し落ち込んだ方がいいんじゃないかね…?」
サクモの言葉に、ミナトはまた苦笑する。そして、その笑い顔のまま庭先を見詰めると、ぽつりと零した。
「我慢する、って言われちゃったんです」
あの時、息子の腹の中で、初めてきちんと親子として再会した時に。
「四代目の息子だから我慢するって…」
オレ、馬鹿親ですよねぇ…本当に。
「すっごい後悔しましたよ」
恨み事を言われた方が、まだ胸は傷まなかったかもしれない。ただ、我慢すると、俯かれた。たぶん、あの子はそう育った。度重なる環境からそういう子に成長したのだろう、と思い知らされた。
「だから、こうしてもう一度、息子に会えて話す機会が出来たことをオレは感謝していますよ。謝罪しきれない後悔は尽きませんが、それでもオレはこれを誰かが与えてくれたチャンスだと考えています」
月夜に呟かれた故人たちの会話は、そのまま彼等の息子たちに向けられた。
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ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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猫耳探偵事務所
仔猫ちゃんたちがキーワードから記事を探索してくれます。
管理人の生態
自己紹介
名前 空気猫、または猫
職業 ノラ
趣味 散歩・ゴミ箱漁り
餌 カカナル
夢 集団行動
唄 椎名林檎
性質 人間未満
日記 猫日和
ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
職業 ノラ
趣味 散歩・ゴミ箱漁り
餌 カカナル
夢 集団行動
唄 椎名林檎
性質 人間未満
日記 猫日和
ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
足跡