木の葉メイド喫茶でご奉仕致します!?
本日、はたけカカシ約2時間の遅刻。
「今日は迷子の仔猫ちゃんがにゃんにゃん泣いてどうしようもなくてな~」
おまえは犬のおまわりさんか!!と全員が突っ込んだところで、はたけカカシが今日の任務を言い渡す。
「今日は木の葉の里に新しくオープンした〝めいどかふぇ〟のイベントの手伝いだ」
後頭部を掻きつつ任務内容を記載した紙を読み上げた銀髪の上司に、下忍一同が首を傾げる。
「カカシ先生。それはなんですか」
「んー、オレもよくわからないんだよねぇ…」
「ちゃんと下調べしてこいよ。ウスラトンカチが」
「冥土…ってば?じいちゃんに聞いたことあるってばよ。この間オレが新しく改良したおいろけの術使ったらじいちゃんが危うくそこに住民登録するところだったんだってばよ。よくわかんねぇけどすげぇ怒られたってば」
「あんたねぇ…」
「ちがうんだってば?」
腕を組んで首を傾げたナルトに、カカシが目を細める。金色のくせっ毛をぽふぽふと撫ぜて、「ま、とりあえず行ってみればわかるでしょ」とひよこを引率する親鳥よろしく木の葉商店街の一角へと向かったのだった。
「今日はオープンセールなんだってばよー」
ヘッドドレスを付けてメイド服を着た短髪の子供がぴょこぴょこ飛び跳ねて道行く人々にチラシを配っている。
「素敵なメイドさんたちがご主人様にご奉仕するんだってばよ!」
「坊主が…?」
「オレはちがうってばっ。もっと綺麗なお姉さんたちがだってばよ。なんと木の葉メイド喫茶ではお酒も飲めるんだってば、お仕事帰りのひと時に是非是非いらっしゃってくださいませってば!」
満面の笑みでマニュアル通りの説明をする金髪碧眼の子供メイドに、通りすがりの鼻をズズズと啜った男が何となく心臓をドキマギさせて、小さな手の平から思わずチラシを受け取ってしまう。
「ナルトー。そっちはもういいから次はこっち配りなさいよー」
同じくメイド服を着たサクラがナルトを呼び戻す。ちなみにサスケはウェイターの格好だ。ナルトたちよりちょっと離れたところで大人のお姉さんにキャーキャー騒がれつつ、ぶすむくれた顔でチラシを配っている。
「サスケの奴ってばずっりぃのっ。オレもウェイターの服着たかったってば!」
「仕方ないじゃない、あれ1着しかなかったんだから。ほら、あんたもぶつくさ文句言ってないで残りの分も配っちゃいましょ」
う、うん…と後ろ髪引かれつつ、ナルトは改めて自分の服装を見下ろす。ふりふりひらひらの黒を基調としたエプロンドレス。パフスリーブの袖口。きゅっと絞られたウエスト。ナルトが着ると膝丈くらいのスカート。至るところにこれでもかというくらいたっぷりレースが装飾され、襟元には大きなリボンがあしらわれているとても可愛いメイド服だ。
「ひらひらだってばよ」
ナルトはくるんと一回転する。パニエをたっぷり仕込んだスカートがふわっと魅惑的に膨らんで、その仕草に道行く男たちが「おお!」とどよめくが、まさか自分が注目を集めているとは知らない本人は無邪気なものだ。「女の子か。それにしちゃ髪が短いな」「いやオレはむしろあのくらいのほうが…」「あんな可愛い子、うちの里にいたか?」服装が変われば、案外それが誰かと識別するのは難しいというもので、ふりふりメイドさんが「うずまきナルト」だと気付く通行人はいなかった。
「なんかスースーするってば」
スカートの端を摘んで持ち上げているとまた一段を大きなざわめきが起きた。そんなまさかのサービスショット(?)に横で見ていたサクラはふるふると肩を震わせる。「捲るんじゃないわよ!」と強烈な拳を落とされ、涙目になったナルトだった。女の子のプライドに賭けても男のナルトに負けるわけにはいかなかった、とは複雑な乙女の心理である。
―――時は少し遡る。
「よくいらっしゃった、忍のみなさん」
七班を出迎えたメイド喫茶の店長は顔に大きな十字傷がある強面の中年親父だった。イチゴとピンクに囲まれた可愛らしい店内とは真逆のヤクザ顔がなんともシュールな空気を醸し出している。明らかに堅気の人間では雰囲気を漂わしている店長に、ナルトとサクラは万が一の時はカカシを盾に…とでもいうようにささっと大人の後ろに隠れた。
「こーら、おまえたち。(気持ちはわからなくもないけど)失礼デショ?」
カカシがくくくと笑って、ほらほらと子供たち三人を自分の前に押し出す。
「おお、依頼した通り見栄えのいい忍さんたちばかりだ。こりゃ助かるよ」
十字傷の店長が品定めするようにカカシを含め、下忍三名を顎をさすりつつ見回して、今回の任務の趣旨を説明し始める。
なんでも店長は元は風俗店経営のオーナーだったらしく、しかし不況の煽りで閉店。やさぐれ寝転がってテレビを見ていた時にたまたま特集していたのが、男のロマンと銘打ったメイド喫茶。曰く、その瞬間「時代はメイド喫茶だ!!」ビビッときたそうで。
かくして十字傷のヤクザ店長。散り散りになっていた風俗嬢たちを再び呼び集め、「ニュービジネス」へと乗り出したのであった。ちなみにお店の経営方針は「ぼったくれるうちに波に乗って毟りとれ」と、非常に即物的なものである。
「はぁ、なるほどねぇ」
「それで今日は忍のみなさんに宣伝のチラシを外で配って欲しいというわけで」
ニカと笑うと金歯が一本見えて怖さ倍増である。
「おう、金髪の坊主。おまえ男のくせになかなか可愛い顔してるじゃねぇか。よし、十分イケるな。桃色の嬢ちゃんと金髪の坊主はこの衣装。そこの黒坊はこれを着てくれ」
無造作に手渡されたカルチャーショックな衣装を見て、子供たちは顔を見合わせ、思わず専属の上司を振り仰いだが、銀髪の大人は肩を竦めるだけで忍とは耐え忍ぶもの~なんてことをモゴモゴと呟いただけで終わった。
「お姉さんたちも大変だったってばよ」
不況の煽りでこんな180度違う世界に飛び込むことになるなんて、とナルトは隣でチラシ配りをする元風俗嬢・「不思議の星のからきたお姫様」系メイドさんを見上げてほうっとため息を吐く。なんでもチーフマネージャーと入念な相談と会議の結果このキャラクターが生まれたそうで、メイド設定用紙という紙には事細かに架空のプロフィールが綴られているらしい。計算の上それを演じているというなら完璧なプロである。
なぜなら、中忍風の男に、きゃんきゃんはしゃぎ笑顔を振り撒いて戻ってきたメイドさんは、ナルトの言葉に聞くと、にこぉと口の端を吊り上げてナルトを見下ろして、
「いーい、坊や。男なんてねぇ、酔わしちゃえばヤクザだろーが、サラリーマンだろーが、オタクだろーが、みーんな一緒なのよ」
「ふ、ふえ?」
「つまり不細工な貧乏人も、お金持ちのイケメンも料金さえ払ってくれたら、店の中では平等ってこと」
「………」
「ふふふ、坊やにはまだ早かったかしらねぇ」
きゃらきゃらボイスと180度違う艶のある声で微笑するメイドさん。
「坊や才能あるみたいだから、大きくなったらお姉さんのとこに来なさい。男に自分から財布を出させるテクニック、教・え・て・あ・げ・る・わ♡」
特別よ?と囁いて、彼女はふりふりスカートでスキップしながら新たなターゲットを見つけてチラシを配りに行った。
お姉さん、設定キャラと中身まるで違う人だってばよ?そんなカオスもメイド界では結構あることらしい。お金を稼ぐとは誠に大変なことだってばよ、とうずまきナルトその時なんとなく悟ったという。
その頃、メイド喫茶店内ではカカシが窓辺で子供たちの働き振りを、イチャイチャパラダイスを片手に観察していた。現場責任者としては三人全てに注意を向けてはいるものの、ただ一人に結構注意が傾いてしまうのは、彼も忍である前に一個人である限り仕方ないことで、具体的に言えばちょろちょろ動く金髪の子供に視線を囚われ気味であった。その子が元気良く跳ねるたびにひらひら揺れるスカート。
(あー…、変なスィッチ入りそう。そんな趣味なんてなかったのにねぇ)
先程からちっとも進まない気に入りの本のページ。何度も読み返した本ではとても太刀打ち出来ない愛らしいお子様。ちらちら見える、細っこい生足。見た目は少年そのものなのに、格好だけがふりふりひらひらの女の子仕様の洋服。それがなんとも倒錯的だ。
はたけカカシのマニアックな一面が発掘されたところで、キャー!と店内で叫び声と共にお皿の割れる音が鳴り響いた。
「……―――どうしたんですか?」
カカシは、流石は上忍という身のこなしで椅子から立ち上がって店長とメイドたちの元に駆け寄る。長椅子に横たわっているすらりとした背丈のメイドは店内で1番背の高い子だったか。
「ああ、カカシさん。この子が貧血で倒れてしまったみたいで。実は彼女、妊娠中でして。風俗店の方も先月で引退するはずだったんですけど、今日のために特別に出て来て貰っていたんですよ」
「店長、新人の子が入るのは明日ですよ。困りましたね。今日のメイドが1人足りなくなってしまいます」
おかっぱ頭のメイドの言葉に、十字傷ヤクザ顔の店長はふーむと考え込んだあげく、
「……え。オレ?」
視線をロックオンされたのは、はたけカカシ上忍。エリート街道まっしぐらの彼に降りかかった災難たるや、彼の華麗な英雄譚の中でも語り草になったとか。
「メイドさんって、けっこう楽しいってばよ」
外でチラシを配り終えたナルトはハフハフと息を切らして店に戻って来ると、店内に立ち込める何ともいやーな空気にきょとんと立ち尽くした。
「な、なんだってば?」
ナルトが驚いて店内を見回すと、見知った銀髪がなぜかお客さんが座る筈の椅子に腰掛けて頬杖を付いている。
「あ、カカ……――――シせんせぇ?」
オレってば外でちょー頑張ったんだってば!と、いつものように「いい子だね」と褒めて貰いたくて、身体ごと教師の懐に飛び込もうとしたナルトは、そこでハタと静止して、ぱちぱちと真ん丸い目を瞬かせた。
ナルトが今着ているメイド服とそっくりそのまま同じふりふりひらひらなアンティークドールのような服装に身を包んだ大人。銀髪の頭部にはヘッドドレス。足元は網タイツな使用である。そんな完璧メイドさんな格好のカカシなのだが、明らかに不機嫌ですといわんばかりのオーラを醸し出し、そのうえ…
や、やる気ないってばよ!!表情は見えないが、引き結んだ口元。頬杖を突いて、スカートだというのに足をがばっと大胆に開き、ダラしなく椅子に座る大人の、無言がなんとも怖い。普段はナルトに優しいカカシ先生から何か話し掛けてはいけない雰囲気が漂っている。
その時、ナルトの後ろから来店したのは4、5人のご主人様だ。すると、頬杖を突いたまままのカカシは顔だけ捻って、あのお決まりの文句を一言。
「おかえりなさいませ、ご主人サマ」
地の底から響くような低いハスキーボイスに、気弱そうな痩せ型のお客が総引きして腰を抜かした。こんなメイド喫茶に…、帰りたくない、帰りたくない!!夢の世界から現実世界に戻りたいです、是非!!!と上忍の殺気に気圧される、男のロマンを求めてメイド喫茶に来店したご主人様、もとい一般人市民。
カカシ先生、目が座ってるってば。ナルトもビクつきつつ固まっていると、ごつい手に肩を叩かれた。
「おう、坊主。戻ったか!」
「あ、おっちゃん。こ、これはなんなんだってばよ。カカシ先生ってばどうしたんだってば」
「見りゃわかるだろ。坊主、メイドさんだ。どうだ、センセーの立派な勇姿は!」
「………」
センセーの方はアダルト仕様で網タイツなんだぞ!とガハガハ笑う店長。流石は風俗店閉店の逆境からメイド喫茶に返り咲いただけは…、あるのだろうか。とりあえず何事にも飛び込んでみるチャレンジ精神は豊富なような気がした。
「カカシせんせぇ…。んと、気持ちは複雑だと思うけど任務はちゃんとしないとダメだってばよ?」
店長から事情を聞いたナルトは大人を説得するべく、カカシにおずおずと駆け寄る。ちなみにカカシの周囲、5メートルは綺麗に円を描いて客が寄り付いていない。
「し、忍とは耐え忍ぶものっ、だってば?」
ちゃっかり大人が先程言ったの言葉を引用して、ナルトがこてんとカカシの膝上のスカート(女物なのでカカシが着用すると裾が短くなるのである)を引っ張る。
「……ナルト」
「こういうカカシ先生ってオレ、キライじゃないってばよ。新鮮だし…、素敵だと思うってば…!」
「ナルト…、本当に?」
お互いふりふりひらひらメイド服に着用した状態でちっとも恰好が付かないどころか、喜劇のような光景なのだが、本人たちは手を握り合って、真剣そのものだ。
――描写は省いていたが、遅れて店に戻ってきたサクラとサスケは呆れ顔で半ば魂を飛ばしている。その時、ちりんちりんと鈴の音と共に新たな団体客が来店した。
「ここのパフェ、オープン記念で50両ってほんとかな」
「――たく、めんどくせぇ。チョウジの食い意地に付き合うとアスマの財布が萎むな」
「アスマセンセーっ。奢りありがとーございまーす!」
「おめぇらは任務が終わるたびにオレに集りやがって…」
来店したのは、いのしかちょうトリオとアスマ上忍の十班の面々。店内禁煙の張り紙がある中、煙草を咥えつつ店に足を踏み入れたアスマはしかし、自分の前にどん!と立ちはだかったやたら体格の良いメイドに(随分と足のごっつい女だなぁこりゃあ…)と下から視線を上げて、ぽろっと煙草を落とした。
次の瞬間、ギャ――!!とこの世の終わりのような叫びが木の葉の里に木霊した。
「アスマ、うるさいよ。人の顔見て悲鳴を上げるなんて失礼な男だね」
「カカシっ。お、おま、何やってやがる」
「見ての通りメイドだけど?」
カカシは再び、上からアスマを見下すように、「おかえりなさいませご主人サマ…?」と呟く。口元にはもう何かを振り切ったような余裕の笑みさえ、浮かんでいた。
そ、そんな高圧的なメイドさん…!
一同があまりのことにビビッて仰け反る。はたけカカシという男と長い付き合いのアスマも、余りのことに言葉を失くす。
暗部所属の頃から、冷酷非道だと名を馳せたはたけカカシが、任務とはいえ下忍たちに付き合って、この男がこんな格好をするようにまでなるとは…。人とはこんな変わるものなのかという驚きと共に、
ここここ、こんな面白いこと滅多にないぞ!ガイや紅にみしてぇ!!
腹が捩れるほどの爆笑がアスマを襲った。
「ぎゃははははは!!」
「……いい度胸じゃないアスマ」
「バカやろう。スイート系が来るかと思いきや、がっつり系が目に飛び込んできたオレの心臓を考えろってんだ。あー、おもしれぇ」
「アスマァ。文句があるなら表に出ろや、こら。勝負つけっぞ」
「まぁ、待て。落ち着けカカシ。つか、おまえ、その格好で外歩けんのか?」
「………」
アスマの冷静なツッコミにカカシは固まり、しかしそのまま両者一歩も譲らず無言でいると、
「メ、メイドさんが裏の控え室で煙草を吸ってたってばよ」
うさぎの着ぐるみの中身がおやじだったってばよ、と同じ口調でいつの間にか騒ぎの場から席を外していたナルトが涙目になって店の裏側から戻って来て、睨み合う大人にぽかんと口を開けた。
そして誰も近付けないでいた殺気に包まれた上忍二名の元に大胆にも接近して、あろうことか攻略難易度が高いと思われる銀髪の男の方に駆け寄る。
「……ナルト、なにかな?」
ギスギスした声の大人をものともせずスカートの袖をぎゅと引っ張ってナルトは臆することなく言い放った。
「カカシ先生。お客さんと喧嘩はよくないってばよ?」
「………」
「オレ、厨房でメイドさんパフェ作るんだってばよ。材料貰ってきたからカカシ先生も一緒に作らねぇ?」
「おい、ウスラトンカチ。おまえはちょっと黙ってろ」
「む。なんでだってばサスケ…。は!もしやおまえもパフェ作り狙いだってば!?だめだってばよ、カカシ先生と作るのはオレだもんね!」
「誰がこんな変態と一緒に厨房に並ぶか。いいからパフェはオレと作るぞウスラトンカチ」
「いて。サスケ離せってば。オレってばウスラトンカチじゃねぇもん!」
首根っこを引っつかまれそうになったナルトはサスケの手を払い「サスケなんてイーっでベーっだってばよ!」と歯をむき出して舌を出す。そしてくるんと銀髪の大人を振り仰ぐ。
「オレってば、カカシ先生と一緒に作りてぇ!」
「………」
「だめだってば?」
己と一緒が良いと、ニカーと満面の笑みで無邪気に言われてしまえば、どんな人間だって悪い気はしない。意識をしている相手なら尚のこと。贔屓はだめだよなと思いつつ、カカシは満更でもなさそうに自分の手を引いて厨房に連れて行こうとする小さな部下を見下ろした。
まさに鶴の一声ならぬ、ナルトの一声。一気に店内の緊迫した空気が霧散した店内に、金髪のメイドさんナイス!と心の中でスタンディングオペレーションで拍手したお客さん一同は、へなへなと身体の力を抜いた。
「おまたせしましたってば。うずまきナルトすぺしゃるパフェなんだってばよ!」
メイド服のまま再び現れたナルト。なぜか背後にカカシもいるが、先程の騒ぎで店長が懲りたのか普通の忍服に戻っている。
「おお、あんがとよ」
アスマは礼を言ってしげしげと金髪碧眼の子供を観察する。
「同じヤローの女装でもこっちは普通にかわええじゃねぇか」
そう呟いて、ヘッドドレスの子供の頭をぐりぐりと掻き回すと、途端ぱしんとアスマの手が払われた。
「店内のメイドにはお触り厳禁ですよ、お・客・さ・ま?」
「……カカシ、叩く前に口で言いやがれよ」
「うるさいなあ。アスマ、この子に手ぇ出したら殺すよ?」
「あぁ?おまえ、なに本気で怒ってんだよ」
アスマから引き離されてカカシに抱き上げられたナルトはきょとんとしてカカシとアスマとを見比べ、わけもわからずニシニシと笑っている。どうやらカカシに抱っこされて嬉しいらしい。カカシも足をぷらぷらさせて喜んでいる腕の中の子供を見下ろし、愛おし気に微笑している。
「お、おまえらよぉ」
「ん、なによアスマ?」
「なんだってば、アスマ先生?」
「………。…い、いや。なんでもねぇ」
なんだなんだ。この痒いような微妙に居心地の悪い空気は、と思いつつも誤魔化すようにアスマは運ばれてきたやたら盛り付けの良いパフェを一匙口に運ぶ。普段はそんな女が喜んで食べるようなものに口をつけないのだが。
しかし次の瞬間、ぶはっとアスマは吹き出した。
「あっっめぇっ。うずまき、おまえパフェに何を入れやがった!?」
「え?あー、アスマ先生ってば気付いちゃった、気付いちゃった?普通の材料の他にそれだけじゃつまらないと思って隠し味を色々入れたんだってばよ。オレのオリジナル!あんみつと白玉とチョコレイトソースと粉砂糖と蜂蜜、あとたっぷり練乳を一瓶!」
「殺す気か!!!」
対辛党用の破壊兵器かというような激甘の物体にアスマはうっぷと吐き気を催す。上忍師であるカカシが傍で監督していながらこの有様。常識のある忍ならば任務中に私事の恨みをぶつけてくるとは思えないが、とアスマは「常識がない」で有名な銀髪の友人を疑わしげに見上げる。
「え、でも味見したカカシ先生はおいしいねって言ってくれたってばよ?」
嘘吐くな。「こいつは甘いもんは壊滅的にダメなんだよ」と言おうとしてアスマは言葉を切る。信じられない光景が目の前に広がっていたからである。
「カカシ先生、おいしくなかったってば?」
「いや。オレは普通に旨かったよ?」
「ほんとうっだてば?」
「うん。あんまり甘いもの得意じゃないんだけどねぇ。不思議とナルトの作ったパフェは食べれちゃったよ」
けろりとした顔で言い放つカカシはどう見ても冗談を言っている節がない。アスマは再び、なんだか居心地が悪い気分になって、それどころか背中に嫌な汗まで伝う始末。
「カカシせんせ、カカシせんせ、んじゃあさ今度、甘栗甘に善哉食べにいかねぇ?」
「んー、いいけど、その時オレは塩昆布茶だけで勘弁してね」
「なんでってば。カカシ先生、パフェは食べれたじゃん」
「たぶん、先生これ以外の甘いものは食べれないなぁ。ナルトがオレの家に来てなんか作ってくれるならいーよ?」
「カカシ先生ってば手の掛かる大人!じゃあさ、じゃあさカカシ先生の好きなもん教えてってば!オレってば腕によりをかけて頑張っちゃうってばよ」
「嬉しいねぇ。おまえの作ってくれるもんならなんでもいいよ」
「………」
砂吐き甘々な台詞をナチュラルに垂れ流す上忍師と子供に七班は慣れているのか諦め顔。いのしかちょうトリオはポカン顔。アスマは今見た記憶と不協和音を消し去りてぇとでもいうようにあさっての方向を向いて煙草を吹かし始める。
まぁ何はともかく。アスマ上忍が、「カカシ上忍が下忍のうずまきナルトと付き合いだしたらしいぞ」という噂を聞いて人生色々でコーヒーを噴き出すのはこれから約一ヵ月後のお話し。
どっちの女装も大好きです。