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空気猫

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―そんなわけで12歳になりました編12-








「首輪を付けたのはカカシ先生だから、これはカカシ先生に外してもらうってば」
ジャケットに腕を通しながら、ナルトは玄関へと向かった。リンは丸まったナルトの背中を心配そうに見守る。
「ご飯、せっかく作ったのに食べていかないの?」
「おう。ありがとうってば、リンさん。オレってばカカシ先生と帰って来てから食うってば!」
ニカっと笑ったナルトは、サンダルを履くと立ち上がった。手にはリンの家の地図が握られている。
「1人で行ける?」
「おう。オレってば、もうカカシ先生に教わってるから字もちゃんと読めるってば」
「そ、そう…?」
「おう!」
不安そうにしていると、リンの傍にナルトが駆け寄る。
「リンさんって、良い匂いするってば」
「え」
「へへへ。オレってばリンさんも、大好き!」
すんすんと小動物さながらに鼻先を擦り付けられ、思わずリンの心に愛しさが込み上げてくる。
リンは子供を持った事がなかったが、これほど小さく稚い子供は目に入れても痛くないほど可愛いだろうな、と思った。



リンの家は商店街の向こう側にあった。ナルトは買い物で慣れ親しんだ道を、ぴょこぴょこと体力の落ちた体で歩き、次第に小走りのような状態になる。一分でも一秒でも早くカカシに会いたかった。
「うぎゃんっ!」
ところが、商店街を抜けて、ひと気の少ない道に入った時だった。角を曲がろうとした時、ナルトは「気配のない人間」とぶつかってしまった。痛む鼻の頭を擦りながら、衝突した人物を見上げれば大きな影が落ちる。
ナルトの前に居たのは、黒衣に身を包んだ男だった。よく見れば、赤い雲の意匠を凝らした模様が、衣服のあちらこちらに散らばっており、得も知れぬ既視感からナルトは大きく碧玉を見開いた。
「きみは…」
「―――あ…」
既にノイズが混じった記憶の中で、この〝男たち〟を見たような気がする。どこで会ったか定かではないが、目の前の男はきっと初めて出会った人間ではない。途端にガタガタと、手足が震えた。
「研究者は山犬に食われてしまっただろうと言っていたが。…そうか、生きていたか」
ナルトの反応を余所に赤い両眼がナルトを見降ろす。青年のそれは敵意のない視線であったが、ナルトにわかるはずもない。
「随分と大きくなった。毛並みも良くなったな。―――十分に可愛がられているようだ」
泣き出す一歩手前の顔で、震える子狐を見降ろしながら、男――うちはイタチは、薄っすらと唇の端に微笑を載せた。自然と、その両眼が細くする。
「元気そうで何よりだ。ずっときみの事が気に掛かっていてな。珍しく、心に残っていた存在とまた会えて、嬉しく思っている。これも、何かの縁かもしれない、と改めて感じているのだが…」
うちはイタチは震える子狐をそっと抱き上げた。ビクンと子供の体が痙攣して、「今度は噛まれずに済みそうだ」とけして拘束している訳ではないが、抗う事の許さない所作で金色の毛をリングを嵌めた指で何度か優しく梳く。
「暁に帰って来ないか?心配しなくとも、今度は檻の中へなどに入れさせない。オレの傍にいる存在として、来い。きみを歓迎しよう」
そうして艶を含んだ声色で子狐の耳元に囁いた。あどけない表情できょとんと見詰られ、暁の青年はふっと笑う。
「あの。オ、オレってば、カカシ先生に会いに行かなきゃならねえし…。兄ちゃん、何言ってるかわからねぇし、そ、その」
「ん…?」
「…だ、だめってば」
瞳を動かしながら、ナルトはしどろもどろする。目の端に、リンの住んでいるアパートが目に入り、カーテンの閉まった窓に助けを求めたかったが、開くはずもない。そうこうしているうちに、
「この首輪は…きみの主人が付けたのか。随分と悪趣味な…」
子供の首のサイズより大分大きな首輪に指を引っ掛けながら、青年が顔を顰めた。「擦れた痕がある。きみにはサイズが合っていないだろうし、外してあげよう」ナルトにしてみればとんでもないことを言い出した青年に思わず、声をあげてしまった。
「あっ。これは取っちゃだめだってば!」
「………」
「これは、その、大事なもんだから…とらないでってば!」
お願いだと、それこそ必死の形相で、今にも泣きそうに、ナルトはイタチの手を跳ね退けた。
「あ。ごめんってば」
「いや、いいんだ。きみにとっては大切なものだったのだな。すまないことをした」
イタチの言葉に三角耳をしょんぼりと伏せ、ナルトは項垂れた。青年のことは恐ろしかったが、彼が優しいことも、少なからずわかったからだ。だけど、ナルトとて譲れないものがある。この首輪は絶対に駄目なのだ。なぜなら……。
うちはイタチはふと視線を上へ逸らした。彼は、少々騒ぎ過ぎたらしい。
「流石に、鼻の利く…」
独り言めいた台詞を呟き、彼は腕の中の小さな生物へと視線を落とした。
「きみを連れて帰りたかったが、また次の機会にするとしよう」
「へ?」
「木の葉の上忍は優秀なようだ。これならばオレも安心して帰える事が出来る」
ナルトの瞼に落とされそうになった唇は、寸前で止められた。次の瞬間、イタチの腕の中から、子供の感触が消える。
「カカシ先生!」
風塵と共に、現れたのは上忍兼暗部のはたけカカシだ。カカシはイタチの腕の中から奪った狐の子供を抱えていた。イタチの双ぼうが細まる。
「おまえは、うちはイタチ…、なぜこの里にいる。ナルトに何をしていた…?」
通常であれば、忍が声を荒げることなどほとんどない。とくに、今イタチの目の前にいる忍はそうした人種の人間であったはずなのだが。
きょとんとした顔の狐の子供。それとは正反対の大人の顔。
「そうか。カカシさんに可愛がって貰っているのか…」
向けられた殺気の量に苦笑しつつ、あと一瞬反応が遅ければ、跳ね跳んでいただろう右腕をイタチは退ける。
「愚弟に会いに来たが、思わぬ収穫をした。また会おう、ナルトくん」
意味深な台詞と微笑を残し、黒衣を閃かせると、うちはイタチは路地裏の奥の暗闇に姿を消した。後に残ったのは、人相の悪い顔で暗闇を睨む大人と、狐の子供。
「おまえ、どうして里抜けした忍と一緒に…」
「知らね。あんな、オレってばあの兄ちゃんに〝帰って来い〟って言われた」
「………」
「たぶん、前にオレがいたとこの兄ちゃんだってば。オレってば、カカシ先生に拾われる前の記憶はほとんどねえけど、あれは、前いたとこにいた兄ちゃんだってわかった」
カカシから妙な間が空いて、ナルトはきょとんと小首を傾げた。心なしか、自分の胴に回された腕の力が強くなった気がしたが気のせいだろうか。
「それで、おまえはどうするつもり?」
「? 何が?」
「何がっておまえ…」
「そんなことより、オレってばカカシ先生にすげー会いたかったんだってば!」
「………」
カカシはまだ何か言いたそうだったが、ナルトはそれどころではなかった。カカシに、伝えたいことがたくさんあったからだ。カカシに話したくて、喋りたくて堪らない。
ぎゅっと、カカシの忍服を掴んで、ナルトはパタパタと尻尾を振る。
「だから、まずはこれ、とってってば!」
「………」
可愛らしい顔と声で、ナルトはそんなことを言い、
「カカシ先生がこれをとってってば!話はそれから!」
「………」
真っ直ぐな瞳で、射抜くようにカカシを見上げた。カカシはそんなナルトの姿を眩しそうに見つめると、己の罪を認め断罪をするように項垂れた。
「ごめん、ナルト」
「何が?」
「ごめん…」
カチンと、錠を外され、首輪がナルトの首からすり抜ける。ナルトは「くあー」と大きく伸びをして、何故か自分から離れた位置に居る大人を引っ張って引き寄せた。
「?」
「どうしてそんな遠くに行こうとするんだってば」
「どうしてって。ナルトはオレの近くにいるの、もういやでしょ?」
「は?なんで?」
「だって、おまえ。オレはおまえにあんなに酷いことをしたでしょ。だからもうオレより、他の人間のところに行きたいんでしょ。オレは、もうおまえを離してやらないといけないんでしょ?」
「酷いコトってなんだってば」
「それは……」
「カカシ先生がオレにしたことで酷いことなんて何もないってば。どうして、そんなことになっているんだってば。カカシ先生こそ、オレのこと、怒っていたから、…あんなことをしたんじゃねぇの?」
そこでナルトはモゴモゴと口の中で言葉を飲み込む。
「ちがう!おまえが憎くてとか、怒っていたからとかで、そんなことスルわけないじゃないか。好きで、愛しくて堪らなくて、我慢が出来なくなったんだ…」
カカシは体をくの字に曲げて、とつとつと言葉を落とした。
「オレは、今まで自分の気持ちを誤魔化していた。本当はもうずっとおまえのことを特別な意味で好きだったくせに、ペットだとか、子供だからとか、保護者の役目を建前に逃げて誤魔化そうとしていたんだ」
ナルトが、とてとてとカカシの前に駆け寄る。涙が伝っているかもしれない両頬を掴んで持ち上げれば、誰よりも強い忍者のくせに、今までで一番弱った顔をした大人がいた。
「オレってば、カカシ先生が世界で一番、大好き。そんで、世界より、カカシ先生が好き。オレの一番で、たった一人はカカシ先生だってば。この意味わかるってば?」
ナルトが小首を傾げれば、大人は大きく目を見開いていた。
「カカシ先生は、オレのこと、世界でたった一匹だって思ってくれたらいい。オレってば、カカシ先生以外の人はやっぱりちっとも好きじゃないから」
ナルトの両手がやんわりとカカシの頬を包む。
「だから、首輪や紐で縛らなくてもいい…。オレがカカシ先生の傍にいるのは、全部オレの意志だってば」
カカシはただ呆然としゃがんだ体勢のままナルトを見上げた。
「カカシせんせぇー…。へへへ、オレってばカカシ先生が大好き!」
「………」
ニシシ、とはにかんだような笑顔がナルトから零れる。
「オレは、おまえに何もしてやれないのに…。こんな人間でいいのか?」
カカシの問い掛けにナルトは不思議そうな顔をする。どうしてそんな簡単な事を聞くのだろう、という顔つきだった。
「カカシ先生、オレの名前を呼んで?」
「ナルト…?」
「オレにはそれで十分だってば」
ナルトは大きく腕を広げて、カカシの前に立つ。
「カカシ先生、大好き。一緒に家に帰ろうってば」
カカシが三角耳の小さな生物を抱き上げれば、あつらえたようにすっぽりと収まり柔らかな感触がした。













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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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