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空気猫

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―そんなわけで12歳になりました編7―





家出をして来た、と泣きながら自分を頼りに抱きついてきたそいつは、
生意気で可愛くない、上官のペットだった。




〝うちは〟の家は木の葉でも指折りの名家だ。カカシのボロアパートの何倍くらい広いのだろうか。ナルトは初めて訪れるサスケの家をぽかんと見上げた。
「サスケってお金持ちだったんだな」
「そうでもねぇよ。ただ古いだけだ」
「ふうん」
わかっているのかわかっていないのか、相槌だけ打ってナルトはサスケに抱っこされたままうちはの門をくぐった。
「飯は食ったか?オレは任務帰りだから、これから飯の支度して風呂だ」
「オレも風呂はまだ…」
「そうか。先にオレが飯の支度してるから、てめぇは先に風呂に入ってろ」
サスケはナルトに素っ気なく指示を出すと台所に向かおうとする。
「あのさ風呂って…」
「……どうした」
「一人で入らないとだめだってば?」
「…………は?」
いつも強気なナルトが裸足の右足を左足に擦り合わせて、チロチロとサスケを見上げている。「だってさぁ…。カカシ先生ってば最近、一緒にお風呂入ってくれなくなったし」子供っぽいとサスケに思われたくないのだろうか、相当恥ずかしい告白らしく、いじらしげにそっぽを向いている。
「サスケ…」
「………」
「サシュ…」
「わかった。一緒に入ってやるから、先に脱衣所に言ってろ」
サスケは何かを追い払うように手を払うと、きゃーという喚声。背中越しにパタパタと体重の軽い生き物の足音を感じながら、サスケは軽いため息を吐いた。
――結果的に言うと、狐の子供は湯船でサスケに頭髪や身体を洗わせた挙句、風呂の後の自慢の尻尾のブローとブラッシングまで要求した。サスケは子狐の世話にクタクタになりながら、ある意味、カカシを尊敬するに至った。
「ふぃー。気持ち良かったってば」
風呂上がり。ナルトは頭からほっこり湯気を出してご満悦だ。泣いた子供が何とやら、湯船に浸かって元気になったらしい。薄紅色になった頬、くるんとカールした睫毛が何とも稚い。タオルを首に引っかけたサスケは、簡単な夕食を済ませて寝床にしている和室に入ったが、ふわふわの毛玉生物が己の布団を占領している姿を見て、息を詰まらせた。
「あっ、サスケー。お布団借りてるってば!」
ナルトは初めてのお泊まりで多少興奮しているらしい。枕を抱き締めたまま、くるんとサスケの方を振り返り、サスケの前でころんと転がった。
「おまえなぁ……」
「?」
無邪気。無防備。と罵倒するにも似た気持ちが青年の中に湧き上がってくる。次の瞬間、ぽふんと何とも柔らかな音と共にナルトの背中が敷き布団とくっつく。きゃっきゃっとはしゃいでいたナルトの視界が反転して、何故か木目の天井と黒髪の青年が見えた。
「さっ、さすけっ?」
大体、初めて会った時はミジンコサイズのお子様で、最初は小便臭いガキだと思い込もうとしていた。しかし、金髪の髪の毛は極上品、碧い瞳は宝石より高価で、肌はミルクより滑らか。今はまだ幼さを残しているが、どうしてか惹かれてしまう。人のものだと思えば尚更だ。
「ドベが。せっかく我慢してやろうと思ったのに台無しだ」
サスケの親指と人差し指がナルトの顎に添えられ、さくらんぼのような唇がつんと上を向く。
「ずっとオレのものにしたかった…」
「――っ!?」
サスケの言葉に零れそうな大きな瞳が見開かれる。
「じっとしていろ。ドベ…」
「ふきゃっ。サスケ?」
「ナル…」
「ぎゃーーーー、齧っちゃいやだってばっ」
あと数ミリでお互いの唇がくっつくというところで、ナルトが拡声器でも使ったかのような大きな声を出した。パタパタと短い手足が、サスケを蹴り上げる。
「ドベ。おまえなぁ…」
サスケが鳥頭を掻き回した時だった。ぼふんと忍者が登場する時特有の音が聞こえ、煙と共に現れたのは、カカシだった。
「えっ?えっ?カカシ先生っ?」
気が付けばナルトはカカシの腕の中で横抱きにされていた。
「………」
「カカシ先生…?」
「………」
常人から見ればおかしな沈黙のあと(ナルトにとっては慣れ親しんだ間だ)、
「あのさナルト。言っておくけど、おまえはうちの子だからね」
「えと」
「うちの子だから」
ナルトのことを見下ろしもせず、カカシは台詞を読み上げるかのように一本調子で喋る。
「―――はっ。今更、飼い主気取りかよ」
寸前でナルトを取り上げられたサスケは布団に座ったまま上司兼教師を見上げた。
「そ、そうだってばよ。オレってば今日はサスケの家に泊まるんだもんねーっ」
サスケの台詞に我に返ったナルトもすかさず反撃するも、カカシの腕が痙攣したのに気が付いて、きょとんと視線を降ろす。
「それがどうしたの。おまえがよくてもオレがよくないからだめ」
「……そんなのカカシ先生にはもう関係ないってばよ!」
気を取られていたせいで思っていたより強い口調になって自分自身でびっくりしてしまう。ナルトがカカシを見上げると、カカシがナルト以上に目を見開いていた。
どこか呆然とした頼りない表情は馴染みのあるものなのに、どうしてかいつもより張り詰めて見える。
「―――ナルト。家に帰るよ」
サスケの家から大人と子供の気配が消え、「ちっ」とサスケの舌打ちが、和室に響く。有無を言わさず仔狐は、はたけ家に強制送還された。











 

 


 

 



 

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名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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