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空気猫

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数日間、オレは物の怪の正体を見極めるために、神社に滞在する事にした。やはり、何かが天井裏に居るようだ。気配から察するに物の怪の類だろう。
トタタタタ…、と小さな子供が天井裏で駆け回るような足音が日に何度も聞こえる。随分、小ぶりの物の怪のようだ。
しかし、話に聞いた通りさほど悪さをするわけでは無い。オレの枕元に鼠を置いて行ったり、時々寝ている時に顔を覗き込む何者かの視線を感じるだけだ。
今朝は廊下を曲がった所で視界を掠めるように見えた子供の姿にオレはさてどうしたものかと首を捻った。
「おーい、そろそろ出て来ないか。すぐ近くにいるんだろう…?」
社の中心で、オレは天井に向かって話し掛けた。返事はない。シーンとした静寂の後、トタタタタ…という足音がした。オレはため息を吐いて印を結んだ。
「解」
オレの手の平の中で青白い光が仄かに発される。その瞬間、ドタっと天井裏から板をすり抜け何かが落ちる音がした。
「いってぇ。な、なんだってばぁ。バチッとしたってば」
予想していた通りに、天井から落ちて来たのは小さな物の怪だった。薄汚れた着物を着ている。いや、初めは真っ白な布地であったかもしれないが、長い年月が経つにつれボロ布と化したのだろう。とにかく汚い身形をしたガキだった。
「いい加減、かくれんぼは止めにしない?」
背中を丸めて蹲る物の怪の前にオレは立った。
「あ…」
「よう。やっと会えたね?」
「あっ、あっ、あっ。嘘。兄ちゃん、オレが見えるのっ?」
「まぁ…。一応ね」
振り返った子供の金髪頭の左右には同じ色の三角耳が二つ。丈の短い子供用着物の裾から棒きれのような足と一緒にふさふさの尻尾が覗いている。ふっくらとした頬には三本髭の痣があり、大きな碧い瞳の…、恐ろしく愛らしい子供だった。
「おまえは…」
子供は、都の美姫を見慣れている筈のオレですら眩暈を感じるほど、凄まじく愛らしい顔立ちをしていた。物の怪故本来の年齢はわからないが十二歳くらいの幼い子供の姿形だろうか。
「可愛いな」
「え?」
「いや、何でもない」
こてん、と三角耳と一緒に首を傾げた仕草も心臓が飛び跳ねるほど愛らしかった。
「へへへ。凄い。オレの姿をきちんと見える人間なんて何十年ぶりだろう…?」
子供は、まるで少女が甘味類を見詰めるような眼差しで、オレの事を見ている。ぷっくりとした唇は物憂げに半開きになり、今にも塞いでやりたくなりそうだ。
「兄ちゃん、この辺の人じゃないだろ。どこから来た人だってば?」
近隣の村人の顔は全て把握しているのだろうか。子供はオレの存在に狂喜乱舞しているようだった。はしゃいだ拍子にオレの衣服の裾を握っているところを見ると、見掛けはともかく、中身はそれほど品が良くないらしい。
「都からだ」
「オレってば都の人を見たの初めてだってば!」
鈴を転がしたような声がオレの耳を擽った。ずっと聞いていたくなるような可愛らしい声だった。
「オレの名前は、はたけカカシだ」
オレはその瞬間普段の自分では有り得ない失敗を犯した。物の怪相手に本名を名乗ってしまったのである。あの碧い瞳にはとんでもない妖力があるのだろうか。
「カカシ…。良い名前だってば。オレはナルト!」
オレは唖然とした。更に有り得ない事に物の怪が自ら名前を名乗ったのである。こいつは、とんでもないドベだ。いや、オレも人の事は言えないのだが。
「いらっしゃいませってば。木の葉稲荷へようこそ!」
まさか歓迎されるとは思わず、オレは唖然としてしまった。
この物の怪は馬鹿なのだろうか。それとも人が良いのか、物の怪は自分を駆除しに来た相手にお辞儀をした。
「兄ちゃんがオレの神主様になってくれるのっ?」
「は?」
どこから出したのか木板の看板を両手で持って、子供が期待一杯の眼差しでオレを見ている。
悪く言えば、見せ物小屋の立て看板のようなおどろおどろしいお化け文字だが、読み書きが不得意な子供が書いたような拙い文字にも見えなくはない。
「神主募集中…?」
オレが蚯蚓の死に掛けたような文字を読解すると、子供が嬉しそうにコクコクと頷いた。
「おまえ。物の怪じゃなくて、神か……?」








 
 
 
 



この話の悶え所は神主×神様です。
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名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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