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空気猫

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「彼はイチゴミルク味のタラシ男」のカカシ過去編。

カカシ22歳、ナルト8歳です。







泣いた子供を灰色ねずみは見ていた

初めはそう、ただ憎かったのかもしれない。あの人の心を占めるあの子の存在が羨ましくて、いったいどんな能天気な顔をして、笑っているのだろうと見に行ったのが、きっかけだった。
もし幸せに包まれて育っているのなら壊してやりたい、そんな薄暗い気持ちすら、あの時のオレには普通のことでしかなくて、言ってみれば、どこか壊れたガキだった。
まぁ、今でも人様から言わせれば螺子の何本かは飛んでいるらしいのだけど。



メモ用紙を頼りにカカシは、「元」波風家へとやって来た。走り書きされている住所と、「波風」の小さな表札とを二度確かめ、人の住んでいる気配のないこじんまりとした平屋の家を前に立ち尽くす。
「あーらら、おっかしいなぁ」
もしかして引越し?と、不審者宜しく家の周囲をぐるぐる周り、窓を覗き、やがて肩を落とす。レースのカーテンが引かれた薄暗い部屋の中は人っ子一人いない。よくよく考えればこんな真昼間から家人がいる方が可笑しいのかもしれない。
なんとなく、なんとなくだが。まったく根拠も何もなく、母子二人が家の中で仲良く団欒しているイメージがカカシにはあって、ここにさえ来れば母子に会えると思っていただけに、拍子抜けした。疑いもせずやって来た自分がバカみたいだ。
せっかく大学をサボってきたのにねぇ…、と普段だってろくに通学していないくせに、こんな時ばっかり潰した時間を惜しみつつカカシは来た道を戻る。
だが、諦めてダラダラと歩き出した帰り道の途中、公園の前を通り掛ったカカシの足が止まった。そこは何の変哲もない住宅街の中の公園で、ゾウの形の滑り台や、パステルカラーのジャングルジム、円形の砂場に、水色のブランコ、たくさんの遊具が散りばめられていた。
カカシの耳に、きゃーきゃー、はしゃぐ子供たちの声がどこか遠い世界の音のように聞こえてきて、微妙な疎外感を感じた。
なんとなく入り口の前で立ち止まっていると公園に遊びに来たのだろう子供がいて、あっと思う間もなくアスファルトの地面に突っ伏して転倒した。子供はしばらく自分の擦り剥けた膝小僧と目の前のカカシを見比べた後、
「うぁあああああん」
と涙を流して泣いた。
「………」
耳を劈くような泣き声にカカシは手をポケットに突っ込んだまま、無表情で見下ろす。子供の涙がポロポロとアスファルトに落ちて、汚いなぁとそんな即物的な一歩ズレた感慨しか思い浮かばなかった。
―――だって。これ見よがしに泣いて、いったい何を訴えているというのか。泣いたって痛みがなくなるわけではないのに。まったく子供とは馬鹿な生き物だと思う。
オレの前で泣かれても困るだけだ。どうすれというのだ。優しい言葉なんて思い浮かぶはずもなく、そんな言葉を掛けてやる気持ちも欠片も思い浮かばなくて、改めて、オレって暗いうえに救いようのない性格だよなぁと自分を振り返ってちょっと自己嫌悪を抱いていると、フローラル系の香水の匂いがふんわりと香った。
すぐに長い巻き毛の母親らしき女性が駆け寄ってきて、子供を抱き上げる。そして、黙って突っ立って居る二十歳前後の青年と子供とを見比べて不審そうに、己の子供を隠すように抱き締めた。そさくさと去って行った母子に、カカシはぽつんと取り残される。
「なんだかねぇ……」
軽く肩を竦めた後、カカシは何気なくまた公園の中に視線を引き戻す。と、そこで、
公園のブランコに座っている金糸に目を奪われた。
「――――……?」
柔らかい風に靡いてふわふわと揺れている金髪。カカシの位置からでは微かにしか見えないが、丸るいほっぺ。子供は、頼りなげな細っこい足で、キコキコ、ブランコを一人で蹴っている。
若干のデジャブと、それ以上の―――、引き寄せられるような吸引力。カカシは、何か見えない糸に手繰り寄せられるように、公園の中へと足を踏み入れた。
大きな碧い瞳を縁取る金色の睫毛。空と太陽の色彩を持つ子供がそこに居た。
「みつけた……。うずまきナルト」
呟いた喉声は何故か乾きを訴えて掠れていた。瞬間、ドス黒い感情が湧き上がって、それを隠すようにパーカーのフードを深く被る。
「ま、見れない顔じゃないな。将来は美人になるんじゃなーいの?」
あの人の子供だから当然だけど、と呟きそうになってカカシは口を噤む。話しかけようか、しかしなんて?と思案していると、ブランコからぴょこんと飛び降りた子供が、他の遊具に移ろうとしたのか、歩き始めて1、2、3歩、かなり盛大にコケる。砂埃が舞い上がった。
「あーらら、痛そー」
ちっとも痛そうに思っていない口調でカカシは、やはり突っ立ったままの姿勢で成り行きを傍観する。
(子供ってのはどうしてこうもすぐにコケるのかねぇ)
やっぱ頭がデカいからかと、カカシはちっとも子供の知識に関しては詳しくないのだが、(そもそも彼の生活圏内に自分の膝下より小さな小生物は存在しない)そういえばぬいぐるみなどもバランスが安定しないよなとまったく関係ない所に結論が到達する。
「ん?」
砂利で擦れた膝小僧。痛いはずなのに、だけど子供は何でもないことのように砂埃をほろって立ち上がる。
カカシの顔が顰められる。いつまで経っても子供特有のあの盛大な泣き声がやって来ない。
「―――・…」
感情が欠落したような子供に似つかわしくない虚ろな表情。碧い瞳は硝子玉のようだった。うずまきナルト8歳、父親が失踪してちょうど一年目の夏だった。






「カカシくん、見て見て。これがうちの子の写真だよ!カーワイイでしょう?」
「っても男でしょう? 男に可愛いも何もないですよ」
「なーに言ってるの、うちの息子は世界一可愛いに決まってるでしょう!」
「あー、はいはい。わかりましたから―――離れてくださいって、先生」
「冷たいよーカカシくんは」
「二十歳過ぎの男に抱き付かないで下さい、気持ち悪いです」
ぴしゃりと言い放ったカカシに男が苦笑する。そんなに可愛いのなら会いに行けばいいのに。
薄っぺらい紙切れに少し困ったような、泣き笑いのような笑み零す男を見て、自分はどう足掻いてもこの人の世界一の存在にはなれないのだと突きつけられた気がした。





写真の子供はおそらくカメラを構えていただろう撮影者に向かって満面の笑顔で笑っていた。では、今オレの目の前にいるこの子は何故こんな無機質な表情をしているのか。
およそ、この世の暗い影など似つかわしくなかった、子供がたった一年でこれほどまで変わるものなのか。
カカシは無言のまま、子供の前に立つ。子供はカカシの存在に気付いていないようで、何をしているかと思えば地面の蟻の行列に目を奪われているようだった。
数多く遊具がある公園で、アリンコの行列に夢中の子供。んなもん眺めてて楽しいか?と思いつつも、いつまでも自分に気付かない金色の後頭部に、なんとなくムカついてカカシは子供を蹴った。半ば、無意識で足が出ていた。真綿のように軽い感触。ころんと子供が転がる。
「あ、すまん」
普通の子供だったらんなことされたら大泣きしているところだが、やっぱり子供は悲鳴すら上げない。
「…ま、悪気はなかったけど、やる気はあったかな?」
半ば独り言のようにぼそりと呟いて、今日はどこに飲みに行こうかな、なんて全然違うことを考え始める。
安い酒が飲めて適当に一人暮らしの後腐れのなさそうな女がいてと、結構人間的に最低なプランを立てていると、子供がぽかんとカカシを見上げた。
「兄ちゃん。誰…?」
「………」
知らない男に蹴飛ばされたというのに第一声がそれだ。碧過ぎる、透き通った瞳に、カカシは何故か居心地が悪くなる。もういい歳のくせにまだ8歳のガキ相手に視線を逸らしてしまう。
「だあれってば?」
舌ったらずな口調にわけもなく背筋がゾクリと震えた。なんだよ、この感覚は。
カカシはポケットに手を突っ込んだまま、しばらく考えあぐねた挙句、
「……さてオレは誰でしょう。おまえはどー思う?」
気分は名無しの怪人Xで、さわったらふにふに柔らかそうなほっぺたを持つ子供を覗き込めば、
「灰色ねずみ…」
「は?」
「灰色ねずみ!」
びし!と人差し指でカカシを指差す金髪の子供。なんとも長閑で気の抜けた間が両者の間を通り抜ける。ファンタジーな表現をすれば、親鳥を追いかけたヒヨコがぴよぴよと行進したような。
「……おまえねぇ、随分と失礼なこと言ってくれるじゃない」
確かに。パーカーのフードを被ったままのカカシは某アニメに出て来るネズミ男と同じような格好だ。が、しかし、だが、しかし。続々と湧き上がる不定形の嵐。
「オレはどっちかと言うとカッコイイ銀色のオオカミデショ。ほら、ガオー」
長身のカカシが膝を折ってしゃがみ込み、真顔のまま子供の前で大口を開けてやれば(しかもご丁寧にも手まね付き)子供がびっくりしたように目を見開く。
それはライオンの鳴き声です、と正当な突っ込みをしてくれる良識的な大人は残念ながらここには居なくて、
「ガオーってば?」
「ガオーだよ、あんまり生意気なこと言うとおまえのこと食っちゃうよ」
頭の悪そうな会話が、青年と子供の間で繰り広げられる。
「頭から丸ごとぺろりとね」
冗談を言っているようには全然見えないで有名なカカシの無表情と淡々とした言い草に、普通の子供なら怯えてわんわん泣き出しても良さそうなものだが、目の前の金髪碧眼のお子様と言えば、怖がる様子もない。それどころか、「わかったってば灰色ねずみの兄ちゃん!」とのようなことを頭の悪そうな笑顔と共に返した。
「……おまえねー」
ちっともわかっていないお返事にカカシは半眼になる。ムカついたので、ぴん!と鼻先を弾いてやると「う?」と不思議そうに首を傾げる子供。
カカシを映す透明な碧玉。
「っ!!!」
ドキンとカカシの心臓が脈打つ。な、なんだ。今のは。経験したことのない胸の動機にカカシは後ずさりする。それがうずまきナルトとはたけカカシの初めての出会いだった。カカシにとっては運命の出会いだったのだけど。











 
 

 
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自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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