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空気猫

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ハッピーサンデー

「……うずまきナルトファイアーだってば!」
気合一発、両腕を振り上げて、玄関の鍵を閉めると、ナルトは土煙を上げて演習場に向かう。
(ううう、流石にちょっと眠みぃ……)
なにしろここ数日、よく眠れなかった。ナルトは重たい瞼を擦りながら、大股で木の葉商店街を駆け抜けた。
「うわ!」
しかし、元気が有り余り過ぎ…
「おう、なんだぁ……」
曲がり角のところで数人の男たちとぶつかった。
「おい、こいつ九尾のガキかぁ?」
ナルトは、男たちを見上げて、ツイてないってば、と疲れたようなため息を吐いた。


「はぁ……」
「カカシさん、疲れ気味ですねぇ」
「そりゃあね、火影さまにこってり厳重注意を受けてましたから。あの晩、オレのこと、密告はおまえたちでしょ。余計なことしてくれたねぇ」
朝日の爽やかな林の中で、険悪な雰囲気で対峙しているのは、特別上忍の不知火ゲンマと上忍師のはたけカカシだ。上忍の眉間に刻まれた特大の皺に、ゲンマは苦笑する。
「いや、野暮ってことはわかってたんですけどねぇ。報告しないわけにもいかないでしょうよ」
「そういうのを大きなお世話って言うんだよ」
馬に蹴られても知らないよ?と淡々とした口調で上忍からクナイが飛んで来る。
「カカシさん…。危ないですよ」
「当たり前でしょ。当てるように投げたんだから」
「……。――――ところで、何をしてるんですか、それは」
「決まってるでしょ、怨敵抹殺の準備」
「……それって例の恋敵」
クナイを鋭く研いで、どこの忍集団の殲滅に向かうんだというような、殺気を醸し出す上忍にゲンマが片頬を痙攣させる。
「………あの、カカシ上忍、また余計なことかもしれないんですけど」
「何。言っておくけど、今度こそ邪魔したらおまえでもただでは済まさないよ?」
「あー…。いやなんつーか、うずまきの好きな奴の話なんすけど」
クナイにずっと目を落としていた、カカシの視線が、その時初めて上げられる。
「いや……っ。本当にオレには関係ない話なんですが」
「何」
「なんていうか、それほど気にしないでもいいんじゃないですか」
「気にしてないよ~、目障りなハエを始末するだけ」
千切りにしてね?
ちっとも笑っていない目でカカシが笑う。
「……めちゃくちゃ気にしてるじゃないですか」
ゲンマが背筋を震わして、さーて忍犬でも呼びますか、とカカシが印を組もうとしたその時だった。
「見たか、さっきの九尾のガキ」
「見た見た、いい気味だったぜ」
「本当、傑作だよな」
「ありゃ良かったよな。あのガキに手を出すと、最近はたけなんとかっていう上忍が煩かっただろ?」
「確かに。上忍がバックに付いてるとなると表立って手出しする奴が減ったからなぁ」
不穏な里人たちの会話に、ゲンマが顔を顰めて「カカシさん、今の会話ヤバくないですか」とカカシに話しかけようとした時、すでに銀髪の上忍の姿はそこになかった。



男たちに蹴られてナルトが道端に転がる。起き上がろうとしたところを、靴底で頭部を踏み付けられ、路上に小さな呻き声が上がった。
「キツネが人間さまの道を歩いてるんじゃねぇよ」
ナルトは自分に加えられる暴行を止めに入るわけでもなく遠巻きに眺める里人たちをぼんやりとした視界で捉えた。
最近、忘れていた冷たい視線を感じて、爪先にジャリが食い込むほど拳に力を入れる。
よくよく思い返せば、カカシがナルトを追い回し始めてから、里人から暴行される回数が極端に減っていた。どこを歩く時も、抱っこされたり、手を繋がれたりされたせいで、ナルトが一人になる時間がなかったのだ。
「ほらほら~、化け狐ちゃん。人間さまの靴の底を舐めな?」
「泥道を這いずってるのがおまえにはお似合いなんだよ」
「………っ」
地面に突っ伏したまま、歯を食い縛る。
「なんだ、その反抗的な態度は…」
顎を持ち上げられそうになった瞬間、上の方で男たちの悲鳴が聞こえた。
「汚ない手でこの子にさわるな」
「……ひ!」
「カカシ上忍っ」
「その手、どかせよ。オレが潰してやるからさぁ?」
ぎゃー…っ!と断末魔のような声が轟く。ナルトは男たちの悲鳴を瞑った瞼の裏で聞いた。
「………ナルト」
両腕で持ち上げられて、きょとんとナルトの碧い瞳がカカシの姿を映した。地面には真っ赤な血の水溜りを作って男たちが倒れている。
「……カカシ、先生?」
「ナルト、おまえねぇ忍なんだから受身くらい取りなさいよー」
蒼褪めた表情のナルトを見て、カカシはやんわりと地面に子供を降ろした。
「だいじょーぶ、殺してないよ?」チラチラと視線を彷徨わせるナルトの頭をぽふぽふと撫でて、カカシがポケットに手を突っ込んで、苦笑する。
「泥だらけじゃない、おまえ。一回家に帰ってお風呂に入ろうか?」
オレが抱っこして運んであげるね、と言われてナルトが頬を紅くする。ナルトの初々しい反応にカカシは苦笑して、「可愛い…」とため息と共に耳元で囁き掛ける。
「………っ!!!」
ズザザザザとナルトが息を吹き掛けられた耳を抑えながら、カカシを見上げる。効果覿面なその反応に「おや?」とカカシが首を傾げた。
「ナルト?」
「なななな、なに!?」
「………いや、なんでもないけど、おまえ、顔が真っ赤だよ?」
ボンッと音が出そうなほど、ナルトが赤面して、「あー」とか「うー」とか唸りだして、「どうしたものか」と頭を掻いてたカカシの忍服をナルトが掴む。
カカシが「とりあえず着替えを」と踵かえそうとしたからだ。
「待てってばカカシせんせぇ…」
ぎゅう、とカカシの腰のあたりにナルトが抱きつく。
「助けてくれてありがとうってば」
「……ま、当然でしょ。おまえの担当上忍なんだから」
「………っ」
「と、言うのは建前で、好きな子の危機には当然駆けつけるでしょ~」
ぽかんとナルトがカカシを見上げる。開いた口には豆か何かを放り込めそうだった。
「……カカシ先生、昨日のこと怒ってないってば?」
「ん?」
「オレってば嫌っていっちゃったから、てっきりカカシ先生に嫌われたと思ってたってば」
今までもずっと、そう思っていた。カカシは自分のことを嫌っているのだと。
「は?何言ってるの。オレがそんな程度のことでおまえを嫌いになるはずがないデショ。それくらい、ずーーーーっとナルトのことが好きだったんだけど、気付いてなかった?」
「……全然わからなかったってば」
呆然としたナルトの様子にがくんとカカシが肩を落とす。
「あのねー、オレは好きでもない子を膝の上に乗っけたり、ほっぺにキスとか、べたべたさわったりしないよ?」
「……そ、そうなんだってば?」
「そうだよ。おまえ、オレをどんな大人だと思ってたの」
「だってサクラちゃんがカカシ先生は〝節操無しの性にダラしない大人だから誰にでもベタベタするんだ〟って…」
「………」
当たらずとも遠からずなサクラの教育に、寒い空気がカカシの背後を通り過ぎた。
「あっ。でも、オレってば…!」
少しだけ背中に棒線を引いたカカシに慌てたナルトが拳を握って大人を見上げた。
「うん?」
「オレってば、カカシ先生が節操無しでもっ、んでもってすっげー遅刻までダラしなくても…っ」
「ナルト?」
「オレってば、カカシ先生のことが好きなんだってば…っ」
一世一代のナルトの大告白にカカシは目を見開いた。
「………本当に?」
「銀髪の兄ちゃんよりカカシ先生の方が好きだってばぁ…。だから行かないでぇ」
くすんくすん、と鼻を啜りながら泣きつかれて、カカシの心境は棚から牡丹餅状態だった。これは、これはもしやナルトから告白されるという美味しい状況なのだろうか。
「カカシ先生と話すと胸のここらへんがぎゅっとするんだってば。傍にいるとキンチョーするし、上手く喋れなくなるし、こんなの全然オレっぽくないんだけどっ……」
カカシせんせぇ…と真剣な顔で見上げた子供は、そこでハッとしたように、目尻に涙を溜める。
「……っごめんってばオレってば急に」パタパタと涙を零したナルトが耳まで赤くして、俯くが、次の瞬間カカシに抱き上げられた。
「ふぎゅう……っ?」
ぎゅうっとナルトの足が浮かんばかりにカカシがナルトを抱き締める。
「好きだよ、ナルト。これで両想いだね」
カカシの腕の中でナルトがおかしな声を上げてショートしてしまった。ゆでだこみたいに赤い顔の子供を見下ろして、ふらふらした身体を支えながら、カカシはナルトに微笑みかけた。
「キスしていーい、ナルト?」
「うぇ!?」
「だって両想いなんだから、いいでしょう?」
そう言われれば、そんなような気がしてナルトは、こくんと頷いた。
「う、うん」
「大人のキスも?」
「う、うん。……おとな?」
「この間してあげた奴」
「?」
「舌でくちゅくちゅする奴だよ」
「!!」
真っ赤になったナルトは、躊躇ったようにカカシを見詰める。
「お、おう……」
「意味わかって、頷いてる?」
「あ、当たり前だってばっ」
「くくく、怪しいねぇ…。ま、いいけどね今からゆっくり教えてあげる。もちろん実施でね」
「……っんせ」
カカシがナルトを抱き上げて、視線を合わせる。
ぎゅっと目を瞑って緊張するナルトの真ん丸い頬に手を添えて、カカシは口布を下ろす。
「………え?」
「ん?」
薄っすらと開けられた碧玉が、それこそビー玉のようにまん丸く見開かれた。
「ああああああああ、あの時の兄ちゃん!?」
「……はい?」
ナルトは、キスの甘いムードも忘れて、カカシの顔のど真ん中を指を差して驚く。
「オレを助けてくれた銀髪頭に、色違いの瞳の兄ちゃん」
「へ?」
カカシの顔形を確かめるように、ナルトが、カカシの瞼、顔のラインをなぞるように触れる。ふくふくとしていて、拙い指の動きにカカシが背筋を震わしていると、難しい顔をしたナルトが「うんうん」と頷いた。
「間違いないってば。カカシ先生があの時の兄ちゃんだ」
「オレが?」
「おう」
「それじゃあなんのことはないオレがおまえの好きな奴だったってこと…?」
「そ、そうだってば…」
「あらら、嘘デショ…?」
「本当だってばよ!」
ナルトは瞳を瞬かせて力説するも、すぐにカカシの腕の中でくてりと力を抜くと、
「なぁんだ」とナルトから安著のため息が漏らした。
その時の笑顔が余りに綺麗だったため、思わずカカシは息を吸うことも忘れて見惚れる。
「へへへ、あの時の兄ちゃんの正体はカカシ先生だったんだ」
ナルトの目尻に涙が溜まって、ぽたりと涙が地面に落ちた。
「なんだかほっとしたら涙が出ちゃったってば」
ニカっと笑ったナルトは、カカシに抱き抱えられたままの体勢で背筋を伸ばすと、大人の両頬を包み込んで、うちゅっとカカシの唇にキスをした。
まさかナルトのほうからキスをしてくれるとは思わず、カカシの瞳が見開かれる。
「あのね、オレってばカカシ先生が大好き」
「ナルト」
「どっちも好きになった人がカカシ先生で幸せだってば!」
「……おまえ、そんな殺し文句どこで覚えてきたの?」
「ふ、ふぇ?」
「もう、手加減してあげれないよ」
「?」
「ねぇ、今日オレにナルトの全部を食べさせて?」
だめって言われてももう我慢できないんだけど。
熱っぽい声で囁かれて、ナルトの目元が紅く染まる。
「最初から両想いだったんだね、オレたち」
「そうだってば!ちっとも悩むことなんてなかったんだってば」
「くくく。そうだね」
「…笑うなってば。だって、カカシ先生ってばいっつもマスクしてるんだもん、あの時の兄ちゃんだったなんて全然気付かなかったってばよ!」
「そうだったんだ。早くオレの顔をよーく見せておけば良かったね?」
ちゅ、と素顔のカカシに小鳥が啄ばむようなキスを落とされ、ナルトは頬を染めた。
「ねえ、それじゃあ改めて聞くけど。素顔のオレは男前?」
「……っかっこいいってばよ」
言葉に詰まったナルトの様子を見てカカシはくくくと笑った。
「さぁ、そうと決まったらお家に帰ろうね~」
「えっ。カカシ先生、演習は?」
抱き上げられて、足が宙に浮く。ナルトはカカシの首に腕を回して、こてんと首を傾げた。
「サボり。はい、ちなみにこれをよーく見てね」
ナルトの膝の裏を持ち上げ、カカシは屋根に飛び移る。
「ちょーききゅうかねがい?」
下忍の部下に、紙切れ1枚を見せて長期休暇を告げる担当上忍。「って…カカシ先生。ジイちゃんからぶん取る気かよ」ナルトが呆れたようにカカシを見上げる。
「当たり。オレがここ数日被った心労を考えたら妥当な願い出でしょ」
それに、とカカシは腕の中のナルトに微笑み掛ける。「取るんじゃなく、今から受付に押し付けに行くんです」と笑って、カカシはお姫さま抱っこでナルトを家まで運んだ。






「くぁ…。今、朝だってば昼だってば?」
毛布の中からぴょこんと頭を出したのは服を身に纏っていない子供だった。どこか気だるそうに、欠伸をして、カーテンに手をかけようとしたところで、ベッドの中からにょきっと伸びた大人の手に再び、抱き込まれた。
「ふぎゃ、カカシ先生、もーギブギブギブ!!!」
助けて~~!!!と憐れな子供の悲鳴が上忍のアパートの中で木霊する。「こら、ナルト。人聞きの悪い…」とカカシがナルトのおでこにキスをする。
「オレが無理矢理してるみたいデショ~」
「最後の方はもう無理矢理だったってば…っ。あっ、あんっ!」
「ん~、いい声♪」
「変態~~」
「もうちょっとダラダラしていよーよ。せっかく休みなんだし」
一旦無言になったカカシの提案に咋にほっとした顔でナルトがこくこくと頷く。そしてえいやっとばかりにカカシの腕の中に飛び込んで頬を摺り寄せる。
「へへ、カカシ先生の身体ってば冷やっこい」
すりすりと頬を寄せると、ぎゅうと抱き締められた。
「はぁ、可愛い」
「か、可愛くないってば…」
「オレにはおまえが世界一可愛いーの。一目惚れだったの」
「……っカカシ先生って恥ずかしいこと平気で言うってばよ」
「あれ、知らなかったの?」
しれっとした顔でカカシが言って退けナルトは、はぁとため息を吐いた。
この数分後、結界の張られたカカシ宅にサスケとサクラの七班の面々、ナルトの保護者イルカに、暗部、果ては上忍、特別上忍、最後はやたらややっこしい結界を解くために奔走してゲッソリとした顔の火影が、
「こんのっ、変態上忍!!」
と乗り込んで来るとも知らずに。
ナルトの正当な恋人だと主張する上忍(しかし半裸)と、衣服を身に纏っていなかったためにシーツの中に隠れなければいけなかったナルト。
ナルトの様子を見て、木の葉の里の面々の怒りはヒートアップしたものの、
「オレってばカカシ先生と両想いなんだってばよ……」
と顔を真っ赤にさせてナルトが小さく呟いたので室内は静まった。そして言わなければいいものを、「も、もうオ、オトナのカンケイなんだってばよ…っ。色々教えて貰ったんだってば!」と言った。
本人としてはカカシの弁護をしたつもりであっただろうが、ナルトの居た堪れない発言のおかげで、サクラはキャ!と手を覆い(しかし内なる何かが見えていた気がする)、特別上忍`Sは「あー…」と口を開け、イルカは泡を吹いて卒倒した。
三代目火影はさすがは年の功…とあって、屹然と立っている、と思われたが、どうやら立ったまま三途の河を渡りかけていたらしい。
衝撃の発言をしたナルトといえば、オレってばやり遂げた!という得意満面の顔で、「そうだよね~、オレとナルトはも切っても切り離せない深―い関係なんだよねー」とカカシに頭を撫ぜられていた。
銀髪上忍の背後に怪しいショッキングピンクのチャクラが漂っていたが、初期教育の賜物かナルトは、カカシのことをちっとも怪しいと思わなかったらしい。
とりあえず、カカシがナルトを抱き締めて、ナルトがカカシにキスをして、しあわせな日曜日。










 
 
 
 
 

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自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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