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空気猫

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小連載。なんちゃって神社パラレルです。ペットライフとは別の狐ものです。






 


稲荷神社のお狐様は今日も大忙し

オレが村外れにある稲荷神社を訪れたのは、部落長から物の怪の〝駆除〟を依頼されたからに他ならない。この国では、無数にある部落にそれそれ部落長がいて、農民たちを管理している。そして、地図上の臍の部分に、国を統括する朝廷がどんと腰を下ろして、無理難題な御触れを出したり、年貢だとか土地代だとかを納めさせて踏ん反り返っているというわけだ。わかりやすいだろ?
さて、ややこしい説明は抜きにして、オレは流れ者の術師だ。ま、簡単に言うと拝み屋みたいなものかな。名は、はたけカカシ。悪霊を祓ったり、妖怪を退治するのが術師の仕事だ。ちなみに、父も同じ術師でこの筋の世界の中ではちょっとした名前を馳せた人だったが、オレが小さな頃に他界した。
朝廷お抱えの術師であった父は、物の怪に襲われた術師仲間を助けたために、依頼人である貴族を死に至らしめた。何てことはない、仕留め損ねた物の怪が貴族を憑き殺したのだ。
父は、信用を失い朝廷を追われ、果ては助けた仲間からも罵倒され、自害した。息子であったオレは父から直接の指導を受け当時から並の術師よりも力を付けていたが、その事件以来、白い目で見られる事が多くなった。
不運はまだ続き、不慮の事故でオレは都で最も尊いと言われる家柄の少年に怪我を負わせてしまった。少年はその怪我が元で高熱を出した挙句死んでしまい、十三歳の誕生日と共にオレは都から追い出された。
永久に地を彷徨ふ、流れ人と成れ。これがオレに与えられた刑罰だった。都に帰って来ない限り、罪は言及しない。しかし、都に近付こうとすれば命はないというわけだ。
オレが死罪を免れたのは、幼馴染みだった少年がどんな形であれ、オレが生き続ける事を深く望んでくれたからに他ならない。
オレは、幼馴染の少年の最期の言葉に従い、流れ者となる道を選んだ。それがせめてもの償いなのだと思い、重い枷を引きずりながら歩き続ける事を誓ったのだ。
だから、オレは戸籍も持たず、故郷を忘れ、はぐれ者の術師となった。ま、真っ当とは言えない野良犬みたいなものだな。
しかし、捨てる神あれば拾う神あり。はぐれ者の術師となったオレは自分一人だけならば食うに困らないだけの仕事にありつけた。
この国には物の怪がよく出没する。虫と同じ原理で、都から離れた場所ほど小物から大物の物の怪まで、多くの妖したちが跋扈するのだ。
しかし、朝廷に術師の派遣を依頼しても、中心部から離れた山奥の部落に、都人である術師が来る事は、まず殆ど無い。都の姫や、腰抜け息子共が、雑魚妖怪が襖の向こうを浮遊しただけで気絶をしてしまうので、その親たちが挙って術師を呼び寄せたがるからだ。なので、朝廷お抱えの術師たちは破格の報酬を払わなければ、滅多に遠い地方の部落まで足を伸ばす事がないのだ。
困ったのは地方の部落長たちだ。物の怪たちは人間の事情など察してくれない。その地域に出没する物の怪が人喰いの類だった日には、一つの村が壊滅の危機にまで追い込まれてしまう。
そうした村々は一年に一度人身御供として、供え物の人間を差し出すか、物の怪たちに隣人や家族が一人また一人と食べられていくのを見ている他に術はなかった。
そんなふうに、崖っぷちに立たされた人々の前にオレは、まずまずと言える妥当な値段で、物の怪退治を申し出る。彼等は最初、オレの説明を胡散臭そうな顔で聞いているが、オレの色違いの瞳…とくにこの国で最も高貴な一族だけが持つとされる赤い瞳に気付くと、勝手にオレの出自をやんごとなき家柄の出だと勘違いし、全幅の信頼を寄せた。ちょろいものだ。
そうやって、オレは未だに、親友がくれた左目に助けられ、部落という部落を北から南、西へ東へ渡り歩き、流れ人として生きている。
早いものでもう十三年の歳月が経った。今年でオレは二十六歳だ。いつまでこんな生活を続けられるのだろうかと時折不安に思いながらも、相変わらず魑魅魍魎たちを相手に気ままな拝み屋業を営んでいた。
今回、オレが請け負った仕事は、物の怪退治の仕事の中でも比較的簡単な部類に入る一件で、村外れにある廃屋となった神社に、物の怪が棲み付いているようなので退治して欲しいというものだった。
部落長や村人の話を聞く限り、「ケンケンという鳴き声が聞こえた日に火事が起きたので物の怪の仕業に違いない」だとか、「神社の前に呪いの御札が無数に貼ってあった」だの、「物の怪が子供の姿に化け、村の子供たちに紛れて遊んでいた」だとか、どれも迷信だとか、勘違いの域を出ないものだった。
そのうえ「女人の姿で現れて村の男を誘惑した」だの、本当に子供のような悪戯をする物の怪のようだ。
もっとも、火事は偶然の出来事が重なったかもしれないし、子供が勘違いをする事はよくある事だ。女人の姿は、亭主が遊女と一夜を共にしたりした時に家内によく使う言い訳でもある。
物の怪とは古来から、人間に恐れられると同時に、都合の悪い事に一緒くたに押し付けれる存在だ。
実際、物の怪退治を依頼されても、当の退治する物の怪が存在しない事も少なからずあった。
そして、〝退治した事にする〟のもオレの仕事の一つだ。人間の心理とは不思議なもので「ここに物の怪なんていなかった」と言っても「はい、そうですか」と納得する事は少ない。
無いものを退治して、安心させてやるもの術師の仕事であるといえる。生前、父はオレに、術師とはイカサマ師か偽薬に似ている、と言っていたのが今ではよく理解出来た。
この神社に居る物の怪もそうした類の現象なのだろうか。見たところ相当古い神社のようだ。朱色の染料が所々剥がれた鳥居を潜ると、狐の形を模した石像があった。
この神社で祀っている神は御稲荷さんらしい。村人の話を聞く限り察しはついていたが、やはり地方の農村の神々に多いのはお狐様だ。
最も、今や朝廷からの人心を統一する政策として、農民の間では大陸からの神々が信仰の主流になり、荒神と呼ばれる古来の神々は絶滅危惧種だ。
奴等は信仰をされないと神力が弱まる。酷い時は人間に忘れられただけで死んでしまうのだ。そうして、古来の神々は、徐々に山奥へと引っ込み常世から離れて行ったり、弱い神々は野の獣になった。
今までオレは何度も、既に神が死んでしまった神社で執り行われている祭事を見た事がある。空っぽのご神体に向かって祈りを捧げる人々の光景を見る時ほど居た堪れないものは無い。
神主と呼ばれる人物は必ずしも、〝視える〟人物が成るわけではないのだと、オレはその時に初めて知った。神の声が聞こえるという彼等の大半は何も居ない虚空へと向かって祝詞を唱えていた。流れ者であるオレが〝何に向かって祈っているんですか〟と尋ねると、そうした奴ほどムキになって神の存在を主張したものだ。
「思っていたよりも綺麗な境内だな。掃除が行き届いている…」
この神社は木の葉稲荷というらしい。名前を聞いた事はなかったが、人から捨てられた神社のくせに、キシキシと音が鳴る木板の床は埃が積もることもなく磨かれていた。不審に思いながらもオレはとりあえず、その神社の社に一泊する事にした。物の怪が居るとなれば危険な行為ではあるが、敵地の中に潜り込むのは一番手っ取り早い方法だからだ。
その時、トタタタタタタ…と。オレの頭上で、軽い足音が聞こえた。荷物を出していた手を止め見上げれば、木目が古そうな天井があった。
トタタタタタタ…。首を捻った所でまた別の場所から足音が聞こえた。オレは虚空を睨む。無人だと思っていた神社の天井裏を走る何者かの足音。









 
 
 
 
 
 


奇妙な話を書いてしまいました。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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