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空気猫

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「おまえ。物の怪じゃなくて、神か……?」
「おう。そうだってば!」
三角耳をぴんと立てた子供は、ほんの小さな子供がするように(いやしかし、〝ナルト〟と名乗ったその子も十分に小さな子供の外見をしていたのだが)、元気良く手を上げて答えた。
「オレってば木の葉稲荷を千年間護ってきた齢千歳の稲荷神だってば。よろしくな!」
「お狐様ってわけか…」
齢千年とはまたご立派な。いや、神と名乗る存在にしてはまだ若い部類に入るのだろうか?
そうだとすれば十二歳の子供の外見は、神としては相応しい姿形なのかもしれない。
「〝カカシ〟。良い名前だってば。オレってばずっとオレの存在に気付いてくれる神主様を待っていた!」
子供が、オレの懐にふんわりと抱き付いて来る。オレは普通の子供にだって懐かれ慣れていない。そんなオレが、ど田舎の奥地でこんなガキンチョに――それも神様に懐かれてしまうなんて、誰が予想しただろう。人間にだって、これほど熱烈な歓迎を受けた事がないオレは、困り果ててしまった。
「早速、神社の中を案内するってば。どこから見たいってば。ご神体の像?それとも、本殿だってばっ?」
「お、おい。おまえ」
オレの衣服の裾を引っ張っていた神様がきょとんとして小首を傾げた。
「どうしたってば、神主様?」
「誤解をしているようだけど、オレは神主じゃないよ?」
「へ?」
「残念だけど、オレは術師でね。おまえの言う神主にはなれない」
「っ?」
「オレは、たまたまこの辺りを旅していた流れ者の術師なの。この神社は宿代わりに数日間、宿泊していただけで、とどまるつもりはないの、わかる?」
駆除の事は言わずに、オレは嘘を吐いた。このうえ、オレが自分を始末しに来た人間だと知れば、この小さくか弱い神様は、それだけで消えてしまう気がしたからだ。
「残念だけど、明日には出発するつもりだよ」
「そ、そうなんだ」
子供の、それまで三角だった耳がしゅんと項垂れる。目に見えてショックを受けている事が丸わかりだ。
「術師って不思議な術を使う人たちの事だってば…?」
「そうだな…」
「なぁんだ…。だからオレの姿が見えたんだ?」
「まぁ、そうなるな」
居心地が悪い会話だ。
「そっかぁ。オレってば、今度こそオレの神主様に会えたんだって、早とちりしちゃったってば…」
なぁんだ…。もう一度繰り返され、子供の足が虚空に向かって蹴り出される。どうして子供はこんなにも気落ちしているのだろう。神に似つかわしくない、俯いたその仕草が余りに寂しそうだったので、オレは図らずも手を差し伸べそうになってしまった。
「そうだよな、こんな寂れた神社に神主の資格を持った人間が早々来てくれるはずないよなぁ…」
「………」
〝神主募集中〟とボロボロの汚い字で書かれた立札は、長年風雨に晒されたためか、神様ではなく、妖怪が書いた文字のようだ。あちらこちらにある木々に貼られた怪しい御札も、よく見れば、同じような字面が続いている。
あれは、〝呪いの御札〟ではない。あれは、おびただしい数の、誰かを探し求める声だったのだ。あの無数の札一枚一枚を全て、この目の前にいるこの子が貼ったのだろうか。
その作業は、想像を絶するほど、孤独な作業だったに違いない。いったいどんな気持ちで?
「ずっと一人なのか?」
「千年くらい前にここの神主様の家系が途絶えてから、一人かなぁ?参拝客が段々来なくなって、最後までお参りしてくれたじいちゃんも寿命で死んじゃって…オレってばみんなに忘れられちゃった。今思えば結構呆気なかった」
そして、続いたのは長い長い数百年の孤独。
「でも、オレってば神様だから一人は慣れてるから平気!」
「………」
なんと声を掛けたら良いのかオレが迷ってると、狐の神様がぐるんと顔を上げた。
「この神社さ、あんまり人が来ねぇから立ち寄ってくれただけでも十分嬉しいんだ」
やけに明るく、狐の神様が笑う。小さな身体を弾ませ、ぎぃぎぃと立てつけの悪い引き戸を開けて、掃除の行き届いた廊下を一匹だけで跳ねるように歩く。
「あのさっ、奥の本殿に案内するってば。兄ちゃん、まだあとちょっと居るんだろっ。奥に食べ物があるんだっ。兄ちゃん、腹空いてるだろ。神様直々にごちそうしてやるってばよ!」
口調は少しだけ偉そうなのに、狐の神様は転びそうになって、何度もオレを振り返った。
一生懸命で危なっかしい神様。寂しさを押し隠すようにニシシと笑ったその顔にオレは知らず知らずのうちに胸を締め付けられた。

 
 
 
 
 









木の葉神社は参拝客を絶賛募集中らしいです。
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空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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