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空気猫

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木の葉町。某日とある日曜日、秋の午後のことである。喧噪と雑踏を抜けた表通りから2、3本離れた閑静な住宅街…ではなく、どこからか銃刀法規制に違反するような不審な音や、若い女性の金切り声が響く、曰く有り気な住宅街を、カカシとナルトが歩いていた。
「ここがカカシ先生の家?」
「そ。わりと普通でしょ」
「わりとボロボロ」
「おまえ、口は慎みなさいね」
ナルトの住んでいるのとさほど変わらない2階建て木造アパートを階段を登りながらナルトは、正直な感想を漏らした。
「学生の頃から住んでたからわりと愛着があるんだよ」
「へー。カカシ先生ってアスマさんと住んでたんじゃないの」
「それ、熊に聞いたの?」
「おう」
「いつ会ってたの」
「あの人、父ちゃんの店にいっつもいるじゃん」
「……あいつはロクなこと教えない。ここには学生時代の半分くらい住んでたんだよ」
カカシはナルトの手を少しだけ強く握り返しながら、玄関の鍵を取り出す。ナルトは、カカシの手を不思議そうに見詰めて少しだけ首を捻った。
「ふぅん。カカシ先生にも若い頃があったなんて信じられねぇ」
「おまえ、怒るよ?」
「冗談だってば。センセー、目が据わってるってばよ」
カカシにおでこを軽く弾かれて、ナルトはケラケラと笑った。






「ま、適当に座ってよ」
「―――――すっげ」
扉を開けた瞬間、ナルトは鼻をつく匂いに顔を顰め、これはどこで嗅いだことのある匂いだっただろうかと首を捻ったあげく、ああ高校の美術室の匂いだと思った。
はたけカカシの部屋を一言で言い表すなら、キャンパスに絵具をブチマケたような部屋だった。赤、青、黄、緑、ワインレッド、フラッシュピンク、コバルトブルー。そこはまるで壁中が色彩の嵐のようだった。
所狭しと並べられたキャンバスには、目茶苦茶な色彩で塗りたくられたものから、腸が飛び出した女の人が描かれもの、丹念に描かれていたのにナイフで切り裂かれたようなものまである。
「ナルト。何か飲む?ジュースでいい?」
「お、おうっ!」
カカシの質問に、ナルトはやたらと背筋を正して答えたので、カカシは背を丸めて笑った。
「くくく。おまえ、何かしこまってるの。もしかしてオレの部屋に来て緊張してる?」
「し、してねぇ…!」
「そぉ?なんだかいつもと様子が違うけど?」
「気のせいだってば……!」
「ま。ならいいけどな」
「お、おうっ」
「大丈夫…。おまえが怖いなら、今日は何もしないから安心しなさい?」
「へ?」
カカシはまた背を丸めて苦笑しながら、キッチンに立った。油絵具はキッチンにまで浸食し、戸棚やシンクは、絵具だらけだった。一瞬ぽかんとしたナルトは、床に倒れているキャンバスを踏みそうになって、慌てて飛びのいた。
「カカシ先生がなかなか部屋に呼んでくれなかったわけがわかったてばよ。この部屋を付き合って1日目に見せられたら確実に引く」
「そ?」
「そうだってば。なぁ、カカシ先生ってば、ここで普段ちゃんと飯作れてるってば?」
「んー…いやあんまり。お店に出すものの試作品を作るくらいかな」
「やっぱり……」
なぜ、フライパンの中に絵具がぶちまけられているのか、ナルトはカカシに問いたくて仕方なかったが、なんだかロクな答えが返ってこないような気がしてため息を一つだけ吐いて誤魔化した。
キッチンにはこの部屋に似合ってるんだか似合ってないんだかわからないファンシーキャラクターのマグカップが確かにあったが、しかしそれはどうやら絵の具を伸ばすための透明な液体を入れる用途に使用されているらしく、使ってるといえば使ってるが、やっぱりカカシ先生ってどっかズレてるよな、という結論に辿り着いた。
「この部屋の絵ってカカシ先生が描いたの?」
「ああ」
壁にこってりと塗りたくられている塗料にナルトは顔を顰める。投げつけられて、べこべこに折れたキャンバスを壁から寄かせると、その壁の一角には無数の目が、描かれていた。
これは悪趣味を通り越して、病的ですらある。
「これも……?」
01.jpg無秩序な部屋の中で、唯一、まともにイーゼルに立て掛けられて飾られているキャンバスがあった。腐った卵の殻の中に蹲っている少年の絵だ。キャンパスの中の少年は碧い眼を逸らさずに、真っ直ぐにこちらを見つめていた。金髪の少年の周りには陽だまりのような色彩がぼんやりと朝焼けの空のように滲み、キャンバス全体に蔓が這っている。
優しいタッチ。生命感に溢れた色彩。きっと描いたカカシにとって特別な人なんだ。一目見ただけで、その絵が他のどれとも違う特別なものだとわかった。ナルトは、会ったこともないこの絵のモデルの少年に嫉妬してしまいそうになった。

「これはおまえだよ」
「へ?」
ナルトが絵に見入ってると、後ろから抱き締められて後頭部にキスをされた。
「これがオレ…?」
カカシの目にはこんな風に自分が映っているのだろうか。
「あー…うん。照れるね」
どうやら製作者にとってもお気に入りの一枚らしい。歪んだ風景の中で自分の絵だけが正常さを保っていた事実に、少しだけほっとした。
ナルトはそのまま座れる場所を探してカカシのベッドの脇に腰を下ろす。そこで、以前に自分がカカシに贈った観葉植物を発見して、ウッキーくん、頑張れってば酸素を作ってこの部屋の空気を清めるのだ…!と念じておいた。
「カカシ先生ってばもしかしてゲージツ家って奴なの」
「大学は美術学科だったから本職はこっちなのかな。まぁ、今は描いてないけどねぇ。だからおまえのお父さんのお店でお手伝いをさせて貰ってるしな」
「ふうん」
「描けなくなったから」
「え」
「オレの腕、駄目になったんだ。ある日、突然腕に鉛の枷が付いたみたいになって、それ以来、馬鹿みたいに腕が重い。前は、腕が届く範囲のここらへんにあるものを、掴めて形に出来たはずなのに、今は散らかして、バラバラにしてしまうだけ…。だから、オレは、描くことを諦めた。もともと周りが勝手に称賛してオレの評価を決めていたし、オレ自身はそれほど自分の絵が好きってわけじゃなかったしね…」
カカシは床に落ちていたペインティングナイフを忍者が投げるクナイみたいにキャンバスに飛ばした。
「オレの描いた絵は芸術ではなくただの死骸」
キャンバスには黒い背景にカラスの白骨死体が描かれていた。ナイフは丁度カラスの翼の部分に刺さった。
「だから、ここはオレにとって残骸の部屋」
まるでこの部屋事態が、一個の作品のように、カカシは言った。床に割れた卵の殻が散らばっていた。








 







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空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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