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空気猫

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@星の王子様。






その惑星で、子供はひとりぼっちでした。
「石を投げろ」
「やーい風船なし」
仲間外れにされ、石を投げられ、道を歩けば罵倒されていました。
鬼ごっこのずっと鬼役。誰も見つけてくれないかくれんぼの最後の一人。
子供が〝風船なし〟の異端者だからです。
ふわふわ、風船の星。
万有引力が引き合う孤独の力っていうのは本当でしょうか?
どこかの詩人が言ってましたよね。
その惑星で、子供はひとりぼっちでした。



その惑星の住民は、心臓の代わりに風船を持っていました。
街を歩く人々は皆ゆらゆらと揺れるパステルカラーの風船といつも一緒です。
歩いている時に風船と風船がくっつくいてハートの形になると、パートナーの証でした。
あとは簡単な契約書に名前を書いて、はい出来上がり。
これであの人は貴方のパートナーです。
たまに幾つもの風船とくっついて良い風習の地域もありましたが、大概は二つが通例です。
一度くっついた風船の相手が生涯のパートナーになる人もいます。
何度か変わってしまう人もいます。
片方だけ割れてしまって、しぼんでしまったパートナーの風船をずっと大切に抱いている人もいます。
万有引力が引き合う孤独の力っていうのは本当でしょうか?
どこかの詩人が言ってましたよね。
ここは風船の星でした。
孤独の数だけ風船が浮いていました。



ちょっとした不慮の事故からなのですが、
子供はお父さんとお母さんから風船を渡されませんでした。
風船の膨らまし方も、またどこに行けば買えるのかも、
誰も教えてくれませんでした。
また、風船がどれほど重要なものであるのかを、
子供は誰よりも知っていましたが、
欲しいとも思いませんでした。
だって、風船を手に入れたとしても、それが割れてしまった時、
どれほど哀しい気持ちになるか、子供はよく知っていたからです。
そして、子供は風船が必ず割れてしまうものなのだと思っていました。
事実、子供の周りで風船の割れる音の多いこと、多いこと。
あちこちから、風船の破裂音が響きます。
割れるたびに新しい風船と変えることもできますが
子供にはそれが耐えられませんでした。
耳元であの破裂音がなるだけで堪らないのです。
風船と風船の持ち主が寄り添い合うと温かいかもしれません。
だけど、失うくらいなら、初めからいらないのです。
だから、その惑星で、子供はひとりぼっちでした。
そして、自分が誰よりも強くなれば、
ひとりぼっちでも良いと思ってました。



今日も惑星のどこかで風船の割れる音が聞こえます。
それと同じくらい引き合う風船も多いですが、
子供は風船を持つことを拒否しました。
子供は割れない風船を欲しましたが、
それが存在し得ないことを悟るくらいには世間というものを知っていました。
今日も惑星のどこかで風船の割れる音が聞こえます。
貴方にも聞こえますか。



ナルトはカカシの部屋で思わぬ絵本を見つけた。戸棚の隅っこで、発見した一冊の本。それは、ナルトが幼い頃、何度も読んでいた気に入りの絵本だった。
――どうしてカカシのアパートにこんなものがあるのだろう。何かの偶然なのかわからないまま、ナルトは本に目を落とし、しばし固まってしまった。ナルトは、キッチンの隅っこで大量の未開封のインスタントコーヒーの袋を発見して(それもコンビニの袋に入ったままだ)、ぎょっと身を引きながらも、ゴミ袋にペットボトルを捨てた。カカシに尋ねれば、どうやらインスタントのコーヒーは滅多に飲まないらしく、珈琲ばかりは喫茶店業界の人間らしく豆を直接挽くものが好きだという。
ナルトにそこらへんの拘りはいまいち理解できなかったが、それならばなぜ毎日コンビニにインスタントコーヒーを買いに来たのだとツッコミたくなる。飲まない珈琲の購入など不経済ではないか。立腹するナルトに、カカシはただ曖昧な笑みを返すだけで訳を答えてくれることはなかった。


 
しくしく泣いていた子供に近付く影がありました。
「ねぇ、どうして声を押し殺して泣いているの?」
歪で曲がった背中の彼は灰色ねずみだと名乗りました。
灰色ねずみは風船を自分で割ってしまったと言いました。
子供の、涙の足跡を辿って来たのだと指を差しました。
「オレと友達になろうよ」

灰色ねずみは言いました。
「オレと友達になってくれるの?」
子供は驚いて灰色ねずみを見上げました。
なぜ、彼が自分を選んだのかわからなかったからです。
だって、灰色ねずみは子供と違って人気者でした。
「なんて綺麗な尻尾でしょう!」
「素敵な瞳ね」
「その灰色の毛並みはお月さまの下でさぞかし映えるでしょうね」
彼のピカピカ光る外見は称賛の的でした。
だけど、灰色ねずみはそれが「虚しい」のだと首を振りました。
どんなにたくさんの人々に囲まれても、外見でしか判断されない自分は孤独でしかないというのです。
「きみがいいんだ」
「どうして?」
子供は訊ねると、灰色ねずみは、
「風船を捨てたオレと、風船を持っていないきみはよく似ている」と言いました。
灰色ねずみは風船を捨てた罰を受けているのだと、
子供にブリキの心臓を見せました。
灰色ねずみの手は、胴は、足は、心の臓さえも生身のものではなくなり
自分から熱を発さないブリキになっていました。
なんて虚しい。         
空っぽだ。
灰色ねずみはおなかの中に空虚を飼っていました。


「可哀想な灰色ねずみ…空っぽな心が寒いんだね?」
「そう、オレは孤独なんだ。だからきみと友達になりたいんだよ」
「オレに出来るかな?」
「きみにしか出来ないんだ」
誰もが灰色ねずみの見てくれに見惚れて、中身を見ようとはしませんでした。
中身を見たって、空っぽのがらんどうなのですから、
灰色ねずみも困ってしまいますが。
「例えば、きみがオレと友達になったら、毎日午後二時ちょうどに花を贈ってあげる。代わりにきみはオレに歌を贈ってくれればいい。そうすれば二人はとても楽しい気分になるだろう?」
「毎日?」
「そう、毎日っていうところが大切なんだ」
「それはずいぶん大変だと思うよ。だってオレは学校もあるし、他の友達と遊ばないといけないかもしれない」
子供はひとりぼっちで寂しいくせにそんな憎まれ口を叩きました。
灰色ねずみを試していたのです。
だって、裏切られるのは怖いでしょう?
もしかしたら灰色ねずみは口の上手い意地悪なねずみなのかもしれません。
「いいかい、オレにとってきみはまだなんてことのない子供だ。オレも、きみにとってはまだなんてことのないねずみだ。だけど、オレがきみにとって特別な存在になったら、オレはきみにとってなくてはならない灰色ねずみになるんだ。この意味がわかるかい?
つまりオレが二時に来るとわかっていたら、きみは一時半からオレのことを思い出してくれる。オレも毎日二時にきみと会えるとわかっていたら、朝起きた時からウキウキした気分になれる。素敵なことだと思わないかい?」
「それは凄く素敵だね」
「そうだろう?」
上機嫌で灰色ねずみは言いました。
「それじゃあ、きみとオレがもっと仲良くなれるおまじないを教えてあげるよ」
灰色ねずみは仲良くなれるおまじないの言葉を子供の耳に囁きました。
〝×××××〟
灰色ねずみは魔法使いの弟子なのです。だから、魔法の呪文は子供に良く利きました。
「いいかい、この呪文を他の誰か口にしても、きみはけしてそいつにのこのこ着いて行ってはいけない。これはオレときみだけの特別な呪文なんだ」
「ホンモノとニセモノを間違えちゃダメなんだね」
「そうだよ。そして、オレかきみがこの呪文を唱えると、オレはきみにとって世界でたった一匹の灰色ねずみに、きみはオレにとって世界でたった一人の子供になれるんだ」
「凄く素敵だね」
「オレと友達になってくれる?」
灰色ねずみは言いました。子供はこくんと頷いたのでした。



二人の毎日は平和で楽しく過ぎて行きました。
灰色ねずみと子供は惑星の住民が本来持つべき風船を持っていませんでしたが、
代わりに絆を結びました。



灰色ねずみが杖を一振り。
空からお菓子が降って来ました。


灰色ねずみが杖を一振り。
子供を苛めていた人間を追い払ってくれました。



灰色ねずみが杖を一振り。
どんな時でも傍にいてくれました。



灰色ねずみが魔法の杖を振り上げると、どんな願い事も叶いました。
どんな時も、どんな時も。彼は子供だけの魔法使いに変身したのです。



この世界にはたくさんのねずみがいます。
だけど、他のねずみが死んでも、子供は哀しくはありません。

それは、子供の灰色ねずみではないからです。
だけど、子供の特別な灰色ねずみが傷付いたり涙を流すと、
子供は哀しくなってしまうのです。
それは灰色ねずみもそうでした。
彼の特別な子供が傷付いたり涙を流したりすると、ブリキの心臓が軋むのです。
たとえ明日世界が滅亡したって、灰色ねずみは哀しくないでしょう。

沢山の動植物が絶滅の危機に瀕したとしても彼の心は動きません。
ただ、思うのです。運がなかったね、と。
だけど、灰色ねずみのたった一人大切な子供が涙を零すと、
温めてあげたくなるのです。
ブリキの心で、誰かの心が温められるはずがないのに、
ブリキの腕に抱いたところで、子供の頬が冷たくなってしまうだけなのに
灰色ねずみは叶いもしない夢を見たのでした。



灰色ねずみは、だんだん子供のことが大好きになりました。
惑星に何千人もいる人間の子供は彼にとってなんてことのない存在でしたが、
彼の特別な子供は彼にとってかけがえのない存在になりました。
もう、灰色ねずみにとって子供のいない生活は考えられなくなりました。




その頃からでしょうか。
子供の周りに沢山の住民が集まるようになりました。
驚いたのは灰色ねずみです。
「これはオレの子供だよ!」
灰色ねずみは言いました。
「これはみんなの子供だよ」
風船を持った住民たちは言いました。
「違う、違う、違う。あれはオレだけの特別な子供なんだ」
灰色ねずみは頭を抱えてしまいました。




「灰色ねずみ、灰色ねずみ。オレは風船を持つことにしたよ」
子供はもうひとりぼっちではありませんでした。
子供の手には黄色い風船が一つ握られていました。
「オレは風船が割れてもいいと思える相手を見つけたよ」
反対に灰色ねずみの中の空虚は大きくなるばかりでした。
風船を自ら捨てた灰色ねずみと、子供とでは大きな差があったのです。灰色ねずみは自分の勘違いに気付きました。
灰色ねずみは発狂しました。
「おまえの目を手を足を食べていいかな。頭から爪先まで全部自分のおなかの中に納めれば安心できるかな」
灰色ねずみは、子供に懇願しました。だってもう耐えられなかったのです。
子供が、自分から離れていくことが耐えられませんでした。
灰色ねずみは子供を自分の心臓の代わりにしようとしました。
灰色ねずみは子供を頭から爪先まで残らず
自分のおなかの中に閉じ込めてしまいました。
これで安心。


これで灰色ねずみだけの子供。
一匹と一人はいつまでも幸せに暮らしました。
むかし、むかしのお伽噺です。



 

ナルトは、本のページから顔を上げた。カカシが換気のために開けた窓の外から、犬の鳴き声が聞こえたからだ。
「オレも小せぇ頃この絵本、持っていたってばよ」
「そうなんだ?」
ベランダに寄り掛って、カカシは背を向けていた。カカシのアパートの隣には空き地がある。カカシはそこに向かって、肉の切れ端を無造作に投げていた。
「昔はさぁ、灰色ねずみのような人がいたらいいなぁって思ってた時期があったんだってば」
「………」
「凄く寂しくて、いつも一緒にいてくれる人がいたらどんなにいいだろうって思ってた。今考えるとすっげー都合のいい話だけどさぁ」
ナルトは絵本を閉じると、ベランダにいるカカシの横に並んだ。
「何、あげてるんだってば?」
肉の欠片を投げながらカカシは「店の残り物」と言った。大小様々な大きさの野良犬がカカシの餌を待って空き地に来ていた。
以前、カカシがペットを飼っていると聞いていたナルトは呆れてカカシが犬に餌をやる様を見ていた。全部で8匹もいる。
「カカシ先生、これはペットとは言わねぇと思う」
「そう?」
ナルトはカカシの飼い犬と呼ぶ犬たちは「暫定的に飼っている状態」だと定義付けた。
「この絵本、今読むと絵も文章もストーリーもサイアクだってば」
「そうだね」
「最後のページが破れてるけど、どうしたんだってば?」
「中古で買った本だからねぇ」
「だめじゃん、カカシ先生。中身くらい確認して買えってばよー」
ナルトは幼い頃は開いたことのなかった作者略歴が載っているページを開こうとして、カカシに苦笑された。
「作者は発狂の末に恋人を殺してからピストル自殺してるよ」
聞くんじゃなかった…という顔でナルトが唇をひん曲げた。
「通りで父ちゃんがこれを読む時に嫌な顔してたはずだってば」
「先生が?」
「そ。〝ナルく~ん、まぁたこの絵本?〟って」
「あの人がいいそうな台詞だねぇ」
「だろ。まぁ…こんなバッドエンドっぽい不気味な絵本をそう何度も読みたくなかったと思うけどさぁ?」
カカシが背中を丸めてクククと笑っている。
ナルトもつられてニシシと笑っていると「冷えるよ…」とカカシに肩を引き寄せられ窓を閉められた。ナルトは、飲みかけのサイダーの缶を眺めながら、ぽつりと呟いた。
「なぁカカシ先生」
「ん?」
カカシの肩にナルトは凭れかかる。
「だけど、オレはこの物語の意味が凄くわかるってば」
「オレも、この絵本の意味が良くわかったよ…」
子供の気持ちが、とナルトは思いました。
灰色ねずみの気持ちが、とカカシは思いました。
















イチゴミルクと灰色ねずみのおさらいのような話になりました。
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自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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