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空気猫

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あの日以来、ナルトはカカシと距離を取った。カカシと会うことがなくなって一週間。ナルトの携帯に見知らぬ番号から着信があった。
「おい。姫さんか?」
「……アスマさん?」
「悪い。カカシの携帯から勝手に電話番号調べさせてもらった。すまないんだがカカシの家に行ってもらえないか」
「へ…?どうしてだってば?」
「あいつの家に行ってくれればわかると思う。申し訳ないんだが姫さんにしか頼めないんだ、あいつは」
「………」
突然の電話とその内容にナルトは戸惑いを隠せない。ナルトは携帯を睨みつけると、「いったいどういうことだってばよ…」と呟いた。しばしの無言のあとナルトは食品を買い出ししたのちカカシのアパートへと向かった。
「カカシ先生…!?」
スーパーの袋を持って、カーテンの引かれた部屋に入ると床に倒れている大人がいた。
「……う、ん」
「どうしたんだってばよ!しっかりしろってば!」
「……ナルト?……ナルトだぁ」
そこにいたのは、憔悴した大人だった。子供のように手を伸ばされて、ナルトはその腕を振り払うことができなかった。



「ナルト。最近、欠席が多いぞ。イルカ先生も心配してただろうが」
「あぁ…」
「どうしたんだ…。覇気がねぇなぁ」
久し振りに学校に登校して来たナルトは、幾分かヤツレているようであった。シカマルは椅子に寄り掛りながら、ペンをくるくると回した。呟いたのは少年お決まりの一言――めんどくせぇ。であった。
「いったい何があった。どうせ、おまえの悩みはあの人絡みなんだろ」
「…シカマルぅ……」
「いいから、喋れる範囲で話してみろ。だから、オレの前でそんな顔すんな。―――人が見てんだろ…」
男前に決めたシカマルであったが、後半の台詞は教室のど真ん中でナルトに抱き付かれてしまったため尻すぼみになった。この少年も苦労に堪えない人生を送っているものである。



「―――そりゃ、ヤベぇな。おめぇがいないと駄目なのか?寝る時もトイレに行く時も?」
「おう…。なんか、家事も洗濯も危ういって感じで、放っておけなくて。オレってば何日も家に帰ってないし、何回も話し掛けてやっと学校に来れたんだってば」
「おまえの父ちゃんに相談してみればどうだ?」
「そんなのダメだってば!今、カカシ先生はちょっと混乱してるだけで…きっともう少しすれば良くなると思うってばよ」
はぁ…、とシカマルは額に手を当てた。元々ナルトは自己犠牲精神が強い。どうやら今回は、それが困った方に働いているようだ。唇を噛んだナルトの様子を見て、シカマルは何を言っても無駄な事を悟った。
「だからオレは最初から言ったんだよ。あの人はヤバいって」
「オレだって、カカシ先生が少しおかしいのは知ってた。だけど、それでも好きだったんだってば。だから、カカシ先生のこと、見捨てられない…」
(おまえの方が辛そうじゃねぇかよ、めんどくせぇ…)シカマルは後ろで一つに括った頭をガリガリと掻いて、ため息を吐いた。
 「おまえと、あのカカシさんとかいう人ってはどっか雰囲気似てるよ。おまえは、カカシさんと一緒にいると凄い楽なんだろ。似た者同士気が合うかもしれねえけど、同じとこが足りねえもん同士は危ないんだぜ。同じとこが足りてねえとバランスが取れないんだよ、このままじゃおまえらは共倒れになる」
「シカマル。それってどういう意味だってばよ」
小教室に呼び出されシカマルが切り出した話題の内容に、ナルトは表情を強張らせた。
「なぁ、オレとカカシ先生に別れろって言ってんの?」
「オレがそう言ってるように聞こえるかよ。それっておまえも心の奥で少しは勘付いているんじゃないか。このままじゃヤバいって」
「そんなことはないってば…」
ナルトは窓際で学ランの襟に顔を埋めて、開いた窓の外に視線をやる。
「カカシ先生と別れるなんて絶対やだ…」
「ナルト。そんなに、あの人が好きなのか」
「シカマルはカカシ先生ばっかがオレに執着しているように言うけど、オレもそれ以上にカカシ先生のことが好きなんだってば。やっと見つけた人だから、―――オレの大好きな人だから今度は離れたくないんだってば」
オレの灰色ねずみ。彼は、ナルトだけのねずみだったのだ。そんな彼と自分をどうして周りは引き離そうとするのだろう。
「それが危ないって言ってるんだよ…」
シカマルの呟きはナルトには聞こえなかった。
「くそ。めんどくせぇ。フラフラの身体で強がりやがって…」




ナルトのアパートから、2駅ほど離れた小通の一角。「こんなところになぜ喫茶店が?」と誰しも思ってしまう場所に木の葉喫茶はあった。
商売する気があるのか、ないのかで聞かれればきっと「ない」の方向に天秤が傾いてしまうような喫茶店だったが、幸い経営は傾くことなく、僅かな常連客とふらりとやって来た客を相手に商売をしているらしい。
「……ナルくん。 今日はどうしたの。ため息ばっかり吐いて元気がないね?」
ジャズの流れる店内に黄色いツンツン頭が二対並んでいた。昨日、海外から帰ってきたばかりの波風ミナトは息子の様子がおかしいことに気が付いていた。
「オレはナルくんじゃないってば」
「ええ~、ナルくんはナルくんでしょ~」
「…………」
締まりのない顔でミナトがナルトの顔を覗き込むが、「真面目に仕事すれってばよ」とすぐに視線を逸らされてしまい「ナルく~ん」と何とも情けない声が厨房から上がった。
「あれ、ナルくん。どうしてココア飲まないの」
「子供扱いすんなってば、オレってばもうココアなんて飲まねえの!」
ギロと息子に睨み付けられると、ミナトがたじたじになる。そんなマスターと息子の様子を苦笑気味に常連客が見守っていた。店内には穏やかな時間が流れる。
「そうか、ナルくんも大人になったんだねぇ…。ええとそれじゃあ珈琲とか?」
今度は「珈琲は苦くて好きくねぇ」とナルトがカウンターに顎をくっつけて口を尖らせると、何故かほっとした顔でミナトが顔を弛めた。「そっか、まだ珈琲は飲めないよね」と笑う。
「…………」
この人は自分をいったい何歳だと認識しているのだろうか。まさか7歳の頃から時間が止まっているとは思えないが、今までの言動から察するにどうも怪しい。
「それじゃあイチゴミルク?ナルくん昔大好きだったでしょ!」
怪訝そうにナルトの顔が顰められる。――…ナルトがイチゴミルクを好きだと最初から断定してきた銀髪の大人がもう一人いた気がする。それはもう一部の疑いもなく…。
「なんでイチゴミルクなんだってば?」
「え、なんでって…。ナルくん好きだったでしょイチゴミルク」
「……オレ。昔、イチゴミルクが好きだったの?」
「そうそうナルくん、小さい頃は大の牛乳嫌いで、随分クシナさんと苦労したなぁ」
「……オレが牛乳嫌い?」
「そうだよ、あれぇもしかして覚えてないの?」
そんなことちっとも覚えていない。むしろ今は牛乳は好物の部類に入っているので俄かには信じられなかったが、ならば「イチゴミルク好きデショ?」と言ってあのピンク色の暢気なパッケージを差し出してきたカカシは、ミナトから聞いて自分の好物の飲み物を知っていたのだろうか。一瞬フードを被った銀色の男の影が頭を掠める。
「―――……っ」
瞬間、なぜか涙が込み上げてきた。
馬鹿だ。
大馬鹿だ。
本人でさえ覚えていないことをいつまでも覚えていて。
そのくせ、不器用で。言葉っ足らずで。
肝心なことはいつも何も言ってくれなくて。
だけど、そんな不器用な大人が、どうしてこれほどまでに愛おしいのか。
馬鹿だ。大馬鹿ものだ。
―――オレってば、馬鹿だってば。
いつだって、カカシは、自分を一番だと、全身で言っていてくれたのに。
「オレってば用事思い出した!」
「え、ナルくん?」
駈け出したナルトの背中をミナトはぽかんと見守った。
 
 



 
 
 
 









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空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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