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空気猫

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「カカシ先生なんてだいっきらいだってば!」
久し振りの長期任務から帰ると、金髪碧眼のあの子がそんな酷い言葉をカカシに投げてきた。せっかく帰ってきた恋人にそれはないでしょ、と思ったが、落っこちそうなくらい大きな瞳にこんもりと涙を浮かべられて、そんな台詞を言われたものだから、怒るよりも先にカカシはナルトを抱き締めた。
「どうしたの、ナルト?」
「もうカカシ先生と別れるってば…!」
「ナルト。なんで、そんな酷いこというの?」
「やだ、やだ、やだ、離せ―っ」
ぽたぽたと床に綺麗な滴が零れ落ちて、小さな子供はカカシの拘束から逃れようとする。そんなに泣かないでよ、オレまで哀しなっちゃうでしょ、と己の唇で子供の目尻から溢れ出している涙の粒を掬い取る。この子の一部だと思うとしょっぱいだけの液体すらも甘く愛しくて、ぎゅうと抱き締めれば、ヒックヒックとしゃっくりを上げる子供がやっと大人しくなった。
「何かあったのか?」
「………」
「ねぇ、ナルト。ちゃんと言ってくれないとわからないよ?」
「別れるのぉ」
「ナルト…」
しばらくの沈黙の後、カカシはため息を吐いて、ナルトと向かい合う。カカシは背が高くて、ナルトはそれよりもずっと低いから、二人の視線が合うためにはカカシが膝を折って、ナルトの顔を覗き込まなくてはいけない。それほど体格的にも、そして年齢的にも距離のある二人。接点なんてまるでなくて、そのうえ一方は12歳のお子様なのだから、そんな二人が恋人同士になった時、衝突があって当たり前なのだけど。
「カカシ先生が嫌いになったから別れるんだってば」
「………」
「だから、もう家に来ないでってば。窓からも勝手に入ってくるなっ」
「うわっ。ナルト…!?」
突然、飛んできたクッションに、カカシは驚いて目を見開く。幸い、クッションはカカシに当たることはなかったが、
「!!!」
叱られると勘違いしたのかナルトは肩をすくませて、びくんと震える。
「ううう~~」
「………」
カカシは、ため息を吐いて、腕の中に囲ったお子様を見降ろした。久方ぶりに見る愛しい子は、頬を真っ赤に染め、小刻みに震え、涙でボロボロだ。ぎゅっと目を瞑った、そのさまは凄く可愛らしい。猛烈に愛らしい。だけど、綺麗な涙が流されるのが、情事中の理由以外で、というのはカカシ的には頂けない。
「ナルト。おまえ、ちゃんとオレの目を見て話しなさい?」
涙を零すナルトにカカシが喋りかける。ふるふると頭が振られて、「別れるぅ…」とまたちっちゃな声で、カカシの胸を切り刻むような台詞が漏れる。
「ナルト、そんなこと言うのは止~めて?先生の息が止まりそうになるデショ?」
優しい口調でナルトを諭せば、くしゃくしゃになった顔のお子様がいて。ぶさいくだねぇ、と思いながらカカシは鼻先にちょんとキスをしてやる。
「ふくっ、うぇ、いやぁ」
「ナルト…」
「やだ、別れ……―――んうっ」
突然、ナルトの口が大きな手によって塞がれて、呼吸困難になる。
「ん――っ、ん――っ」
涙目で見上げると、自分以上に辛い顔をしたカカシがいて、なんで先生の方がそんな今にも死にそうな顔してるんだってば、とナルトはまた盛大に大泣きしてやりたくなる。
「ん、んく…、んっ」
鼻まで手で覆われてしまったから息ができなくて。ああ、オレってばこのままカカシ先生に殺されてしまうのかな、と思った。それでもいいかもしれないという思いと、やっぱりやだってばという思いが責めぎ合って、結局ナルトは息苦しさからカカシの脇腹を思いきり蹴った。
「バカ、カカシ先生。オレのこと殺すつもりだってば!?」
「……オレがそんなことするわけないでしょ」
「それじゃさっきの手はなんだってばよ」
「いや、つい…」
「ついじゃねぇ――――っ!」
腹が立ったのでもう一発蹴ってみる。オレってば火影を越す男なんだってばよ、こんなとこでカカシ先生に殺されて堪るもんかっ。とばかりに、ふーふーと肩で息をするナルトを床に転がったカカシが見上げる。
「だって、おまえが変なこと言い出すから悪いんだろ」
「ちっとも変なことじゃないってば。カカシ先生と別れるんだってばっ」
「…ナルト。オレ、本気で怒るよ?」
「うっせぇっ。オレだって怒ってるってば」
いくら、こっち来るなってば!近寄るなってば!とポカポカ叩いても、上忍相手ではちっとも効き目がない。ナルトは壁際へと追い詰められてしまう。
「別れ話だって言ってるのに、なんで別れてくれないんだってば」
「当たり前デショ」
「もうもうもう、おでこにチュウすんな、服に手ぇ入れんな。カカシ先生、オレってば真面目な話してるの!」
「ちゃんとした理由も聞かずに別れてやるわけないでしょ」
「だから嫌いになったから」
次の瞬間、にこにこ笑っていたカカシが、その笑ったままの表情で壁に拳を打ちつけた。
「―――っ」
「きらいなの?」
背中が壁に押し付けられ、次いで、ドン!とまたカカシの手が壁に打ち付けられて、ナルトが小さく悲鳴を上げた。
「――――オレのコト。きらいなの、ナルトは」
カカシのいつにない雰囲気にナルトの身体が強張る。
「き、きらいっ」
「あっそう。ふーん」
売り言葉に買い言葉。力で、カカシに勝てないことは百も承知だが、抵抗しないのも悔しいので壁に張り付くようにして、歯を剥いて威嚇していると、顎をついと持たれて上を向かされる。
「ナルトは、オレを怒らせて楽しい?」
「べつにオレってばカカシ先生のモノじゃねーし…っ。嫌いっ。カカシ先生なんて大っ嫌いだってば!」
涙目になってナルトが強がりで喚くと、ぞっとするほど温度のない視線で見降ろされた。
「――おまえ、自分が何言ってるかわかってる…?」
カカシから腕の中から逃げ出したかったが、後ろは壁で、壁とカカシに隙間なく挟まれて逃げ場がない。
「オレを納得させる理由をつけて、オレの嫌いなところ説明してみなさい?」
「な、なんだよ。んなおっかない顔してもダメだってばよ、バカにすんな。オレってばカカシ先生がキラ―――…」
また、耳の横すぐの壁を叩かれて、ナルトはびくんと痙攣する。
「だから、ちゃんと説明してご覧。どう嫌いなのか。出来ないでしょ。なにか、喋りなさいよ?」
至近距離でカカシに詰め寄られる。戸惑ったナルトはカカシの手から逃げ出そうとするが、大人の力に敵うはずもない。
「ろくな説明も出来ないで、別れたい?オレのことをバカにするのもいい加減にしてくれる?」
「………っ」
カカシの、心臓が止まりそうな冷めた声が降って来た。
「おまえとは、絶対別れてなんかやんない」
「なっ。」
予想外の台詞に、驚いてナルトは顔を上げると、かなり怒った顔をしたカカシが居た。
「絶対、離してなんかやらない。おまえがどんな理由つけたってオレが了承するはずがないでしょ?」
「………!」
「おまえ。このオレを相手に、簡単に逃れられることが出来ると思うなよ?なんなら、このまま犯して、この部屋に閉じ込めて、オレなしじゃいられない身体にしてやろうか?」
「っ!? っ???」
「想像してごらん?ああ、そうだ。わからず屋には、今から実践で教えてやるってのも面白いよな?」
そのまま無理矢理、キスをされる。酸欠寸前まで、口を塞がれ、ナルトがカカシの胸部を叩くと、どちらとも知れない透明な糸が伝い、そのままカカシはナルトの服を剥ぎだす。
「やだーっ。やだってば、カカシ先生―!!」
「うるさい」
「!!!」
こんな冷たい声のカカシは初めてだった。教師でも上忍でもなくて、一人の男の人としてカカシを怒らせてしまったのだと、ナルトは悟ったが、だからと言ってどうしていいかわからない。
床に転がされ、無理矢理服を剥がれる。乱暴なカカシの動きが怖くて、知らない男の人みたいで、ナルトは泣きだしてしまった。
「やだぁ…。やめてよ、カカシせんせぇ」
それでも、カカシの手は止まらない。首筋にチリリと痛みが走って、下肢に手が掛けられる。これから何がおこなわれるのか、既に経験してしまっているナルトにはわかっていたが、それよりもナルトを苦しめているのはカカシの表情だった。
「ひっく。うぇ。そんな目で見ちゃヤダァ…」
思わず、ナルトはカカシの身体を叩く。棒きれのような細い腕が二本、カカシに向かって伸ばされた。
つっかえ棒のようにして、ナルトはカカシの心臓を叩く。
「その怖い目、やめろってばぁ…」
「ナルト…?」
完璧な無表情でナルトの服を乱していたカカシは、ドンドンと胸板を叩く小さな手の存在にはっとした。
「―――……」
そして、そこで初めて自分がこの子供に対してやってはいけないことをしてしまったのだと気付いた。
「ごめ…っ、ナルト」
途端に、冷水を浴びせられた時のように、背筋が冷えた。里の中でこの子がどんな視線を浴び続けて来たのか、自分はいやというほど知っていたはずなのに。今、自分の下で泣いているのは、誰よりも大切にしたかった愛しい子だった。
「ひっく。うえっ。やぁ…」
「ごめん、ごめんね。ナルト?」
慌てて、だけど壊れ物のように、泣き過ぎで熱を持った両頬を包み込む。
「もう、大丈夫だよ?」
ふと視線を落とせば、ナルトの腕には、自分の手形がくっきりと残っていた。どれだけの力を込めて、この小さな子を圧したのか。思わず己の執着心の深さに、瞠目してしまう。
「ひぅ…っ」
「ナルト…」
カカシの声に、ナルトはまたビクンと震えて泣いていた。
「えっぐ。うっく。だって、だって…オレってば、オレってば、別れるって、言ってるのに…。カカシ先生のためなのにっ」
「はぁ?どうして、それがオレのためなの?」
「だって、だって。オレってば頑張っていっぱい考えたのにぃ」
「うん?なんだか知らないけど、頑張ったの?」
「うぁああんっ」
「ナルトが一生懸命オレのために頑張ってくれたのは嬉しいけど、その理由を教えて?」
優しいカカシの声。カカシの手管にノセられちゃってると思いつつも、いい子だねと、ほっぺをマッサージするみたいにふにふにさすられると、意地を張って強張っていた身体の力が抜けてしまう。
「この間、受付所に行ったら中忍の人たちにカカシ先生と別れろって言われた」
「あー…。原因はそれか…」
「最近、里の中ではたけカカシは狐に憑かれてるって噂があるの、知ってた?キ、キツネってオレのことだってばっ?」
イルカにラーメンを奢っても貰いたくて、任務受付所に行った時に居た中忍たちの会話。初めは、何を指しているのか、誰のことを言ってるのかすら、わからなかった。カカシは新しいペットでも飼い始めたのだろうか、ともすら思った。だけど、この里で「狐」を指すものが、もう一つあると気が付いて、愕然とした。
「お、おれ、知らないうちにカカシ先生のこと、お、おとしめてた…。オレと一緒にいるせいで、カカシ先生が悪く言われてた…」
「〝貶める〟って、おまえ。随分難しい言葉知ってるねぇ?」
「そ、そういうことじゃなく!カカシ先生!オレってば、真面目な話してるってばよ!?」
また、碧い瞳にこんもりと涙が溢れ出して、カカシは苦笑した。
「カカシ先生は上忍でエリートで、里の人にも認められて、好かれているすげー人じゃん。なのに、オレは〝キュウビ〟で、嫌われ者だってば…」
きゅうっとナルトはカカシの肩口で唇を噛み締める。
「でも、オレ悔しくって。悪口言ってた人たちのことに行って睨み返した。そしたら、生意気って小突かれた」
「――――それで?」
「オレとカカシ先生なんて上手くいきっこないからすぐ別れちゃうって言われた」
ナルトは、すんと鼻を啜った。
「カカシ先生は物珍しくてオレと付き合ってるだけなの…?九尾のガキが可哀相だったから同情して傍にいてくれるの…?」
オレ、カカシ先生にとって迷惑?
それは、子供の小さな告白。
「それでオレと別れる話になったの?」
「うん」
カカシは何度かナルトの金糸を梳いていたが、やがてぎゅっとナルトを抱き締めた。
「あー。ふわふわのお日様の匂い」
「な、なに。せんせいってばっ?」
「それにすごくあったかいよねぇ。おまえ、まだ子供だからかなぁ?」
大人の体温に目一杯抱き締められ、ナルトは戸惑ってしまう。
「――それで、ナルトはどこの誰とも知れない男たちの言うことの方を信じちゃったわけだ?」
「お、おとこ?」
「そう。恋人のオレを差し置いて、よりにもよってそんな複数名の男たちの言うことをさぁ?」
「カカシ先生。なんだか捉え方が怪しいってばよ。オレってば、全然そんなつもりで言ったんじゃねぇし…」
ナルトはカカシの腕の中から逃れようとジタバタともがくが、やがてうーうー唸って大人しくなった。
「カカシ先生が任務でずっと帰って来ないから、オレってば嫌なこといっぱい考えちゃって。頭の中グルグルして。どうしようって先生のことでいっぱいで」
ナルトの後頭部に顔を埋めていると、ズズズと鼻水を啜る音が聞こえる。あー、ちり紙でちーんてしてやんなきゃなとどっかのおかんチックなことを思いつつ、恋人としてこの小憎たらしくも愛しい生物をどうにかしてしまおうかという幸福な葛藤にカカシは頭を悩ませた。
「馬鹿だねぇ。ナルトは」
「な、なんでだってばよ!」
「だってさぁ、オレはこんなにナルトにメロメロなのに」
「へ!?」
「あのねぇ、オレは好きでもない奴と付き合ったりするほど、物好きじゃないの。その意味、わかる?」
「っ!!」
「だからナルトは、オレがカカシ先生の恋人なんだーって大威張りしていればいいんです」
「うー…、それってなんかすげー嫌な奴のよーな」
「どうして。ナルトがオレの恋人なのは事実でしょ?」
「うー、うー、そうなんかぁ?」
その後。なぜか、カカシによってベッドの中に引き摺りこまれてしまったナルト。
ベッドの上で神妙に正座した二人。もちろん、真っ裸である。
「えーと。ところで、ナルトさん。オレの息子の処理をお手伝いして下さると嬉しいです」
「~~~っ」
カカシの指し示した指の先を辿って、ナルトは赤面。ナルトがカカシのために、勃起した大人の欲に手を伸ばしたかは、謎である。
「カカシ先生~!」
翌朝、ぱたぱたとフローリングの床を駆ける裸足の足音。お玉を片手に構えた最強装備の12歳の少年が、睡眠を貪ってたカカシのシーツを引っぺがす。
「んもう、いい加減にしろってば。カカシ先生ってば、シーツ洗濯するんだから、早く起きろってばよ!」
「んん~、もうちょっと…」
「寝ぼすけ、エッチ大魔神、変態教師~~!おきろ~!!」
ああ、しまったと思ったがもう遅い。巻物いっぱいの罵詈雑言を小さな恋人に突きつけられ、はたけカカシあえなく起床。元気になってくれたはいいが、どうにも立場が悪くなったのは気のせいか。そんなカカシを見降ろしながら、両手にシーツを広げたカカシの愛しい子はニシシと笑った。









 
 
 
 






 
この二人は付き合い始めです。おまけ
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=゜w゜=

こんばんは。覚えていらっしゃらないと思いますが、このサイトの書き込み第一号だったらしいあおいです。
こういう話大好きです。
足りないおつむで一生懸命、カカシ先生の事を思って、別れを選択しそうになったナルちゃん健気です。

むしろ、カカシ先生こんな可愛いナルトに思われている事に感謝しろー!とふんぞり返っていいたいです(笑)

きっと、この後、カカシ先生は、「俺のナルトを泣かせた罪は重いよ。」とか「鳴かせていいのは、俺だけ」とか言いながら報復しちゃうんでしょうねぇ~。

また、機会がございましたら、健気で可愛いナルトのお話をお願いします。
では、またお邪魔します!
あおい 2010/06/17(Thu)01:06:37 編集
メッセージありがとうございます、空気猫です。
あおい様ですね。覚えていますよ~笑。やはり最初の頃に書き込みして下さった方、というのは印象的ですから^^ 「その後」なのですが猫さんのパソコンのメモリを覗いていらっしゃったのかと思うくらいドキリとしました。
ご明察の通りこの話には+おまけがあります笑。カカシ先生の報復話ですね。ただあまりにも残虐シーンのみでつまらない書いたもののアップするのをさっくり忘れていたという…^^カカナルでもないので…。そんなものでよろしければ近日、「ああ、こんな先生嫌だな」という奴がアップされる予定です。
空気猫  2010/06/17(Thu)23:42:05
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ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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