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空気猫

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home sweet home
四代目+カカシのちのカカナル





別段、普段通りに任務を終え自宅の敷居を跨げば、家の中で父が自殺していた。はたけサクモが自殺した日は、里でも稀に見るほどの猛暑で、彼の死体は死後半日しか経っていなかったというのにすでに腐敗臭が漂っていた。音もなく嗅いも残らないというのが、忍の最後の姿であるというならば、咽をクナイで掻っ切って死んだ父の死体は酷く生々しいものだった。
彼の一人息子であるカカシは、ただ茫然と畳の上に広がる赤を見降ろしうつむいた。父に任務の成果を褒めて欲しかったが、彼は咽を真一文字に切ってしまったため、二度と口を開くことはできなかった。それが、カカシには酷く残念なことであった。
「父さん。どうしてオレを置いていったの?」
ぽつりと薄暗い部屋で呟いてみたが、答えてくれる人はいない。まだ幼かったカカシは、物言わぬ亡骸を前に呆然と立ち尽くした。
はたけサクモの遺体は葬儀を挙げることもなく、誰に知られることもなく、暗部等によって迅速に処理された。終わってしまえばなるほど呆気なく、これが白い牙と呼ばれた忍の最後なのかと戸惑うほど世間から注目もされない末路だった。
唯一カカシの手元に残されたものはたった一刀のチャクラ刀だけで、父の忍具が入った引き出しの中身も、いつも綺麗に折り畳まれていた忍服も、最後に亡骸が横たわっていた畳すら剥がされ、遺品は全て暗部によって没収された。
まるで初めから何もいなかったように父の存在は消去されてしまったのだ。
「ねぇ。あそこのお家の上忍のはたけさん、自殺らしいわ。ほら、任務で負傷して以来いつも縁側にいた人よ」
「あらまぁ、それはお気の毒にねぇ。残された子も可哀想に。まだ十歳にもなっていないのにねぇ」
「でも、仕方ない話かもしれないわね。ほら、何しろ裏切り者の…」
そこで主婦等の声のトーンが低くなり、任務を終え帰路に着こうとしていたカカシの耳は否がおうにも彼女等の言葉を拾う。
「ああ、裏切り者の子供なのね」
「酷い話よねぇ。子供に罪はないと言うけどねぇ」
言うがどうなのか。本当に哀れだと思うのならば、買い物のついでの道端で会話の種に出来るものではないだろう。同情しているという声色とは裏腹に物見高い好奇心を抑えきれない様子は人の不幸な話に集る蟻のようだとさえ思う。ギロリと睨みつけてやれば、主婦等は短い悲鳴をあげた。
「子供のくせに可愛げのない子ね!」
怯えたような視線と罵りの言葉を残して去っていく集団。カカシは無言のままその場を立ち去る。
道を歩いていると、額に何かがぶつかりそうになり片手で受け止めると、それは熟し既に腐ったトマトだった。気配を追いかければ、数人の足音。
今、この里の中にあってカカシという子供は異物なのだろう。異物を排除する時の人間の醜さに吐き気すらする。彼等はきっと正しいことをしていると思っているに違いない。里の秩序を乱す裏切り者の子供。害悪にしかならない〝それ〟を取り除く。なんと立派で善良な里人様方だろうか。ーーーうるさい、うるさい、黙れ、放っておいてくれ。当時のカカシにとって里での毎日はぐるぐると渦巻く悪意の渦中だった。


金髪の青年が玄関先に立っていたのは父の死後から二週間は経とうとした昼下がりだった。
カカシは太陽の日差しを浴びて輝く金色に暫し目を細めた。
「きみがはたけカカシくんかな」
「あんた、誰」
「ボクはサクモさんの古くからの知り合いでね。昔、きみのお父さんにはとてもお世話になったんだよ」
恐ろしく綺麗な顔の優男。それがカカシの青年に対する第一印象だった。
「来るのが遅れてしまったけれど、サクモさんにお線香をあげたくて」
青年は里指定のベストを着用していることから察するに中忍か上忍なのだろう。だというのに実力のある忍にはまったく見えなかった。
「骨なんてないのに?」
カカシは思わず見知らぬ大人を嘲笑した。目上のものにすら生意気な態度を取っていたカカシはこの時、既に忍として任務に就いていた。もう一人前なのだという自負が少年にはあったのだ。
「あんた、忍の世界のしきたりを知らないわけでもないでしょーよ」
何故だか急に全てが馬鹿らしかった。八つ当たりだとわかっていたが青年を包む何かが無性にカカシを苛立たせた。
「カカシくん。人が一人死んで何も残らなかったなんてことないんだよ」
そんなカカシの様子に青年は痛ましそうに眉の根を潜めた。今思えばそれが彼の優しさだったのだが当時のカカシがわかるはずもない。
「ちょ、ちょっと。なんで勝手に家に入ってるわけ?待てよ!」
はっとした時には青年は無遠慮に玄関を跨ぎ、廊下を歩いて行く。まるで勝手を知りつくしているような迷いのない足取りに、なるほど先程の「父の古くからの知り合い」という言葉は本当で、青年は何度となくこの家に来たことがあるのだろう。しかし今はこの男が父とどういう関係であったのかなんてどうでも良く、ただ、ただ、父と己が暮らしたこの家に他人が侵入することが許し難かった。
「入るな!」
カカシの絶叫に近い制止の声に青年はちょっと困ったように肩を竦め「ごめんね」と笑った。青年は台所を通り過ぎ、そのまま居間の奥にある父の部屋に踏み込みーーー…そしてしばらく、空っぽになった縁側を眺めた。
「わかっただろ。この家に父さんの残したものなんて何も残っていやしないんだよ!」
ここに故人の残したものはない。さぞや満足しただろうと大人を見上げる。しかし、そこにあったのはぬるま湯のような微笑みで、青年の酷く優しい眼差しがカカシにはただただ不快だった。
「これがサクモさんの見ていた風景なんだね。サクモさんは庭が好きだった」
「あんたに父さんの何がわかる!」
青年は何かに思いを馳せるように縁側を眺めている。
「サクモさんは何も残さなかったと言ったね」
「ああそうだよ」
「きみがいる」
「は?」
「ボクはきみの後継人として生前にサクモさんからきみのことを任せられたんだよ」
「嘘だ...」
途端に眩暈を感じた。立っていた床がぐにゃりと曲がり、カカシは膝を付いた。呆然として床に座り込むカカシに青年の手が伸びかけたが、
「来るな!」
思っていたより悲鳴に近い怒鳴り声になり驚いたのはむしろカカシ自身だった。「出ていけ!出ていけ!出ていけ!」咄嗟にチャクラ刀を青年に向ける。
「何が目的だ。帰れよ。ここは父さんとオレの家なんだ!」
「カカシくん。ボクはーー…」
「うるさい!」
刃物を向けられれば誰しも身構えるものだろう。だが、目の前の男はチャクラ刃をかざしても怯えるどころか、近付いてきた。なんなのだこいつは、気持ち悪い笑みを浮かべて、父さんの知り合いだなんて今頃やって来て、こんな弱そうな男が後継人だなんて悪い冗談だ。得体の知れない男にカカシは動揺を隠せない。当時まだ幼かったカカシは父と自分だけで完結していた世界に突如として現れた侵入者を排除しようと躍起になっていた。
「カカシくん。ボクはきみから何も取り上げるつもりはない。だから安心して欲しい」
「ひっ」
カカシはひたすら恐怖した。そんなカカシを見透かすように優しい手は刃物を突き出したカカシの手ごと包み込む。混乱するカカシと視線を合わせるため膝を曲げた青年は己の手の平から滴る血を気にも止めずに微笑んだ。
「ボクはきみを迎えに来たんだ」
だから行こう?
これがカカシの導き手となりのちに四代目火影となる大人との初めての出会いだったのだが、カカシは生涯その背中を追いかけ続けることになるとも知らずに、にこやかな笑みを讃えた大人の手を拒絶して振り払った。
「オレは父さんに捨てられたのか?」
独り言めいたカカシの問いに青年は何も言わずに沈黙した。答えはそれだけで十分だった。



「これはまた随分な怪我よのう」
「ははは。お気遣いなく。名誉の負傷です。ね!カカシくん!」
ん!と笑いかける青年の視線から逃れるようにカカシは顔を背ける。
「ワシには随分一方的に見えるがの」
「あっはっはっ」
「まぁ良い」
呆れたような物言いの老人はそれ以上怪我の理由を追求しようとはせずに金髪の青年の隣に立っているカカシに視線を注いだ。青年に連れられ通されたのは薄暗い会議室で、執務机に座った十人ほどの大人の顔は暗い室内のせいか影になって見えなかった。
「して、おぬしはこやつをどう見る?」
「優秀で聡明な子です。流石はサクモさんの息子ですね」
「ほほう。随分、高く評価しておるの。ワシにはちと足りぬように見えるがの」
カカシは先ほどから執務机の真ん中にいる老人が里長であると気が付いた。
「ガキだな」
にべもなく切り捨てたのは黒髪を一括りにした人相の悪い男だ。面倒そうに資料を捲る男に「子供なんかではない」と睨み付けるが、おそらく相手の言葉にいちいち腹を立てていた辺りが彼のいう「ガキ」だったのだろう。
「それにしてもおぬしが師にのう。既にこの少年には必要ないように思えるがの?」
「いえ、導き手は必要でしょう」
隣に立つ青年は先ほどとは打って変わって背筋を伸ばしている。カカシはどうやらこの場で自分の今後の身の振り方が決まるらしいと感じていたが、何も言い出せずにいた。
「まったく、父親の自殺の件だけでも厄介だというのに次は息子か」
誰かが鬱陶しそうにため息を吐いた。
「息子の方は欠陥品ではないだろうな」
「あのガラクタめ、忍ならば任務で死ぬのが本望であろうに、おめおめと生き残ったあげく生き恥を晒して、とんだお荷物まで残していったわけか」
まったくだと幾つかの賛同の声が上がる。一瞬、ガラクタという単語が何を指しているのかわからずにカカシは黙り込んだが、「ただの道具風情が余計な手間をかけたものだ」と続いた言葉にガラクタと言われているのは父のことなのだと気が付いた。
「あんたら大人が父さんを殺したんだろ…!」
隣の青年が前に乗り出したカカシを止めようとした気配があったが、身勝手なことばかりいう大人の心ない言葉に、態度に、視線に、子供というだけで周りに流されるしかない自分が悔しくてやるせなくて我慢ができなかった。
「あんたらが父さんを追い詰めたんだ」
サクモは里の掟を破り任務の遂行よりも仲間の命を優先させた。結果、サクモは裏切者と罵られ、ついには助けた仲間にさえ中傷された。またその時に負った怪我が原因で日常生活に差し障りはないが、任務への復帰は絶望的とされたらしい。第一線を退いたかつての英雄に周囲の反応は冷たかった。陰口は憚ることなく囁かれ、父にはそれが耐え切れなかったのだろうとカカシは思う。
「あんたらが!あんたらのせいで!」当時のカカシにとって目の前の大人たちこそすべての小悪の根源のように思えてならなかった。
「ふん。道具が壊れれば捨てるまで。役に立たなくなったガラクタを用済みとして何が悪い?」
執務机から笑いが起こると同時にカカシは男の後ろに回るべく、クナイを出した。忍でもない一般人だろう彼等の不意を突くことなどカカシには容易いことだった。
「このガキ!」
慌てふためく輩に笑って、床を蹴り上げる。
「ん!そこまでだよ、カカシくん」
広い背中が颯爽とカカシの前に立ちふさがり、いつの間にかカカシに向けられた複数のクナイから守っていた。
「きみの言うことにも一理あるけどね、暴力は良くないよ」
青年はやんわりと動物面を被った男たちのクナイを引くように目配せすると執務机の大人たちに向かい合った。
「皆さんも言い過ぎです」
涼やかな、だけど抑止力のある声だった。
「どうでしょう、皆さん。私が公私ともに彼を引き取ります。この子のことは私に一任していただけないでしょうか」
高らかな宣言に、「馬鹿な」「きみがか」と場がざわめいた。
「ええ、私が責任を持って預かります」
「きみはまだ結婚もしていなかったはずだが」
「そうだ。独り身で若いきみがいきなりこんな子供を預かれるかね」
「いえ、先に申しました通り彼のお父さんには生前お世話になったので、どうかこの子の面倒は私にお任せください」
ニコニコと笑いながら強引にことを進めるのは実を言うとのちに四代目と呼ばれるこの大人の十八番で、彼は優男という言葉が似合う外見に反して、どこまでも自分の意見はきっちり通す人であった。
「間違いなく私がこの里で一番適任でしょう」
反論するものはもう誰もいなかった。彼は有無を言わさない強引さで周りを巻き込み、尚且つそれを実行してしまう実力を持っていた。あとにも先にも四代目ほど「天才」という言葉が似合う人はいないとカカシは思ったものだ。



調子っぱずれな鼻歌を口ずさむ青年はもしかしなくても音痴だった。火影邸の会議室からの帰り道、強引に手を引かれたカカシは訝しげに青年を見上げた。
「あんたは馬鹿なのか」
「そうだね、友人にもよく言われるよ」
当時、端正な容姿からマダムキラーの名を欲しいままにしていた彼は、道行くだけで女性陣に声を掛けられていた。次々と渡されるプラスチックの容器は各家庭の夕飯のお裾分けが入っていた。忍だというのにほいほいと手料理を受け取ってることに呆れつつ、「痛…!」と何もないところで躓くまぬけな後ろ姿は先ほど自分に向けられた暗部の攻撃を防いでくれたのは錯覚だったのかと疑うほどだ。
「カカシくん。さぁ、遠慮しないでどんどん食べちゃって!」
青年はアパートに住んでいた。他に家人が住んでいる様子がないので一人暮らしのようである。カカシはテーブルに並べられた料理からふいと視線を逸らした。
「あれ。カカシくん、お腹空いてない?それとも何か嫌いなものがあった?」
「別にいらない」
「だめだよ、ちゃんと食べないと大きくなれないよ」
小さな子供に話しかけるような面差しだ。実際にカカシは当時「小さな子供」だったのだが、自分ではもう一人前のつもりだったカカシはガキ扱いするな、と言いかけて、こんな男と低レベルな口げんかをするのも馬鹿らしいと思いやめる。
「カカシくーん、ボクの話を聞いてるー?無視しないでー」
「………」
滑稽に己のご機嫌取りをする青年を無視しカカシは自分はなんでここにいるんだろうかとぼんやり考えた。



「ミナト、邪魔するぞ」
玄関の戸を足で開け、ずかずかと入ってきたのは黒髪を束ねた人相の悪い男だった。「おまえ。なんでここにっ」カカシを先ほど「ガキだな」と評した男だ。咄嗟に殺気立つカカシを尻目に男は青年と子供を見比べて「心配して来てみればやっぱりな」と呟いた。
「やぁ、シカク。随分と遅かったね」
「誰かさんが会議室を引っ掻き回してくれたおかげで無駄に時間を食ってな。ったく、フォローするこっちの身にもなれってんだ」
シカクと呼ばれた男がちらりとカカシを見る。射抜く視線に自然を身体が強張った。
「あ・と・な。おまえはなんだってまた怪我してやってくるんだよ。まさか刃物でも直接握ったわけじゃねーよな」
「ははは、正解。流石はシカク」
「笑い事じゃねーよ、馬鹿が!」
親しげに掛け合いを始める大人たちにカカシは「どういうことだ」と叫びだしたくなるのを堪えた。なぜ、この大人は父を侮辱した奴なんかと仲良くしているのか混乱するには十分でカカシは裏切られたような気分で青年を見た。
「おい、あんた…この男と仲間なのか!」
青年に詰め寄ると代わりにシカクがカカシを睨んだ。
「〝あんた〟?おまえさん、目上の大人に対する口の利き方も知らねぇのか。失礼な奴だな」
シカクの言葉にカカシはむっとしたように唇を引き結んだ。
「失礼も何もオレはまだあんたたちの名前を知らない」
「はぁ?おまえまだ名乗ってもいなかったのかよ?」
「あ、そういえば」
「はー…、オレはちょっとこのガキに同情したぞ。相変わらず抜けてるなおまえは」
呆れた様子のシカクの隣では、金髪の青年が困ったように頭を掻いている。
「自己紹介が遅れたけどボクはミナト。よろしくね、カカシくん」
腰を屈め、カカシの頭を撫でた大人を無言で睨んでいると横の男がすかさず突っ込んだ。
「馬鹿が、それじゃぁわからないだろ。こいつは上忍の波風ミナトだ。こんな風体でも見縊るなよ?次期火影候補だ。話しくらい聞いたことがあるだろ?」
カカシは絶句して目の前の優男と向き直った。信じられなかった。火影候補といえば、忍の中でもトップ中のトップを誇る実力者だ。
「ちなみにオレは奈良シカク。同じく上忍でまぁこいつの頭脳担当ってとこだ」
「よく揉め事も起こす火影候補様だけどな」と何かを思い出したのかシカクが口の端を上げてくくくっと笑いを噛み殺す。
「ったく。またお偉方がえらく騒いでいたぞ。四代目候補様はペドフェリアにでもなったのかってな」
「邪推だね」
「ああ、相変わらずくそめんどくせぇよ」
「まぁ、そこらへんの立ち回りは誰よりもきみを信頼しているよ。シカク、いつも迷惑ばかりかけてすまないね」
「あー!くそ!おめーは本当にタチの悪い人ったらしだよ、面倒臭い」
ガシガシと頭を掻き回したシカクは「それにしても」と言った。
「今日はよく耐えたな。オレはおまえがいつお偉方に楯突くかとヒヤヒヤしていたぞ。サクモさんの話になった時はおまえのことだから真っ先に飛び出して行くと思ったが…」
「あぁ、あの人ら相手にある程度の侮辱は想定していたからね。流石に酷くて何度か殴ってやろうかと思ったけど」
「おい…」
「でも聞く耳を持たない人たちに何を話しても無駄でしょ?」
「相変わらずいい性格してるよ、おまえは。気をつけろよ?上に目を付けられても知らねーぞオレは」
「まぁ一番我慢していたのはカカシくんなのにオレが怒りつけるわけにもいかないでしょ?」
そう言って金髪の青年はカカシに微笑んだ。当時はわからなかったが、あとになって四代目となる彼の気性を知るにつれ、納得した。あの時、ミナトはカカシが思っているよりもずっと怒っていたのかもしれない。サクモを死に至らしめた原因についても、周囲の対応についても。そして、友人のシカクはそれを十分に理解していたのだろう。
シカクはカカシを改めて見ると表情を引き締めた。
「オレは、おまえがガキを預かることには反対だ。わかってたとは思うが、今日はそれを言いに来た」
カカシにはある程度、予想はついた答えだった。ああそうだよな、とだけ思う。むしろ男の言葉の真っ当さにほっとしたくらいだ。
「親がどうしても必要だという年齢でもないし、施設にでも預ければいいだろ。今、自分がどれだけ大事な時期にいるのかわかってるのか?ガキの面倒なんて見てる場合じゃないだろ。いいか、こいつの存在はおまえにとってマイナス点にしかならない。不穏な要素はできるだけ取り除けってイヤってほど忠告したはずだ。何に足元を掬われるかわからないからな。おまえが、こいつの父親に恩義を感じてるのもわかる。が、同情だけで子育てができるほど世の中甘くないんだよ」
カカシは知る由もないが、この時ミナトは旧体制を崩し火影に就任すべく各方面に奔走していた。しかし、年齢が若すぎることもあり経験不足ではないかと一部の重鎮からの風当たりが強かったのだ。この時、シカクはそのことを指摘していた。
しかし友人の真剣な眼差しを流すかのように、大きな手が突然カカシの頭を撫ぜた。
「オレは、今ここでこの子を放り出したら、エラい奴になんてなっちゃいけない気がするんだよ」
「どういうことだ?…おまえが火影に就任する話はもう秒読み段階なんだぞ」
「一人の子供を助けられなくて、どうして人の上に立てるっていうんだい?オレはそんな人間になるつもりなんてないんだよ」
「おまえは本当に…糞面倒臭い性格だよな」
おまえは馬鹿だ、と言いながらも男はどこか嬉しそうだった。あるいは自分が信じてついて行く人間はやはりこの男においていないのだとでも思ったのかもしれない。この二人は長く苦楽を共にしてきたのだろう。
つまり邪魔者は、余り者は、自分なのだ。カカシは一歩、また一歩、大人たちから遠ざかる。
「あーっサクモさんもなんだってこんな時に、くそっ本当にサイテーのタイミングだな…」
「ちょっと、シカク。その言い方はーーー…」
「どういうことだよ、サイテーのタイミングって。あんた、父さんをなんだと思ってるんだ。おまえこそ何様だっ。」
その時、シカクの顔に浮かんだ表情を察するにはまだカカシは幼すぎたのだろう。だから言葉の通りに物事を捉えた。
「は。役にも立たないガキが偉そうにするんじゃねーよ」
「!」
耐えきれなくなりカカシはアパートを飛び出した。
ひゅんひゅんと景色はカカシの後ろに飛んで行く。冷気に強張った頬を生暖かい何かが伝った。



空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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