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空気猫

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走れ、走れ、走れ。だけど、どこまでいったって、帰る場所なんてどこにもない。
父が死んでからカカシはずっと平静を装ってきた。自分はもう子供なんかではないから大丈夫なのだと自分自身に言い聞かせていた。
そうしないとカカシの足を引っ張ろうとする輩がカカシの周りには溢れていて、カカシが転んだ瞬間に「それみたことか」と嘲笑うような気がしたからだ。なのに、突然現れたあの生温い笑みの人物は当たり前のように自分を子供扱いするから、カカシの調子が狂ってしまうのだ。
だからカカシは何かから逃げるように暗い夜空の下を駆け出した。走れ、走れ、走れ、逃げるんだ。あのぬるま湯のような笑みから、自分の頭を撫でる温かい手から、逃げるんだ。
里の外れのゴミ置き場までつくと、一気にゴミ山を駆け上り座り込んだ。溢れ出る涙を拭いながら丸くなる。
帰る家を失った今どこにいけばいいのかすらわからなかった。
もう生家にだって迎えてくれる父の存在はない。この時、初めて自分がちっぽけで頼る者を持たないひとりぼっちの子供であることに気が付いた。
このまま、このまま、いっそ消えてしまいたかった。
「見ーっつけた」
わざと空き瓶を踏む大きな音を立てて、青年が立っていた。青年は少しも息を切らせた様子もなく、こちらに歩み寄ってくる。
「来るな」
思った以上に冷たい声が出た。だがまたしても青年は歩みを止めない。「来るなって言ってるだろう!」近寄ってくる青年に、カカシは、来るな、来るな、来るな、と叫んだ。何故だか青年が怖くて恐ろしくて仕方がなかった。
「今更やって来て勝手なことばかり言って、おまえもあいつらもみんな同じだっ、自分の都合を押し付けて、人の気持ちも知らないで!おまえらが、勝手なことばかり言うから―――!」
父さんが死んだんだ、と言おうとして、込み上げる嗚咽でまた丸まる。
たぶん誰かのせいにしてしまいたかった。自分以外の誰か。心の奥底で、父の自殺から必死に目を逸らそうとしていた。自分が父をこの世に引き止めるのに何の役にも立たなかったという事実に、向き合いたくなかった。自分は捨てられたのだ、と認めたくなかった。
「ごめん」
一言。
「ごめんね」
たった一言だった。
気がつけば、星空を背景に金髪の大人が自分のすぐそばにいた。
おそらく、何も悪くない、第三者からの、優しい謝罪の言葉。
本当に聞きたかった声からはもう聞くことはできないけれど。何よりも欲しかった言葉。
「今までよく一人で頑張ったね」
こんなありきたりな使い古された簡単な言葉にカカシはどうしようもなくなって涙が溢れた。
「…帰ろう?」
家に帰ろうよ。当然のように言い放つ大人はきっとカカシに断られるなんて考えてやしない。いや、NOと言ったところで無駄なのかもしれない。自分はそういう人に捕まってしまったのだ。なんだか馬鹿らしくなってカカシは差し出された手に己の手の平を重ねた。
「わわっ!?」
「あはは、やった。カカシくんをゲーーット!」ボクを選んでくれてありがとう!と突然、大人に抱き上げれた。
慌てるカカシを尻目に「あ、結構重いんだね」さすが男の子、なんて大人がなんだか知らないがやたらと上機嫌で笑っている。
「帰ったらご飯にしよーね」
「………」
「あ、そうだ。シカクとも仲直りしようね。大丈夫、オレも一緒に怒られるから!」
「あいつは嫌いだ」
「父さんの悪口を言う奴なんかと口を聞くもんか」とむくれるカカシの言い分がおかしかったのか、ミナトはくつくつと笑った。
「あいつはね、なにもカカシくんのお父さんを嫌ってあんなことを言ったんじゃあないんだよ」
「?」
「ボクたちの世代にとってカカシくんのお父さんはヒーローみたいな人だったからね。だからあんなふうに死んでしまわれて口惜しかったんだよ。あいつなりに憤ってたんだ。なんで這い蹲っても生きてくれなかったのかって」
どうして自分たちが時代を変えるまで待っていてくれなかったのか。それは己が信用されてしないとも取れて。許してあげてねと笑う大人の横顔は少しだけ寂しそうだった。
「てか、カカシくんって身体硬いね。肩痛いよ」
「……なら、下ろせばいいだろ」
「やだ~~」
もうどっちが子供だかわからない会話だ。そのまま腕の上に乗せられて運ばれる。それが自分に向けられる攻撃ならばかわせるが、不思議とその大人の腕を振り払う気にはなれなくてカカシは困ってしまった。
「自分で歩ける」
「えー、楽しくないかい?これ」
「子供扱いだ…」
「だって子供でしょ?」
「違う」
「10歳なんだし」
「大人はみんなそういうんだ」
年齢で線引きするなんてズルい、とカカシは唇を尖らせた。大人に混じり任務を行う時に子供のくせに生意気だと謗られたのは一度や二度ではなかった。もちろんそんな輩にはあとからきっちりと抱腹したが、理不尽な扱いには殺意さえ覚えたものだ。だから子供扱いされないためにも、早く立派に一人前にならなければ、と思っていた。父の顔に泥を塗らないためにも子供扱いなんて、最高の侮辱と同じと思っていた。
「でも子供がいないと、大人が頑張る意味がないなぁ」
「意味……?」
「そうそう。大人なんて言ったって大したものではないんだから」
それは知ってる、と憮然としたカカシにミナトは破顔した。
「子供がいないと、ぐだぐだだよボクも」
「……それはあんただけだろ」
「どうだろうねぇ。言わないだけで、みんな同じかもね?みんな、背伸びしてるだけなのかも」
そう言われて、少し考え込む。今まで子供扱いしてきた者の中に、本当は自分を案じて心配してくれた人がいたのだろうか。父以外の全てのものを排除してきた自分には、見えなかったもの。本当に自分を気に掛けて話しかけてくれた人がいたのだろうか。黙ってしまったカカシに気が付いてミナトが少し笑う。
「子供が子供らしくあるのは大事なんだよねぇ。しっかりしてて、自分でなんでもできるなんてしなくていーの」
少なくともボクの前では子供でいて欲しいなぁと青年は言った。
「そのうちいやでも大人にならなきゃいけないんだからさ。せめて今だけでも甘えてよ?」
大人になったら泣きたくても泣けなくなるんだからと、囁かれた大人の台詞は、いつになく真剣で、泣いて縋れば、父は自殺をやめてくれただろうか、とぼんやりと考えた。もっと自分が頑是ない子供であったのならば、子供の特権を駆使して、甘えて、我儘を言って、たとえば、おいてはいけないと思ってくれたのなら、父は踏み留まってくれただろうか。いや、全ては仮定の話でしかないのだが。
いつの間にかまた溢れた涙に青年はきっと気づいていたが知らないふりをしてくれた。
「ボクは、カカシくんの家族になりたいんだ」
「は?」
「約束しよう、ボクはきみに家族をプレゼントしてあげる」
このミナトとの約束はいびつながらも、叶えられることになるのだが、それはまだ先の話だった。
アパートに帰ればシカクが夕飯が並ぶテーブルの前で待っていた。泣きはらして目を真っ赤にしてうつむくカカシとミナトを見比べ、「ようやっとご帰還か。待ちくたびれたぞ」と言われカカシが睨むと、
「ガキ」
「ガキじゃない」
「はん。おまえがガキなのは事実だろ。口惜しかったら、〝これから〟文句を言わせないだけの実力をつけるんだな」
と呟かれた。それはもっともなことで、カカシは初めてこの男に好感を持った。見上げれば、ミナトが例によって例のごとく笑みを浮かべていて、カカシの頭をぽんぽんと撫でた。ミナトのこの癖はその後、カカシが気恥ずかしいからやめてくれという年齢になっても続けられ、周囲から「バカ師弟」の名前を頂戴した。だけど、幾度となくカカシの頭を撫でた優しい手の平が、カカシはなによりも好きだった。



そして、時間軸はよどみなく流れる。ミナトに引き取られたあともカカシはやはり生意気な子供のままだったが、師にだけは頭が上がらないというお約束な少年に成長した。
さてその数年の間に波風ミナトが起こした破天荒な騒動の数々と、その度に巻き込まれた弟子の涙なくしては語れないエピソードは今は割愛させて頂くとして(なぜならとてつもなく話しが長くなるから)、「ボクの奥さんでーす」と満面の笑みを讃えたミナトにクシナを初めて紹介されたのはカカシが13歳になったばかりのことで、時はさかのぼること3日前。
「結婚することになったから」
その日、やたらと上機嫌で帰宅したミナトは、にこやかに宣言した。
「はい?」
カカシといえばこの人はまた何を言い始めたのだろうと、思考を停止させた。
「……先生、お付き合いしている女性いましたっけ」
カカシはごく当たり前の疑問を師にぶつけた。その頃、カカシは火影となった彼の補佐のような仕事もやっていた。女性の影があるなら、自分が一番に勘付いても良さそうなはずだった。「えー?」とにまにま普段より一層しまりのない顔で笑う師をカカシは半眼で睨んだ。
「先生!」
「やーん、カカシくんこわーい」
カカシはここ数年で鍛えた平常心を総動員させて、にっこりと笑った。
「先生、すいませんが、オレにもわかるように説明していただけませんか?」
「だからー、結婚することになったのー」
「……ではなくて。ああもうっ。なんでこんなに話が通じないんだ!…それでその方とはどれくらいのお付き合いなんですか?」
「三日間?」
卒倒しなかった自分を褒めてやりたいくらいだ。だが、話を端折る師の話を根気良く聞き出すところによると、なんでもアカデミー時代からの同級生にプロポーズし、相手も頷き、即日に結婚までかこつけたとのことだ。(いったいどんな相手なんだ!)とカカシは師の選んだ伴侶を激しく不安に思ったものの蓋を開けてみればカカシの心配は杞憂に終わった。
ミナトが連れてきたクシナは少々突飛なところがあるが、気のいい女性で間もなく三人で暮らすことになった。
妊娠した彼女は本当に幸せそうで、カカシは一抹の寂しさを感じながらも二人を心から祝福したのだった。
またその頃のカカシは、忍として何かと忙しい時期で、不穏な動きを見せている国境付近の監視を任されていたため里を出ていることが多かった。
木の葉の里に九尾が現れたのはそれから間もなくのことだった。その日、数週間ぶりに里に帰還したカカシは赤く染まる空を見た。
「……先生?」
逃げ惑う人々、倒壊する家屋、事態の異常さに、カカシの声は自然と震えていた。今、思えばその時カカシはすべてをわかっていたかもしれない。そして、これから突きつけられるであろう事実に怯えていた。
いってらっしゃいと見送ってくれた、クシナさんはどこだろう。
初めて会った時笑いかけてくれた笑顔が温かくて母の温もりを知らなかったカカシは、この人を守ってあげようと思ったのに。
「…っ先生。クシナさん?どこですか?くそっ、いったい、なにがあったんだよ」
どうしてだろう。幸せだった風景が二度と戻らないのではないかと酷く気持ちが焦った。喉がカラカラに渇く。
「先生、どこですか!答えて下さい!」
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ。おいていかないで、貴方がいなくなってしまったらオレは。「いやです、先生――、」絶叫に近い悲鳴は、だけどなんの役にも立たなかった。
どこかで獣の咆哮が響く中、カカシはいつかのミナトとの会話を思い出した。
それは彼が四代目火影に就任して間もなく経った頃の、うららかな午後のある日だった。
「カカシくん、ボクは人間なんだよ。愚かで浅はかなただの人間なんだ」
「はい?」
「きみはどう思う?」
先程まで、書類と睨めっこしていたミナトは、窓際族よろしく硝子を隔てて見える空にうつつをぬかしていた。呆れて言葉も出なかったが、どこか不思議ちゃんな雰囲気を纏う彼の発言にいちいち驚いていては仕事は進まない。カカシは「はいはい、いいから仕事してくださいね」と言って、未処理の書類の束を執務机にどすんと乗っけた。
「カカシくん、冷たい…」
大人はその書類の量に一瞬げんなりとした顔をして、「昔のカカシくんは可愛かったのに」なんてぶつくさと文句を言っている。そのまま机に突っ伏して、いつまでも仕事をしようとしない大人に、カカシは盛大なため息を吐いた。「で、なんの話しですか」と諦めて大人に向き直ると、吐き出された言葉はまたなんとも摩訶不思議なもので、けれどもあとあとになって思い返してみると、これから起こる全ての出来事を予知していたかのような会話だった。
「周囲から尊敬されることと、厭われることは酷く似ていると思わないかい、カカシくん。どっちも孤独には違いない」
「あなたはいきなり何を言いだしているんですか」
「おかしいかな?ボクは確かに人間のはずなのに、里の人たちから送られる視線を浴びていると、たまにそうではない存在なのかもしれないと思えてしまう時があるんだよ」
ミナトは苦笑して窓の外に視線を移した。
「ボクは神様になんてなりたくないんだ」
「何を唐突に…」
「ボクは、自分が特別だと言われるたびに隔たりを作られているとしか思えない。ボクだって、失敗だってするし、時には落ち込むことだってある。ああすれば良かった、こうすれば良かったなんて後悔は挙げていけば多過ぎてキリがないし、それと同時に、ちょっとしたことに幸福だって感じるし、クシナとカカシくんは家族で大事で大切で愛している。どうだい、ボクと他の人間との差異なんてどこにあるのだろう。なのに、周りの人間はボクを完全無欠の超人のように見るんだよ」 
「火影様の贅沢な悩みですね」
「そうかな?そう言われると辛いね」
当時のミナトは完璧な人間だった。里の誰もが、ミナトを慕っていた。それは火影としても破格な扱いで、彼が里を歩くと、彼を褒め称える賞賛の言葉と共に時には感嘆のため息すら聞こえてきた。存在自体が奇跡みたいな人だった。彼が火影としての執務を行った数年間は未だ木の葉の黄金期として語り継がれている。どんな問題も、無理だと諦められていたことも、ミナトが乗り出した途端に解決した。風のようだとカカシはいつも思っていた。誰も思いつかない方法で、だけど終わってみればその判断が一番最良であったのだと誰もが納得せざる終えない結果を残し困難を乗り越えてしまう。カカシたち部下はただ彼の背中を見ているだけだった。そう、確かに全ての人々が彼に魅せられていた。
「何が正しいのか、何か正しいのか。誰にもわからないじゃないか。目の前にいる人はけして神様なんかじゃないんだよ。みんなただの人間なんだ。それをけして忘れないで欲しい」
カカシくんは覚えておいてね、と師は笑った。
だけどカカシは「なんのことか意味がわかりません、書類片付けたらどうですか」と冷淡に切り返した。「そうかい」と呟いた師は執務机に向かい直るとひたすらに手を動かし始めた。カカシはそれを見ているだけで、ただただ沈黙。積まれた書類が半分ほど右から左へ移動したところで、ミナトは背を反らし伸びをした。
ああ、そうだ。必死に書類に追われる師の後ろ姿は確かに人間で、人智を超えたものでも何でもない正真正銘自分と同じ人間だったはずなのに。
カカシは師の言葉の意味を理解しようとしなかった。
去り際に、カカシくんと師から呼ばれた。
「いつかボクが人間と思えたなら、それは喪失ではないよ」
カカシは幾分か躊躇ったあと、結局なにも言うことができずに執務室のドアを閉めた。



瞼が熱かった。とめどめなく溢れるそれは涙だった。カカシの涙腺は壊れてしまったみたいだ。
「神様になんてなりたくないと言ったのはあなたじゃないか」
言ってることと、やっていることが違います、と吐き捨てて地面を叩く。ああそうだ。貴方は人間だ、人間だったんだ。だから帰ってきて下さい。自分の中でそう叫べば、それと同時に言いようのない哀しみに襲われた。
きっとあの人はいつか来るだろうこの日を危惧していたに違いない。人の親でいるよりも、里のために英雄になってしまう自分のことを。
だから言ったんだ、自分は神様になんてなりたくないと。せめて、カカシにだけでも本当の弱音を吐いたのだ。
「あの大馬鹿野郎が」
聞き慣れた悪態が聞こえた。
「自分のガキを犠牲にしやがった」
シカクが立っていた。彼の背後で赤ん坊の泣き声がガンガンと頭に響く。見ると三代目が見知らぬ赤子を抱きかかえていた。
「九尾を自分のガキに背負わせやがった。馬鹿だよ、あいつは。稀代の大馬鹿野郎だ」 
「シカクさん…」
カカシは目の前の男を見上げた。
「皮肉なもんだな。この騒ぎのせいでお偉方が何人かが欠けちまってやっとオレにお鉢が回ってきたらしい。せいぜいこの災害の尻拭いでもさせてもらうぜ。なんて云ったって待ち望んだ絶好の機会だ」
「…あんた、こんな時に!」
「ばぁか。こんな時だからだろ。里を見ろよ。壊滅状態だ。今、この状態で他里から攻められてみろ、いちころだぞ。オレが今一番にやることはこの里の復興作業だ。泣いてる暇があったら、働けバカモノ。――少なくとも、あいつだったらそうするはずだ」
涙にくれてるうちに里が攻め滅ぼされましたなんて洒落にならねーだろ、と顰められた眉は辛そうで、彼は本当は大泣きしたいのかもしれない。
火の点いたように泣き喚く赤ん坊は己の両親を失ったことを知っているのだろうか。生まれてすぐに災厄を腹の中に閉じ込めた赤ん坊のことをカカシはぼんやりと思った。
「三代目様!」
老人の元に数名の忍が駆けて来る。
「大変です、通信部からの連絡で国境付近で不穏な動きがあるそうです」
「なんじゃと」
「……早速お出ましか」
周囲がざわめいている。指針を失った里は今や混乱の最中にあるのだろう。
カカシはゆっくりと立ち上がった。涙はすでに枯れていた。
「…三代目。オレを送ってください」
「カカシ、おぬし」
カカシは自ら老人の元に駆け寄った。
「お願いします。オレが適任です。今、あそこで一番動ける忍はオレでしょう。それともあなたはまだオレを足りぬ、と言いますか」
カカシの顔に浮かんだ決意に、何を言ってもダメだと思ったのか老人は諦めたように深いため息を落とした。
「――わかった。はたけカカシ。これよりおぬしに国境警備を命ずる」
「御意」
「しかしの、カカシ。やはりおぬしは足りぬよ。おぬしはー…」
里長の危惧は現実となり「死にたがり」とカカシが呼ばれるようになったのはもう少し先の話。
おい、と去り際にシカクに呼び止められた。「いいか、死ぬことは許さない。生きれ。生きて帰ってこい――カカシ」シカクの言葉にカカシは僅かに目を見開く。
「オレにはあいつが命がけで守ったものを守り通す通す責任がある」
それにカカシが入っていると言うのだろうか。あの優しい人の庇護の中に。カカシにはわからない。
「ありがとう、シカクさん。だけどオレは――」
結局、生きて帰ってこい、という言葉に答えることなく、カカシは背を向け、里外へ向かって疾走した。



「周囲から尊敬されることと、厭われることは酷く似ていると思わないかい、カカシくん。どっちも孤独には違いない」
貴方はそう言ってましたね。あとになって貴方の言葉の意味がわかりました。九尾の器として里人から遠巻きにされるあの子の背中はただの人でしかないのだと、オレは確かに知ることができのだから。


貴方はもういない。
……――ゆっくりと、カカシは長い夢から覚醒した。爽やかな風が吹く。見上げればなんとものどかな青空が広がっていた。
「……」
くぁぁとあくびを噛み殺していると、ガタガタとけたたましい音が近付いてきた。
「あー!カカシ先生、やっぱりここにいたっ」
今日はホットケーキの日だっていったじゃん!お手伝いしなきゃいけないんだぞ、と騒がしい子供が屋根の上に上がってくる。「そーだっけ、忘れてた」といえば、子供は「信じらんねー」と口をひん曲げた。
「カカシ先生!サクラちゃんが怒られるってばよ。てゆーかなんで毎回オレんちの屋根の上で昼寝するんだってば!?」
プリプリと腕を組んで「オレは怒ってますよ」のポーズ。「だって気持ちいいじゃん」とダメダメな発言をするカカシに子供はがっくりと肩を落とす。それに、ここにいればおまえが探しに来てくれるからねとこっそり心の中で付け足して、舌を出す。おまえが怒るから言わないけどね、秘密、秘密。やがてカカシのそんな内心も知らず「しょーがねーカカシ先生だなー」とぽすんっと腹にダイビングしてくる子供。重いよ、と言えば「いいじゃん」とあっさり返された。
「みてみて四葉のクローバー!」
太陽を背にして子供が自慢げに緑色を差し出してくる。ちっちゃな手には紛れもなく四つ葉に別れたクローバーが握られていた。そういえばこの間「四葉のクローバーを見つけたら幸せになれる」なんてベタな迷信をこの子供に吹き込んだかもしれない、と思い出しつつ「ふうん。で、どこにあったの?」とカカシは起き上がりながら、じゃれついてきたどろんこのひだまりを抱きとめる。
「それが、意外と近くにあったんだって!」
にかーと笑いながら子供がカカシを見上げてくる。黄金色の子供。あの人と同じ色彩。だけど、違う存在――
「これ、カカシ先生にあげる!」
「え。いいよ、せっかく見つけたんだろ」
「いいの、これカカシ先生のだから!」
だから、はい!っと満面の笑顔で差し出される。
「……」
カカシは馬鹿みたいに四葉のクローバーと子供を見つめた。そよそよと黄金が風にたなびいている。遠くで「ナルトォ?カカシ先生みつかったぁ?」と声がしたけれど、カカシはただ、目の前の黄金に縫いとめられていた。
「…うん、ありがとう……ナルト」
「どーいたしまして!」
ほら、はやくいこーっと引っ張り起こされる。カカシはふらつきながらも立ち上がり、空を見上げた。――先生。貴方が残してくれたひだまりがこんなにもあたたかい。
いつか憧れた貴方ではないけれど、オレはみつけましたよ。みつけてしまったんです。里の業を背負ったこの子は、だけど確かに人で、真っ直ぐすぎて時々オレには眩しすぎるんだけど
「……――」
さよなら、オレの神さま。愛してるよ、オレの――…







end
空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
独り事
web拍手

こぎちゅねなるとがついったぁをはじめました。

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猫耳探偵事務所
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miu miu
[01/17 NO NAME]
[07/30 羊]
管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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