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空気猫

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日常編
―お注射の時間―







「カァシ、カァシ。いやだってばよっ。離してっ。痛いのヤーっなの」
「だーめ。いい子だからじっとしてなさい。痛いのは最初だけだから」
「やん、やん、やん―――っ!!」
「こら。暴れたら入れ辛いでしょ?ちょっとチクッとするだけだからね?力抜きなさい、ナルト?」
いやだってばよーーっという哀れな叫び声が人間に連れられた犬猫で溢れている待合室まで響いた。






その数十分前。はたけカカシは悩んでいた。彼の前には「木の葉小児科」と「木の葉ペットクリニック」がそびえ立っている。小脇に抱えた狐っ子を見下ろすと、碧い瞳がニカッと笑った。
「カァシとお出掛けだってば?」
「うううーーん」
ナルトの尻尾がぱたぱた揺れる。これから何をされるか知らないお子様は無邪気なもの。彼は迷いに迷ったうえで、「木の葉ペットクリニック」を選択した。結果として、犬猫病院の診察室から哀れな仔狐の悲鳴が響くこととなったのである。
「忍犬の時もお願いします。では」
「は、はい。お、お大事に」
受付の女性は、謎の耳付き尻尾付きの生物を連れて来た〝顔のいい上忍のはたけカカシさん〟に引き攣った笑みを浮かべた。
「ね、チクッとしただけで痛くなかったでしょ」
カカシの足元に今にも泣きそうな顔でふるふると震えている狐っ子に視線を落とす。
「うぇ、ひっく。うぇぇ…」
「ナールト…?」
「なうと、えらい…?泣かないで我慢でできたんだってばよ」
「ん――、いい子」
「ひっく。ひっく。うぇええ。カァシイィ」
ボロボロとナルトが涙を零す。カカシは、そんなナルトの垂れた狐耳に苦笑して、駆け寄って来た子供を抱き締める。
衝突してきた小さな隕石を抱きとめ、忍服のポケットで包装紙がかさつく音がして、そういえば…とカカシはポケットの中を探った。
「カァシ?」
「ナルト、お口開けてごらん?」
「ふぇ?」
普段カカシはほとんど甘いものを食さない。たまに疲れた時に、機械的にビターチョコレイトを口に含むくらいだが、それでも好んでは食べなかった。
「ほら、口開けてみな。あーん?」
「あー…?」
先程の任務中、同僚のくの一から放られたもの。
「あまっ。うまうまだってば」
ドロップを口の中に放り込んでやれば、途端に満面の笑みが返って来た。
「泣かなかったからご褒美だよ」
「カァシ、あまあま。もっと!」
「あんまり食べたら虫歯になっちゃうでしょ。バランスよくご飯食べないと大きくなれないよ? ナルトは木の葉レンジャーみたいに強い子になるんでしょ」
「木の葉れんじゃー…」
カカシの言葉をナルトは呆然としたように反芻する。
説明しよう。忍戦隊木の葉レンジャーとはナウい人気子供番組なのだ。実をいうと診察室でも最終的にはこの手で暴れるナルトを宥めた。
最近のナルトは見るもの触れるものをどんどん吸収していって、興味の対象は飛躍的に広がっている。とは言っても一人で外に出たがらないナルトは、カカシの部屋にある四角い箱がお気に入りで、カカシが任務で出ている間中観ていたせいか今ではすっかりテレビっ子だった。ナルトが好んで観ているのは子供番組やバラエティ。その中でも夕方にやっている戦隊ものにハマっているらしい。
ナルトがテレビ番組に釘付けになっている間は、カカシも家事や仕事に集中できるため、部屋で埃を被っていた四角い箱を重宝している。
そんなわけで四六時中部屋で流れている子供番組の内容をカカシはしっかり把握していたのである。
「な、なうと、イエローがいいっ。一番かっけーのっ。かげぶんしんの術――!!」
「はいはい、それじゃー晩御飯の買い物して帰ろうね」
「カァシ。なうと、晩御飯はカァシのラーメンがいい」
「えー…またラーメン?」
「なうとのご飯、らーめん、らーめん、らーめん!!」
「あれはお湯をいれるだけで出来上がりだよ。おまえ、本当にお手軽だねぇ?やっぱり栄養バランスのことを考えると秋刀魚とかでしょ」
「なうと、魚よりラーメンがいいってば。だってさ、魚って骨がいっぱいで食べ辛いってば。あと野菜もきあーい」
「野菜食べないと死ぬぞ~。栄養も偏るし、背もちっさいままだぞ?」
「なうと、牛乳飲んでるもん」
ぷくう、と片頬を膨らませて、ぼそぼそとナルトが言い訳をする。そうはいうもののやはり後ろめたいのか、耳と尻尾を下向きにぱたぱたさせている。
ナルトは口の中でドロップを転がしつつ、じぃっとカカシの手を見たあとその手の平に自分の手の平を重ね背の高い大人を見上げた。
「ならさ、ならさ、魚でもいーから、スーパーに行ったら木の葉レンジャーグミ買っていい?」
「またあのおまけがやたらと豪華な食玩のお菓子? おまえもうイエローもブルーのもピンクのも持ってるでしょ」
「あと一個欲しいんだってば。悪の大魔王の銀狼!なんかさーなんかあいつってかっこいいし、ぜってー本当はいい奴なの」
「悪役が好きなの?かっこいい?……別に普通の役者だと思うけど。なんだかぼーっとしてるし冴えない感じじゃない…?まぁ、顔はいいのかな?子供に不人気そうだけど……、おまえ、案外めんくいなんだね」
「うー……そんなことねぇも」
だって銀狼ってカァシにそっくりなんだってば…。もじもじと手遊びをしてナルトは買って貰ったばかりのサンダルに視線を落とす。こっそりと思ったことは告げずに、ナルトはカカシと繋いだ手をぶんっと振り回した。
「カァシ。なうとがいい子にしてたらご褒美くれる?」
「んー…。ちゃんとお片付け出来て一人でお着替え出来て、好き嫌いしなかったらたくさんドロップあげるよー?」
「カァシ、だいすき!」
飛び付いた三角耳の子供の頭を撫でた。その日以来、上忍はたけカカシの忍服のベストには彼に不似合いなドロップ缶が追加されることになる。人にそれはなんだと訊ねられれば、彼は意味ありげな顔で笑うだけで、彼の家にいるペットの存在を知ってるものだけがその意味を知っている。





 
 
 



 




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空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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