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空気猫

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サルベージ第二弾。ドラックストアの話だったんですが、ナルトなので花屋にしてみた。だから、つまりパラレルなのですよ。久し振りの二部v連休のお暇潰しにどうぞ。









義理の祖父から受け継いだ花屋はあまり治安が良いとはいえないごみごみとした裏通りに面した場所にある。どこか歓楽街の趣のあるそこは、都市の治安維持部隊の目も届かない不法者たちの巣窟で、風俗店や得体の知れない商売で儲けを出している店舗が続いている。ナルトが、静かな老後を送りたいと隣街から祖父に呼び寄せられたのは今年の春のことで、そのあまりにも場違いな老店舗の佇まいに驚いてしまった。果たしてこの界隈でこの店の需要はあるのだろうかと当初は経営さえも危惧したものだが、店はわずかな常連客とたまにふらりと飛び込んでくる風俗嬢たちなどで細々ではあるが成り立っていた。古くから続く老店舗ならではの不思議な吸引力が客足を惹きつけるのだろうか、迷い込むようにしてやって来る客が多かった。そんな店に不可思議な客が訪れるようになったのは一週間前のことで、年の頃は二十代後半くらいか、眠たそうな顔した箒頭の男だった。その男は何を買うわけでもない。そして何をするわけでもなかった。ただ、戸口に背を預け、腕を組んでカウンターの方を、つまりは店主であるナルトの方をじっと睨んでくるのである。思わず自分の背後を振り返って見るが、そこには切り花を置くための棚や休息をとるためのわずかなスペースがあるだけで、別段、興味を惹くものがあるとは思えない。それでもなぜか、男は毎日店にやって来て、厳しい表情でナルトを睨むのである。
カラン、コロン、ドアに括り付けてあるベルが来訪者の訪れを告げる。夕暮れ刻、宵闇の湿った匂いと共に、眠たそうな半眼でここ数日の悩みの種がやって来た。それ一着しか持っていないのか、いつも同じ型のトレンチコート。スモッグを浴びて染めたとしか思えないそれは長身痩躯の男の足元まで届くほど長い。今日も箒頭の男が戸口に居座った途端、来店したばかりの男性客が「失礼しました!」と転がるように去って行った。困ったことに男がいると他のお客が怖がって店に入って来ない。せっかく来店した客が彼を見るなり「ひい!」と悲鳴を上げて逃げ出してしまうことも一度や二度のことではなく、むしろ頻繁にある。祖父の代から贔屓にしてくれている常連のお年寄りが戸口の人相の悪い男に驚いて腰を抜かしかけたのはつい最近のことだったりする。さらにそんなことが何度も続き、入って来た途端お客のほとんどが戸口の男を見て続々とリターンしていった。ただ黙って立っているだけなのに妙な威圧感がある男で、お客も男の迫力にたじろいでしまうらしい。もうここまで来ると、これは新手の嫌がらせか営業妨害かと考えてしまう。ナルトは帳簿に目を落としながら深いため息を吐いた。このままでは経営があぶない、とは目下、切実な問題である。


切り裂きジャックの恋


カチコチ、カチコチ。古時計の音だけが響く店内は外界の喧騒から時間の流れが異なる空間にあり、埃と一緒にそれまでに蓄積されたセピア色の記憶が至るところに染み付いている。店に所狭しと並べられている満開の花たちだけが、店主と共に静かに呼吸を繰り返し老舗に彩りを添えていた。
ここ数日、首が痛い。ずっと俯いているからだ。男が居る間、ナルトは顔を上げることが出来ない。何しろ、ずっと視線がこちらに固定されているので、怖くて顔を上げることが出来ないのだ。なんでずっと睨んでいるのだろう、とは怖くて聞くことが出来なかった。箒頭の男が片っ端からお客を追い払ってしまうので、必然的に店内の人口数は男と自分の二人に限られてくる。その間、もちろん男の視線が自分から外されることはない。カウンターと戸口、差し向かいに重たい沈黙が店内を支配する。これは非常に気まずい。ナルトといえば、見つめられる緊張のあまりずっと金縛り状態になってしまいろくに顔も上げられず、何度も帳簿に目を落とすばかりである。無機質な数字の羅列を追いながら、ふと数日前の会話を思い出した。
「ちちちちょっとナルトくん!最近この店に切り裂きジャックが来てるって言うじゃないですか!ごほ!」
箒頭の男と入れ違いに来店した常連客の一人が必死の形相で詰め寄ってきた。彼の職業は潜りの闇医者だ。花屋の副業で始めたナルトの薬がよく効く上に副作用が少ないと評判を呼び、時折店までわざわざ買い付けに足を運んでくれる。医者の不養生の見本のような顔色をした青年ではあるが、腕は確かなようで彼の診療所は大層繁盛しているようだ。
「切り裂きジャック?」
簡単な漢方薬を処方しながら、旧時代の殺人鬼の名前に首を傾げると闇医者の男が目を丸くした。
「知らないんですか。さっきの箒頭の男のことです。殺し屋のはたけカカシ。裏の世界では有名な男なんですよ。業界内では今どき珍しく銃器をいっさい使わない殺し屋で、仕事は全部ジャックナイフだけで済ますことから名付けられた通称が切り裂きジャック」
正真正銘のプロの殺し屋なんですね!と息巻く闇医者の言葉を聞いて妙に納得した。道理で男の顔を見るなり蒼褪めて逃げて行く客が多いはずだ。店に入って来て殺し屋に出くわしたら逃げるだろう。とくに自分にやましいことのある人間ならなおさらだ。ことにこの界隈はそうした人間にこと困らないはずだから。だが、それならば男はなぜこの店に来るのだろう。まさか殺しの仕事を請け負っているわけでもあるまい。誰かを待ち伏せているにしても何日も居座る理由が見当たらない。自分は何か個人的に男の恨みを買ったのだろうかと考えるが、しかし思い当たる節がまったくない。そもそも一日の大半を店番をして過ごしているのだから、誰かと接触する機会なんて限られてくるわけで、わずかにあるプライベートにしてもこの男がこうして店に毎日やって来る理由を作ったとは思えなかった。はたけカカシという男の行動はまったくもって不可解だった。



「だからあんちゃんたちにこの店を譲るつもりはないってば。悪いけど帰ってくれってばよ」
引き結んだ唇が震えていなければいいと思った。カウンターの前にはガラの悪そうな男たちが三人居た。夕刻の五時。カランと扉に取り付けているベルに顔を上げれば、入って来たのは客ではない男たちだった。ここ一週間ばかりやってこなかったのについていないってば、と内心舌打ちしつつ、信号機みたいなヘアカラーの男たちを睨む。赤いロンゲの男。黄色の太った男。青色の痩せた男。冗談みたいな組み合わせの三人組だ。
彼等の要求はごくシンプルなものだった。時代から取り残された老店舗を取り壊して新しい建物を建て周りと同じような風俗店を開店させたいのだ。つまりはここの土地が狙いだ。最近、現れたばかりの新参者のチンピラらしく、これまではなんとか追い返したのだが、今日の脅しはそれまでと違いかなりしつこかった。赤い髪の男がリーダー格のようで、ナルトが暴力的な脅しに無抵抗だと知ると態度を大きくした。
ああ、店先のお花ちゃんにまだ夕方の水をあげてなかったんだけどなぁ等、つらつらと考えていると、赤い頭のチンピラに強い力で腕を掴まれた。抵抗しようと身体を引こうとした時、いつからそこに居たのか箒頭の男がチンピラの腕を捻り上げていた。
耳を劈くような悲鳴が上がる。赤い頭の男の手首がおかしな方向へと捻じ曲がっていた。「なにしやがる」とか「なんだこいつ」とか他の男たちが騒ぎ出すが、箒頭の男はまったく意に介していないようで、向かってきた黄色の男の巨体をなんなく片腕でねじ伏せる。
「動いたら死ぬ。喋っても死ぬ」
ひんやりと下腹をなぞる底冷えする声が落ちた。赤色の頭の喉元にナイフがあてがわれ、ヒッと短い悲鳴が男の喉から発せられる。銀色の三日月。刀というには小ぶりのそれはまさしくジャックナイフだった。ぽかんと口を開けて事の成り行きを見ていたナルトはそこで我に返り、「もう大丈夫だってばっ。その人たちのこと離してあげてくれってばよ!」と慌てて箒頭の男とチンピラたちの間に割り込んだ。それと同時にぴんと張り詰めていた緊張感も霧散して、箒頭の男は糸が切れたみたいに大人しくなった。ナイフをあてられていた男はへなへなとその場にへたり込み、残りの仲間に担がれて転がるように逃げて行った。



男たちが去ったあと、店内は沈黙で満たされていた。眠たそうな顔をした男は相変わらず糸が切れたように佇んでいる。だが、ナルトには男の様子が叱られた子犬が項垂れているようにも見えた。
「ずっとそこに立ってて疲れねぇ?」
「………」
「良かったら座ってくれってばよ」
どうせもう閉店だし、とぽんぽんとカウンターのうしろにある用の丸椅子をつつく。いつの間にか、男を苦手だと思っていた気持ちが消えているから不思議だ。とりあえず凍えていた男をストーブの前に座らせ、給湯室でお湯を沸かす。
「良かったらどうぞってば…?」
恐る恐るハーブティを差し出すと、男の目が驚くほどまん丸く見開かれた。ぽかんと自分を見つめる男の顔が年齢よりも幼く見えて思わず噴出した。
「どうぞ」
再びハーブティを差し出すと、男はまるで壊れ物のようにカップを受け取った。そして、カップに口付けた瞬間、ビクッと小動物のように震える。
「熱かったってば?」
(猫舌…?)大男をいとも簡単にのしてしまった男と同意地人物にはとても思えない。もっとも、背中を丸めて窮屈そうに丸椅子に座る男はどちらかというと大型犬を思わせたが。
「きらわれたかと思った」
ぽつり、低い声が響いた。は?と、よく聞き取れなくて聞き返すと、男は酷くうろたえたあと項垂れた。
「あんな姿を見せて軽蔑されたかと思った。怯えさせてしまったらどうしようと…」
所々つっかえながらとつとつと言葉を紡ぐ男に、あたたかい気持ちになった。確かにこの間の男の行動は怖いし、得体が知れない。だが、悪い人間ではないのだろう。事前に入った情報に寄ると彼の職業は殺し屋らしいが、先程ナルトを助けてくれたのは彼ではないか。少なくともナルトには男は悪人には思えなかった。だから―――。
「ありがとうってば」
「え……」
例えるならば自分とは全然関係ない遠い異国の言語を聞いたように男が目を見開いている。ナルトはニシシと男に微笑んだ。
「でも…」
ふとナルトは思案する。男は何か早合点したのだろうか、またビクッと体を震わせた。そんな男の様子にナルトはくすりと笑う。
「無言で立たれると客さんが驚いて店に入って来れねぇから、もう少し普通に店に来てくれると嬉しいってば」
ナルトの言葉に男はどこか泣きそうな、だけど幸福そうな顔で頷いた。




男とナルトの間で和解(少なくともナルトはそう思うことにした)が成立したのはつい先日のこと。そして今日。男はなぜかカウンターの奥に座っている。たしかに、戸口に立つのはやめて欲しいと言った。言ったのだが、間違ってはいないはずなのだが、どこか微妙にちがう。絶対ズレている。少し頭が痛くなった。
あっはっは、と大口を開けてアンコが笑う。ちなみに彼女は箒頭の男の眼力を浴びても「へー、随分とぼーっとした顔の男ね」とカラカラと笑い飛ばした猛者だ。
「優秀な番犬じゃない」
「どこがだってば」 
「あら、だってあんたしつこい男性客に困ってたじゃない」
「そ、それは…」
思わず口籠る。アンコの指摘は的を射ており、箒頭の男がここに座ってからしつこい男性客が減った。そういった客はだいたいナルト目当ての、ナルトにちょっかいを掛けてくる客で、相手がお客だけにナルトも強い態度にでれなくて困っていたのだが、箒頭の男がカウンターの奥に座るようになってからというものそういった客が激減したのだ。もしかしなくてもこの男のおかげだろうか。最近では教育のたまものか、やたらめったらとお客に睨みかけることはなくなったし、男が牽制してくれるおかげで今日は常連のおばあちゃんに丁寧に対応することもできたのだ。
「………」
その日、ナルトは番犬よろしく、丸椅子に座ってラジオに耳を傾けている男に少しだけ感謝してしまった。
















花屋のお兄さんに恋しちゃったカカシさん。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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