空気猫
空気猫
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*カカナルです。
--面影ノイズ---
夕焼けの帰り道を歩いていた時のことだと思う。文房具屋の角を曲がったところでばったり懐かしい人物と出くわした。同級生とはいえ、アカデミーを卒業すれば、以前のように毎日顔を合わせることもなく、だから道端で出逢ったのはまったくの偶然、そのままどちらからともなく並んで歩き出したのは、まぁ成り行きだった。実をいうと彼とは特別親しかったわけではない。連絡を取り合うような友人などではなく、ただ自分の幼馴染と彼が親友同士であったので、お互い顔と名前をなんとなく知っていた、ただそれだけのことだった。
ろくに舗装もされていない畦道に伸びる二本の影。空を見上げれば蝋燭の炎のように揺らめく夕日。古びた家々の裏路地はすでに薄暗く、対照的に陰になってない壁や塀は全て赤に侵食されていた。公園の前を通るとすでに子供たちの姿はなく、帰宅を告げる柱時計のメロディだけがどこか遠くで聞こえていた。
「この道を通って帰るの久しぶりだわ」
「奇遇だねぇ、実はオレもだよ」
誰も座っていないブランコを眺めつつ、隣にいる彼に視線を上げる。在学当時と印象の変わらない薄い唇でふっと微笑まれ、寂しそうに笑う人だと思った。
「同級生であーこいつ誰だっけって奴いない?顔は思い出せるんだけど、どうしても名前が出て来ないの」
「ああ、いるねぇ。妙にオッサンになってる奴もいるし」
「そうなのよ。この間、木の葉茶通りで、絶対どこかで見たことのある顔に声を掛けられちゃって、向こうは〝やぁ、久し振り〟だなんて親しげな挨拶なの」
「最悪のパターンだ」
「そう。でも私は、どーしても思い出せないのよ。あっちは私のことを知っているのに」
「喉元まで出掛かってるんだよね」
「あと一息なのよ。でも、駄目なのよね」
「わかる、わかる」
それからアカデミー時代の思い出話になって、あの先生相変わらず口煩いのかなとか、あの校則はなかったよなとか、そういえば校舎裏の卑猥なラクガキまだあるかなあそこは不良の溜まり場だったよなと彼が言えば、それは貴方たちのことでしょう私は一度も叱られたことなかったわ、と話し出したらきりがなく、確かに彼は同じ校舎で十代の一時期を過ごした人だった。
「大体なんで女子のスカート丈が膝下だったのかな。そこは見せておくべきでしょーよ、若いんだから」
「うわ、最低発言」
「ま、隠れていたほうが逆にソソるけどねぇ」
「もうおじさんの発想だよ、きみ」
「いやいや、世の男なんてみんなこんなもんですよ?」
「あ、綺麗なお姉さん」
「え、どこどこ」
「アカデミー時代にあなたのことを好きだった子に激しく同情」
「いや、男のエチケットとして関心を示めさなきゃいけないでしょここは一応。こら、なんですかその人を蔑ずんだ目は」
お互い顔を見合わしてどちらからともなく笑い合う。赤紫色の雲がゆっくりと靡いて、いつもよりゆったりした歩調で歩く帰り道は、どこか非日常で面映く、それからぽつぽつと会話をしているうちに自然と共通の友人の話題となった。
「仲間内であいつの結婚が一番早かったのは意外だったね。だってまだ十代よ?」
「あいつは寂しがり屋だったからね」
「さすがは幼馴染」
くすくすと笑いを噛み殺した彼の夕日のせいで暖色に染まった横顔にふと釘付けになる。切なそうに顰められた表情の意味をたぶん自分は知っていた。
「あなた、あいつの奥さんのこと好きだったでしょ」
「…無粋なこと聞くね。そういうあんたはあいつのこと好きだったんじゃないの?」
「残念でした。私とあいつはただの腐れ縁」
「ちぇ。オレだけ貧乏くじかよ」
猫背気味な背中をさらに丸めて道端の小石を蹴るさまが可笑しい。こんな人だったんだ、というのが素直な感想。だって、もっとストイックな人だと思っていた。アカデミー時代の彼は廊下で仲間同士でバカ騒ぎしていてもどこか一線を引いている感じで、一部の女子生徒からは憧れの対象となっていたけれど、同時に近寄り難い雰囲気を出していた。だけど実際、喋ってみればとっつきやすくずっと身近な感じで、会話のテンポといいなんといい、なんていうかこの間の取り方は嫌いじゃない。
「あいつはバカだよなぁ。あんないい奥さん残して死んじまうなんて」
「うん、バカだねぇ。昔っから抜けてる奴だったけど何も結婚してすぐ死ぬことないよね」
「任務中に戦闘に巻き込まれそうになった一般人の子供を助けたんだっけ?」
「そ。あいつらしい最後だと思う。あいつ子供好きだったもん」
そのまま二人はしばらく無言、ただただ舗装もろくにされていない地面を歩く。職場から少しだけ遠回りになる効率の悪いこのルートは幼馴染の生家へと続く道で、小さな頃はよく二人で手を重ねて歩いた。やんちゃをして遊び疲れた帰り道に、見上げた夕日が綺麗で、門限も忘れ、ただ呆然と真っ赤な太陽を二人でバカみたいに魅入ったあと、どろんこのお互いの姿を思い出し笑い合った。また明日ね公園でねといって別れた、そんなセピア色の記憶。懐かしくて、通りの隅々にまであまりにもいろんな思い出が溢れているから、幼馴染が死んで以来、自然と足が遠退いていて、今日はなんとなく昔見たあの夕暮れ刻のようにあまりに夕日が綺麗だったから、この通り道で帰ろうかなと思ってしまった。その途中で同じ面影を引きずっている人と出くわしたのはまったくの偶然、だけど二人が並んで歩き出したのは必然。とぼとぼ歩く二人が辿り着いたのは小さなアパート。そこは幼馴染の生家からほど近いかつて二人の若い夫婦の新居だったところで、現在は奥さんの一人暮らし。呆けて見上げたあと、やはりどちらからともなく苦笑。
「プチストーカー」
「や、あんたも同罪でしょ。なんでオレだけなの」
「私は女の子だもの」
「ひど。横暴な人だなあ」
「片想いは切ないですな」
「今は未亡人だろ。イケないかなぁ」
「弱ってるとこにつけこむとは卑怯な男だよ、きみ」
「どうとでもいいなさい」
「色魔、淫乱、尻軽男、すけこましー」
「すいません、やっぱり慎んでください」
女の子なら恥じらいを持とうよとナチュラルに突っ込んでくる彼に「十代の生娘じゃあるまいし何を今更」と言えば、この女さいてぇだという顔をされた。
「男の恋心をバカにしないでよ」
「んじゃ、心の中で激しく応援」
「……それ伝わらないよね?ちゃんと声だそうよ、そこは。ほら、アグレッシブに!」
「テレパシーを送っているのがわからないかな」
「あんたは、電波系か」
「ああ、哀しきかな。私の思いは受信拒否…」
ついてけねーと片手でこめかみを押さえる彼に苦笑して、気がつけば、別れ道に差し掛かっていた。お互いの足が停まる。振り向けば夕日も半分ほど隠れてしまって、オレあっちだからと彼が右側を指差し、私はその反対だから、ここでお別れだねということになった。だけどなんとなくお互いに歩き始めることもなく、ややしばらくの沈黙のあと、ああ、ちょっと離れがたいかもなんて思ってしまったのはまったくの本心で、すんなりと「ねぇ、今から飲みにいこうよ」なんて言葉が出た。
「は?」
「うんおネェさんが励ましてあげるよ?ついでに恋の相談にも乗っちゃう」
「…あんた、同じ年でしょ」
「そこは精神年齢設定でお願いしますよ」
まあお悩み相談とか職業柄なれてるしと言えば、不思議そうなお顔。
「私、これでもアカデミーの教師なのよ?」
先生の悪口の口止め料に奢って貰おうかな、なんて言って片目を瞑ると「ええ~」となんとも情けない顔で、詐欺だと呟いた彼を残し繁華街に足を向けるとしばらくの逡巡のあと、軽快な足跡が追いかけてくる。
「あ、あれ。珍しい光景を見た。きみ、見ておくべきスクープだよ、あれは」
「え、何何」
「ほら、あそこ。下忍の子と歩いてるわ。我等の学年でナンバーワン有名人にして幻の同級生が!」
「あ、本当だ」
名物とも言えた同級生の出現に私も彼も破顔してお互いに顔を合わせ、せーので声を揃える。
「………はたけカカシ!」
我が学年で、短期間だけ在学した幻の同級生がいる。入学してたった数日でアカデミー教師を床に圧した、伝説のアカデミー生、はたけカカシ。同級生の中で最年少にして一番体の小さかった彼は、アカデミーの全てを「稚拙だ」「くだらない」と切って捨てた。ある意味アカデミー始まって以来の問題児だ。しかしはたけカカシは全ての科目、全ての面で誰よりも優秀な生徒だった。手裏剣は手本より淀みなく命中し、暗号解読の授業では教師でさえ解けない問題を作った。
そんな全ての面に置いて秀でている彼に私たちの学年は入学してたった数日で「くだらない」と烙印を押されたのだ。純粋ないちアカデミー生からすれば、はたけカカシの発言はカルチャーショックとしか言いようがない。当時、子供らしい子供だった私は、自分たちがこれから真っ直ぐに目指すべき道と夢を一気に壊されたような、理不尽な怒りを味わった。幼少時代の私は子供ゆえに潔癖な精神の持ち主だったのだ。もちろん、融通が利かないという意味で、だ。
だけど翌日、はたけカカシの居なくなった教室で、負傷した教師から彼は別格だったのだと、まるではたけカカシは透明人間で始めからいなかったような説明を受けた時、どこか引っ掛かりを覚えた。それは魚の小骨が喉に刺さる程度だったが、確かに私の胸に刺さったのだ。
里一の変わり者、天才にして、はぐれ者。彼の名前が有名になるにつれ、彼が忍として優秀な噂を振り撒くにつれ、あの時の教師たちの判断が正しいような錯覚に囚われた。心のどこかでアレは間違っていた、と自分が叫んでいるのに、世間はアレで良かったのだと訳知り顔で大人面するのだ。今思えば、彼はアカデミーで自分を理解してくれる教師と出会えなかったのかもしれない。アカデミーの教師たちは多かれ少なかれ、彼の才能に対してひがんだ視線を送っていたのではないだろうか。私が教職を選んだのはもしかしたら深層心理で、彼を除外することで均衡を保とうとしたアカデミーに疑問を感じたからかもしれない。アカデミー生の魂も大人まで。うむ、なかなか良い格言だ。明日、子供たちに話してみようか。
最近、そんな彼が教師として下忍の担当になったと聞いた。九尾の器の子供を受け持って、目に入れても痛くないほどその子供を可愛がっているだとか。里の住民はもちろん眉を潜めている。なかなかやるじゃない、と私はそんな彼の新しい〝人間臭い噂〟を聞くたびどこか誇らしい気持ちになった。
彼はミスターパーフェクトではなかった。けして、忍をやるためだけに生まれてきた存在ではない。一人の人間だったのだ。
―――ああいう人種は忍として華々しく名を馳せるが、長くは生きないから、いいんだ。暗に揶揄した教師陣。かつて、彼を持て余したアカデミーという場に今こそ言ってやりたい。彼は自分でジングスをきちんと打ち破りましたよ、と。
「はたけカカシは幸せになれたのかな」
「天才に不幸はつきものだって言うけどね。どうも、はたけカカシは上手く乗り切ったようだよ」
「流石は我らが同級生殿だ」
うん、良かった。良かったじゃないか。私たちはまるで我が事のように、はたけカカシを祝福した。きっと顔すらも覚えられていない、これからも彼の人生にまったく関係のない人間だが、万感の思いを込めて彼に拍手喝采を贈ってあげたい。だって、たった数日とはいえ彼は同級生だったのだ。
「今日は飲むぞぅ。美味いお酒が飲める気がしてきた」
「おお、それはまったくの奇遇だ。オレもだよ」
プチ同窓会だ、と随分と範囲の狭い飲み会に興じてみよう。幸い、酒の肴など幾らでもある。若くして死んだ友がいる、出来れば這いずってでも生きていて欲しかった。それが私たちの本音。だけど今晩はかつての同級生殿に杯を掲げたい気分だった。
「……それにしても、木の葉茶通りで会った彼は誰だったのかしら?」
「まだ言ってるよこの人」
あはは、と笑い合って、そんな二人の足元には長く伸びる陰法師。もうすぐ落ちる夕日。だらだらと歩く道。辿る二つの足音は面影ノイズ。手を繋いで帰った担当上忍と下忍の子供は、どんな家路に着くのだろう。夕日と幼馴染に感謝しつつ、元同級生の顔を見上げ、まぁ割り勘で勘弁してやるかと足取りも軽い午後五時三十分のことだった。
オリジナルの男の人の喋り方がカカシ先生と似てたのはわざとです。変な話ばかりですいません。
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管理人の生態
自己紹介
名前 空気猫、または猫
職業 ノラ
趣味 散歩・ゴミ箱漁り
餌 カカナル
夢 集団行動
唄 椎名林檎
性質 人間未満
日記 猫日和
ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
職業 ノラ
趣味 散歩・ゴミ箱漁り
餌 カカナル
夢 集団行動
唄 椎名林檎
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日記 猫日和
ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
足跡