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空気猫

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「あー、ちょっと痕が残っちゃったねぇ…」
強く握ったらぽきんと折れてしまいそうな細っこい腕に浮いた赤い指の痕。あー、やっぱりあのストーカー男もっと蹴っとけば良かったと物騒なことを思いつつ、カカシはナルトの腕を水で濡れたハンカチで拭く。
近所の公園のベンチの上にナルトを半ば強制的に座らせて、まるでそれで痕が消えるかもしれないとでもいうようにカカシは何度もナルトの腕を擦っているが、ナルトといえば敬うように膝をついて自分の腕に視線を落としている大人に、恥ずかしいやら居た堪れないやらで、例によって例の如く赤面していた。
「カカシ先生、もういいってばよ!」
ぎくしゃくとロボットのような動きでナルトは勢いよく立ち上がったが、次の瞬間、震えている自分の足に気が付いた。
「あ、れっ?」
「おっと――」
カカシに片手で支えられて、頭に3つほどクェッションマークをつけたままナルトが固まる。
「なんかオレってば…」
ほっとした途端に麻痺していた色んな感覚がいっぺんに戻って来たようで、遅れてやって来た恐怖に無理矢理笑みを作って誤魔化して見るも、表情は引き攣る上、足は震えてまともに立てず、夜道で追い掛けられたこと、腕を掴まれたこと、羽根を毟られて死んだ鳥の死骸が、フラッシュバックして、まともに息が出来なくなる。
「おかしいってば、オレ」
呼吸ってどうやってするんだっけ、と何とも間の抜けたことを思いつつ、だけど正しい息を仕方が思い出せなかった。
――息、できねぇってば。
「―――っ」
誰に助けを求めることもせず、くの字になって縮こまった少年を見下ろして、ああいつだってこの子はそうなのだとカカシは思う。
とりあえず、悪い癖を直してあげることはまだ後回しにして、今やるべきことをカカシは行った。
「ナルトー、息をゆっくり吸ってみようか」
「っひ」
「無理しなくていいから、ゆっくり。オレの呼吸に合わせるように、な?」
「―――っ」
「怖くない、オレが居るから怖くないよ?」
「あ、あ、あ、あっ」
ナルトの喉からヒューヒューと短い呼吸が繰り返されている。
「もうここにはオレしかいないよ?」
乱れた息を繰り返す少年を後ろ抱きにして宥めるように頭を包み込んでやる。すると、「置いて行かない…っで」「独りにしないってってば…」ふとすれば聞き逃してしまうほど小さなノイズをカカシの耳が拾う。
「ナルト……?」
置いて行かないで。独りにしないで。嗚咽のように小さく繰り返される願いは、きっとあの夕暮れ刻の頃から変らない、希求。
どうやら、ナルトの中では「喪失する」というキーワードがきっかけで、父親の失踪した日の事と、今回の事とがごたまぜになっているらしい。
カカシがわかるわけがないと思いつつも、ナルトは嗚咽を漏らすことを止めることが出来なかったのだが、カカシはそんな少年を見下ろて、ありったけの優しさを込めて抱き締めた。
「オレはナルトを独りになんてさせやしなーいよ?」
カカシは枯れ掛けた花に水を注ぐように、極上の笑みをナルトに落とした。
「ナルトが望んでくれるんならいつだって傍に居てあげる」
後ろから伝わるカカシの体温。オレに呼吸を合わせて?と唄うように囁かれる。
「オレはナルトのためだけにここに居るんだから、ナルトの好きなようにしてくれていいんだよ」
震えるナルトの背中をすっぽりと包み込んで、
「ナールト、ナールト?」
一定のリズムで、子守唄か何かを唄うようにあやす。
なぜ、全てを知ってるような口調で彼は自分を温めてくれるのだろう。ナルトはまだそのわけを知らなかったが、カカシに温められると酷く落ち着いた。
「平気だから、落ち着いてみな?」
「カカシせんせぇ」
「ん…」
やがて二人の心臓の音が重なって、くてんと腕の中の少年の力が抜けたのを見計らい、カカシは、愛おしそうにナルトの前髪を掻き揚げた。
「ナールト、ナルト?」
「ん……」
「オレの質問に、答えてくれる?」
カカシは、ナルトの後頭部に顎を乗っけながら、はっきりさせなければいけないことを問う。
「おまえ、あいつにオレに近付くなって言われてたの?」
こんな時に、と可哀相かと思うが、それ以上に今この時に少年の口から答えを聞きたかった。やがて躊躇った末、ナルトの口が開かれた。
「……カカシ先生と親しくしたらカカシ先生が酷い目に合うって」
やっと絞り出した声は涙の粒と共に。
碧い瞳から、透明な滴がポロポロと零れ出す。
「だからオレ、一生懸命カカシ先生のこと避けて、カカシ先生と喋っちゃいけないって…」
その時のことを思い出したのかまたナルトの声が震えだす。
「だから、カカシせんせぇに触られるの、カカシせんせぇっ、のは全然、いやなんかじゃなくて、ちょっとビックリした…っけど、キモチワルイとかそんなんじゃなくって、オレ、んなこと全然、思ってないのに、センセ、は変なことばっか言って誤解してて…」
思考が上手く纏まらなくて、だけど伝えたくて、勝手に決め付けんなぁと、しゃっくりを上げながら泣いた少年をカカシは壊れ物のように自分の懐の中に収める。
「そっか、わかったよ。辛かったのに、話してくれてありがとう」
カカシは愛おしそうにナルトを抱き締める。
「……ナルトは、オレのことを嫌じゃない?」
「嫌じゃないってば」
「喋ってもいい?」
「……うん」
「ふれても?」
貝殻のように小さな耳が真っ赤に染まる。ついと逸らされた顔を覗き込まれ、ナルトは小さく唸り声を上げた。
「迷惑じゃない?」
コクコクと涙を零しながらナルトが頷くと、途端にナルトの爪先が宙に浮いた。それなりに体重もあるであろう身体をいとも簡単に抱き上げられ、くるくる回される。
「良かったぁ~」
カカシが今まで見たこともない力の抜け切った顔で笑う。どこか、幼ささえ感じさせる子供っぽい表情に、ナルトは目を見張る。
「ほっとした。ナルトに嫌われたかと思った」
しばらくメリーゴーランドのように回されてやっと地面に降ろされたかと思うと、ちゅ、と桜色に染まった耳朶にキスが落とされて、抱き締められる。「え、え、え、え」と戸惑うナルトに、カカシは蕩けるような笑みを浮かべたのだった。
「大好きだよ、ナルト」
「あ、ありがとだってば……?」
「大、大、大好きだよ、ナルト」
先程、無抵抗の人間相手に無慈悲な蹴りを入れていた人物とは思えない変りようである。ナルトの前で無防備な笑みを見せる大人は、端から見れば確かに、どこか人間として偏った所が有るのかもしれない。カカシの中にある歪んだ鏡は、果たしてどんな像を結んでいるのか、それはまだナルトすら解る術もないことだった。
「おまえのことが世界で一番好きだよ」
「ええと、カカシ先生のキモチは凄く嬉しいってば。でもいきなりはその…。オレもお付き合いとかよくわかんねぇし…」
「うん、しばらくはこのままね♪」
やけにあっさり頷かれてナルトはきょとんとする。にこにこ笑うカカシは嬉しそうにナルトの両手を握り、やっぱり膝を付いてベンチに座ったナルトを見上げている。
「ナルトが戸惑う気持ちよくわかるよ。男同士だし、なかなか上手くイメージが付かないかもしれないけど、オレは待ってるから。急がないで自分の気持ちをゆっくり考えてごらん?」
「……カカシ先生は、それでいいの?」
「なんで?ナルトがイヤーって言ってるのにオレの気持ちばっかりが押しちゃダメでしょ?」
「え」
「ナルトの気持ちの準備が出来るまでちゃんと待ってるよ。それまでオレはナルトがオレのこと大好きだって思えるように頑張るからね」
カカシ先生は、ちゃんとオレの気持ち、考えてくれるんだ。どこか、ほっとしたような気が抜けたような、そんなカカシの申し出と共に、ナルトは知らず息を吐く。
「ほっとした?」
「うん。……え?その別にっ、オレってばっ」
「くくく、無理しなーい」
「し、してねぇーってば!」
バカにすんなってば!と顔を赤くさせる少年を可愛いなぁなんて思いつつ苦笑して見つめて、だけどこの大人は少しだけ意地が悪いのである。
「じゃあね、キスさせて?」
「へ?」
「だめ?」
前に予約してたデショ?とナルトのふっくらとした唇を意味ありげに親指でなぞって大人が首を傾げる。
「ああ、ええとそういうのってちゃんとお付き合いしてからとかじゃ……」
ナルトが言いかけて、物凄く哀しそうな顔をした大人の表情にナルトはぱちくりと目を瞬かせる。
「ええと……」
外国ではキスは挨拶の代わりだっけってば?
「カカシ先生はその、シタいんだってば?」
「………」
真摯な瞳で見つめられ、ナルトは黙り込んだ。カカシには危ない所を助けて貰ったり結構お世話になってる。なのに、自分は全然お返し出来てないと言えた。…キスくらオッケーだってば?
どこかのめんどくせぇが口癖の少年が聞いたら「流されんな、そういう問題じゃねえ!!」と即ツッコミが入りそうな思考回路の果てに、ええいままよ!と少年は、男前に決断した。
「ど、どんと来いってばよ!?」
顔を真っ赤にさせてきゅうと目を瞑った少年にカカシは破顔した。
「…なんかおかしかったってば?」
「ううん、すごくソソる」
お許しが出るや否や、カカシは猫のように背中を伸ばしナルトの柔らかい唇を頂戴した。
「ん!!」
うわー…とナルトは合わさった唇の感触に、首を竦める。口を半開きにした拍子に、熱い舌が侵入し、男の人とキスしちゃったってば、なんて思いつつ、カカシの舌の動きに翻弄される。
(カカシ先生ってば、なんか慣れてるっ)
年齢的な経験の差を考えれば当たり前のことだが、知らずカカシのシャツを掴み、上がる息。てっきり軽いキスかと思いきや5分以上もの間に渡って拘束された。
結局、ナルトはロクな抵抗も出来ないまま、美味しく頂かれたわけで、つぅっとどちらのものとも知れぬ唾液の糸が垂れて、お互いの唇が離れた時は既に、健全とは言い難い淫靡な雰囲気が漂っていた。
「……カカシセンセェ?」
はぁはぁと息を上げて、肩で呼吸をするナルトの頬にキスをして、
「ありがと、ナルト…」
カカシが笑みを零した。
「凄く可愛かったよ…」
「なっ……!」
瞬間湯沸かし機になったナルトをカカシが抱き締める。
「ん、その顔も可愛い。だけど…」
「っ???」
「笑って、ナルト?」
「え?」
「おまえ、ここ最近ずっと泣いてたでしょ?夕方にも泣いてたし、さっき道でぶつかった時も泣きそうだった」
驚いて目を見開いたナルトに、
「わかっちゃうんだよね~」
とカカシがあっけらかんと立ち上がって、膝に付いた砂埃を払う。
「涙の落ちる音がしたから」
にっこり笑った大人の顔をナルトはきょとんとして見つめて、「アパートまで送るよ」と差し出された手を取る。
はたけカカシには、自称おかしな特殊能力がある。本人曰く「ナルトが泣くとわかる涙センサー」という嘘のような変わった特技をナルトが知るのはもうちょっと先の話になるが、これ以来ナルトが涙を零すと必ずと言って良い程カカシが駆けつけるので、この俄かに信じ難い特技はカカシ自身によって実証されることになったのである。

















涙センサーって聞くだに恥ずかしい。サムい。ごめん、カカシ先生。

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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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