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空気猫

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終了前に付き拡張連載。 
 







朝、息苦しいほどの拘束感で目を覚ました。自分より、色が白いかもしれない(ナルトも肌が白い方だがカカシの肌の白さは不健康な白さだ)腕が、首もとに巻き付いている。
――黙って出ていくと思われているのだろうか?別れの挨拶くらいしていくのに。
だけど、背中を向けて眠られていたら、あるいは何も言わずに扉を開けて出て行こうと思ったかもしれない。
ゆっくりとカカシの腕を解く。誰かと一緒のベッドを共有することに慣れていないためか、寝返りも打てずに一晩を過ごしたためかわからないが、身体中が強ばっている。
そのうえ使ったことのない下半身の筋肉が痛いし、こんなに倦怠感のある朝は初めてだ。ベッドの下には、くしゃくしゃになったチャイナ服が落ちていて、それが妙に現実的で生々しく見えた。
床に裸足の足を付けると、ひんやりした感触に、爪先が凍える。
化粧を落とさずに寝たためか、もしかしたら肌が絶望的な状態かもしれない。
昨今の男の子はわりとそうした見目を気にするが、ナルトはそうでもない。肌は綺麗な方だし、特別身嗜みを気に掛けなくても男性ホルモンが少ないのか体毛も薄く髭もあまり生えない。髪もセットせずに、起きてそのまま学校に行っていたことも少なくなく、仕事用に化粧をしている時ですら、化粧を落とした時の肌の質感の方が綺麗なほどだ。
「せ、洗顔……」
ただ、明日からまた仕事を始めるとすると、風俗業というものは身体全体が商品となるので、ちょっとしたケアにも気をつけなくてはいけない。自分の見目につけられる価値は酷くシビアなのだから。
ついでにカラカラになっている喉も潤したいところだ。
「…………ッルト」
そこらへんに脱ぎ捨てられていたカカシのシャツを適当に羽織って立ち上がろうとすると、長い腕に再びベッドの中に引き戻された。
ばふっという音と共にナルトの身体がシーツの海に沈む。不健康な肌色の腕がにゅーと伸びてきて、拘束される。シーツの中は、酷く暖かかく、自分の身体がいつの間にか冷えていたことを教えてくれた。教室の中ではけして見ることの出来なかった大人のシャツの下の腕が自分に巻き付いているのがちょっと嘘みたいで、水を飲むためにキッチン立ち上がったナルトは、しばらくその拘束具から逃れることが出来なかった。
 
 
ベッドの中でまどろみながら「ナルト、借金のことだけど相続放棄する道はないのか?」カカシは金糸を弄びながら訊ねた。
腕の中で碧い瞳がパタパタと瞬いて、ああ綺麗だなと思いながら瞼に口付ける。
くすぐったそうに身を捩ったナルトはやんわり笑みを落とした。
「親の残した借金なら何もおまえが背負うことはないんだよ?今はおまえ身一つなんだし、裁判所に行って簡単な手続きをするだけで、負債義務はなくなるんだぞ?」
「おー…、さすがカカシ先生。〝先生〟っぽい」
「おまえね…ていうことはちゃんと知っていたのか?」
「ん。弁護士のおっちゃんが言ってたから。難しくて半分もわかんなかったけど、それさえやればオレは借金払わなくてもいいんだろ?知ってるってばよ?」
けろりとした顔で答えたナルトに、ならなんで、とカカシが問い詰める。「んー…」とナルトはもごもごとしてから「本当は格好悪りぃからあんまり言いたくねぇんだけど…」と前置きした。
「海辺の街にずーっと昔に父ちゃんと母ちゃんと住んでいた家があるんだってば。その家ってさぁ…オレが相続放棄したら、売却に掛けられちゃうんだろ?」
あー、格好悪りぃと繰り返して、ナルトは決まり悪げに唇を尖らした。
「別に、ほとんど住んでいない家だったし、今更だし、これはオレの我侭でただの感傷なんだけど、絶対、あの家だけは売りたくないんだってば」
ニシシと笑ってナルトは、ベッドからぴょこんと這い出すと衣服を身に着ける。チャイナではなく、来た時と同じピザ屋の配達員のような格好だ。
「んなわけだから、借金は放棄できねぇの。カカシ先生とも付き合えない。しあわせになってもいいかなってちょっと夢を見そうになったけど、借金を残したままカカシ先生とは暮らしたら、きっとオレってばカカシ先生に甘えちゃうと思う。そーいう関係はイクナイ。それにカカシ先生、オレがヘルスやってると胸がつぶれちゃいそうになるんだろ。オレ、これからもがんがん稼ぐから、無理」
んぢゃ、オレッてばそろそろ行くってばよ。カカシ先生、ありがと。緑色のキャップを被りバックパックを背負ってナルトが笑った。
「一晩だけでもすげーしあわせだった。いい、思い出になった。初めてが、仕事ぢゃなくてカカシ先生で良かった」
ちょうど良くナルトの携帯がなった。
 

「あ、カブトさん?今から帰るから迎えに来てくれねぇ?ん、バックレてごめんなさいってば。え、いやなんともねぇよ、実は高校の時の担任の先生と会っちゃってさ、いやそのオレの間違いで。配達事故って奴?うんうん、それでちゃんと優しくして貰ってたってば。うん、本当になんともねぇから、あのさあのさ罰則はちゃんと受けるってば。だからまた働かせてください」
ナルトはしばらく電話の向こうの相手と何やらやりとりをして「あのさ、店の人がここまで迎えに来てくれるって言うんだけど…いい?」とおずおずとカカシに尋ねた。
「いい人たちなんだけどちょっと濃いというか…マンションの下まで車で来てくれるみたいだってば」
へへへ、と笑ったナルトを抱き締めたかった。「一緒に暮らそう?」と一つ覚えみたいな陳腐な台詞を吐きたかった。ヘルスをしててもいい、ナルトさえいてくれたらいい。借金も二人で返そうと、なんだか安っぽい設定の二時間ドラマの男主人公みたいな薄っぺらな言葉で引き留めたかった。それでもナルトは嬉しそうに笑ってくれるだろう。困った大人だってばよ、という顔で「んなこと言ってくれたのも、カカシ先生が初めてだってば」と、よくわからない誉め方をされ、だけど「ありがとう」とだけ言われて前回のようにカカシの提案にナルトが頷くことはないだろう。
それがわかっているから何も言えない。
自分の自己満足のような台詞を吐いて、ナルトに優しく悲しい気遣いなどさせたくなかった。
「それぢゃあ、ばいばいってばカカシ先生」
少ない荷物をまとめて、ナルトは出て行く。
玄関のドアの閉まる音が空虚に響いた。
 
 
 

 
 
 
 








★これでは終わらせません
 
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空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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