空気猫
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はたけカカシ22歳。身分、大学生。ちなみについ最近までは住所不定であったが、今は自分の爛れた私生活を見兼ねた髭の友人とルームシュア中。
もっとも家賃は7:3で、どちらかというと友人宅に棲み付いた野良犬状態。実質の居住区はパイプベットの上だと本人は主張。
女のところを渡り歩かなくなってよくなったが、いちいちカカシの生活態度に口出ししてくる熊型の友人をどう対処するべきかが、悩みといえば悩み。
現在、特にやりたいこともなく、大抵の若者が抱くような大それた夢もなく、人生という名の道に迷っているかもしれないと噂だが、青春なんてものは聞くだけで鳥肌立つので巻き込むなと断固拒否。
「せっかく才能があるのにもったいない」とか「もっと頑張れば…」とか周りのやけに熱い大人たちは色々と言ってくるのだが、本人はまるで気にしてなくて、大概はベッドに寝転がり、「ただいまはたけカカシは充電中」が口癖。大概は、同居人に「学校行け、学生!」と蹴り倒されるのだけど。
どちらかというとガキは嫌いなんだよ。うるさいし、理解不能だし。保護欲なんて沸きもしないね。では今現在なぜ自分は公園の砂場にしゃがみ込んで、右手にちゃっかりスコップなぞを握っているのか。
「あー、山が崩れちゃったってば」
「………」
「そこはもっと角を作んなきゃダメだってばよ!」
「……べつにどうでもいいでしょーよ」
「よくないってばよ。ちゃんと砂のお城を作るんだってば」
「………」
現場監督チックな指令を出す子供に促されて手を動かしては見るが、まったくやる気というものが起きない。さながら自分はぐうたらな平の土木工員と言ったところであろうか。ま、相手は8歳児だけど。
いつの間にやらちゃっかり出来てる上下関係は、自分はこの公園では新参者ですし?とおいおいそれで納得するのかというような理由で、宇宙の彼方にうっちゃらって、さて何故このような事態になったかというと、そもそもの原因は時を遡ること30分前。
その日、カカシはいつもの如く熊の友人にベッドから叩き起されたのはいいものの学校には行かずにスロットをやって小金を稼いだり、なんとなく街をブラブラしたりして時間を潰していた。そして馴染みの店で適当に昼飯を食べ、さて次はどこに顔を出そうかなと頭を捻ったところで、ふとそこが最近一度だけ通った道だということに気が付いた。
…言って見れば気が向いただけ。けして足が自然と向いていた、なんてそんなことはないはずで。
ゾウの形の滑り台。パステルカラーのジャングルジム、卵形の砂場に、水色のブランコ。きゃーきゃー、はしゃぐ子供たちの声は相変わらず。若干のデジャブを感じる、なんとも長閑な昼下がりの公園。カカシの視線が無意識に何かを探して彷徨って、すぐに金児を捉える。
ぼんやりとシーソーに座っている子供。どこを見ているのか、やはりちょっと虚ろな傾いだ表情。子供の今日の注目の的はコバルトブルーの羽根を持った蝶だった。
だからあんなもの見て楽しいかねぇ?と思いつつ、カカシは自販機で缶コーヒーを購入して、子供に近寄るわけでもなく、距離の離れた真向かいのベンチに座る。
薄味でちっとも美味しくないで有名な水っぽい苦味に顔を顰めつつ、そのまま子供を観察していると、子供が蝶に手を伸ばして、何かを掴むように追いかけ、あろうことかぽてんとシーソーからずり落ちた。それも顔面から。舞い上がる砂埃。
(痛いだろ、まず間違いなくあれは)
呆れて、カカシはわけもなくズズズとコーヒーを啜る。子供と言えば猫背の怪しいパーカー男が自分の行動を逐一観察しているとも知らず土埃を払って何事もなかったかのように起き上がる。
やっぱり今日も泣かない子供。可愛くない、なんて思ってカカシはハッとする。では、自分はあの子が今、泣いたらどうするつもりだったんだろう。辿り着きそうになった結論に冗談ではないと半ば無理矢理終止符を打って、空になった缶をゴミ箱に放り投げる。
綺麗な放物線を描いた空き缶を視線だけで追いかけて、カカシはそのままベンチに背を預けて、雲ひとつない青空を振り仰ぐ。水底から地上を覗く魚のようにダラしなく口をぱっかりと開けていると、俄かに辺りが騒がしくなった。
(なんだ…?)
うるさいねぇと喧騒の方に目を向けると、公園の広場で金色の子供を同じ年くらいの子供たちが取り囲んでいる。
「おまえ、父ちゃんいねーんだろ」
「こっち来んなよ、うちにも父ちゃんいないのうつるだろ」
「どっか行けよー」
うわぁ…。
ガキってえげつなーい。片眉をひょいと上げて、だけど面白いことになって来たとカカシは仰け反っていた身体を正して、自分の膝に肘を突いて事の成り行きに耳を傾ける。
カカシの位置からは、俯いている子供の表情は見えなくて、好奇心から、どんな顔をしているか気になった。だって、薄暗い顔をしているに違いない。まるで自分が一番世界で可哀相だという表情で。それこそカカシの望んでいた子供の姿だったのだが次の瞬間、
「うっせーってば!」
空を駆け上がるような真っ直ぐな声がカカシの鼓膜を叩いた。
「やいやいやい、うずまきナルトさまが相手だってば。みんなまとめてかかって来いってば!」
だん!と地面を蹴る小さな足。
「父ちゃんの悪口言う奴は許さねーからなっ」
噛み付くように啖呵を切った子供。小さな背中が心なしか大きく見えて、周囲の子供たちがわーと逃げていく。
「あらら、これまた随分と活きの良いこと」
意外だった。いじけた性格の、暗いガキだと思っていたのに。絶対に負けるもんかという表情で食ってかかる子供の後姿に、ガラにもなくちょっと胸を打たれた。
頼りないひょろっこい肩のくせに、どこにそんな力が隠れてるのだろう?すっからかんの空気みたいな自分とは全然違う、自ら光を放つ太陽みたいな塊が眩しかった。
だけど、あの子供の中には確かに数日前やシーソーの上で見せた底の計れない一面も持っていて、
興味が湧いた。明るさと薄暗さを明滅させるように併せ持つアンバランスな存在に。思わず、
「おーい、がきんちょ」
とカカシは声を掛ける。自分に向けられたらしい呼びかけに、
「う?」
と子供がきょろきょろと辺りを見回して振り返り「あー…!」と口をぱっくりと開ける。
「灰色ねずみ!!」
ぴし!とちっちゃな一指し指がカカシに向けられる。人のこと指差すなよ、と三白眼で頬に手を充て肘を突いたまま、カカシがまた片方の手でちょいちょいと仔犬を手招くように指を動かせば、警戒心も欠片もなく近付いてくるヒヨコ頭。
「おまえ、トモダチいなーいの?」
さっくり酷いことを言って、首を捻れば、子供もカカシと一緒になってこてんと首を傾ける。
「ねずみ……、また来たってば?」
「とうとうオレはねずみ扱いかよ」
しかも「ねじゅみ」に近いかなり怪しい発音。カカシは足を組み直し、わしっと子供の金糸を撫でてやる。
「オレが遊んであげよーか?」
「!」
子供が弾かれたように顔を上げる。
「おまえのトモダチになってやってもいいよ?」
「……オレのトモダチってば?」
「そ。ほら、握手」
「う?」
「これでオレとおまえ友達ね。遊んであげる」
にっこりと、だけど「おまえ本当は心の底では笑ってないだろう」とわかる人にはわかる笑みを作り、
「ほら、オレの気が変わらないうちに言いなさいよ?」
カカシがとんとんと指で膝をノックすると、子供が少しだけ目元を赤くして、視線を忙しなげに上下させる。―――睫毛長いねぇ。なんて、関係ない感想を抱いていると、
「……ってば」
「ん?聞こえなーいよ」
「……砂のお城作りたい、ってば」
ぼそぼそと黒いTシャツの裾を握り締めて囁かれた台詞。
「砂のお城?」
「だめってば?」
大人が本当に自分と「トモダチ」になってくれて「遊んでくれる」のか疑わしそうな、だけど期待いっぱいの表情に、カカシは内心、ここで思いっきり突き放したらどうなるかな?なんて、意地の悪いことを考えつつ、上目遣い気味の潤んだ碧い瞳に何か抗えない引力的なものを感じて、砂遊びかいや別に良いけどねと後頭部をカシカシ掻きつつ、承諾したのであった。
公園で遊ばなくなったのはいつからだったけなとかなり平和なことを考えつつ、カカシは改めて己の手元に目を落とす。
「………」
砂のお城の定義がどんなものか知らないが、少なくとも今現在カカシと子供が作成している「お城」は似ても似つかない不恰好な砂の集合体だ。
「できないよ、こんなもん。もっと簡単な奴じゃだめなわけ?」
「だめだってば。お城でなきゃやだってば」
「砂のトンネルとかなら簡単にできるでしょ」
「お城がいいんだってば!」
「……はぁ」
子供っていう生物はなんでこう一度言い出したらテコでも動かないのか。そのうえ、このお子さまときたら格別、頑固で意地っ張りな気がする。素直で従順な方が可愛げもあるというものなのに、と思いつつ無口だ無愛想だと友人知人(その他不特定多数の女など)から総じて評価されている自分がまともに子供の相手をしている事実に内心では結構驚いていたりする。とは言うものの、
「あー…。もう無理」
カカシはやたらデコボコした砂の山に、ざく!と無慈悲にスコップを突き刺す。飽きた、と呟く青年に子供が非難の声を上げる。
「酷いってばよ、灰色ねずみの兄ちゃん!」
ちっちゃめのスプーンみたいな砂場道具で一生懸命砂をかき集めていたナルトは心底憤慨したといった様子でパーカー男に食ってかかるが、長い指におでこを弾かれてころんと転がる。
「うううう…」
「オレに逆らおうなんて100年早いね」
オーボーだってばよ兄ちゃん…。ナルトが恨めしげに上目遣いで睨んで、カカシが得意気な表情で片頬を上げる。なんだか同レベルの会話を繰り広げている銀髪の青年と金髪の子供の珍妙な組み合わせは傍目から見たらさぞかし奇異に映っただろうが、子供は頬を膨らませながらもどこか楽しそうで、カカシの顔にはいつの間にか自然な笑みが少しだけ浮かんでいた。
ナルトの大きいお友だち灰色ねずみ。
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職業 ノラ
趣味 散歩・ゴミ箱漁り
餌 カカナル
夢 集団行動
唄 椎名林檎
性質 人間未満
日記 猫日和
ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。