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空気猫

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まだカカシ青年は恋の自覚なし。 


 

 
 

 


体温の高い子供の身体を抱き締めてカカシはベンチに座った。モゾモゾと腕の中で、子供が動いたが、構うことなく骨が軋むまで、強く、抱き締めた。


「――――ごめん」
カカシはナルトから身体を離して、ベンチの隣に座らせる。こんな小さい子供相手に何をやっているのだろうと思う。
「どうしたってば。灰色ねずみの兄ちゃん……?」
頭を抱えて蹲る青年を不安そうに覗き込むナルト。
「………」
返答しない青年に、ナルトは眉の根を寄せる。ナルトは青年に近寄ろうとにじり寄ったが、大きな手の平に腹の辺りを押され、飛びつくことが出来ない。
ショックを受けたように口を歪め、何度も何度も青年に飛びつこうとチャレンジするが、つっかえ棒の腕はビクともしない。
「……ねじゅみ?」
「………」
「ふくぅ…」
小さな唇から漏れた嗚咽に、カカシはおや?と目を見開く。軽く目を瞬かせて、顔を上げれば、子供が泣き出す寸前の顔で、憤然と自分を睨んでいた。
―――……すげー、意地っ張り。
呆れと共に、込み上げてくる笑い。
「ぷはっ、ははは……。くくくく」
大笑いするカカシを余所に、ナルトはますますへちゃムクれる。
「笑うなーってば」
「くくく、ごめん、ごめん。だっておまえその顔……」
子供は唇を噛んで一生懸命、涙を堪えていた。オレが冷たくしただけで、おまえはそんなに哀しいの?
ただちょっと気まぐれに遊んでやっているだけ、それだけなのに。都合の良い解釈をしてしまう。友だちになってあげるよ、と甘く囁いて、手懐けてオレはいったい何をしようとしているのだろうか。
壊してやりたい衝動と、それ以上の守ってあげたいなんて、ガラにもない気分にすらなって、何も知らない、柔らかなこの存在が愛おしいと思った。
自分だけが、この子の特別であるはずがないのに、それでもこのいとけない子供に少しでも慕われていることが嬉しかった。
おいで、と自分の膝を叩くと、すんと鼻を鳴らした子供がきゅうと抱きついて来る。他人にいとも簡単に心を許すのはこの子の性質なのだろうか。それともオレにだけなの?
―――カカシがこの子供に心を許しつつあるように。
「……何?」
ふと気付けばナルトが、カカシの服を掴んで、ぴとりと密着して来た。真ん丸い碧玉にまじまじと見詰められ、カカシは居心地が悪くなって思わず仰け反る。
落っこちそうなくらい大きな瞳に目を奪われていると、よじよじと芋虫みたいにカカシの服に掴まって登って来た。止める間もなく、
「ちゅ」
柔らかいものがカカシの唇にふれる。カカシは今度こそ完璧に固まる。
「ねずみに大好きの〝ちゅ〟~てば」
ナルトの言葉にカカシはザザザーっと蒼褪める。当時のカカシの名誉のために述べるならば、誓って彼は幼児趣味やロリコンショタコンの気はこれっぽっちもなかったのだ。ベッドを共にする相手はどちらかというと二十代半ばからそれより上に限られていたし、同年代はもちろん年下の異性はカカシの眼中にはいっさいなかった。
それなのに。同性の、それもまだ10歳に満たない子供を前にカカシは(再び?)恐慌状態に陥った。
ヤバい、ヤバい、ヤバい、何がヤバいのかよくわからないが、とくかくヤバい。何かいけない扉が開きそうな気がした。
しかし、無常にもあどけない唇が再び、カカシに向かって接近して来ようとするのだ。
「わーーっ、だめデショ。ナルト。ストップ、おすわり!!」
カカシの胸に手を掛けてよじ登って来た小動物に冷や汗を掻く。思わず、犬猫に言うような台詞が飛び出した。
「しゅきな人には大好きのちゅだってばよ?」
「……それ誰に教わったの?」
「父ちゃんだってば!」
オレってば父ちゃんともちゅしてたってばよ?とナルトは小首を傾げる。心底、不思議そうな顔だ。言われた通り、カカシの膝の上にきちんとお座りして元気よく答えた子供に、カカシは頭が痛くなった。
―――――あの人はどんな教育してんだ!!!
カカシは頭の中で、へらへら顔の人物に向かって盛大に拳を落とす。
「ナールト、こら。ダメだよ」
なおも、自分に向かって来る子供の口を手で押さえる。三本の痣がある頬を撫でつつ、「好きな人」の一言にカカシは戸惑いを隠せない。
ダメだよ、と言いながらも、カカシは目を細めて、ふっくらとした幼い唇が重なる感触に背筋を震わせる。
「………ん」
カカシの襟元をきゅっと引っ張り、精一杯背伸びをして、唇を合わせて瞼を閉じるナルト。傍目には小さな子供がフードを深く被った青年にキスをしている、という外国によくあるスナップ写真のような光景だ。猫背のまま、固まった青年の心音さえ聞こえなければ。
浅く息を繰り返す、子供。カカシからも吐息が漏れる。キスというよりも口がくっつぐだけの意味合いが大きい行為なのに何故これほどまでに劣情が湧き上がるのか。
カカシは薄っすらと瞳を瞬かせ、ふわふわした金糸を指で梳く。現実から切り離されたような数秒間……ぷは!とナルトがカカシから離れた。
「シシシ。元気出たってば?」
ナルトは、得意満面な顔で笑った。ナルトの笑みに、カカシは「あー」とか「うー」とか唸ったあげく、困ったように頷いた。
「やった。オレってばねずみを励ますの大成功なの」
「くくく、そうだねぇ……?」
カカシは膝の上で飛び跳ねるナルトの腰に手を添えてやりながら、苦笑した。ふにふにと子供の身体の柔らかい感触に、なぜか眩暈を覚えつつ、カカシは親指で健康的な唇を拭ってやりながら、ふと思い付いたことを口にした。
「おまえ、これみんなにやってる?」
「う?」
「大好きの〝ちゅ〟」
「ううう~、誰にもはやってないってば」
ぷっくりと頬を膨らませてナルトが言う。
「そうなんだ。ねえ…ナルト?」
「ん、なんだってば?」
カカシはなるべく平坦な口調で、ナルトに言い聞かす。
「おまえ、こういうことはもう他の奴にやったらダメだよ?」
「?」
なんで、とカカシを見上げる子供をひょいっと脇で持ち上げて二人の視線が平行になる。
「大好きのちゅうは特別な人にだけにするものだから」
「特別?」
「気軽にしていーものじゃないの」
オレが言うのもなんだけどね。
カカシ自身だってなんでこんなことを言うのかわからない。だが、この子がこれから自分以外の人間と気軽に〝大好きのちゅ〟をするのは堪らなく嫌な気がしたのだ。
「いーい、オレとおまえの約束だよ?」
「ねずみとオレの?」
「そう」
こて、とナルトが首を傾げる。カカシが表面上は至って平静な顔でにっこりと笑えば、青年が笑っているのに安心したナルトもつられてニシャと笑みを零す。
「わかったってば、約束!」
元気良くタックルして来たナルトをカカシはぎこちなく受け止める。そんな二人を遠巻きに眺める公園にいる子供たちは、遊具で遊ぶ事すら忘れて呆然と立ち尽くしている。
ナルトはちろりとそんな同年代の子供等を一瞥すると、カカシの耳元に貝殻のような手をこそこそと寄せて喋る。ねずみにね…、と甘い吐息がカカシの鼓膜を擽る。
「オレの秘密基地教えてやるってばよ」
誰にも内緒なんだってばよ?悪戯っ子の顔でナルトがきゅうと碧い瞳を細める。
「今度、遊びに行こうってば」
「オレには教えていいの?」
「灰色ねずみの兄ちゃんは〝特別〟なんだってば」
ちゅ、と頬に破裂音と共に、ふっくらとした感触と、だ液。オマエねぇ…汚い、と呆れつつも、本気で怒れなかったカカシはこの時から、ナルトに関してはダメな大人であったのかもしれない。

















他の子供たちは大口開けてこの異空間を見ていればいい。
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空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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