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空気猫

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ずっと堪っていた涙。ざんざんぶりの雨のように、零れ落ちる滴。
やがて、泣いた子供の潤んだ瞳がカカシを映した。ああ、なんて綺麗な碧玉なのだろう。
泣いた子供の最初の第一声は…
「灰色ねずみの兄ちゃん、怪我してるってば?」
「え?」
見れば利き手である右手に血が滲んだ痕。どうやら先程、変質者の攻撃を避ける時に地面で擦ったらしい。
「あー…。このくらいなんともないよ?」
カカシの手を握り、視線を落としていたナルトの瞳からまた透明な滴が盛り上がってくる。
「ふぇ、ねずみぃ……」
「ナルト、なんでおまえが泣くの」
はらり、とナルトの頬を伝う涙。
「だって、ねずみ痛い、痛い。オレのせい…」
「だからそれは違うでしょ、ナルト」
ナルトはぶんぶんと首を振る。
「オレのせい。チビのこともそう。もっとオレがしっかりしていればチビもあんな痛いめに遭わなかった。オレが…寂しかったからあそこにチビを引き止めていたから。ちゃんとチビの新しい飼い主を探してやれば良かった」
ひっく、ひっくとしゃっくりを上げて、ぽろぽろ伝う涙を擦ってナルトが泣く。「ごめん。痛かったってば?チビぃ…っ」くしゃりと歪んだナルトの頬をカカシが包み込む。ナルトの頬は泣いたせいだろうか、いつもより温度が高くて、熱かった。
「ううん。おまえのせいじゃないよ、ナルト。あの仔犬だっておまえに拾われて幸せだったさ」
ナルトが不思議そうにカカシを見上げる。
「あの子の一生はそりゃ短かったかもしれない。だけどそれでおまえと過ごした時間がそれで消えるわけじゃないでしょ?生まれてきて、おまえと出会って、ご飯を貰って遊んで貰えて、名前を付けて貰えた。
オレはあの犬ではないから想像するしか出来ない。だけど、きっとあの子はおまえのことが大好きだったよ。最期の瞬間だって、あの仔犬は〝ああこの世に生まれてきて良かった〟って思ったよ。今もおまえがこうして泣いて、死を悼んでくれている。それだけでもあの仔犬は幸せだったよ」
おまえに出会えて良かったと思っているよ、と呟いて、ああこれは犬のことではなく自分のことを言っているのかもしれないとカカシは思った。
あの犬とオレは、同じ気持ちだった。どちらもナルトに救われたのだ。
「捨てられて消えるだけだった命を生かしたのは、おまえだよ。だからあの犬はナルトに感謝しているよ」
「本当にそう思うってば…?」
「そうだよ、オレもおまえと出会えたことに感謝しているから、こんな怪我全然平気なんだよ?」
「……でも、やっぱさ怪我するのは痛いってば」
「……」
カカシは口を噤む。
「オレってば二度と自分の大切なものはこんなめに遭わせたくない…」
ナルトはカカシの懐に飛び込む。
「だから今度はオレがねずみが怪我しないように守るっ…てば……!」
「ナルト…」
「ちゃんと守るから、ねずみのことを守るからっ、ねずみは安心してってばっ」
この状況下で己の心配よりも他人の心配をする子供。どうしてこれほどまでに強くあれるんだろう。己の首に巻き付けられた腕。子供の温かな体温。愛しさが溢れてどうしようもない。自分には絶対に無理だ。カカシがこうだなと思った予想の範疇を超える存在。
ああ、面白い。オレの想像しない意外なことばかりだおまえの在り姿は。
こいつと一緒に生きていけたら、予想外のことばかりに囲まれて、少しは「楽しい」「生きている」という気分を味合えるのだろうか。「はたけカカシ」という人間にはなんの価値がないが、この子と寄り添っていたら、すっからかんな自分の中にも中身が詰まることがあるだろうか。
カカシはこの時、予感した。おそらく自分はもうこの子から離れることは出来ないだろうと。なぜなら、この子がカカシの生きる意味になったから。
空っぽだったカカシの中を満たしたものは、うずまきナルトという存在。赤く染まった空に、どこかの空港から離陸した飛行機が飛んでいた。
「ナルト、よく聞いて?」
「………?」
生きてるのがつまらないとか、周りの人間が嫌いだとかしたドロドロした感情は、まだ相変わらずカカシの中で渦巻いている。色んな嫌悪感は残ったままだが、生きているのが少しはマシに思えてきた。ナルトがいるのならば、とカカシは微笑と共に付け加える。
「今からオレが言うことおまえはまだちっちゃいから忘れてしまうかもしれない。もしかしたらオレのこともね?」
「う……?」
「おまえは覚えてなくていいよ。オレが忘れやしないから。だからオレの誓いを聞いて?」
「誓い…?」
「その前に一つだけ確認。―――おまえはオレのこと好き?」
「うん、ねずみのことオレってばだいしゅき!」
「…そう。嬉しいよ、ナルト」
ぴょんぴょん跳ねるナルトの背を撫でて、カカシは微笑する。
「ナルト、オレはね。しばらく遠い国にいかなきゃならないんだ」
「……っ!?」
「だから、おまえとは今日でお別れなんだよ。ごめんね、もうちょっと早くに言えてたら良かったんだけど」
「どうして…?」
ナルトの目が真ん丸く見開かれ、わなわなと小さな身体が震え始める。
「さよならをしなきゃいけないんだ、ナル…」
「ねずみ、いっちゃやあっ!」
「ごめんね、ナルト…」
カカシは飛び付いて来たナルトの頭を抱える。
「オレは今、すごく弱いから、おまえの傍にいるとまだ小さいおまえに寄り掛かってしまうと思う。それじゃオレは本当にダメな人間になってしまうんだ、そうでしょ?―――それに…」
カカシはナルトの目尻に溜まった涙を唇で掬い取った。
「こういうコトもシタくなっちゃうからね…?」
「なんで。これ、〝大好きのちゅ〟だってば。ねずみ、オレのことキライになったの…!?」
ナルトがパニックになってカカシのパーカーの裾を引っ張る。
「違う。おまえのことをキライになったわけじゃないんだ。今のオレの好きはね、ナルト。おまえの好きより、ずっと大きくなっちゃったんだ」
「……オレもねずみと同じだけ〝しゅき〟だってばよ!?」
「違う。おまえの好きと、オレの好きは、全然違うよナルト。オレのはもっと汚くて、自分勝手な好きなんだ。―――オレは、おまえがまだ小さいのにおまえにいっぱい我儘なことをしてしまいそうで怖い…」
たくさん我慢しないといけないことがあるんだよ、だからね。
しばらくお別れ。
カカシはナルトに言った。
「ひどい…。ねずみ」
「ごめん」
ナルトの手の平を握ろうとしたカカシの手がぺちんと払われたが、カカシは追いかけるように、小さな手の平を掴まえて、ぎゅっと握り直す。
「……オレのこと、キライになっちゃった?」
「………っ」
自分でも残酷な仕打ちをしていると思う。一度、懐いた子供を突き放すようなこの別れ。とくにナルトにとってはこうやって離れていかれた経験が一度ではないのだ。
図らずも、カカシはナルトに傷を付けてしまった。ナルトと出会う前のカカシであれば、子供に重大な心の傷を負わせたことに、ほくそ笑んだことであろうが、―――今はただ胸が痛い。後悔と自責の念で一杯だ。
「ねじゅみが本当にオレのこと好きならオレのこと置いてくはずねぇもんっ」
「……ナルト。オレは、おまえのことが本当に好きだから少しだけバイバイしなきゃいけないんだよ」
「んなのわかんねぇ……っ」
ファンファンとパトカーの音。やっと警察が駆け付けて来たらしい。カカシがフードを深く被り直して立ち上がると、ナルトが縋るようにカカシを見上げた。
「もうオレはいかなきゃ」
「――――っ」
「約束だよ、ナルト。大きくなったらまた会おう。その時は、オレの全部をおまえに捧げるよ」
オレはこの小さな存在に救われた。この子以外、何もいらない。何も欲しがりませんから、どうか神さま。この子をオレにください。前に神なんかいるもんかと罰当たりなことを言ったことはあやまりますから。
柔らかい頬にキスをして真綿のような小さい身体を抱き締める。
甘い…。
「オレの全部を捧げるから、だからその代わり、おまえの全部をオレに頂戴」
ナルトが驚いたように目を見開く。意味なんてきっと理解していないだろうけど、今はそれでいい。
「……またね、ナルト。しばらく逢えなくなるけど、必ず迎えに行くから」
ふわりと温もりがすり抜けて、ナルトを置いてフードを被った青年が去って行く。
「ねずみ……?」
連れらたようにナルトの足が灰色ねずみの後姿を追おうとするが、一歩二歩歩いた所で、青年の歩幅に追い付けず転びそうになる。
「………」
ぺたんと、ナルトが地面に座り込んだ。アスファルトに、透明な滴が落ちた。
「ふぇ……」
はらはらと涙を零した子供。ただ最後に「魔法使いの住処だよ」と言葉と共に渡された紙切れ。ナルトにはまだ読めない細かくて角ばった文字。
ナルトはクシャリと紙切れを握り締める。
「ねずみ……」
夕暮れの空に呟いた言葉は熔けて消えた。






ナルトの涙の音が聞こえた。それに背を向けて、カカシはジーンズのポケットに入っているパスポートを取り出した。きぃん。またカカシの頭上で飛行機が通り過ぎた。
その後、はたけカカシは海外に留学した。紙ヒコーキを飛ばして決めた国に数年間滞在、帰国。同年、同じく帰国して大学院に進んでいた大学時代の後輩のヤマトのバイト先で金髪碧眼のあの子を発見するに至る。
確信犯で通い詰める。




夏のある日。カカシはアスファルトの道をゆっくりと歩いていた。気温30℃を越す暑い中、長袖にブラックカラーのパンツという太陽に喧嘩を売っているような格好で、目的の場所コンビニにへと到着する。
ぴこん、ぴこんと気の抜けた音と共に、冷房のよく効いた涼しい空気。商品整理をしている、ぴょこぴょこのひよこ頭が見えた。カカシは自然と唇を吊り上げる。
「なーると」
「あ、カカシ先生!」
にぱ!と笑った少年が、振り返って無邪気に近付いて来る。そこら辺の動作はちっさい頃から変わらないよねぇとカカシは苦笑する。
「やー、暑いねぇ。コンビニの中に入るとほっとするよ」
「それ、カカシ先生の服装で言われてもちっとも説得力がねぇってば」
「はははは」
「見てるほうが暑苦しいから夏っぽい服着ろってば。迷惑だってばよ?」
「おまえ、それ酷い…。落ち込むぞオレは」
ナルトの頭を掻き回していると「だからー、くしゃくしゃにすんなってば!」と、はにかみながらも笑顔が向けられる。
―――また会えたね。約束したでしょ?遅くなったけど、迎えに来たよ。
7年前のあの日。あの事件のあとすぐにナルトが三代目と呼ばれる老人に引き取られたことをカカシは風の噂で聞いた。事件の三日前にあの子の現状を大人や、その時たまたま店にいた老人に説明したのはカカシだった。父親である大人はショックを受けたような愕然とした顔でナルトの様子をカカシに訊ねた後、どこかに出掛けて行った。
彼がこっそりナルトの様子を見に行ったのかカカシは知らない。ただ海外に行くための飛行機のチケットとパスポートを取るためカカシは大人の跡を追うように店を出ただけで追求する事はなかった。
どういった経緯で話し合いが行われたかわからないが結局ナルトは三代目と呼ばれる老人が引き取ったらしい。あの家の主人はナルトを厄介者扱いをしていたようなので、交渉は簡単だったのだろう。
帰国して部屋も借り、落ち着いた頃。コンビニで働くナルトと再会した。カカシの膝までしかなかった身長は伸びて、だけど金髪碧眼のあの明るい色彩と存在は相変わらずだった。
すぐに手に入れてしまおうと思った。7年の年月の経ても尚、カカシを魅了して止まない金色。
だけど、ナルトの記憶から〝灰色ねずみ〟の存在は綺麗さっぱり消えていた。わかっていたこととは言え落ち込む気持ちを抑えることは出来なかったが、その反面、コンビニで元気に働くナルトの姿にあの頃とはまた違う感情を抱くようになった。客として通う内に、満たされていく何か。それはあの頃から感じていた感情の延長線上にあったかもしれないが、カカシはナルトと新しい関係を築いた。
過去の自分は確かに8歳のナルトに恋をした。だけど15歳のナルトと再会して、もう一度好きになった。カカシは二度、ナルトに恋をした。
すぐ自分のものにしてしまおうという凶暴な気持ちはたぶんカカシの中にまだあるが、それ以上に今はこの金色を大切にしたいと思った。心境の変化かもしれない。
明るく笑っている笑顔の裏に、まだどこかあの日の影も残していているこの少年を守ってやりたいとも思う。あの頃の未熟な自分では出来なかったことも、今では少しだけ出来るようになったから。
だけどさ…とカカシは一人ごちる。
あの人の子供だからそりゃ綺麗に育っているとは期待してたよ。どんな少年になっていても、愛せる自信はあった。だけどまさか辛抱が堪らなくなるまで美人に成長しているとは思わないでしょ。
見た目は勿論のこと中身まで、極上品。キス以上のことは大人になるまで我慢してあげるつもりだったが、いつまで持つのことやら。
「ナールト、次の休みに近所で花火大会があるんだけど行かない?」
「行く!」
「即答だねぇ」
「だってさ花火大会っつーとあれだろ。リンゴ飴、カキ氷、綿飴、イカ焼き、焼きソバ、お好み焼きーっ。夜店がいっぱいじゃん!」
「おまえ食うことばっかだねぇ」
「んじゃ金魚掬いもやりてぇ!」
「……食うなよ」
「食わねぇって。ホラーなこと言うなってばカカシ先生!」
カカシの手で頭を押さえつけられたままのナルトは「仕方ねぇからカカシ先生に買ったもん半分ごっこしてやってもいいってばよ」などと笑っている。
「金魚の半分こはいらないぞ」
「だからホラーだってばよカカシ先生!」
ははは、とカカシが笑って、霞めるようにナルトの唇にキスをする。
「……カカシせんせぇ、オレってば勤務中」
「バイト、いつ終わるの?」
「………っ。あと5分」
悔しそうにナルトが答える。
「それじゃあさ、このあとデートしない?」
モスグリーンとホワイトのストライプの制服に包まれた身体を抱き締めながらカカシが、ナルトの顔を覗き込む。もちろん、満面の笑顔で。
「知ってて来たくせに。……ズリぃ大人」
「その大人がおまえの恋人なんでしょ?」
瞬間、ナルトの顔が音がするほど赤くなって、よろめいた少年は商品陳列台に強かに頭をぶつけたのだった。



わずか十日間とちょっと。それが8歳のナルトとカカシが過ごした時間だ。
実質、二人が遊んだ最後の日。カカシとナルトが公園の砂場で作った砂のお城は、塔の変わりにカカシが買ってきた缶コーヒーを骨組みにして、かなり不恰好で、イビツな出来上がりとなった。
二人が作ったものはけして上手な砂のお城ではなかったのかもしれない。だけど、カカシが師と仰いだ大人も、カカシ自身も、そしてナルトも、一生懸命、自分たちだけの砂のお城を作ろうとしていたことだけは確かだ。砂のお城のその行く末はまだ誰も知らない。
「ほんっと綺麗に育ったなぁ」
カカシは私服に着替えてコンビニから出てくるナルトを待ちながら微笑する。
「カカシ先生、お待たせ!」
アーケードに腰掛けていたカカシに手を振りながらナルトが駆け寄って来る。カカシは目を細め、太陽の下で輝く金色を見詰めた。
「さ、行こうかナルト」
カカシは遠い過去の日を思い出す。砂場で学べないことはない…か。まぁ、確かに。砂場はカカシとナルトにとって重要なものだったとは思うが……―――だけどやっぱりそんなの嘘だね。
7年前、公園の砂場を出たカカシとナルトは、今こうして再会して、砂場では学べない恋なんてものをしている最中だ。
だってさ砂場でキス以上のコトに及ぶのはちょっと頂けないでしょ?















end


灰色ねずみ終了です!現代パラレルシリーズ、次はイチゴミルクの続編になります。
ひたすら長いだけの現代パラレル過去編にお付き合い下さり有難うございました!
追記ですが、砂のお城=家族・家庭でお願いします。
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=゜w゜=

現代パラレルシリーズ文庫本化希望!!と叫びたいくらい好きです。もしそうなったあかつきには、イチャパラのごとく読み続けます。笑

現在のイチゴミルク続編、楽しみにしています。
No NAME 2008/07/14(Mon)20:34:12 編集
=^w^=
ありがとうございます驚きで咳がごぼごほなりました興奮すると咳込む猫です、いらっしゃいませ!イチゴミルク続編、番外編を何篇か挟みつつ頃合いを見て始動しようかと思っています合わせてお楽しみ頂けると幸いですv
空気猫  2008/07/15(Tue)00:46:50
空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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