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空気猫

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うちはサスケが玄関前で蹲る己の担当上忍を発見したのは一週間分の買い出しを済ませた帰り道だった。
木の葉有数の名家うちはの門前で涙の水溜りを作って地面に突っ伏すこの里で一等腕が良いと評判の上忍。何故この男が己の家の前で強かに泣いているのか。知りたくもなかったが、邪魔な背中を跨がない限り家に入れなかった。
「おい、ウスラトンカチ。そこをどけ」
ゲシ、と無情な蹴りが大人の背中に入る。己の担当上忍相手にサスケの対応は冷たいものだった。大体にして、この男が奇行に走る時の原因はほぼ100%決まっている。メソメソと啜り泣く上忍の口から漏れている音を拾えば案の定「ナルトー、ナルトー、」「会いたいよー、寂しいよー」「オレをいじめて楽しいのー?」のエンドレスコール。
サスケの脳裏に能天気な顔で笑っている、全体的にオレンジ色の物体が思い浮かんだ。
ウスラトンカチどもが!!
舌打ちして、サスケはそのまま上忍師を踏み潰して家宅に入ろうとするが…次の瞬間、世界が反転した。
――こ、こいつっ。
片足を持ち上げられ、あっという間に逆さ吊りにされる。いくらナンバーワンルーキーと言われるサスケでも、相手は上忍。実力の差は歴然で、上忍から逃げ出す力はまだサスケにはない。
「サスケ。オレを足蹴にしようとするなんていい度胸だねぇ。担当上忍に対する礼儀がなってないんじゃないの?」
大人は、いじけた態度をいっぺん底意地の悪い笑みを浮かべている。嘘泣きだったのかと思われるほどケロリとしていた。
おまえにだけは礼儀だとか道理を説かれたくないと思いつつも、それを口にすれば暗部・上忍仕込みの陰湿な仕打ちが待っていることを心得ている賢い少年は口を噤む。
「やーい、悔しいデショ。わー、サスケくんったら逆さま。普段クールなサスケくんがみっともなーい。かっこわるーい」
カカシはサスケの足を持って振り子か何かのように揺らす。あからさまに挑発しているとしか思えない不遜な態度に、流石のサスケも堪忍袋の緒が切れて、身体を捻って上忍の頭部に蹴りを入れる。
鈍い感触に口の端に笑みを浮かべたサスケだが、煙と共に上忍のシルエットが丸太に変わった。地面に着地して態勢を整えようとした瞬間、ゴンと鈍い音がしてサスケの視界がブレる。
「オレに勝とうと思うなんて百年早いよ~、サスケ?」
ぐりぐり。
「はぁ、それにさー。オレ、今すごーく機嫌が悪いんだよね?」
ぐりぐりぐり。
「あの子に会えないし、なんだか知らないけど邪魔者がわんさかいるみたいだし、もうねキレそう」
ぐりぐりぐりぐりぐり。
「おまえに八つ当たりして憂さを晴らそうかな~」
ぐりぐりぐりぐりぐりぐり…。頭に手を置かれ圧力を掛けられて、頭蓋骨が嫌な音を立てている。虫けらを甚振る事を楽しんでいるような上忍の態度に、うちは次男坊のプライドに懸けても弱音を吐くわけにはいかないが、ぐぐぐと上から掛けられる圧力に負け気味だ。
この男がどのような経緯で教職なぞを取ったのかサスケには知る由もないことだが、目の前でへらへら笑っている男は間違いなく笑いながら人の首を撥ねるタイプだと思う。
暢気な間延びした口調も、一見隙だらけな態度も全て信じてはいけない。演習中はイカガワシイ本を読んで草食動物を気取っている猫背気味の背中だが、そのくせ、時々向けられるのは薄く鋭い氷のような視線だった。カカシからは牙を上手に隠した獣の匂いがぷんぷん香る。
こいつの視線が…
そう。本当の意味で弛むのはただ一人に対してだけ。そいつの名前は。
「ああ~、おまえがナルトだったらキスして、押し倒してメチャクチャに犯してやるのに」
うずまきナルト。チームメイトの少年だ。
物騒なことを言い出した男の台詞にサスケがザーッと蒼褪める。
「お、おか…!?ふ、ふざけるな!!」
「…あ?なあに、サスケ。そんな顔するなよ。安心しな、おまえには食指一本も動かないから。硬いだけのヤロウの身体なんてこっちから願い下げ。男を抱くと思っただけで吐き気がするね」
当たり前だ、ウスラトンカチ!!誰もそんな心配はしていない。寧ろサスケが蒼褪めたわけは、述べるまでもないことだが、彼のチームメイト…、それも同年代で同性の、子供が変態の毒牙に掛かろうとしていることにだ。
確かに屋上での自己紹介の時から目の前の上忍は酷くオスっぽい目でナルトを見ていた。ナルトはもちろんサクラでさえ気付いていない頃からサスケはそのことに勘付いていた。
なぜなら、サスケの視線も…ナルトへと向いていたから。
ふわふわの金色頭を愛おしそうに追いかける目。格別、大事そうに騒がしい子供の頭を撫でる手付き。ベタベタと咋にくっつきながらも、宝物にふれるようにそっと接していたのも知っている。
スキンシップを堂々と出来る上忍に嫉妬を覚えたことは一度や二度ではない。自分の気持ちに正直になれないサスケにとってはカカシはまさに舌打ちをしたいくらい憎らしい大人だった。


「ま、今日のところは許してあげるよ。おまえに用があって待っていたんだからね」
やっとカカシの手から解放されたサスケは、ほっと息をつく間もなく、相談なんだけどさぁと声が掛けられる。
「おまえに協力してもらいたいことがあるんだよね?」
いやだ。即答したい気持ちを抑えてどうにかしてこの上忍から逃れるすべはないだろうかとサスケは考え始める。
「つまりおまえがサクラの家に行けば、サクラは大喜びで家に上げてくれるでしょ?」
ちょっとオレも一緒に入れてよ。
「で、オレは見事ナルトを連れ戻すことができるわけ」
そこにナルトの意思は介在するのだろうか。大体、カカシから逃げたくてサクラの家に避難したらしい相手を、連れ戻すもないだろうに。
有無を言わさず掻っ攫い、暴走しそうな上忍に、サスケの背中に嫌な汗が伝う。それに。サスケは自分のハーフパンツのポケットに入っている紙切れの存在を思い出す。
『サスケくんへ
最高にウザい状態になったカカシ先生がサスケくんの所へ行くかもしれません。
もし何か頼み事をされても絶対きかないで下さい。
今こそ七班のチームワークを発揮するべきだと思うわ。
サスケくんのことを信じてます。
サクラ』
伝令用の鳥を飛ばしてまでいったいなんの手紙だと呆れていたが、まさかこんな事態であったとは。爪の甘かった己を叱咤したくなる。が、後悔してももう遅い。ゴキブリ並みにしつこくて陰湿な奴に捕まってしまったのである。
いったい自分の知らないところでどんなことが起こっていたのか知る由もないが、時々、あの桃色の少女が本当に自分のことを好きなのかと疑ってしまう。この担当上忍相手にサスケの身の安全が保障されるわけがないだろうに。
しかし、サスケにとってもナルトはチームメイトの一人だ。彼の場合、複雑な心情だが、それでも一人の人間として見てもナルトのことが嫌いではない。太陽のように明るい笑み。自分にはないものを持っている少年。
「―――悪いが帰ってくれ。夕飯の仕度があるんだよ」
「ふーん。へー。オレの頼み事を断るつもり? 本当にいい度胸だねぇサスケ」
カカシの瞳がすうっと鋭利に細められる。
「そういえばおまえもナルトが好きなんだよねぇ? もしかしておまえもオレとナルトの恋路を邪魔するつもり?」
「べつにウスラトンカチのことなんかこれっぽちも好きじゃねぇよ!」
「ふーん?」
カカシはサスケの返答に何かを含んだようなニヤついた笑みを浮かべた。
「ま、いいけどね。ライバルは少ないほうがいいに決まってるし」
サスケはナルトのことなんてなんとも思っていない、これでいいんだよね?満面の笑みでカカシが笑う。自分の恋心を知っていてわざと言い含む言い方をする大人にサスケはぐっと黙り込んだ。
「……ってめぇは本当にサイアクな奴だな」
「んー、よく言われる」
薄っすらとカカシが笑った。
「なぁ、サスケ。おまえはオレとタイプが似てるから言っておくけどさぁ」
「な!」
どこが…!と吐き捨てたくなりつつサスケはカカシを睨む。
「オレはねぇ、別に他人にどう思われようと関係ないんだよね。あの子さえ手に入れば」
おまえにその度胸がある?ないでしょ?
「言っておくけどあの子はもうオレのだから、手ぇ出したらタダで済むと思うなよ?」
つう…とひんやりした指に顎を撫でられる。身を引こうとしたサスケだがなぜか動くことも出来ず、銀色の上司相手に固まってしまう。
「おまえは一応オレの部下だし、ナルトの大事な〝ライバル〟だから教えておいてあげる」
ナルトはなんだかんだ言っておまえのこと気に入ってるからねぇ。おまえになんかあって泣いちゃったら可哀相でしょ?小馬鹿にするようにせせら笑われる。
「オレの横に並ぼうなんて考えないことだよ?」
絶対零度の視線を落とされて、歯の根が知らず鳴るが、サスケはぎっと己の担当上忍を睨む。
「っざけんなよウスラトンカチ!」
「その度胸だけは認めてあげる」
「うっせぇっ。バカにするのもいい加減にしろ!」
ふっと今まで取り巻いていた殺気が弛む。
「あー、早くナルトのふにふにした体を思う存分抱き締めたーい」
いつものおちゃらけた口調に戻った上忍は、どこかに消える。あとに残されたのはサスケ。安堵のため息と共に、どっと疲れが押し寄せてくるのを感じながら、少年は誰にともなく舌打ちしたのであった。



「オレの好きな人…?」
春野家に滞在し始めて数日。ナルトは女の子特有の良い匂いのするベッドの上で隣に座る桃色の少女を見つめる。まるで女の子同士のお泊り会のような光景ではあるが、ナルトはさして疑問に思うこともなく首を傾げる。
「んんと…」
サクラの言葉にナルトはまぶたを上下させる。「サクラちゃんだってばよ!」と元気良く答えると思った子供はしかし、恥らったように頬を赤く染めた。
「前にオレを助けてくれた兄ちゃん…」
「は?誰よ、それ」
「一度しか会ったことねぇんだけど、すげーカッコよかったんだってば」
ナルトは数ヶ月前のことを思い出す。ボロボロだったナルトの怪我の手当てしてくれた人。自分がうずまきナルトだって知っても態度が変わらなくてびっくりした。だって大人の人にあんなに優しくしてもらった経験などなかった。名前も告げずに去って行った、暴行されているところを颯爽と助けてくれた彼は、ナルトの記憶の中でスーパーヒーローのようになっていた。
「すーっと鼻筋が通っていて、すごく綺麗だったんだってば。美形ってああいう人のことを言うのかなぁ」
暴行されていたことをサクラに言うわけにはいかない。事情は話さずに、だから容貌のことだけ思い出して喋るうちに、ぽー…とナルトの瞳が恋する乙女のように宙に浮く。
「で、ででもさ、オレの完璧な片想い!あれ以来、一度も会ってないし!きっと向こうはオレのことなんて忘れちゃってるってば」
ナルトは顔を真っ赤にして、手をわたわたと手を振った。しゅんと俯く姿はまさに仔犬が耳を垂れてうなだれるそれ。
……―――か、可愛いっ。
サクラは我知らず胸をときめかせ…さて、ナルトの意中の人物とはいったい誰なのだろうと首を捻った。


後日、はたけカカシがナルトの想い人の噂を聞いて上忍待機所をフリーズさせるほどの殺気を振り撒いたのは当然の成り行き。「へぇ…ナルトに好きな奴がねぇ」と薄ら笑いながらも、目はちっとも笑っていなかったと噂だ。
彼の頭はすでに高速回転で「オレとナルトの幸せな未来」を邪魔する不届きな輩を葬り去るための暗殺計画を立て始めていた。愛しい子にバレないように完全犯罪を目論むカカシ。ナルトの意中の相手が自分だとも知らずに。


「んっまーい。サクラちゃん家のプリンは最高だってば」
「ハイハイ。アンタってホントよく食べるわねぇ」
ナルトはサクラと向かい合って、にこにことプリンを頬張る。
嵐の前の束の間の安息日。素顔のカカシに一目惚れしていたナルト。ナルトの想い人を抹殺しようと画策するカカシ。
もう一度、会いたいってば兄ちゃん。ほう…と恋のため息を吐く無邪気なお子様。
なんで?なんでオレのことを好きじゃないの?と己よりも先に愛する子供の心を奪った見知らぬ相手に嫉妬するカカシ。
両思いなのだが、微妙にすれ違った二人。ちなみに、はたけカカシ殺人モード突入につき、この物語はもう一波乱の予感。
















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自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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