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空気猫

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そんなわけで12歳になりました編6






世界が終ったのかと思った。カカシに嫌われたら、きっと自分は死んでしまうに違いないと思ったのに、まだ心臓が動いているのが信じられなくて、息をしている浅ましい自分の生命力が、冷たい地面を踏んで痛覚を訴える裸足の足が恨めしかった。
いっそ、胸の痛みで死んでしまえればいいと思ったのに、脈打つ心臓のポンプは、己を生かそうとしていて、世界の真っ暗闇に消えてしまいたかった心とは裏腹に、ナルトの身体は確かに、この木の葉に存在し続けていた。
人生とはなんとままならなく、肉体を前に意思の力はなんと弱いのか。高尚な精神こそが人の骨頂であると主張するならば、即物的であるからこそ目に見える身体は馬鹿にならない。
現に、ナルトの身体は本人の意思に反して今も機能し続けている。これは、精神機能が肉体に凌駕されるということを表しているのではないだろうか。冷たい手足を戦慄かせながらナルトは空を見上げた。






「あら。ナルトちゃん。こんな夜遅くにこんなところでどうしたの?」
繁華街めいたところを歩いて、カカシの家とは反対の場所にあるサスケの家に向かっていると、ガヤガヤとした集団とぶつかった。ぽかんと見上げれば、忍服を綺麗に着込んだリンが居た。
リンを中心に囲んだ上忍らしきその一団は、ナルトの目から見れば華やかな忍の集まりで、子供を怯ませるのに十分な存在感があった。
「ナルトちゃん……?」
身体の小さなナルトのために、リンはわざわざ視線を合わせるために屈んでくれた。その優しさが嫌になる。
「どうしたの?カカシに怒られたの?」
「………」
リンからカカシの匂いがした。リンとカカシは先程まで一緒に居たのだろうか。
肩に垂れたサラサラした長い髪はナルトの持っていないもの、落ち付いた大人の声もナルトの持っていないもの、ナルトには逆立ちしても手に入らないものだらけ。
ナルトにあるのは獣な三角耳と尻尾くらいで、綺麗な女性を前にして自分の恰好はなんて子供っぽいのだろう。初めて自分の身体的特徴に対してコンプレックスを抱いた。
「ナルトじゃねぇか。おまえ、カカシはどうした?迷子か?」
「アスマ…」
〝あしゅま〟に近い発音でナルトが呆然として大柄な上忍を見上げる。カカシの友人の髭クマはいつものように煙草を吹かしていた。
「カカシはもう飲み会から帰ったぞ?すれ違いになったか?」
「!」
どうしてか、アスマが、怖かった。きっと髭クマは〝大人〟だからあっちの味方に違いない。そう思えば、太い足を蹴ってやりたい衝動に駆られた。
「姉ちゃんたちと遊んじゃってさ、紅姉ちゃんに言いつけてやるんだからなー!」
だから、精一杯大きな声で叫んでみた。
「お、おいっ?ナルトっ?」
アスマが慌てたように煙草を口から落とす。取り乱したアスマを見て、いい気味だと思ったが、それと同時になんて嫌な子だろうと自分にショックを受けた。鏡を見たらテレビの悪役みたいな〝イジワルお婆〟の顔になっていたらどうしようか。
「その悪戯は冗談にならねぇぞ。なっ?リン?」
「ナルトちゃん。アスマは私の歓迎会に来てくれただけだから、悪いことは何もしてないのよ?」
「ああ…、そうだ。誤解だぞ、ナルト。紅に滅多なことを拭き込むのは勘弁してくれや」
ほら、飴玉やるからよ、とあやされて、ナルトの尻尾がぶわっと膨れた。
「子供扱いすんなってば!」
かぷっと甘噛み程度にアスマの手に噛み付くと、「きゃーっ」と他の中忍らしい女性陣から悲鳴が上がる。
「なに、この子っ。犬っ?」
「アスマ、大丈夫?」
「この子がカカシさんの言ってたペットの子?」
「やだ、こんなに凶暴なの?」
口々に、女の人たちからナルトの悪口が出て来た。気が付けばナルトは完全に嫌われ者だ。
――オレってば犬じゃねぇもん。
みんなお酒臭くて馬鹿みたいに賑やかで嫌だ。
――立派な狐の男の子だってば。
意固地になるが、彼女等がこれから飲み会のたびにカカシの隣に座って「凶暴なペットは捨てた方がいい」と吹き込んだらどうしようと思う。
「まぁまぁ、皆。落ち着いて」
ヒステリックになりかけた集団を収めたのはリンだった。
「大きな声、出したらナルトちゃんが怖がっちゃうじゃない。ごめんね、ナルトちゃん。皆がお酒臭くてびっくりしたんだもんね?」
「あ、オレ……」
どんぴしゃなことを、一番言い当てられたくない人から、言われてなんて惨め。
「アスマも。ナルトちゃんのこと、信用してあげなかったでしょ?」
リンは腰に手を当てて、我がことのようにプリプリとナルトのために怒ってくれている。周囲の友人等の空気は次第にリンに絆されて和やかになった。
やがて別の話題に移ったようだ。
「もう、リンは天然すぎー」
すっかり皆、ナルトの存在を忘れている。まるで、ナルトなど最初からいなかったようだ。
リンという女の人はナルトより友達も多くて、明るくて、とっても良い女の人なのだろう。一目見ただけでわかる。今、リンと居る人たちは皆、彼女が好きなんだって。リンを取り囲む雰囲気はこんなにも温かい。
「で、そんなリンちゃんは最近、恋人はいるのかしらー?」
「もう。さっきからその質問はしつこい」
「だってリン、酒の席でも上手にはぐらかしてちっとも意中の人、教えてくれないんだもの」
「このこの~、そのつやつやのお肌は誰に綺麗にして貰ったぁ?」
「さては黙ってるだけでカカシとイイ仲だったりして~?」
「あんたたち、幼馴染みでしょ。もういい加減くっついちゃいなさいよー。リンとカカシだったら、私たち絶対、応援してあげるから!」
「あんたたちはもう幸せになるべきよ!じれったいんだから、押し倒せ、リン!きゃー!」
「とっくに結婚していると思っていた」
黄色い声ではしゃぐ女性陣に、ナルトは真っ青になった。…カカシ先生が結婚?リンさんと?それはまるで別世界の話のようだ。テレビドラマで観るような普通の男女の…皆から祝福される普通の恋人同士のストーリーのようで…。「あ、あぁ…」「やめて…」イレギュラーなのは誰だろう。邪魔者は誰だろう。おかしな三角耳を生やしたペットは、誰だろう。胸の痛みで死ねたら楽なのに。
「そうねぇ、カカシは大事な幼馴染だし、一人の男の人としても魅力的よ?」
リンが困ったように、笑っている。
(魅力的…、だって)
ミリョクテキ。カカシ先生は魅力的なんだ…。
「リンさんはカカシ先生が好きだってば?」
「え?」
振り返ったリンは綺麗だった。この人はキラキラしたものをこんなにたくさん持っている。素敵で優しくて綺麗で、ちんくしゃで汚い気持ちをいっぱい持っているナルトが敵うわけがない。ナルトには何もない。カカシを好きだという以外何もない。ナルトにはカカシしかいないのだから、ナルトはカカシしかいらないのだから、お願いだからキラキラした世界の人はカカシを獲らないで欲しい。
「ナルトちゃん。どうしたの、泣いてる…の?」
リンの言葉を合図に涙腺が決壊した。
「いやらぁ、オレからカカシ先生をとらないでってばぁ…」
「え?」
「オレ、他になんもいらねえの。カカシ先生しかいらないからっ、オレからカカシ先生をとらないでっ。いっぱい持ってる人は、とらないでぇっ」
オレの涙の配線おかしくなっちゃった。だって、仕方ない。ナルトはカカシしかいらなかった。ナルトの世界はカカシを中心として回っていたから、大好きで少しでも傍にいたくて、本当は任務にも行って欲しくないほど、独占したかった。ナルトだけに甘くて、他の人にはちょっと理解出来な難い、優しい少し間抜けなカカシが好きだった。カカシの良さは自分しかわからないのだと自惚れていた。
「ねえ」
「もしかして…」
「この子、リンに焼き餅妬いてたりする?」
「~~~やだ、可愛い!」
「リン、ちっちゃいライバルが出来ちゃったわねぇ~?」
「ちょっとみんな、――からかわないで」
きゃいきゃい揶揄する女友等をリンが慌てた様子で制して深刻そうな表情のナルトを見下ろした。「ナルトちゃん、貴方―――…」
リンの視線に、くすん、くすんとナルトが泣き出した。




「―――おい。ドベ?」
繁華街の雑踏の中から声が聞こえた。
「泣いているのか?」
そこにいたのは烏の濡れ羽根色の髪を持つ青年だった。
「うちはの…サスケくんっ?」
「やだ。生で初めて見た」
サスケの登場に女性陣がざわめく。サスケと言えば、大人のお姉さん方にちやほやされているというのに、〝ふん〟っといった感じのいつもの不機嫌な面構えで、三角耳の子供に視線をやった。
「どうした?」
忍服姿のサスケは小さな狐の子供の傍に駆け寄る。
「ふぇええ、さしゅけぇ…」
「ド、ドベ。鼻水垂らしてるんじゃねぇぞ…」
いつものクールさはどこへやら、ナルトの泣き顔にサスケは動揺しているようだ。そして、17歳の青年は、狐の子供を抱き上げた。女性陣がぽかんとしてその様子を眺める。
「どうした。とうとうカカシに愛想をつかしたのか?」
腕の中に大人しく収まった狐の子供は、いつもぎゃいぎゃい騒いでいる狐の子と同じには見えなかった。
「……サスケの家に泊めて欲しいってば」
「―――……っ」
「ねが…スケ…」
涙目で見上げられ、サスケは静かに頷いた。
「―――わかった」
「おい、狐っ子!?」
アスマが驚愕して、サスケと三角耳の子供を見る。
「そういうわけだ。こいつはオレが預かる。文句は言わさねえぞ」
「おい。王子!?」
サスケはアスマの台詞にぴたりと動きを止めた。そして、「王子じゃねぇ…」としっかり訂正だけ入れて振り返る。ルックスから付いたそのあだ名を本人は相当毛嫌いしているようで、苦虫を百匹くらい噛み潰した顔をして不定した。
「カカシに言っておけ。唐変木過ぎると、横から掻っ攫われるぞってな」
それでも皮肉屋の青年の唇の端に勝者の嘲笑とも取れる笑みが浮かぶ。
「恩師に対してそれか。相変わらず見事なオレ様っぶり…」
アスマは去って行くサスケ青年の背中に声らしい声も掛けられず、おそらく事の発端になっているだろう、唐変木の存在に想いを馳せた。







 


 
 
 




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自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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