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空気猫

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カカシ先生VSストーカーさん。 








自分の腕の中で、浅い息を繰り返し震える少年が逃げ出す節がないのを確かめるとカカシはナルトの頭をやんわりと抱き締めて口を開く。
「おまえ、オレのこと最近避けてたよね。どうして?…この間のこと嫌だった?男に触られて気持ち悪かった…?」
薄明るい電灯の下。カカシの声だけが、ぽつりぽつりとアスファルトの地面に落ちる。
「もしあれが嫌だったなら謝る。バイト中だったのに、困ったよな。怖かったよね?ごめんね、おまえは優しいから、オレのことイヤだって強く言えなかったよな……?」
躊躇ったように切り出したカカシの声は、落ち着いていたが、僅かに擦れていた。予感していたが、やはり切り出された台詞にナルトの胸がきゅうと切なくなる。
「カカシ先生―――」
違う、カカシ先生が嫌いなわけじゃない。そんなこと言わないで。たくさん言いたいことがあっても言葉が出なくて、その代わりポロポロと涙が頬を伝う。
「せんせ―――、」
「ナルト。オレは、おまえのことが好きなんだ。だから、おまえに嫌われるのだけは耐えられないんだよ…」
カカシの告白にナルトは大きく目を見開く。明日この世界が終わってしまうんだ、と同じくらい深刻な口調。自分のような十代のガキ相手に14歳も年上の大人が真剣な表情でそんな台詞を言うなんて、なんだかちょっと信じられない。大人が今どんな顔をしているのか知りたくて、ナルトはカカシの腕の中でもぞりと身動きする。だけどいっそう強く抱き締められて結局大人の襟元に頬をくっつけるしかなかった。
「許して欲しいんだ、もうおまえのイヤなことしないから」
「………っ」
いやだなんて…―――思いもしなかった。カカシの与えてくれる熱は、酷く優しいものばかりだったから。心臓が痛くて、痛くて堪らなかった。
「もし、オレの気持ちが迷惑だって言うなら無視していい。もうオレに話しかけなくていいよ?おまえがちゃんと女の子を好きなことも知ってる。テンゾウから聞いたよ、〝サクラちゃん〟だっけ?だから男のオレにこんなこと言われて、おまえはビックリするかもしれないけど。でも、オレのことキライにならないで欲しいんだ」
お願い、ときゅうといっそう強く抱き締められ、ふっと拘束する力が緩まって、見上げれば、ナルトと同じくらい痛そうにひそめられたカカシの顔。
「無理矢理、話してごめんな?どうしてもおまえにこれだけは聞いて欲しかったんだ。今も、ごめん。本当に、ごめん。もう離れるから―――」
「カカシせん…せ、ちがっ」
「―――…ナルト?」
きゅうとシャツを掴む少年にカカシは軽く目を見開く。再び抱き合う格好になる二人。
少年の不可解な行動。僅かに頭の端に引っ掛かるこのモヤモヤは何なのか。頑なにまで拒否をしておいて、何故この少年は今ここで自分に黙って抱き締められているのか。それどころか、抱き締めたナルトの身体はちょうどカカシの腕のサイズに誂えたかのようにしっくりと馴染む。
「オレ、カカシ先生のこと嫌いじゃな…っ」
「え?」
「だめだったんだってば、オレ、カカシ先生と話しちゃいけなかっただけで。オレってばカカシ先生のこと――!」
「どうしたのナルト?」
腕の中の少年は相変わらずカタカタと震えていた。
「おまえ、何かに怯えてるみたいだよ?」
その時、からんと空き缶が転がる音がした。
「!!!」
弾かれたようにナルトの顔が路上に向けられる。コロコロ転がってくる空き缶の先を辿ると、いつの間にか明滅を始めた電灯の下にぼぅっとそこだけ切り取られたように浮かび上がる男の姿があった。血塗れの写真を思い出してナルトが戦慄する。
「ナルト、どうしたの?」
カカシもナルトを追いかけるように路上へと視線を向け、僅かに顔を顰めた。自分より若干背の低い中肉中背のスーツ姿のサラリーマン。どこにでも居そうな見てくれの男だが、今この場面でなぜ彼が出てくるのか、それがカカシにとっては不可解だった。
「知り合いなの、ナル―――」
言いかけて言葉を切る。男の形相に尋常でないものを感じたからだ。知らず、腕の中の少年を抱き締める腕を強くすると、男の瞳に薄暗い炎が宿る。
「ねえ、ナルトくん。どうして最近電話に出てくれないんだい?」
男の、なんの脈絡もなく唐突に始った会話が、相手と意思疎通をするつもりがないのだと表しているかのようだった。ナルトが何も答えず無言で喉を垂下すると、男がおもむろに鞄から携帯電話を取り出して、耳に当てる。
「きみの番号に電話しても繋がらないんだ。電話番号変えたんだね」
かくんと携帯を耳に充てたまま首を傾げて、男の顔が半笑いになる。
「まぁ、こんなの調べればすぐにまたわかっちゃうんだけどね」
男が親指が発信ボタンを押すと同時にナルトのジーンズの尻ポケットの携帯電話から着信音が鳴り響いて、蒼褪めて震えるナルトの様子に、面白くて仕方ないというような男の薄暗い笑い声が路上に巻き起こる。
ひゃはひゃは腹を抱えて笑い転げる男は、酔っ払ったように揺らめいて、笑いの発作が収まると、手持ち鞄からナルトにとっては嫌というほど覚えのある瓶を取り出した。
「プレゼントもなんで捨てちゃうのかなぁ?」
ごとん、とアスファルトの地面に、白濁とした液に満たされた瓶が投げ付けられる。
「僕のせっかくの気持ちだったのに、気に入らなかったのかな?」
ゴミステーションから拾っておいて上げたからね?という男の台詞にナルトが「ひっ」と短く悲鳴を上げて、カカシのシャツに顔を埋める。
「……ナルトくん?どうしてそんな男の腕の中にいるんだい。きみの場所は僕の近くだろう?」
自分から距離を取り、抱き合う大人と少年の姿を、男は一瞬、歯噛みをするように見つめて、すぐにまた笑みを浮かべた。
「ああ、そうか。わかったよナルトくん。僕が会いに来なかったから寂しかったんだね」
まるで大発見をした子供のように男の腕がナルトに向かって広げられる。男の口調が急激に自信を帯びて明瞭化する。
「僕が構ってあげなかったから、そんな男と遊んでいたんだね?まったく君って子は放って置くとすぐに浮気して僕を困らすねイケナイ恋人だね」
歪んだ鏡が歪んだ像しか結ばないように、男の心の中で勝手にナルトとの物語が進んでいるようだ。
「やっぱり僕がずっと見張っていてあげないといけないのかなぁ?」
男の瞳は、死んだ魚が浮かべる濁った目の色に酷似していた。
「ごめんね、これからは毎日会いに行ってあげるからね?」
ふらふらと男が近寄ってくる。
「やだっ。こっちくんな!」
弾かれたようにナルトの声が飛ぶ。
「ナルトくん……?」
「オレってばあんたのコイビトなんかじゃねーもん。それにっ、カカシ先生にだって近付かなかった。ずっと約束守ってたじゃん!」
ナルトが半ばパニックになって叫ぶ。
「もう付き纏うなってばあっ」
怖かった。無理矢理距離を縮め、近寄って来られることが。自分の意思と無関係に築き上げられている関係全てが。
「またそんな意地悪なことを言うんだね。わかったよ、いいからこっちに来て僕と話し合おう?」
男が口の端を震わして、無理矢理笑みを作る。
どうしよう。このままではカカシ先生が。もう誰かが自分のせいで壊れてしまうのは嫌だ。そう思うと、ナルトの足が震えた。
と、そこで。はぁ、とそこでカカシの呆れたようなため息が落ちた。
「この子が困ってるでしょう。いい加減にしなさい」
後ろ手で後頭部で触りつつ、はたけカカシは胡乱な瞳でスーツ姿の男に向けた。完璧な三白眼である。
「貴方、何歳ですか。見たところ私と同年代のようですけど…。ああ、その首にかかったままの社員認可証。霧商事の方でしたか。これまた随分と大企業にお勤めのようですね?」
なめらかに滑るカカシの言葉にそこで初めて男の顔色が変わる。
「そういえば、あそこの役員の方に知り合いが居るんですよ。今度お会いした時に、貴方のことをお話したら、ちょっと面白いことになりそうですねぇ」
含むようにカカシが笑って、
「貴方のこの常軌を逸脱している行為のことを」
付け加えられた言葉に男が激昂する。
「うるさいっ、おまえの方こそ、ちょっと見てくれがいいからっていい気になるなよ。横から出てきたくせに、下心みえみえの顔でナルトくんにやけに馴れ馴れしくして!」
「まぁ、そこをつかれたらこっちも痛いんですけど」
カカシが苦笑して、だけどわざとらしく腕の中にいるナルトを引き寄せる。
「カカシせんせぇ……?」
火に油を注ぐような挑発的な態度。もし第三者がこの状況下でのはたけカカシのこの行動を見れば、この人は、もしかして極悪に性格が悪いのでは?と気付いた所であろうが、生憎とこの場には目を白黒とさせたナルトと、精神的に正常とは言えないストーカー男しかいない。
詰まる所、頭に血を上らせたストーカー男はいとも簡単にカカシの挑発に乗った。
「この子とオレ、こういう関係なんですよ?」
「嘘を吐け、そんなはずは…っ。なぁ、ナルトくんそうだろ?きみはその男に脅されてるだけなんだよね?」
「なんならここでキスして見せましょうか」
「おまえは黙ってろっ。僕は今、ナルトくんとお話してるんだよ!」
「この子は貴方と話したくないみたいですけどねぇ」
カカシが冷静な対応をするほど、男の態度は反比例するように平静を欠いていく。「返せっ」と男がよくわからない謎の叫びと共に、カカシの腕からナルトを引っ手繰ろうとする。
「や!」
ナルトの腕に男の指が食い込むのを、カカシは至極不快そうにな表情を浮かべ見咎めた。次の瞬間、男の姿が残像になって吹っ飛んだ。男の脇腹にカカシの蹴りが入る。
「………この子に触らないでくれる?」
聞いたこともないような霜の降るような声に、ナルトはびくんと身体を強張らせた。
「おまえのような奴が汚い手で触っていい子じゃないんだよ」
「ナルトくん…」
地面に這い蹲った男はそれでも光を求める夜光虫のようにナルトの足に手を伸ばそうとして、宙を彷徨ったが、あと僅かで届こうとした男の手をカカシが容赦なく踏みつけた。ぎゃ!というちょっと残酷な悲鳴と共に、
「さわるなって言ってるだろう?」
虫けらか何かを見るように男を見下ろす、完璧に無表情のカカシ。
ナルトはあまりのことに言葉を失い、こくんと喉を鳴らす。
「……つまり、オレはこいつのせいでナルトに避けられたわけ?」
アイスブルーの瞳がすうっと細められ、絶対零度まで冷たくなる。
「ふうん……。そう」
……カ、カカシせんせい?
「ナールト?」
やけに甘ったるく呼ばれカカシを振り仰ぐと、這い蹲る男に向けていたのとは180度違うニコニコ笑った顔のカカシが居て、「ちょっと待っててね?」と前髪を掻き揚げられて、おでこにキスが落とされる。
「!???」
真っ赤に染まった表情、他の男の腕に収められた少年の姿をストーカー男は窪んだ瞳で見つめていたが、
「見るんじゃないよ」
空気が歪むような音が響いたかと思うと、地面に倒れていたはずの男が壁に叩き付けられていた。
ナルトが「あっ」と止める間もなく、男の前に立って、ポケットに手を突っ込んだまま、無言でストーカーをゲシゲシと蹴り続けるカカシの背中はナルトの知らない人のようで、ナルトは急に怖くなった。男はもう悲鳴も上げないで蹴られ続けている。
「ッセンセ?何してるんだってば。もういいってばよ、オレってば、もう気にしてないから、やめてってば。お願いっ」
「なんで。許せないよ?」
「その人、もう気絶してるっ。そんなに蹴ったら死んじゃうってば!」
「こんなやつ死ねばい―――」
「カカシ先生っ!!」
泣きそうな表情で、カカシの腕を掴み見上げると、カカシは、はっとしたように動きを止めた。自分のシャツを掴む少年の指の先が白くなるほど握られていて、蒼白になった表情を見て我に返った。
「――あー、ナルト。ごめんな、ちょっと自制が効かなくて。頭に血が上っちゃった」
カカシはちょっと呆然とした表情を浮かべて、ぱし、ぱしと自ら自分の頬を叩いて「だってこいつがナルトのこと傷つけたから」と唸りつつ、はぁとため息を一つ吐く。
「ナールト、ごめんねぇ。もう、大~丈夫だよ?」
ぽすっと頭に手が置かれた時には、カカシはいつも力の抜けた笑みを浮かべていた。
「カカシ。〝ナルトが泣いてるっ〟とか訳のわかんないこと言って走り出すな。てめぇは犬か」
「アスマ、遅いよ。おまえこそ、ノソノソ歩いて。まるで熊?」
「てめー、一回その口にコンクリ詰め込んでやろうか?」
「おー、コワ。これだから人類未満は怖くてやだねー。アスマー、こいつ警察に突き出しといて」
「誰が人類未満だっ―――あん?んだよ、こいつ」
「変態」
「てめーが?」
金髪の少年を大事そうに抱き締めている状態の友人を揶揄するように呆れつつ煙草を吹かせば、アスマの顔に携帯電話が投げ付けられる。
「カカシ!」
「それ、オレの携帯。それにコイツとこの子の会話録音してあるから警察にそいつと一緒に持って行ってくれる?」
「証拠か…。ちゃっかりしてるじゃねぇか。てめぇは?」
「忙しいから無理」
あっさり一刀両断した友人をアスマは一瞬ぽかんと見つめ、カカシの腕の中でオロオロと事の成り行きを見守っている少年に気が付いて納得したように、あー…と頷く。
「おめー、少しは手加減しやがれ。骨何本かイってんじゃねぇか、こいつ」
「えー…?」
ニコニコ笑う友人にテメー確信犯で蹴ってやがったなと思いつつ、しゃがみ込んで「相手が悪かったなご愁傷様」と気絶している男を拝んでおく。
「カカシ、これ1個貸しな」
「アスマちゃん、アイシテルー」
「おまえに愛を囁かれっと、気持ち悪りぃよ」
しかもその怪しいカタカナ発音はなんだと、込み上げてきた吐き気を誤魔化すように煙を吐く。「カカシ先生、いいんだってば?」「いいの、いいの♪」と金髪の少年にだけ極甘の笑みを浮かべる友人を見送りつつ、
「つまりえーとなんだ、あいつとあいつのお姫さんがなぜかしっぽり収まっていて、この男は邪魔者で、犯罪者で?オレはその後処理をって、―――ああめんどくせっ!!!」
喫煙者のアスマの煙草量は彼の厄介な友人がいる限り当分減りそうにないようである。


 
 
 
 










ストーカーさんに同情のお便りが来そうです。
人間的危険度には
ストーカーさん<カカシ先生。ナルトにだけは優しい先生でした。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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