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空気猫

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そんなわけで仔狐を飼うことになりました編1







はたけカカシが、路地裏で泥だらけになって死に掛けている子供を見つけたのは、二ヶ月に渡る潜入任務の帰り道だった。己に信頼を寄せていた村人を任務のためとはいえ裏切り皆殺しにした、人食い月の美しい夜だった。






はたけカカシのペットライフ
―始まりの日―




カカシが潜入したのは、特殊な血継限界を持つ人々が暮らす村だった。稀人は厭われる。彼等の力を恐れた大名が木の葉に、村人の殲滅と秘術の回収を命じたのは、胸糞が悪くなるがよくあることだった。
カカシは道に迷った旅人のふりをして、ある未亡人の家に身を寄せた。任務の都合上、未亡人と恋仲のような関係になり、その家の子供は自分によく懐いた。隣の家の住民は偏屈だったが気風の良い老人だった。「最近の若いもんはひょろくていかん」と怒りながらもザル一杯の干し柿を、その干し柿と同じくらい顔を皺くちゃにさせて分けてくれた。
お喋り好きな近所の中年女性はカカシが村を歩いているとどこからか駆けつけて来て、聞きもしないのに村の情報を喋り出したり、同居している女性との仲の進展について質問攻めにしてなかなか離してくれなかった。
農作業から帰ってきた男たちには「兄ちゃんはぼーっとしていて人が良さそうだから恰好のカモだなぁ」と笑われた。最初の方こそ、怪しい余所者だとカカシに突っ掛って来た青年は一度信頼を得ると、兄を慕うようにカカシに懐いた。素朴で人懐っこい村人たち。祖先こそ畏怖たる対象の戦闘集団であったかもしれないが、今は平和に暮らす一般人と変わらなかった。
胡散臭そうにカカシを遠巻きに見ていた彼等が、自分に心を許していく課程を、カカシは一歩離れた忍の視線で観察していた。
まず、老人の寝首を掻いた。家に火を点け逃げ惑う村人たちを斬り殺した。その中に、あのお喋り好きな女性がいたかも知れないがわからない。
未亡人は、暗殺者がカカシだと知ると、驚愕して目を見開くも、気丈に子供を庇って死んだ。カカシは動かなくなった母親を見下ろして、泣いた子供にとどめを刺した。
燃えさかる家屋。炎の中を血に濡れた姿で歩いていると、――人でなし。自分を兄と慕ってくれた青年に罵倒された。
カカシは躊躇うことなく忍刀を振り下ろした。忍とはそうした職業だ。わかってはいるが、血に濡れた自分の手を見下ろし、嫌悪感を拭うことが出来なかった。



村一つ分の村人の血を浴びてカカシは木の葉の里に帰還した。そして、カカシのアパートからそれほど離れていない路地裏で、その子供は死に掛けていた。一目見て、それが普通の人間の子供ではないことがわかった。頭部に存在する三角耳。ぼろ布から覗いている尻尾。頬にはご丁寧に三本髭の痣まである。獣人…。そんな言葉がカカシの頭の中に思い浮かんだ。
カカシが思案する間にも、不衛生で湿ったコンクリが子供の体温を奪っていた。朝まで命が持つかどうかというところだろう。
子供は、厨房の裏玄関から漏れる僅かな温もりに触れようとして、身を擦り寄せ丸くなっていた。霜やけなのだろうか。ボロボロになっている指先が、逃げていく地面の温かさを追うように、扉に向かって伸ばされている。
「――おい」
本当に、小さく痩せた子供だった。手足はガリガリで、痣と打撲の痕が思わず顔を背けてしまいたくなるほど酷かった。地面に突っ伏している頬にも誰かに打たれた痕があってそれがいっそう痛々しく、この子供が、か弱い生き物であることを、カカシに教えた。
「おい。聞こえていたら、返事をしろ」
カカシが問い掛けても子供はくぐもった不透明な返事をするだけだった。ピクピクと毛羽立った三角耳が痙攣している。
「あううぅ…」
白痴か、ただの阿呆なのか、カカシには判断できなかったが、汚い身なりのガキのくせにカカシを見上げた瞳だけは、綺麗な碧色をしていた。
ただ、残念なことにボサボサの髪の毛で顔のほとんどが隠されている。子供の口があくあくと動いて何事か呟いた。子供は定まらない視線でカカシに向かって手を伸ばしたところで気を失った。
「…………」
気まぐれだった。あえて言うなら、小さな手を伸ばしバカみたいに生にしがみつく姿がカカシの胸を打ったのかもしれない。自分はけして血の通わない化け物ではないのだと神に贖罪するように、カカシは子供を拾って帰った。





 
 
 




 
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名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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